星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
「それならアキラさんはどういうタイプなんですか?」
「あっ、それ私も気になる。」
「あいつは、千世子と同じく自分の感情を掘り下げる気が全く無いタイプだ。自分の感情はな。」
「なんか含みのある言い方ね?」
「アキラさんの演技は千世子ちゃんとは全然違う気がするんですが。」
「お前や阿良也とも違うだろ?」
「はい。」
「アキラは、自分の感情を掘り下げたり、その感情を観客に伝える事は苦手か、もしかしたら今は出来るかもしれないが、本人はやる気がない。子供の頃に才能がイマイチって言われた理由はこれだな。」
「でもアキラさんの演技はすごく分かりやすくて、感情をすごく揺さぶりますよ。」
「そこだよ。その点がアキラのヤバイ部分だ。 あいつはおそらく、幼少期のトラウマから自分の感情を表現するのがすごく苦手だ。感情の発露が必要な幼少期を星アリサのネグレクトが原因で感情を抑圧していたからな。だから本質的にはあいつは感情よりも、論理的に物を話したり表現する事の方が得意だ。 それはアキラの友達が、役者以外にはやたらとIT系の大物が多い事からも解る。 論理的な思考がIT系や理系の人間と波長が合っているんだろう。 そして感情を表現する事が苦手というのは役者にとって致命的な事だ。 幼少期のアキラはとても悩んだと思う。それこそ自分に役者の才能が無い事に絶望して自殺するぐらいにな。」
「でも、それじゃ今のアキラ君の演技は説明が付かないじゃない。」
「だから、ここがアキラのヤバイ部分なんだ。 普通の人間は才能が無いなら辞めるが、アキラは辞められなかった。 役者というのは母親との唯一の絆だからな。 結果、あいつは自分の感情を掘り下げて表現する才能が無い事に見切りをつけて、その表現方法を捨てた。 代わりに選んだのは見ている観客の感情を掘り下げる事だ。」
「は? 意味が分からないんだけど? 観客の感情を掘り下げるって何?」
「そもそも、何で役者が自分の感情を掘り下げて表現する必要があるかを考えるんだ。 自分の感情を掘り下げてそれを表現する事で、見ている観客にその感情を共感してもらうためだろ? つまり演技をしている自分と見ている観客とで感情を共有させるための表現なんだ。だから自分の感情を掘り下げた部分は、最終的にはその演技に共感している観客の感情を掘り下げたとも言えるわけだ。」
「それは何となくわかるけど、それとアキラ君の演技とどう関係があるの?」
「アキラは演技の最終目的は、自分の感情を掘り下げて表現する事では無くて、観客の感情を掘り下げる事だって気が付いた訳だ。 だから自分の感情を掘り下げるのではなくて、観客の感情を直接掘り下げる事にした。」
「えっ? どう言う事ですか?」
景ちゃんが驚いた表情をする。
「星アキラは、自分の感情では無くて、見ている観客の感情を元に演技していると言う事だ。 自分が演技をした結果、観客がどういう感情になるかを判断して、それをフィードバックして自分の演技に落とし込んでいる訳だ。 つまり基準が自分ではなくて、観客の感情だ。 だからアキラの演技はリアルではないが、観客の感情を激しく揺さぶる。」
「でもどうやって、観客の感情を掘り下げているんですか?」
「わからん。 相手のリアクションを予想して演技をすることはできるが、バックボーンが違う不特定多数の観客の感情を掘り下げるなんて不可能なはずなんだが、実際に出来てるからな・・・。 そもそも普通は、自分の感情すら掘り下げられない人間が、観客の感情を掘り下げられる訳が無いって考えるはずだ。 でも、観客の感情を直接掘り下げられるのであれば、自分の感情云々の部分を省いて、効率的に演技ができる。 まさに合理性を重視するアキラらしいと言えば、アキラらしい演技と言える。」
「Youtubeの放送とかで不特定多数の視聴者とコミュニケーションしているから、その辺のやり取りとかで身に着けたのでしょうか?」
「その可能性はあるだろうが、これをやり始めたのは自殺の後からで、Youtube放送を始める前あたりからだからな。それだと因果関係が逆なんだよな。 どちらにしても、あいつは役者の中でも変種中の変種だ。 まさしく珍獣の名にふさわしいな。」
「流石は、芸能界一のクソガキ珍獣。並みの役者じゃないわね。それで、墨字さんはアキラ君を自分の映画に使いたいの?」
「俺は、アキラも自分の映画で使いたくねえ。というか、使ったら負けだと思っている。」
「千世子ちゃんの時と違って、歯に物が詰まったような言い方ね。」
「王賀美陸と星アキラ、どちらもハリウッドで活躍しているが、どっちがすごい俳優だと思う?」
「突然どうしたの? そんなの、墨字さんが言うように、俳優同士を比べるものじゃないわ。 どっちもすごい俳優よ。」
「そうです。 アキラさんも王賀美さんもどっちもすごい俳優です。」
「確かに、すごさや能力で俳優同士を比べるものじゃない。ましてや二人のキャラクターは全く違う。同じ役を演じる訳でもないし比較は全く意味がない。ただ、こう言いかえてみようか。 星アキラと王賀美陸はどっちがハリウッドで稼いでいる?」
「・・・・それはアキラ君ね。 アキラ君は助演だけどハリウッド映画に年5本以上は出るし、ドラマも合わせればそれ以上。 それに半分ぐらいは俳優のギャラが話題になるような超大作の映画出演だし、王賀美さんは主演が多いけれども、映画の出演は年1~2本ぐらいだから、出演料という意味ではアキラ君の方が多いんじゃないかしら。」
「そうだな。 アキラの方が圧倒的に稼いでいる。 ではなぜアキラはそんなに稼げるんだ?」
「それは、最年少でアカデミー賞の助演男優賞を受賞したり、英語が堪能で世界的に売れているし・・・。」
「世界的に売れるのは同意だ。 ただ、アカデミー賞は関係が無い。 どちらかと言えば、さっきまでの観客の感情を掘り下げる話だ。景はどう思う?」
「やっぱり、アキラさんの演技がすごくて、みんな出演してもらいたいからでしょうか?」
「演技が凄くて、みんな出演してもらいたいのは正しいが、ここで言いたいのはそう言うことじゃなくて、星アキラの商業的な価値って何だと思う?」
「商業的な価値ですか? アキラさんが出る映画はみんなヒットするとかですか?」
「そうだ。アキラが出演する映画はみんなそれなりにヒットするんだ。 では何でヒットすると思う?」
「アキラさんが良い演技をするからですか? ハリウッド映画のアキラさんの演技って、すごく面白かったり、落ち着いたり、アクセントになったり、本来は目立たないような役でも要所要所ですごく印象的なんですよね。それでいて、主役を喰うような嫌味な所もありませんし。」
「その通り。星アキラの演技はすごく印象的で、主役を立てた上で、観客の感情を揺さぶるんだ。 だから映画の世界に深みを与えて、映画全体の味付けや隠し味としてすごく優秀な働きをする訳だ。これは同時に出演させるだけで映画のレベルが上がる事を意味している。」
「柊、監督やプロデューサーの立場で考えてみろ。 ここに企画段階で成功と失敗の確率が50%程度のボーダーラインの映画が存在する。 ヒットするかどうかは微妙な映画だ。 しかし、ここに星アキラをキャストすると確実にヒットするならどうする? 星アキラに出演をオファーしないか? 別に主演じゃなくていい。 自分の使いたい役者を使ったうえで、助演に星アキラを加えるんだ。 それで映画のヒットが保証されるとしたら?」
「それはアキラ君を入れます。アキラ君の出演料が高いって言っても、助演としての話ですし、それで映画のヒットが保証されるのであれば、キャストとして加えます。 それにアキラ君は演技の幅も広いですし、実力も申し分ありませんから映画自体のコンセプトがアキラ君に壊されるような事も無いと思います。」
「そうだ。膨大な予算で作成されるハリウッド映画では、なおさら収益はシビアな物となる。 アキラを加えただけで、ヒットする確率が上がるのであれば、アキラをキャスティングするのは当然だ。 アキラはハリウッドの監督たちからの人気も高いが、それ以上にこの性質を知っているプロデューサーからの人気が高い。結果として、アキラにはひっきり無しにハリウッドから出演のオファーが来る。」
「結局のところ、星アキラと言うのは、出演するだけで映画全体の質を上げる稀有な役者だ。 つまり、言い換えれば、作った映画がヒットしたのは監督の手腕ではなくて、星アキラの力である可能性もあるわけだ。」
「つまり、墨字さんは星アキラを使って映画が評価されると、自分の力じゃなくてアキラ君の力で評価された事になって、負けた気がするから嫌だって事?」
「そうだ。」
「うわっ、墨字さんに幻滅しました。そんな理由でアキラさんを使わないなんて酷いですっ。」
「そんな事言ったって、入れるだけで美味くなる醤油や味の素みたいな俳優なんて反則だろっ。そんな俳優は星アキラ以外に見た事ねえよ。なまじ自分で感情を掘り下げないから、演技の匂いがしない代わりに、それを逆手にとってどんな役でもこなせるとかチートすぎる。 全く意味が分からんぞ。」
「匂いがしないって、良く阿良也さんが言いますけど、どういう意味なんですか?」
「感情の匂いだな。 演じている時に自分が発する感情の匂いだ。 野生児の阿良也はその匂いを人一倍感じやすいんだろうな。」
「それじゃ、ただでさえすごいアキラさんが自分の感情を掘り下げたらどうなっちゃうんですか?」
「仮にアキラの芝居に、自分の感情の掘り下げ分が加わったら、名演になるのか、その分が打ち消し合って逆に質が落ちるのか、全くわからんな。」
「自分の感情を掘り下げるアキラ君の芝居。怖いような、見てみたいような・・・。」
「アキラさんなら、きっとものすごい演技をしてくれるはずですっ。」
「景ちゃんのそのアキラ君への妙な信頼がフラグにならないといいけど。」
「どちらにしても、景は感情を表現するための修業が必要だな。」
「どうする気なの?」
「明日から公園にでも行くか。」
こうして、翌日から景ちゃんの修業が始まる事になった。