星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
いよいよ銀河鉄道の夜の舞台が開演に近づいてきたある日、舞台の成功を願って激励会を開催する事になったよ。
「キアラ来たわね。」
今回乗る屋形船の前でアリサママが待っていた。
屋形船はもちろん貸し切りで、普段の乗船場所ではなくて人目が付きにくい場所を乗船場所にしていた。僕たちが集まっているだけで騒ぎになるからね。こういった気遣いのある手配はアリサママの得意とする所だった。
ちなみに今回の舞台の出演は星キアラなので、僕はもちろんキアラの恰好で激励会に参加する。
飲み会の幹事は意外なことにアリサママが引き受けた。 てっきり若手の劇団員さんあたりの仕事だと思っていたから少し意外だった。 アリサママ曰く、ここでは私たちが一番新参者なんだから当然だそうだ。
あのメンバーの中で権威は間違いなく巌のじっちゃんが一番だけど、権力的にはアリサママが一番のような気がするのだけど、驕らないでこういった事ができる所がスターズを上手く経営出来るコツなのかもしれない。
僕とアリサママは飲み会の幹事として当日の手配状態の確認や屋形船との事前の打ち合わせのために少し早く船を訪れている。 秘書とかマネージャに任せっきりという訳では無くて、幹事を引き受けた以上、現場に来て自分の目で打ち合わせや最終確認までしているのは流石だった。
「アリサママ、良さそうな屋形船ですわね。レトロだけど汚いってわけじゃなくて整備が行き届いているのがわかりますし、内装も品が良くて豪華ですわ。」
「こういった屋形船には有名人やVIP向けの接待プログラムがあるのよ。そういった事をちゃんと心得ている屋号ならいろいろ融通が利くわ。キアラも私の後を継ぐのであれば、こういった事をちゃんと学んでおきなさい。」
「アリサママ、わかりましたわ。」
「人数の確認、食材、周回コース、スケジュール等みんな問題なさそうですわね。スタッフさんたちも口が固そうな人たちですわね。」
「江戸時代から隅田川で商売をしている老舗よ。新参の業者じゃなければ、利用者のプライベートな情報を外に出さないような約束事があるのよ。ただ、経営者が変わって廃れていく屋号もあるから気をつけるのよ。そういった所は噂を聞いていればすぐにわかるわ。」
「料理人は流れの板前さんを使うのですね。」
「屋形船の料理人さんを使ってもいいのだけど、VIP用でも一般の屋形船の料理人を回すからやっぱり料理の質は一段落ちるわ。そもそもVIPならお抱えの料理人を手配する事も多いから屋号の方でそこまで腕のいい料理人は抱えていないわ。 こういう催しに招く用の板前さんが何人か居るから、その人に仕入れから料理までお願いした方が良いわね。屋形船の方もそう言った事が前提だから、必要に応じて一流の流れ板を呼べばいいのよ。」
「なるほど。料亭とかの板前さんとかに来てもらうのは駄目なんですの?」
「道具や環境が整った料亭と屋形船のような環境が整っていない所では勝手が違うわ。 料亭に頼む場合には料亭で調理された料理が来ることになるけど、その場合には時間が経って味が一段落ちるわ。 そこまでを考慮すると、ちゃんとこう言った臨時に設けられた調理場や、調理場が変わっても問題なく腕を振るえる板前さんにお願いした方が良いわ。 彼らは流れなので一カ所に留まっていないけど、常時東京には何人かはいるから声をかけることはできると思うわ。」
「わかりましたわ。でも普段劇団天球がやっている飲み会と比べるとだいぶ豪華ですわね。元々持ち出しはあるとは思っていたけれど、これは一人3千円では無理ですわね。」
「それは当然よ。少しでも費用を払うのが重要なのよ。タダよりも高い物はないからね。それに、この時期にホテルとかで開催して、記者とかパパラッチとかに紛れ込まれて会話を聞かれると面倒だわ。その点屋形船ならそもそも外部との接触も限られるし会話を聞かれる事も無いから便利なのよ。」
「流石はアリサママですわね。娘の私もいろいろ勉強になりますわ。」
「だから、あなたのような娘を生んだ記憶が無いんだけど、まぁ、かわいいからいいわ。」
「キアラの美貌はアリサママも思わず認知する美貌ですわ。」
「そうやってすぐに調子に乗る。」
「あ痛っ。」
アリサママは僕にチョップして来た。
「さて、そろそろみんな来る頃ね。キアラ、入り口に立って皆さんを船内にご案内しなさい。」
「はーい。」
「みなさーん。こちらですわ。」
「出たわね。星キアラ。 こんな裏路地から本当に屋形船が出るの?」
阿良也達と一緒に来た七生姉さんが言った。
「こちらにありますわ。」
「アリサさんとキアラが幹事をやってくれるって言うから期待していたんだけど、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ですわ。ビックリすると思いますわ。」
そうして、僕はVIP用の屋形船にみんなを案内した。
「うわー。すごくいい船ね。 船内もすごく綺麗だし、置物とかのセンスもすごくいいわね。 っていうか、内装がものすごく高くない? 普段私達が飲み会なんかをやっていた屋形船と全然違うんだけど。」
「屋形船は平安時代からありますけれども、「屋形」っていうのは公家や武家の館ですわ。つまり天皇家に近い貴族や、朝廷の上級官僚、大名や任官した武士の住まいを意味していて、今でもそう言った方々やVIPを接待するための老舗がありますの。アリサママ曰くそういった屋形船を手配したそうですわ。」
「いや、私達はそこまでVIPじゃないんだから、いくらなんでも気合を入れすぎよ。こんなの会費の三千円とかじゃ絶対に無理じゃない!! 普通の屋形船でも5~6千円は出すからちょっと出してくれるとは思っていたけど、これは持ち出しが過ぎるんじゃないの!?」
「舞台を控えた劇団天球の飲み会なんて、記者の恰好のネタですわ。 特に今回は変な所から秘密を洩らしたく無いですので、この屋形船であればセキュリティもばっちりですわ。」
「セキュリティーがオーバーキルな気がするけど・・・。」
「お安い金額でなかなか出来ない体験をするのですから、喜ぶべきですわ。さあさあ、部屋に入ってください。 中でアリサママも待っておりますわ。」
その後、巌のじっちゃんも来て、他のみんなを案内していると、最後に千世子ちゃんと千世子ちゃんのマネージャさんが来た。千世子ちゃんは直前までドラマの撮影だったのだ。
「こっちですわ。」
「キアラさん、本日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
千世子ちゃんのマネージャさんが僕に挨拶をした。
千世子ちゃんのマネージャさんはもちろん女性で、スターズの中でも百城千世子のマネージメントを任されるぐらいなので、もちろん選りすぐりの才女だ。
ちなみに僕のマネージャさんは屋形船で案内や接待をしてもらっている。僕の方は残念ながら男性だよ。
「アキラちゃん、キアラちゃんの恰好でもすごく目立つわよ。」
「薄暗いからこんな路地裏に星キアラが居るとは思いませんわ。 それに隠れていますけれど記者とか野次馬とのトラブル防止用にセキュリティーサービスも配置していますから、まぁ大丈夫でしょう。」
「その辺りの気遣いは流石はアリサさんね。」
「アリサさんはすでに中に居ますか?」
「はい。すでに中でスタンバイしています。」
「わかりました。それでは千世子ちゃん、行きましょう。」
「はい。」
ちなみに、スターズではマネージャはアリサママの事を社長では無くて、アリサさんと呼ぶように指導されている。これは社長とマネージャの間に肩書による溝を作らないようにすることと、アリサママ自身が社長と呼ばれると老けた気がするから嫌らしい。
僕的にはたぶん、後者の理由が大きいと思っている。 アリサママの片腕の主席秘書のスミスさん(清水さん)はそれでもアリサママの事を社長と呼ぶので、逆に剛の者と言えるだろう。
全員が揃ったので、屋形船は薄暗くなってきた隅田川を出航して、いよいよ劇団天球の激励会が始まるのであった。