星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
「全員に注意事項だが、銀河鉄道の夜に星アリサが出演する事は、当然極秘事項だ。絶対に漏らすな。 星アリサが出演する事を事前に通知する事もしない。 他の人間が知るのは銀河鉄道の夜の1日目にアリサが舞台に立って初めて知ることになる。 そのために銀河鉄道の夜は1日目が無料のネット配信となってる。 舞台が始まるまでは騒ぎになる事も無いから安心しろ。」
アリサママの出演は巌のじっちゃんも良く考えているようだ。 確かに今の段階で発表してしまうと、世間で話題になっている夜凪景の主演の話なんて霞んでしまう。 景ちゃんを始め劇団員の共演者も、舞台外の場外乱闘で盛り上がるのは本望では無いだろう。
少なくとも、一番沢山の人が視聴する1日目のネット配信までは今のまま盛り上がる事になる。 星アリサを目当てに演劇を観に来るのと、演劇を観に来たらサプライズで星アリサが出演していたというのでは話が違うし、その後の話題や紹介のされ方も違ってくるだろう。 公演1日目以降は、舞台の話題が星アリサに喰われるのか、僕達が星アリサから世代交代を印象付けられるかは、僕達の働き次第だ。
この事実を知った瞬間に僕達はものすごいプレッシャーに襲われた。
巌のじっちゃんはこの舞台を人生の総決算にするって言っていた。 僕達を入れて豪華メンバーで開催するこの舞台の話題作りのためのリップサービスだと思っていたけれども、本人は至って本気だった事に気が付いた。 『狂った一頁』の舞台から実に16年の年月を経て、巌裕次郎は再び自分が考える最高の舞台を実現しに来たのだ。
巌裕次郎と星アリサという、日本の演劇史に巨大な足跡を刻み続けた巨人に対抗して主演となるのは、巌裕次郎の秘蔵っ子である明神阿良也と、星アリサの愛弟子である夜凪景、そして共演は巌裕次郎が育てた青田亀太郎や三坂七生と、星アリサが育てた百城千世子や僕、まさに日本の演劇史を刻み続けた生き証人達と、これから日本の演劇史に足跡を残していく新旧の役者達がガチで舞台の上で殴り合う夢の競演。
そしてその題材が宮沢賢治の最高傑作と名高い、生と死が交錯する幻想的な物語『銀河鉄道の夜』。 この生と死のテーマと新と旧の世代交代が観客に対比として見られる事も計算に入れているだろう。
幾重にも織り込まれた歴史と生い立ちの伏線。 それぞれのバックボーンを含めて、まさに大河ドラマとも思えるような凝縮した人間関係と配役を、巌裕次郎は舞台演出として実現して見せるのだ。この舞台が成功したら、巌裕次郎の最高傑作なんてものじゃない。 まさしく伝説の舞台となるだろう。
そして、僕達の舞台が星アリサの草刈り場になるのか、星アリサを圧倒して新旧の交代を印象付けるかは僕達の働きにかかっている。そのプレッシャーは若草物語の比では無い。
僕は呑気に景ちゃんにアドバイスを送っている場合では無かった。 僕達に今必要なのはアリサママと巌のじっちゃんに対する戦争の準備なのだ。巌のじっちゃんが僕や千世子ちゃんに感情の色を匂わせる目途が付いているのも当然だった。 だって、匂わせるぐらいじゃないとこの戦争に勝てないもの。
助演だからってピクニック気分で気軽に巌裕次郎の劇に出演するんじゃなかった。 巌のじっちゃんが蜘蛛の糸をこんな幾重にも張り巡らせた状態で待ち構えているなんて思わないじゃないか!!!
この状態になって気が付いた。 僕、巌裕次郎をナメていたわ。 日本最高の舞台演出家を軽く見てた。 だって、裕次郎自身やアリサママの歴史までぶち込んだ、こんな重厚な演出をしてくるなんて思わないじゃないか。
僕の心の中は後悔でいっぱいだった。こんな事なら、仕事が忙しい事を理由に舞台を断って、家でゴロゴロしながらポテチでも食べてのほほんと、大変だねー。とか思いながらネットで舞台配信を見ていれば良かった。
舞台を観ている人には夢の舞台だろうけど、共演する人にはプレッシャーと心労で地獄の舞台だよ!
ふと、この蜘蛛の糸を張り巡らせた構図を作り出した巌のじっちゃんがスパイダーマンと重なって見えた。 僕は無性にスパイダーマンが恋しくなり、ちょっと衝動的にスパイダーマンを演じたくなった。 今の僕には助けてくれるスーパーヒーローが必要なんだ。
アキラ君脳内選択肢
そんな事をしてはダメだ!頭がおかしくなったと思われるぞ!
➡当然やるべきだ。スーパーヒーローは理解されにくい物だからな。
「でもアリサさんが出演するパートなんて台本に無いですよね?」
「はっはっはっはっはっ・・・すり替えておいたのさ!!」
突然、僕が勢いのあるセリフを吐いた事で、一瞬でみんなの視線が僕に集まる。
「地獄からの使者 格闘技世界チャンピオン スパイダーマッ!」
僕はツッコミ所満載の東映版スパイダーマンのセリフとポーズを決めてみた。セリフの後には声帯模写であのBGMを口ずさみながら、脳内カメラのコマ割り毎に数々のクソダサポーズをとる。まさに完璧だった。その姿は鉄十字団に挑む山城拓也そのものだ。 鉄十字団に挑むスパイダーマッが巌裕次郎に挑む僕に重なって見える。
「アリサママを舞台に呼び戻す悪の劇団天球、許せる!」
「アキラちゃん、ついにおかしくなったわねwwww」
千世子ちゃんが爆笑していた。
「アキラさん、急にどうしちゃったんです?」
「しっ! 景ちゃん、見ちゃだめよ!!」
「キアラちゃんどうしたの? そんなに心労が貯まっているなら、私とホテルに行ってお休みしましょうか?(*´艸`)」
「この状況で俺よりも面白いとか反則だろwwwww」
「息子だか、娘だか良く分からない子の奇行に、うっ、胃が・・・・。私にこの言葉を言う権利が無い事は理解しているけど、やっぱり一言言わせて。 育て方を間違えたわ。」
「このシリアスなシーンをぶち壊して、東映版スパイダーマンだと!? マーベルが許しても、この巌裕次郎が、許せる!」
みんなから笑いを取れたけど、何か大切なものを失った気がする。今から家に帰って、東映版のスパイダーマンでも全話視聴しようかな・・・・。
あと、巌のじっちゃんは絶対にあのニフニフ動画を見た事があるでしょ。
三話に渡るマジ語りでアキラ君の脳に負荷がかかって良心回路が焼き切れたようです。(マジレス)
ちなみに巌のじっちゃんが見たニフニフ動画はスパイダーマッあたりでググれば出てくる可能性も・・・。