星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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柊雪は景ちゃんが悩んでいるのを見てる1

 

---------- 柊雪視点 ----------

 

大学の授業を終えた私はそのままスタジオ大黒天の事務所に行った。

 

「演技の時に必要な表現ができない?」

 

「そうです。演技の表現が伝わりにくいみたいで・・・。」

 

私がスタジオ大黒天の事務所に行くと、景ちゃんはそう言って膝を抱えたまま、事務所の椅子でぐるぐると回りながら悩んでいた。

 

「頭では分かっているんです。阿良也さんの演技は大げさだけどリアルで、動作から感情が伝わってくる感じで見ているみんなを虜にします。」

 

「わかっているじゃん。それだよ。それ。」

 

「そう思って、体を動かそうとするんですが・・・。」

 

「感情が付いてこないんだろう。」

 

「そう。そんな感じ!!」

 

一緒に事務所に居る墨字さんが言った。

 

ちなみに、このスタジオ大黒天、墨字さんが映画を撮るために作った事務所で、どちらかと言えば制作会社の色合いが強い。だからアリサさんから景ちゃんを女優として自立させるためにスターズから出して、この事務所に所属させるって話を聞いた時、すごくびっくりした。

 

この事務所はそもそも芸能事務所じゃないし、売れっ子の景ちゃんの仕事をマネージメントするような能力も無かったし、タレントに仕事を与えるようなコネも大した事は無かった。 

景ちゃんの自立云々言う前に、そもそもスターズと言う後ろ盾を失った景ちゃんを潰してしまう危険があったんだけど、その辺は流石はアリサさん。マネージャはスターズから派遣してくれて、案件なども引き続き流してくれた。

 

とは言え、ベースは私と墨字さんだけの零細事務所。景ちゃんはスターズで働いていた時とは違い、零細事務所所属タレントとしての大変さや苦しさなどをいろいろ体験していた。 

 

前に景ちゃんが、自分がスターズで育てられたというのはとても幸運だったって漏らした事があった。 その仕事の才能があるだけが天職じゃない。 才能とやりたい事が噛み合って初めて天職って言うんだ。 スタジオ大黒天に来て役者と言う職業が景ちゃんの天職となるかを試されていた。

 

もっとも、スタジオ大黒天に来た景ちゃんが苦労だけをしている訳では無かった。 大黒天に来る前の景ちゃんは、すごく良い子だけど役を演じていない時は、個性が薄い子だった。 こんな個性が薄い子がどうしてこんなすごい演技ができるんだろうって感じ。

 

でも大黒天に来てからは、家族的な付き合いで、彼女も感情を見せたり甘えてきたりもしてきた。同時に事務所の経営を考えて、自分で出演料の交渉などをしたりもする。景ちゃんの精神は自立して、確実に成長を遂げている。

 

ぬるま湯状態のスターズを出して、景ちゃんに社会の荒波と自分の才能を自覚させるって言うアリサさんの判断は正しいと思う。私もスターズに所属したまま、景ちゃんがなし崩し的に役者の仕事をしていくのは間違っていると思う。溢れる才能で生きてきた景ちゃんは、自分の力で努力して上がってきた千世子ちゃんやアキラ君とは違うのだ。

 

私は今の景ちゃんは大女優になる前の繭みたいなものなのかなって、彼女と会話しながら漠然と思った。

 

ちなみに、事務所の売り上げ? 私達が10回ぐらい働いても、景ちゃんの1回のCM出演料にまるで及びませんが何か?

 

景ちゃんの売上のお陰で、去年墨字さんがドキュメンタリー映画を撮れて、それがベルリン映画祭のパノラマ部門で賞を受賞したわけだから、景ちゃん様様だ。

 

「普段はどうやって悲しい表情や涙を流しているんだ?」

 

「役に入り込んで、その状況で演じている人物の感情のままに涙を流すけど・・・。」

 

「まぁ、そんな所だよな。その辺が才能だな。中にはアキラや千世子みたいに涙腺をコントロールする奴もいるけど。」

 

「大抵役者って言うのは、ちょっとしか感情を掘り下げられない。その代わりそれを表現しようと役を掴んで戻って来る。」

 

「景、お前はがっつり感情を掘り下げられるがそれを表現するために戻って来ない。」

 

「例えば、景が学校の生徒を演じたとしよう。リアルの世界で見ればその生徒の演技は完璧だ。 でも完璧すぎる。 普通の生徒は役者として表現する能力なんて無い。 でもその箇所までリアルに演技をしている。だからリアルであっても人に見せる演技として失格だ。それでもお前がこれまでやって来れているのは、子供の頃に星アリサから条件反射的に最低限の演技の表現方法を叩きこまれているせいだ。お前のリアルな演技と、体が覚えている反射的な演技表現が両立して今はなんとか役者として成功している。ただ、それもそろそろ限界が来ているけどな。」

 

「ほ・・・ほめてる?」

 

「褒めてねえよ。デスアイランドの台本を読んだけどずっと死から逃げているだけじゃねえか。あの手の衝動的で大胆な芝居以外はお前はヘタクソなんだよ。他の撮影でもやって来れているのは星アリサが仕事を選んだり、周りの共演者がさりげなくフォローしてくれているお蔭だ。そもそもお前、同年代との撮影でも、昔からアキラや千世子、市子や七生と言った、年齢は低くても能力のあるベテランクラスの俳優としか組んだこと無いだろ。デスアイランドで初めて同年代と一緒に演技をしたら観客のウケは良かったけど、現場では散々だったじゃねえか。」

 

「う゛っ」

 

「例えば、千世子はお前とは真逆。あいつは役の感情を掘り下げるつもりが無い。感情は参考程度でほぼ上っ面の芝居だ。ただし誰よりも自分の魅せ方を知っている。 千世子は媚びが高すぎて誰が見ても綺麗なんだよ。俺から見れば碌な考え方じゃねえが、あそこまで極められる人間は稀だ。売れる理由も良く分かる。もっとも俺は自分の映画ではあいつは使いたくないがな。」

 

「千世子ちゃんは、すごい役者なのっ。綺麗とか、自分の映画で使いたくないとかそんな目で見ないで!!」

 

「貶しても褒めても嫌なのかよ! メンドクセーな!」

 

「そう考えると阿良也君は景ちゃん寄りだね。深く役を掴んでそれを丁寧に説明してくれる芝居。しかも憑依型カメレオン俳優って言うだけあって役作りの幅も広い。役の感情を掘り下げてちゃんと表現する技術を持っている。」

 

「表現するための技術・・・。」

 

「まっ、お前よりも技術的な面は一歩先を行っているな。ただし、あくまで技術的な面だ。あいつは景と違って熊狩り時みたいに、役を演じるために自分で体験する必要がある。この辺は台本を読むだけで役に入り込めるお前とは大きな違いだな。」

 

「私に足りないのは、掘り下げた感情を表現するための技術・・・。」

 

「まぁ、世の中には王賀美陸みたいに全く役を演じないで、役の方を王賀美陸に合わせるみたいなタイプも居る。どう対応するかは景次第だ。」

 

「それならアキラさんはどういうタイプなんですか?」

 

「あっ、それ私も気になる。」

 

 




書いている途中で長くなってしまったので2回に分けさせていただきます。残りは明日更新予定です。

メインPCをRyzenの7000シリーズに更新したんですが、ハマってしまって、小説の更新が遅れました。

マザボとCPUを交換しても立ち上がる気配もなく・・・。
原因の切り分けで丸一日ほどハマった挙句、結局マザボから直接BIOS更新で動作しました。
CPUとメモリを取り外した状態でBIOS更新できる最近のマザボは機能豊富と思いつつ、これ前提でBIOS更新しないと起動すらしないAMDは流石すぎると思いました。
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