星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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星アキラは読み合わせをする

 

読み合わせを行う会議室に向かうアリサママに僕は質問した。

 

「あっアリサママっ、どっ、どうして、いきなり巌のおじい様の舞台に出演を?」

 

「景の出演のお願いを裕次郎さんにしたら、交換条件で提案されたのよ。」

 

「私のためですか?」

 

「景ちゃんのためではあるけれども、私のためでもあるわ。 この話は裕次郎さんが生きている間にケリをつけなければいけない問題でもあるもの。 それにそのお蔭で裕次郎さんにも別のお願いを聞いてもらう事ができたわ。 だって、この世紀の大スター星アリサを舞台に出演させるわけなんだもの。」

 

そう言って、アリサママはにやりと笑った。笑った顔が怖えぇぇぇぇぇぇぇ。 アリサママ、あと20年もしたらまじで日本を代表する妖怪ババァになるんじゃないの!?

 

「ぐはぁっっ」

 

そんな事を考えていると、アリサママが突然僕の頭に正拳突きを決めてきた。

 

「アリサママっ、いきなりなんですの!?」

 

「何か良からぬことを考えていた気がするので殴ってみただけよ。」

 

「可愛い娘の頭を容赦なく殴るなんて、相変わらずサイコパスがすぎますわ!!」

 

「あなたのような娘を持った記憶は無いんだけど、まぁ、可愛いからいいわ。」

 

そう言って、アリサママはニコニコしながら読み合わせがある会議室へ向かった。 機嫌はすごく良いようだ。 戦々恐々としているこっちの気も知らずに、アリサママは巌裕次郎の舞台に出演する事をすごく楽しみにしているみたいだ。 まさにサイコパスママ、 アリサママエル!! 僕以上に全部わかった上で、純粋に舞台を楽しみに来ているのだ。 やべぇ。 こいつはやべぇ。

 

阿良也と、景ちゃんは完全に天然物なので、なんとかなるかもしれないけど、僕のような養殖物には非常に危機的状況である。

 

いや、養殖だから何だと言うんだ!! 養殖の方が脂が乗っていて旨いじゃないか!! 海原雄山が何だと言うんだ! 市場で覇権を握っているのは僕ら養殖魚だ!!

 

僕は市場で売買される養殖魚の気分になって、養殖魚の良さを正当化した。 養殖魚の真鯛は浅い水面で育てられるため日に焼けていて赤黒いけど、天然物の真鯛は深海に居るため、美しいピンク色なのだ。当然、僕ら養殖物の真鯛よりも数倍の値段で取引される。 僕はそれを見ている養殖物の真鯛の気分になって、天然物を羨望した。 まさに気分は「およげ!たいやきくん」である。

 

あれ? あのたい焼きは海に逃げ出したけど、逃げ出した後は天然物のたい焼きになったのだろうか?  最後に釣られて食べられたたい焼きは、養殖物だったのだろうか? それとも天然物だったのだろうか? そもそも天然物のたい焼きって何?

 

読み合わせの開始まで暇になった僕は、現実逃避で至極どうでも良い事に頭を悩ませていた。 これまでのショックでだいぶ頭がハイテンションになっているらしい。

 

そんな事をしていたら、みんなが会議室の席に着いて台本の読み合わせが始まる。

 

 

この読み合わせってどんな物かという話なんだけど、台本を持って、役者がそれぞれのセリフを言っていくだけの稽古だ。特に演技等は必要ないけど、ある意味一番大切な稽古ともいえる。

 

漢字の読み方や発音から始まり、役の人物の感情や人間関係などを読み合わせに立ち会っている演出家や役者同士で確認していく。今回の舞台では本番の二か月半前の工程だね。

 

この辺は演劇の舞台独特とも言える。 例えば声優では本番前に軽く合わせて一発撮りだし、ドラマもリハーサルや立稽古では、本番当日にちょっとやる程度の事が多い。読み合わせ自体がやらない事もあるね。

 

その意味で言えば、読み合わせから入ってじっくりと役作りが行える演劇の舞台というのは、非常に恵まれているとも言えるんだけど、逆を言えば、出演者がそれだけ時間をかけないと舞台が完成しないほど、舞台と言うのは難易度が高い見せ物とも言える。ドラマのようにリテイクが効かない本番一発勝負を何日もやる事になるのだ。 舞台俳優と言うのは演技力が違うというのも良くわかるだろうし、舞台俳優をやっている人間がドラマや映画で頭角を現す人が出るもの当然と言える。 でも舞台が至上という訳では無くて、映像には映像の難しさや良さが当然あるんだけどね。

 

「では皆さんはこの天井にある、川だと言われたり、乳の流れだと言われたりするこのぼんやりとした白い物が何かご存じですか? ジョバンニさん、あなたにはわかっているでしょう?」

 

銀河鉄道の冒頭、先生に指名されて星だとわかっていても、ジョバンニが戸惑って答えられない場面、阿良也は戸惑った演技を見せる。 まだ読み合わせ初日でセリフの無い場面、しかし阿良也はすでに別人のように見えた。もうある程度役を掴んでいるのだ。

 

うーむ。読み合わせ初回でこの完成度か。恐ろしい。

 

「ふーむ。 それではカムパネルラさん。」

 

カムパネルラを指名された景ちゃんは、少し驚いた表情をして一瞬だけジョバンニを見ると、少し複雑な表情をして沈黙を守った。それだけで先生役や観客にはジョバンニを立ててわざと答えなかった事が伝わった。動きは少し小さいけれども、こう言った繊細な芝居は景ちゃんの得意とする所だ。 そして見る人に伝える動作の機微も格段に改善していた。 景ちゃんの動きからジョバンニの心境が良く伝わった。

 

「このぼんやりとした白い銀河をおおきな望遠鏡で見ますと、沢山の小さな星々から出来ている事が判るのです。 ジョバンニさんそうでしょ?」

 

先生役の人にも、そう言ったカムパネルラの機微がちゃんと伝わったようで、ジョバンニを立てる形で生徒に答えを教える。観客にもこの二人の関係と心の動きが、台本の読み合わせ時点で良く伝わっている。

 

巌のじっちゃんがどう感じるかは分からないけれども、主役二人は微調整するだけでも普通に舞台で見せられそうだ。

 

主役二人がいきなり高い完成度を見せるのに対して、僕と千世子ちゃんは普通に棒読みだった。まさに棒読みちゃんって感じ。 この一回目の読み合わせに関して言えば、僕に読ませても、SofTalkの棒読みちゃん(ゆっくり音声)に読ませてもそう変わりがないだろう。

 

これは、僕と千世子ちゃんが他の出演者との演技の解釈に相違を起こさせないための措置。 僕と千世子ちゃんは余計な先入観を入れないで周りの役作りに合わせて、自分の役を調整するために1回目は棒読みちゃんモードだ。これについて、僕達に文句を言う人間はいない。 そう言う考えなのはわかっているし、回を追うごとに改善する事がわかっているからだ。現実に同じような対応をしている役者さんは、僕ら以外にも数人居る。

 

僕と千世子ちゃんのセリフの部分は無難に流れていく。セリフのやり取りをしながら、どういう役作りで行くべきか大体のイメージがつかめてくる。

 

巌のじっちゃんも特に厳しい事は言わずに、ニコニコしている。 僕はそんな巌のじっちゃんに違和感を覚えた。 これだけ大きな伏線をぶち込んできて、最高傑作を作ろうとしている巌のじっちゃんが、果たしてこんな普通(・・)の読み合わせで満足するのだろうか? なんでこんなに機嫌がいいんだ? アリサママが来てくれたから? いや、何かがこれから起こるからそれが楽しみなのかもしれない。僕は非常にいやな予感を覚えた。

 

その懸念が現実になったのは、アリサママと阿良也の会話シーンであった。アリサママは全開だった。 全開で阿良也を貪り()っていた。 数日台本を読んで役を作ってきた阿良也の役を子供の芝居として、一撃で阿良也を切り捨てた幻覚が見える。 そして、アリサママのレベルの違う芝居に耐えられずに、ついにセリフに詰まる阿良也。 こんな阿良也は見た事が無い。 みるみるうちに阿良也は真っ青になって行った。 景ちゃんもそんな阿良也の様子を見て顔を青くしている。

 

アリサママは阿良也と景ちゃんに本物の芝居を見せつけていた。 プロの役者相手にダニングクルーガー効果を感じさせてぶっ潰すなんて暴挙を止めてよ。 アリサママ! あんなにやさしかったアリサママはどこに行ったの! あっ、初めから優しく無かったわ。(←失礼)

 

巌裕次郎が最高の舞台にするために放った刺客、アリサママエル。 やべぇ、魔王が降臨している。 アリサママエルは味方の天使かと思っていたら、完全にラスボスじゃないか! セフィロス系のラスボスとか本当に勘弁して欲しい。 阿良也は序盤の回避不能の敗北イベント戦でボコボコにされていた。 うーむ。これはTASさんでも呼ばないとダメかもしれん。

 

巌のじっちゃんのニコニコは最高潮に達している。 これは巌のじっちゃんが裏ボス確定だな。

 

魔王軍として攻めて来たアリサママエルの前に、人間の街で平和に暮らしていたモブキャラの僕は、ベッドの中で布団を被ってガタガタと震えているしか無かった。

 

 

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