星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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星アキラは景ちゃんが泣くのを見ている

 

全員が拍手をしてくれた後に、巌のじっちゃんが僕達の元に拍手をしながら歩いて来た。

 

巌のじっちゃんは78歳の年齢ながら矍鑠としており、杖を突いて歩くそぶりも無く、元気に歩いてくる。 演劇に人生を捧げた男だけあって、演劇の現場での目の輝きには全く衰えが無い。 まだ当分、舞台を続ける事だろう。

 

「キアラ、景、すばらしい劇だった。」

 

そう言って、巌のじっちゃんは僕達を褒めてくれた。

 

「景、キアラが妹だって気が付いたのはいつだ?」

 

「妹というのは、キアラさんが言うまでわかりませんでしたが、話していてなんとなく元々知り合いだったんじゃないかと思いました。」

 

「どうして、知り合いだってわかった?」

 

「いや、なんとなく仕草とか言葉尻とか、視線とかで・・・。でも間違いなく知り合いだとはわかりました。」

 

「単純に、お前とキアラは演技をする前から元々知り合いだったから、演技でも知り合いと勘違いしたんじゃないのか?」

 

「そんな事ありません。そういう事ではなくて、キアラさんとの会話に違和感というか、雰囲気に違和感というか・・・。」

 

「知り合いだって感じた違和感の原因に気が付かなかったか。」

 

「はい。すいません。」

 

「景のような深く演技に入り込むタイプは違和感があったり、知り合いだという事などは誰よりも鋭敏に気が付いても、具体的に言葉でなぜ違和感を感じたかを説明するのは難しいだろうな。」

 

「二人の会話に違和感を感じた人間はどれだけ居る?」

 

演技を観ていたほぼ全員が手を上げた。

 

「二人が元々知り合いだと気が付いた人間はどれだけ居る?」

 

8割ぐらいの人間が手を上げた。これについては、観ていたのが舞台を演じる劇団員という事を差し引いて、考える必要がある。

実際の舞台で一般の観客が見た場合には、5割を下回るだろう。

まぁ、残りの5割もとりあえず違和感を感じてもらえればOKなので、僕の演技は上手く行っていたと言える。

 

「劇を見終わった後に、結末から、劇の途中でキアラが違和感を感じる演技をした狙いを理解できた人間は手を上げろ。」

 

こちらも演技を観ていたほぼ全員が手を上げた。これはわざと会話に違和感を感じさせて、最後のどんでん返しで妹だった訳で、多くの人がその狙いを理解してくれたね。

 

「それでは、最初に七生と景が演じた時の景の演技を理解できた人間は手を上げろ」

 

僕と阿良也、千世子ちゃん、そして七生姉さんの四人だけが小さく手を上げた。

 

「これが、今回の劇でのキアラと景の差だ。お前は演技に深く潜りすぎて帰って来ない。潜るだけで表現力が足りていない。 だから伝わらない。 亀、喜怒哀楽の演技を景にみせてやれ。」

 

景ちゃんはショックを受けた表情をする。

 

「良く見ておけよ景ちゃん、この和製ジム・キャミーの芝居を。」

 

「ジム・キャミーに謝れ!!」

 

七生姉さんがすかさずツッコミを入れる。

 

「はい!喜ぃ!!」

 

亀太郎兄さんはくるくると回って、全身で喜びのポーズと喜んだ演技を行う。

 

「続いて怒ォォォォォ!!!」

 

両手を振り上げて、怒ったポーズと共に全身でオーバーなぐらい怒った演技を行う。

 

「哀・・・・・。」

 

_| ̄|○ ガクッ のポーズと共に、悲しみのあまり涙と鼻水が垂れ流される演技を行う。

 

「巌さん、あいつに見本やらせちゃダメでしょう。」

 

「別にいいんだよ」

 

まわりの空気を読まないあまりのオーバーなポーズと演技に呆れたのか、七生姉さんが苦言を呈する。

 

「最後にこれが!! エッ・・・・エクスタシ~。」

 

「うわぁ・・・・。」

 

楽の演技で全身でエクスタシーに達する演技を行う。 演技を見ていた女性陣の温度が一気に30度ぐらい下がって、部屋の気温が明らかに氷点下になった・・・。

 

「亀、テメェ、そこに直れ!!」

 

これには、巌さんも見ていられなかったのか、亀太郎兄さんを捕まえて折檻を始めた。

 

「嘘っ! 伝わらなかったンすか!? このすばらしい喜怒哀楽の楽の演技が!!」

 

「間違った方向で伝わっているのよ。マジで訴えるわよアンタ。」

 

「愉快な人だわ。」

 

当事者以外の冷めた視線が亀太郎兄さんに刺さる。

 

「だが、まぁ俺達を不快にした時点で"表現"として上等だ。」

 

「少なくとも、七生との芝居の時に景が演じた芝居よりは"表現力"がある。」

 

「景、お前はアリサに表現の事で何か指導された事はあるか?」

 

「はい。自分の感情を素直に出すようにと。特に最初のうちはそう言った表現の指導は厳しかったです。ただそれも最低限で、逆に無理に感情に反する演技や、自分の感じる感情以上にオーバーに表現すると怒られました。」

 

「そうだろうな。アリサは景の心が歪になったり、心が壊れないように、子供のうちから嘘の感情や心が伴わない演技をさせたく無かったんだろう。だから最低限の表現方法だけを教えて、メソッド演技者としての感情の制御や、演技で深く潜っても戻って来れるようなメンタルトレーニングを中心に指導したんだろうな。 これは千世子やアキラとは全くの真逆だな。 深く潜る所から来るリアルすぎる表現と尖った演技と、最低限の表現力と言うアンバランスな状態でも、景がここまで成功して来れたのは、周りの深いサポートがあったからだろう。」

 

「深いサポートですか?」

 

「そうだ。アリサは景が演じる役を慎重に吟味して、真剣に景を指導しただろう。アキラは今回の劇のように共演したドラマで景を引き立てて、千世子はデスアイランドの時のように表現力が足りない部分を補ったはずだ。 そして、阿良也やいちご、蓮などの共演者たちはみんな景の弱点を熟知した上で、景が失敗しないようにちゃんとサポートしてくれただろう。」

 

「そもそも、景に表現力を身に着けさせるために、アリサは今回の銀河鉄道の夜に景を出演させるように、俺に頭を下げてきたからな。みんなから愛されているな景。」

 

それを聞くと、景ちゃんは巌さんと話していた普通の表情のまま、涙が頬を伝い床に零れ落ちた。

 

「私、愛されていたんだ・・・・・。」

 

景ちゃんはそう言うと、涙をぬぐったが、涙は止めどもなく流れてくる。そのうち、床に屈みこんで、組んだ腕の中に顔をうずめて、しくしくと泣き始めた。

 

今、彼女の中では、子供の頃に父親を恐れて目立たないように怯えて過ごした事や、父親の蒸発後は満足に栄養も取れずに母親の死に怯える辛い日々から、僕の家に引っ越して、Youtube撮影を手伝って、演技を経験して、アリサママに指導してもらい、そして今まで彼女が演じてきた沢山の役達と沢山の思い出が頭の中をよぎっているのだろう。

 

そして、しばらく泣いていると、彼女はゆっくりと立ち上がり、涙を流したまま僕と千世子ちゃんの方に顔を向けて微笑むと、「アキラさん、千世子ちゃん、阿良也さん、巌さん、七生さん、亀太郎さん、そして皆さん、本当にありがとうございます。私は本当に幸せ者です。」と言って、本当に見惚れるような笑顔をした。

 

役を演じているのでは無い、彼女自身が感じた愛されているという自覚と幸せから来る表情。 その自然な心から出る彼女の最高の笑顔は、景ちゃんの中に眠る表現力のポテンシャルを見せつけるには十分すぎるほど、素晴らしい笑顔だった。

 

僕は、そんな心からの笑顔を魅せられて、それを素直に表現できる景ちゃんの才能に嫉妬した。

 

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