星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
「例えば、店先で切りそろえて加工済みの肉を買って、餌みたいに食って生きてきた。俺たちはみんなそうでしょ?」
「感謝を忘れたこの世界で生まれた俺がこの役を演じられるはずがなくて、だから自分の命のために命をかけて命をいただく体験が欲しかった。いや、そんな事を考える自分が邪魔だったというか・・・。」
「アキラっ、ちょっと質問に答えてくれない?」
記者会見で記者の質問に困った阿良也は、僕に質問を振ってきた。おまっふざけるなよ!!
と内心キレつつも、こんなところで星アキラご乱心なんて記事を書かれるわけにはいかない。 僕達がここに居る事も記者にバレたし、仕方がないので対応することにした。
「阿良也、さすがにプライベートで阿良也を応援に来ている友達を記者会見に巻き込むのは良くないと思うよ。」
僕は頭痛がするジェスチャーをしながら阿良也に言った。
「でも、なんか記者さん達が良くわからないみたいだし、アキラに振った方が楽そうだったから。」
ここで阿良也と口論をしても何も得るものが無いので、とっとと記者会見を畳んで後の余暇を楽しむことにした。
「こんにちは。スターズ所属の星アキラです。今日は阿良也の舞台を観に来ていたのですが、親友の阿良也が困っているようなので私の方でフォローさせていただきます。」
まさかの、星アキラの登場によって舞台の前に集まって取材をしていた記者達がざわめく。
「阿良也が命の危険を伴う役作りをなぜ厭わないのかという事への回答ですが、阿良也追加で言う事はある?」
「一人演じるために生まれ変わったような気分になる。そのために生きているって言うか、そんな感じ。」
「えっと、つまりどういう事でしょうか?」
やはり記者は戸惑う。
「以上です。アキラ、フォローよろしく。」
そう言って阿良也は僕に回答を放り投げてきた。
「まず阿良也の回答ですが、今回のマタギの役と普段の役作りの話が混じって少しわかりにくいですが、ある程度的確な回答でもあります。」
僕の回答に記者達が驚く。
「この辺は阿良也の演技に対しての価値観を理解する必要があります。阿良也は演技をするためにその人の人生を実際に体験して、役になり切ります。そしてその登場人物の役に生まれ変わって演じ切る事に、阿良也自身の人生の価値を認めています。そのためには登場人物と同じ状況を実際に体験するというのは、彼が役を演じる上でも、自分自身の価値感の上でも、両方で非常に重要な事です。」
「皆さんは阿良也がいつも命をかけた無謀な役作りをして、スリルを楽しんでいると考えているかもしれませんが、それは違います。因果関係が逆です。阿良也が演じる人物を理解する上で、その人物の心情を実際に知るために命の危険を冒す必要があるのであれば、そのような役作りを体験しているだけです。」
「阿良也にとって大切なのは、命をかけた役作りのスリルではなくて、演じる人物に身も心もなり切って、自分自身が演じる人物に生まれ変わる事です。こう言った阿良也の価値観を理解して阿良也の芝居を観ていただけると、別の視点からも、明神阿良也の演技を楽しめると思います。」
「なるほど。さすが大親友の星アキラさんだけの事はありますね。非常に興味深い回答をありがとうございます。」
「確かにそうだな。流石はアキラ。すごい説得力だ。俺はここまで良くわかっていなかったぞ。」
阿良也、おまえが僕に振ったくせに自分がわかっていなくてどうするんだ!! 僕は手元にハリセンがあったら、間違いなく阿良也をぶっ叩いていただろう。
「阿良也さんの役作りの秘訣はわかりました。アキラさんも同様の役作りは行うのでしょうか?」
「残念ですが、僕は阿良也とは違って見ている人の感情を重視しますので、役を演じるために、経験を追体験する事はほとんど無いですね。」
「例えば、ウルトラ仮面Blackの第六話で完全に精神的に追い詰められた演技をしましたが、あの演技はその前に、Youtubeで魔界村クリアできるまで終わりませんという放送を2日に渡ってやって、完全に精神が追い詰められて、テンパった状態で撮影しました。精神的に追い詰められていますが、これは主人公の心情とは全く違います。」
記者達に笑いがこぼれる。
「結局、心の中まで役の人物になり切っても、演技を見ている人は役の人物の心までは見えません。ですから、僕は本人ではないという意味で、偽物がやる演技であっても、演技を見てくれている人には本物よりも本物だと感じてもらえるように演技をしています。このため、僕の演技はリアルさでは阿良也にかなわない面があるのですが、役を演じる上で見てくださる方が面白いと感じたり、感情を揺さぶる要素を濃縮してより強く伝えられます。こういった部分の考え方は役者によってまるで違うので、10人居ても全員違う考えを持っていると思ってください。」
「なるほど。とても良くわかりました。ありがとうございます。」
「××新聞ですが、阿良也さんはマタギの役を演じる時にどのような事に注意をしながら演じているのでしょうか?」
「えーと。 朝起きた時に、おしっこに行くのを考える事は無いし、通いなれた駅の道を迷う事も無い。 初めて自転車に乗った時はふらふらして転んだけれども、今では転ぶことの方がすごく稀。 そんな感じかな? アキラ、フォローよろしく!」
こいつ、調子に乗って記者に伝えようと言う努力すら放棄しやがった! 当然記者たちは??????全開だ。
僕はこめかみを抑えながら回答した。
「阿良也の演技の特徴は、演じている人間に生まれ変わるほどに役になり切る事です。つまり演じている最中はその役の人物になっているので、演じている途中に注意点など考える事はなくて、体や心、動き、さらに条件反射に至るまで、すべてが役の人物になり切ります。ですから、強いて言えば役になり切るまでその人物を知るというのが注意している点です。」
「例えば阿良也が普段は武蔵野に住んでいるとして、武蔵野駅を使っているとします。 この状態で世田谷駅から通勤している人物を演じたまま帰宅すると、武蔵野には帰らずに世田谷駅で降りて、なんの疑問も抱かずに、演じている人物が普段買い物をしている、世田谷駅近くのスーパーで買い物をしてその人物の家に帰宅します。しばらくして、演技が解けると、何で俺は別の家に居るんだ?って頭を捻って考える感じです。 実際に阿良也はここまで役の人物になり切ります。ですから、阿良也の演技はリアルさが段違いなのです。」
「ちなみに、この話は駅名などは違いますが、ほぼ実話です。その後のフォローが大変だった事はみなさんわかってください。」
記者からさらに笑いが起こる。 いい感じの雰囲気だ。
「さすがアキラ、俺のことが良くわかっている。やっぱり俺が大好きなんだな。」
そう言って、阿良也は僕を引き寄せてあごクイの演技をしてくる。 客席から記者会見を見ていた女の子からキャ~!って言う黄色い声が飛ぶ。
僕は阿良也を睨みつけると、阿良也にそのまま頭突きをした。
「ぐはっ。」
阿良也はおでこを抑えてうずくまる。
「役者なんだから顔は止めろって。」
「ちゃんと髪にかくれる場所に頭突きしたから安心しろ。」
親しい者同士の寸劇に、会場全体で爆笑が起きてカメラが回りっぱなしだ。
「やはり、役者同士、大変仲が良いのですね。 ところで今日は千世子ちゃんと景ちゃんと三人でデートでしょうか?」
そうだよね。それは聞かれるよね。という質問だ。とりあえず大人の対応をしておくか。
「はい。今日は僕と景ちゃん、千世子ちゃんの三人で阿良也の応援に来たんですよ。」
僕達四人の仲の良さは周知の事実。そのまま流そうとしていた所で、意外な所から反論が来た。
「酷いわ。アキラちゃん。アキラちゃんから私達を二股デートに誘った癖に。」
「そうですっ。昨日、どっちも選べないからって両方同時にデートしたのに酷いですっ!」
千世子ちゃんと景ちゃんの二人は、芝居がかった演技で僕からのデートのお誘いを主張する。
「君たち、昨日はドラマの撮影と学校に行っていて僕と会っていないよね? しかも景ちゃんが三人でどっか行きたいって言いだしたんだよね?」
「アキラちゃん、男としてのデリカシーが無いわよね。そう言う事は真実でも女の子には言わない物よ。」
「そうですっ。アキラさんはデリカシーが足りませんっ。」
「君たち、結託してなんなの!? 僕と熱愛報道でもされたいの? ・・・何!?その嫌そうな顔は・・・。」
「珍獣と熱愛報道されても・・・。」
「ペットですからね。」
「うわぁ。僕の男としての威厳が傷ついたよ。君たち酷いよっ。よよよよよっ。」
僕は嘘泣きをする。
「アキラ、傷ついたよな。俺も男としてアキラの辛さが良くわかるぞ。」
「わかってくれるのは阿良也だけだよ。」
「それじゃ、アキラを慰めるために、今からホテルに行くぞ!」
「またこのパターンかよ! 僕を狙っているのは男だけかよ! 最悪じゃねぇか!!」
そう言って、僕達の寸劇とともに、笑いに包まれて記者会見は幕を閉じた。
翌日のワイドショーは笑いのネタとして、明神阿良也と星アキラの熱愛発覚と、星アキラ二股疑惑で賑わい、僕の行った阿良也の役作りの解説と共に、僕と阿良也の記者会見が大きく取り上げられた。
ついでに僕と阿良也のカップリングによって、801板も何回目かわからない賑わいをみせた。
そんな賑わいの中、狙っていたかのように、巌裕次郎の次の舞台として夜凪景、明神阿良也の主演と星キアラ、百城千世子の助演で『銀河鉄道の夜』の舞台が発表されて、一気に世間の注目が集まって行くのであった。