星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
魔王アリサママエルが猛威を振るった読み合わせの事件の翌日から数日は休みの日になっていた。
これは明らかに僕達に対策を考えさせるための時間だ。 現在、僕達は完全に巌のじっちゃんとアリサママの手の平で踊らされている状態だった。
休みになっていた僕達は、阿良也のリクエストでダイビングスクールのプールを借り切って役作りをすることにした。
阿良也以外で一緒に来たのは、景ちゃん、七生姉さんだ。 千世子ちゃんはドラマの撮影があって都合が合わなかった。
阿良也になんでプールって聞いたら、
「役作りに悩むとどうしても飛び込みたくなるでしょ? 生き物はみんな水から生まれたって言うし、原点に返りたくなるんじゃないの? 知らんけど。」
「知らんのかい!?」
僕は頭痛がしながらも阿良也のリクエストを聞いた僕は、都内のダイビングスクールを当たって、プールがある施設で、時間に空きがあった施設を貸し切りにした。
もっとも貸し切りにしたと言っても、その時間にレッスンをしたと仮定してその間の生徒さんの代金を払う形で話がついている。
ダイビングスクールのプールを借りた理由は、阿良也が溺れる体験をしたいと言ったからだ。そうすると、普通のプールでは足が付いてしまってあんまり意味がない。足が付かない状態で、前後左右水面がわからなくなって、息が出来なくてパニックになる体験をしたいのだろう。
そうすると、普通のプールを借り切るよりも、ダイビングスクールの深いプールの方が良い。 僕はドキュメンタリーの撮影とかでダイビングの講習を受けていたので、こう言った施設に心当たりがあった。
今、阿良也はダイビングスクールのプールで溺れてご満悦だ。
ちなみに、インストラクターさんと入念に打ち合わせをして、阿良也には水と同じ重量になるような重りを付けた上で、ハーネスをつけて、天井のメンテナンス用のクレーンに命綱をつけて、本当に危なくなったら、すぐに引き上げられるような対応を行っている。
実際、最悪の事態が起きても、一応応急の人工呼吸器とかAEDとかの設備があるので、まぁ助かる可能性は高いだろう。 それでも助からなかったら、運が悪かったねということで諦める形だね。正直、体を張った怪しげなテレビ撮影よりも安全性は担保されている。それでも事故は起こるけれども、対策はした上だからもう運が悪かったとしか言いようが無い。
阿良也は今、プールの中を漂いながら、役作りについていろいろ考えていた。一人雑音が入らない空間で役作りも進む事だろう。
「阿良也さん、気持ちよさそうですっ。次は私もやりたいです。」
「いいよ。 もうすぐ阿良也の息も限界だろうから、次は景ちゃんがやろう。 ジョバンニ以上にカムパネルラの方がこの体験は大切だよ。」
もっとも、気持ちよさそうに見えるけれども、阿良也はもう息が限界で現在進行形で溺れているけどね。 そろそろ引き上げるか。水を飲んで息が止まって僕が人工呼吸をやるような事態はごめんこうむりたい。
「はぁはぁはぁ、死ぬかと思った!! アキラ、上げるの遅いよ!」
そう言うと、阿良也はプールサイドにぐったりと倒れてしまった。まぁ息をしているみたいだし大丈夫でしょう。
続いて、景ちゃんが潜って行った。
「アキラって、なにげに面倒見がいいよね。こいつの戯言なんて流しちゃえばいいのに。」
ぐったりしている阿良也を横で見ていた七生姉さんが言った。
「七生姉さん、僕が断った場合の展開を考えてみるんだ。 僕が断った場合、阿良也は自分で溺れる体験をしに行くだろう。 そうするとこいつは、橋の上から飛び込むみたいな無茶な行動をする事が考えられる。 それで阿良也だけが死ぬならまだましなんだけど、阿良也が飛び込んだのに驚いて、周りの人が助けに入って、その人が道連れで溺れて死んじゃったらどうする? その挙句、実は阿良也だけ助かりましたとか。」
「うわぁ、本当に最悪の事態ね。 このバカだけが死ぬならまだしも、助けに来た人まで死んじゃったら責任なんて取りようが無いわ。それに、普段のこいつの行動から考えて、そうなる情景がありありと浮かぶわ。」
「そうなんだよ。七生姉さん。ここでちょっとのお金と時間をケチると、確実にもっとろくでもない事態になるんだ。 最低でも警察のお世話になるぐらいの事態にはなると思う。」
「・・・確かに。 流石は阿良也の親友。 良く分かっているわね。」
「七生姉さんも確実に阿良也の親友だし、理解者だけどね。 それにお金でなんとか出来る問題であれば、お金で解決するべきなんだよ。 問題が大きくなる前にちょっとのお金で安全に解決できるのであれば、それは幸せな事なんだ。」
「完全にお金持ちの思考ね。 私のような貧乏舞台女優には縁遠い話よね。」
「言うて七生姉さんも相当な売れっ子だよね。 最近もドラマの役をもらっているし、映画も何本か出演しているじゃん。 舞台からの収入とグッズの売り上げを合わせて考えると、同年代のアイドルや女優と比較してもかなり上位の稼ぎだとは思うよ。先週号のヤングジャンピングでもコスプレで表紙とグラビアに出てたよね。」
「ウルトラ仮面以降は、ドラマや映画の役をもらって刺激になるし、役作りにも使えるからすごく助かっているわ。特にアルバイトをしないで役者の収入だけで生活できるようになったのは、すごく助かっているわ。 私のマネージメントはスターズにやってもらっているから、アキラは私の収入を把握していそうね?」
「いや、流石にアリサママじゃないからタレント個人の収入の確認なんてしないよ。ギャラがおかしい事を聞いた時には確認はするけれども、基本的に上手く行っていればノータッチで余計な情報は見ないよ。タレント達もプライベート覗かれていい気分はしないだろうし。」
「そもそもなんだけど、何でアリサさんは、スターズの方で劇団天球のマネージメントや仕事の斡旋、グッズの制作/販売なんかをしてくれているの?」
「巌のじっちゃんとの個人的な繋がりが大きいかな。 巌のじっちゃんはアリサママを引退に追い込んだ負い目がある訳だけど、アリサママは巌のじっちゃんの前の劇団を解散に追い込んだ負い目があるんだ。 まぁ、お互いに負い目がある同士の関係改善が一つ。」
「もう一つの理由は、スターズのマネージャ陣の研修とレベルアップかな? 知っての通り、スターズって言うのはマネージメントをすごく重視する芸能事務所なんだ。 だからマネージャや裏方さんは他の事務所に比べてもすごく充実しているし、その人たちの教育にもかなりの資金を使っている。 それで、その人達の実地研修先としてスターズと毛色が全く違う劇団天球を利用させてもらっていると言う感じかな? もちろん、経験の浅い人ばっかりじゃ駄目だから、ベテランも派遣してOJTの形で研修してもらっているよ。」
「えっ、スターズのマネージャさんってOJTやっている人が多いなって思っていたけれど、そう言う事?」
「そうだよ。 どんなに優秀な人でも、スターズっていう組織の中でずっと留まるのは良くないからね。 ある程度毛色の違う職業や組織に入れて循環させるんだ。だから大ベテランの人が派遣される事も多いね。 劇団天球のマネージメント陣は持ち回り制だけど、必ず1人は大ベテランの人を入れて問題が起きても対処できるようにしているね。 だから、阿良也が起こす問題とか、阿良也が起こす騒動とか、阿良也が起こす失言とかに迅速に対処できているんだよ。」
「全部阿良也の問題じゃない!!」
「大体あいつのせい。」
「もっとも、阿良也がそれだけ影響力が大きい事を示してもいるから、阿良也が巻き起こす騒動はマネージャ陣には良い刺激になっているよ。 それに持ち回りで普段の仕事を離れて、劇団天球のマネージメントやプロデュースをする仕事はマネージャ陣にも好評だし。 でもなぜか僕のマネージャになるよりは、劇団天球に居た方がいいってみんな言うんだよね。別に嫌われてはいないみたいだけど、どうしてだろう?」
「外野でもなんとなく事情は察せられるわ・・・。阿良也の騒動ぐらいだと健康を害する事は無いものね。」
「まぁ、僕には昔からスペシャルマネージャさんが付いているから大丈夫なんだけどね。」
「そのマネージャさん、いつも胃を痛めているわよね。」
「そう。だから僕も心配して胃薬を差し入れたりしているよ。 やっぱり健康には一番注意してあげなきゃ。」
「胃薬よりも、アキラ君本人の行動を改めてあげた方がいいんじゃないの?」
「ナンノコトだい? 僕はスターズの二代目社長として、みんなの見本になる芸能活動をしている優等生だよ。」
「珍獣へのツッコミは控えさせてもらうわ。」
「そんな訳で、スターズにとって劇団天球へのマネージメントはそれなりにメリットはあるけれども、それでも赤にならなければいいやぐらいの、慈善事業に近いね。 業界平均だと、手数料で40%~60%ぐらい引いていく上に、スターズ以上に仕事の斡旋やサポートができる芸能事務所は無いだろうから、劇団天球の人がスターズのマネージャ陣を裏方だからって虐めて、他の芸能事務所とかに乗り換えたりしたら、その後にザマァされて、後悔してももう遅いになるから、マジで気を付けてね。 現場から『もう劇団天球のマネージメントはやりたくないです』とか言われたら、僕でも対処できないから。」
「背筋が寒くなったわ。 今の劇団員はみんな、アルバイトをしないで劇団の収入だけで生活できる事に感謝しているけれど、そんな勘違いした後輩が出ないように私もちゃんと後輩の教育をするわ。」
「うん。それがいいと思うよ。」
そんな会話をしていると、景ちゃんが合図をしてきたので、景ちゃんを巻き上げた。
「ううっ、気持ちが悪いですっ」
景ちゃんはそう言うと、プールサイドにあったバケツに走って行き、そして・・・。
「げろげろげろっ」
うわぁ、最近はデスアイランドの話題も下火になってきて、景ちゃんのゲロッパ女優のネタもみんな忘れかけてきて、汚名返上中だったのに、ここでげろげろしちゃってまた汚名挽回しちゃっているよ。まじでプールの中で吐かなくて良かった。そこは良く我慢したね景ちゃん。
でもゲロッパ女優の伝説はまた繰り返されてしまったけど。この舞台が成功したら、夜凪景の特訓としてこの話が広まるんだろうな。(遠い目)
「役者の役作りも大変ねぇ。」
「まぁあそこまで追い込む必要があるかは不明だけど、メソッド演技者なら重要なのかな? 知らんけど。」
「知らんのかい!」
今度は七生姉さんがツッコんだ。
「今度は私の番だけど、すぐに合図するから早めに上げてね。 景や阿良也のようにギリギリまで追い込む必要は無いわ。」
「了解。」
そう言って、七生姉さんは潜って行った。その間に僕は次に潜る準備をする。
七生姉さんは、比較的早く合図をして上がってきた。
プールサイドでは阿良也と景ちゃんが横になってぐったりしている。
僕はタンクを背負って、レギュレータを付けて準備万端だ。
「それじゃ、僕はプールの中で水中遊泳でエンジョイしているから、みんな溺れた余波で苦しんでいてね。」
「アキラずりーぞ!」
「アキラさん、卑怯ですっ!」
「この流れでマジかよ!? アキラ!」
そう言って、僕はダイビングプールの中に飛び込んだ。
こちらのお話、当初は原作準拠で阿良也が橋から川に飛び込んで、警察に保護されて夜凪ママが泣いちゃう話を途中まで書いていたのですが、あまりにも社会性が無さ過ぎて、役者としてしか生きていけないどころか、役者としても生きていけなさそうだったので、この話に変更しました。
原作よりも阿良也の理解者が多いので、こう言う展開もありかと。。
あと、この世界の景ちゃんのゲロッパ女優という愛称は、その前に作られて、ブルーリボン賞を獲得した偉大な映画と同じく、『Get on up』の空耳で、アグレッシブに立ち上がるという、そのようなすばらしい女優と言う事で、ゲロッパ女優という愛称になっているだけで、決して、映画でげろげろしたからそんな愛称になっている訳では無いです。 この世界の公式ではそうなっています。公式では。本当ですよ(目を逸らしながら)