星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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星アキラは巌裕次郎と語り合う

 

「巌のおじい様、お注ぎさせていただきますわ。」

 

「キアラ、ありがとう。 キアラのヴァイオリンと歌は本当に素晴らしかった。」

 

「巌のおじい様がわたくしを賞賛するなんて、逆になにやら危険な匂いがしますわ。何かを企んではいませんよね?」

 

「そんなに警戒するな。俺は演技の事にはうるさいが、すばらしい物には嘘をつかずに素晴らしいと言うぞ。」

 

「そう言う事であれば、素直に受け取っておきますわ。」

 

「おまえ、キアラになるとちょっとツンデレくさいな。」

 

「当然ですわ。ツンデレお嬢様は最高のステータスですわ。」

 

「それを匂い無しでやる、お前の役作りが俺は一番怖いわ。」

 

「そういえば、窓に凭(もた)れてを演奏した時に、懐かしんでいたようですが聞いた事がありましたの?」

 

「もちろんだな。俺は関種子のファンだったからな。」

 

「え゛っ」

 

「初めて見たのは、12歳の時に日比谷公会堂でフィガロの結婚を見た時だ。あの時のオペラでのスザンナを演じる関種子を見て、舞台に魅入られたんだ。」

 

「12歳と言えば、中学一年生ぐらいですか。ちょうど多感な時ですわね。」

 

「そうだな。そこで舞台に衝撃を受けて、関種子のファンになって彼女の舞台を見たり、レコードを買ったりしたな。」

 

「子供の頃に舞台を見に行けたなんて裕福な家庭でしたのね。」

 

「お前の家ほどじゃないが、東京で舞台を見たいと言えば見に行けるぐらいに裕福な家ではあった。家庭教師も付いていたしな。」

 

「確か、その家庭教師は立教大学の元総長・・・。」

 

「いや、当時は近所で下宿していた苦学生だったぞ。 もちろん成績はすごく良かったがな。」

 

「まぁ、そんなわけで勉強を頑張る傍ら、関種子の出演するオペラを観に行った訳だ。特に魔笛は素晴らしかったな。」

 

「ソプラノ歌手、関種子さんのオペラ、私も見たかったですわ。」

 

「そういう事もあって、関種子は俺が舞台に興味を持ったきっかけだった訳だ。」

 

「なるほど、そこから舞台に興味を持って今の演出家への道に繋がるのですね。」

 

「もっとも、今の舞台演出の仕事は東京芸術大学に落ちた後に、自暴自棄になって舞台を見に行ったらそこが気に入って、そのままなし崩し的に舞台に関わるようになったんだがな。」

 

「その舞台を見に行ったのも、関種子さんの舞台を見ていたご縁があってのこと。 今日ここで関種子さんの歌を歌った事に運命を感じますわ。」

 

「俺も演劇を志した昔の時代を思い出したよ。ありがとう。」

 

「そのお礼、素直に受け取っておきますわ。」

 

「しかし、キアラ、お前は俺の予想以上に化けたな。」

 

「そうですか? 舞台の上で匂いますか?」

 

「もちろんだ。子供の頃から非凡だったお前が感情の匂いを出したらすごいと思っていたが、予想以上だった。」

 

「わたくしが舞台の上で死者の腐った匂いを発していると思うと、非常に複雑ですわね。」

 

「いや、腐った匂いというか、蓮の花やユリの花のような匂いだな。 ちょうど仏壇に供えられている花を感じさせるんだが、輪廻転生というか、死と同時に未来も感じさせる不思議な匂いだった。」

 

「壮絶なネタバレ演技ですわね。」

 

「そうだ。 お前をカンパネルラに配役しなかった俺の目は正しかった。」

 

「それは傷つきますわね。私も俳優。助演も良いですけれども、たまには主役もやってみたかったですわ。」

 

「あの演技でカンパネルラをやられると、最初から死者であることがわかって、逆にジョバンニは何で気が付かないんだって観客が思うぐらいの演技だったから、青年に配役しておいて本当に良かった。 俺も、お前の本気の演技を見た時に肝が冷えた。」

 

「アニメの偽ヒーロぐらいの分かりやすさでしたからね。 阿良也と景ちゃんもわたくしが初めて演じた時は、私を見てギャン泣きしましたもんね。」

 

「生きている者は死を恐れる。 死は本能に刻まれた恐怖そのものだ。感覚が鋭いあの二人ならお前は死そのものか、もう死んでしまったと感じてもおかしくは無い。 人間は死ぬと言う体験ができない以上、死を演じられる者はこの世に居ないはずだった。 でもキアラ、お前の演技を見て俺はその認識を変えた。 お前は死者を演じられるこの世で一人の役者かもしれない。」

 

「この世で一人の役者は嬉しいのですが、それが死者を演じられるというのが、あまり演技の使い道が無さそうで嫌ですわね。 はまり役としては、ゴースト/ニューヨークの幻ぐらいでしょうか? ほとんどの映画は死んじゃったらお終いなので、使い道が無さそうですわ。ゾンビ物とも違いますし・・・。 そういえば、才能が無いって評価だった子供の頃に、唯一私を評価してくれたのは巌のおじい様だけでしたわね。アリサママですらも匙を投げてたのに。」

 

「アリサのあれはぶっ壊れていたから仕方がないが、感情が無いのに、感情がこもった演技を見せられる人間が才能が無い訳が無いだろう。 アリサは息子がぶっ壊れている事に気が付かないぐらい重症だったから、どうしょうも無かったが、ああなったのは全部俺のせいだからな、アキラは唯一、俺が救いたいと思った俳優だった。 ・・・もっとも思っただけで何もできなかったがな。」

 

「結果的にはなんとかなったのですから、良かったじゃないですか。 みんな丸く収まったのですから過去の事は水に流すべきですわ。」

 

「ああ、みんな揃って俺の舞台に出演してくれて本当に感謝している。 老い先短い俺に、こんな最高の舞台を演出するチャンスを与えてくれて、本当に俺は幸運な人間だ。」

 

「ちょっと、変な死亡フラグを立てるのは止めてくださいまし。 少なくともこの舞台が終わるまでは死なないでくださいね。 今満足して成仏しちゃって、ニュースになって、舞台の開演どころじゃなくなっちゃったら、みんなの努力が水の泡になってしまいますわ。」

 

「お前、意外にそう言うところは辛辣だよな。」

 

「とりあえず、この舞台が終わったら死んでもいいですわ。 その時には喪服を着て、レポーターの前でこの話をして、巌裕次郎は満足しながら死んで行きましたって、お涙頂戴全開の演技をしてみせますから、楽しみにしていてください。」

 

「その渾身の演技が見れない所は、残念だが、俺が死んだ時のお前の演技を楽しみにしているよ。」

 

「ちなみに、葬式に行くのは、アキラお兄様とわたくしのどちらが良いのでしょうか?」

 

そう言いながら、僕は長い会話で乾いたのどを潤すようにジュースを飲んだ。

 

「もちろん、キアラだ。 でもそれよりもダリアで来て欲しい。」

 

「ぶっ―――――――っ。」

 

僕は思いっきりジュースを吹き出した。

 

僕は急いで、裕次郎のじっちゃんを人気の無い外に連れ出して聞いた。

 

「だっ、ダリアって誰の事ですの!?」

 

「お前が普段放送している秋色ダリアの事だが。 キアラよりもすごく自然だし、放送も必ず見ているからな。俺もファンだぞ。 アキラのYoutube放送よりも落ち着いていてずっといいぞ。」

 

「ちょっと!! その話、誰から聞きましたの!?」

 

「いや、アキラがVTuberを始めた時に、Youtubeのお勧めに出て視聴したらすぐにわかったぞ。」

 

「まさか、劇団員の方もみんなダリアの事を知っていますの?」

 

「いや、劇団員で知っているのは、俺以外には阿良也ぐらいじゃねぇか? 七生も気が付いているかもしれんが。」

 

僕の脳裏に嫌な予感がよぎった。

 

「いつもコメントしているとかありませんよね?」

 

「ああ、冷奴ピースは俺のことだ。 好物の冷奴とタバコのピースをかけたハンドルネームだぞ。」

 

「ぎゃ―――っっっ! 常連さんが10人にも満たない頃から来てくれていた超古参リスナーじゃないですの!? あの8人ぐらいの常連さんのうち、3人が絵麻ママと夜凪ママ、巌のおじい様で、ほとんど知り合いと会話していたなんて、恥ずかしすぎますわ。 その上、みんなに秘密で放送してドキドキしていたと思っていたら、全員に正体バレバレとか最悪ですわ!!」

 

「まぁ、いいじゃねぇか。そんな細かいことは。」

 

「全然細かくありませんわ! マジで死活問題なんですの!!」

 

「そんな訳で、ダリ公の俺は、死ぬ前に自分の舞台に秋色ダリアを上げて演出したかったわけだ。」

 

「だから、そのファンネームは、ダリっ子の打ち間違いですわ! たった一度打ち間違えただけじゃないですか!? みんな聞かずに悪ノリして定着しちゃって・・・。 そしてそんな私欲満載でわたくしをキャストしたとか、巌裕次郎、幻滅しましたわ!!」

 

「そんな事を言っても、そんな理由でお前が配役されたなんて、公表できないだろ? 」

 

「当たり前ですわ!! 前半の話は、わたくしの素晴らしい演技が認められたとか言うイイハナシだったはずが、どうしてこんな事に!?」

 

「いや―――。秋色ダリアを選んだ俺の目に狂いは無かったわ。」

 

「狂いありまくりですわ!!!」

 

(キアラ)をキャストしたとんでもない真相に頭を抱えた僕の叫びが、銀河鉄道を模した屋形船の上にこだました。

 




ちなみに、巌裕次郎の秋色ダリアの視聴は、結構前の「星アキラはひっそりと生配信を始める」の回に伏線があるのですが、この時の感想でメタ読みで巌裕次郎じゃないかって感想を寄せていただいた方が居ました。正解です。
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