星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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星キアラは舞台稽古に行く2

 

劇団天球の稽古場に着いてドアの前に行くと、中からケンカするような声が聞こえてきた。

 

「俺の芝居が何だって!? もう一度言ってくれよ!!」

 

「独りよがりで迷惑っつったんだよ。会話のキャッチボールになっていないんだよ!」

 

「はぁ!?何だって!!」

 

「相手の言葉を聞いてから言葉を発してよ!」

 

「そうしているわ。バカにしているのか!?」

 

うわー。亀太郎兄さん(青田亀太郎)と七生姉さん(三坂七生)が芝居の事でケンカしているよ。それだけ真剣だって事だろうし、ケンカできるほど対等って訳だろうけど一発触発な状態だね。

 

周りも止めようとしているし、事情も良くわからないから、しばらく静観だね。稽古場を見渡すと奥に巌のじっちゃんと阿良也が居た。

 

巌のじっちゃんは椅子に座っていて、阿良也は稽古場の床に寝転んでゴロゴロしている。

 

「阿良也、てめぇ何寝てやがる、進まねぇからこいつら黙らせろ。」

 

「別にいいじゃん。今休憩中だし。大体これって巌さんの仕事じゃん。」

 

「俺は忙しいんだ。お前が何とかしろ。」

 

「何、殺気を出しているんだよ。そんなにイラつくなら自分でやればいいじゃん。あっ!」

 

「景、ちょっとそこの二人のケンカを止めてよ。」

 

阿良也は、僕が車を止めている間に先に稽古場に入っていた景ちゃんを見つけると、とんでもない無茶ぶりを押し付けてきやがった。

 

「わっ、私ですか!? 二人とも、ケンカは良くないと思いますっ。」

 

つっ、月並みすぎるセリフだ。 こんなセリフでこの二人のケンカが止まるとは思えん。

 

「景っ、横から入ってきて何よ!!」

 

「景ちゃん、事情がわからないなら黙ってくれないかな?」

 

直感派の景ちゃんに仲裁できるようなまともな演技論や人生経験などあるはずがなく、案の定、二人から集中砲火を受けて炎上を始める景ちゃん。

 

こんなの阿良也に任せておけばいいのに、あいつ、仲裁が面倒で景ちゃんにぶん投げたからな。こうなったら仕方がない。

 

「あら、素敵なお兄さまとお姉さまがいらっしゃるのね。」

 

僕は清潔で育ちの良い若くて魅力的な女性を演じる。

 

「げっ」

 

「誰!?(ドッキーン)」

 

七生姉さんはこの女性が誰だかすぐにわかったようだけど、亀太郎兄さんは僕が誰かわからないで、突如現れた謎の美女に話しかけられて目がハート状態になっている。

 

「こんなに真剣にお芝居の事を考えているなんて、お二人とも素敵ね。私、お二人に憧れてしまいます。」

 

七生姉さんにはすぐにバレたけど、亀太郎兄さんを惹きつける事に成功したようだ。逆に七生姉さんはドン引きして、ケンカの勢いが弱まっている。

 

僕は亀太郎兄さんをターゲットに全力で男を惹きつける仕草で演技を行う。

 

「私、こういう演技に情熱を注ぐ方が大好きなんです。特に男性の方は情熱的で素敵ですね。差しさわりなければ、どういう論議をしていたのか教えていただけますか?」

 

女には男に媚びを売っているのが見え見えの演技だ。ただし対象の男は意外に気が付かない。一触即発のケンカ中に自分を擁護してくれる可能性のある美女が出てきたらそりゃ、ペラペラとケンカの原因を語るわ。そして中身に気が付いている七生姉さんのドン引きはさらに強まっている。

 

「こいつが俺の演技に突然ブチ切れて、独りよがりで迷惑な芝居だっていちゃもんを付けて来やがったんだ。」

 

「まぁ、そうなのですね。でも突然そんな事を言うのでしたら、三坂さんにもちゃんと理由があるんですよね?」

 

僕は七生姉さんに向いて、理由を説明するように促す。

 

「こいつが、芝居を投げているようなヘラヘラした態度でセリフを言うから、真面目にやってほしいのよ。」

 

「なるほど。でも青田さんも当然、舐めた態度で芝居をしていた訳じゃないんですよね?」

 

初対面で名前を知っている事に違和感を抱かない亀太郎兄さん。僕のファンなら当然名前を知っているよねって感じだ。

 

「当然だ。僕はいじめっ子のザネリの役としてユーモラスに演じていただけだ。へらへらと感じるのはれっきとした演技だよ。」

 

「いじめっこのザネリはみんなの憎まれ役。三坂さんをイラつかせたと言う事は、その演技は成功という事ですね。今からそのステキな演技がとても楽しみです。」

 

「そうだよ。君はこんなやつよりも、何倍も芝居がわかっているね。もしかして僕のファンかな?」

 

男に好感を持っている演技をしているので、完全に騙されている亀太郎兄さん。目がハートのままスター気分だ。

 

「こいつが、私よりも何倍も芝居をわかっているのは認めるけど、それよりも私は亀が不憫でならないわ。」

 

「わたくしもそう思いますわ。」

 

僕と七生姉さんは二人で頷く。七生姉さんは僕の乱入によって完全に気勢が削がれたようだ。

 

「え? えっ?」

 

事情が全く呑み込めない、亀太郎兄さん。

 

「あんた、まだ気が付かないの? こいつ、星キアラよ?」

 

「そうですわ。そう言えば、自己紹介がまだでしたね。」

 

「今回、銀河鉄道の夜に出演させていただく、星キアラです。 皆さまよろしくお願いいたします。」

 

そう言って、僕は深々と頭を下げた。

 

「「「「「「「「「「「「「「えっーーーーーーーー。」」」」」」」」」」」」」」

 

僕の正体に気が付かなかった沢山の劇団員から驚きの声が上がる。

 

「僕は、星アキラにっ、男に迫られていたのかっ・・・・。ガクッ ううううっ。うわーーーーーーーっ。」

 

そして、案の定、亀太郎兄さんは好感を寄せてくれていた女性が星キアラだと知り、全力でダメージを受けるのであった。

 

「素晴らしいダメージの表現とリアクションですわ。まさに心の叫びを全力で体現していますわ。 亀太郎お兄様、流石の演技ですね。」

 

「これは演技じゃなくて、素よ。 あまり亀の傷口に塩を塗りこまないでくれる? これでも同じ劇団員なんだし、再起不能になったら困るの。」

 

「七生姉さん、了解いたしましたわ。 七生姉さんの劇団への愛を感じますわ。」

 

「しかし、よくもまぁ、ここまで化けたわね。容姿といい、仕草といい、全力で男を落としに行っているじゃない。これなら亀じゃなくても勘違いするわよ。」

 

「もちろんですわ。今日は巌のおじい様の性癖に全力で刺さるをコンセプトにしてきましたの。これで巌のおじい様から良い役をゲットしますわ。ね?巌のおじい様?」

 

「俺を女装男子好きと勘違いするな。それに俺に色目を使ったぐらいで良い役にキャスティングするなんて思わない事だ!」

 

流石は舞台演出に人生をかけて、文化勲章までもらった男、巌裕次郎。 威厳が段違いだ。

 

だが、僕は知っている。シェイクスピア時代の伝統で女装男優を舞台で使っているとか建前でいろいろ言っても、本質的に女装男優が嫌いなら自分の舞台で使う訳が無い。

 

「でも、好きですよね? 女装男優。」

 

「ごほっ。ごほっ。まぁ、確かにな。」

 

巌裕次郎は咳で誤魔化しながらその事実を認めた。

 

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