星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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黒山墨字は銀河鉄道の夜を観る2

 

銀河鉄道の夜の舞台は、ジョバンニとカムパネルラが授業を受けるシーンから始まる。

 

「では、みなさんはこの川のようであったり、乳の流れた後だと言われたりしていた、このぼんやりと白い物が本当は何なのかご存じですか?」

 

先生役の役者が生徒に質問する。たしか彼女は阿良也や七生達よりも一回り年上で、劇団天球の中でもリーダー的な役回りをする女優だ。

 

答えがわかっていながら、手を上げようかと戸惑う阿良也が演じるジョバンニ。 

 

「ジョバンニさん、あなたはわかっているみたいですね。」

 

先生がジョバンニを指名する。

 

「大きな望遠鏡で銀河をよく調べると銀河は何で出来ていますか?」

 

内向的なジョバンニは、星であることがわかっているにもかかわらず、答えを言えずに戸惑っていた。

 

「ふーむ。 ではカムパネルラさん。」

 

困った先生は、代わりにカムパネルラを指名する。

 

景が演じるカムパネルラは、ジョバンニを一瞥すると、意図して答えを言わずに黙ってジョバンニを立てようとする。

 

「それでは、このぼんやりとした白い銀河を望遠鏡で見ますと、沢山の小さな星に見えるのです。ジョバンニさん、そうでしょう?」

 

ジョバンニは頷いて、そのまま授業が続く。

 

「もしも、この天の川が本当の川だと考えるなら、その一つ一つの小さな星は、川の砂利や砂の粒に当たる訳です。 またこれを大きな乳の流れと考えるのであれば、星はみな乳の中に細かく浮かんでいる脂油の玉であるわけです。」

 

「それなら、その川の水は何かと言いますと、それは真空と言う光が伝わる空間で、太陽や地球もその中に浮かんでいるのです。つまり、私達も天の川の水の中に住んでいる生き物なのです。」

 

元々教師であった宮沢賢治特有の、科学と詩が混じったようなロマンチックな銀河の説明がなされていく。

 

日常でありながら、非日常。 銀河鉄道のきっかけであり、科学と文学が同居する、不思議な銀河鉄道の世界に観客が引き込まれていく。

 

雰囲気と言い、流れと言い見事な導入だ。 今でも沢山の人を惹きつける宮沢賢治特有の世界観や空気感が、舞台の上から流れてくる。

 

舞台の開幕で浮ついた観客を一気に引き込む演出と舞台俳優の演技は、さすがは有力者揃いの劇団天球と言える。

 

そして授業が終わるとみんな教室から出ていき、一人残ったジョバンニは独白する。阿良也は少年としてこの世界に生きるジョバンニの役を見事に演じ切っている。そしてそれは巌裕次郎が望んだ舞台俳優そのものの演技に見える。 細かい動作一つ一つに、多感な年頃のジョバンニとしての面影を見ることができる。この舞台を見ている観客は、彼がジョバンニであることを疑わないだろう。

 

「子供の頃、カムパネルラの家でカムパネルラと一緒に読んだ雑誌に書いてあった。 真っ黒なページ一杯に白い点々がある美しい星の写真を二人でいつまでも見たんだ。 ・・・カムパネルラが忘れる筈が無かったのに、僕が朝も午後も仕事がつらくて、学校を出てもみんなと遊ばなくなったので、気の毒がってわざと返事をしなかったんだ。僕もカムパネルラもなんて哀れなんだ。」

 

そこから活版所で働き、病気の母親の面倒を見て、生きているかわからない父親を待ち続けるジョバンニの厳しい生活が舞台に展開されていく。

 

ラッコの上着をジョバンニに持ってくることを約束したまま行方不明の父親。 そんな父親が居なくて生活が苦しいジョバンニを、ザネリを初めとしたいじめっ子達が虐めてくる。

 

母親のために、自分の時間を犠牲にして日々働くジョバンニ。今日もケンタウル祭の日にもかかわらず、母のために牛乳を取りに行ったジョバンニは、川に行くザネリ達とばったり出くわしてしまう。そしてジョバンニに絡むザネリ。

 

「ジョバンニ! ラッコの上着が来るよ!」「「「来るよ! 来るよ!」」」

 

寄ってたかってジョバンニを虐めるザネリ達、そんなジョバンニを気の毒そうに見るカムパネルラ。そんなカムパネルラの視線に耐えられなくなったジョバンニは、走り出して天気輪の柱がある丘の上まで逃げてくる。

 

そして丘の上で草に倒れこみながら、麓を走る列車の光を見る。

 

天気輪の柱と丘の上から見える汽車や星々は、さっきまでの舞台セットとは打って変わって、昔ながらの影絵だ。

 

ただの白黒の丘と輪がある塔。 そして光だけが見える汽車。

 

だが、シンプルだからこそ、空間の奥行きを感じて、観客は阿良也の演技に全集中していた。

 

「あの汽車の中では沢山の旅人が、リンゴを剥いたり笑ったりして楽しく過ごしているのだろうか。」

 

阿良也のリアルな演技によって、観客の目にはそれぞれがイメージする天気輪の柱と丘が見えている。丘の上で寝転んで頬に当たる風や、寝転んだ時に匂ってくる草の匂い、そして薄暗い中で遠くに見える汽車。そんな誰にでも1度はある体験を思い出させる。

 

「あの白い帯がみんな星だと言うぞ。 昼に先生が言っていたようながらんとした冷たい所だとは思えないな。 まるで小さな林や牧場がある野原のようだ。」

 

仰向けになって空を見たジョバンニはそこから突如、煙と光に包まれて第一幕が終了した。

 

観客は巌裕次郎が演出した銀河鉄道の世界に没入しており、これからの物語に期待を持たせる展開だ。 第一幕が終わって、周りの観客も、期待外れだったとか、もっと○○だと思っていたみたいな否定的な感想を述べる人も居ない。

 

ミーハーで今回チケットを取って、普段舞台を見ていない人達も多いだろうに、そう言った声が聞こえてこない所を見ると、導入としては満点だろう。

 

第一部では、景の演ずるカムパネルラは一言もしゃべらなかった。 しかし、カムパネルラという人間の優しさや性格が仕草だけでクリアに伝わってきた。 夜凪景はこの舞台で間違いなく表現の技術を進化させている。 

 

そしてそんなジョバンニとカムパネルラがいよいよ一緒に銀河鉄道で旅をする第二幕がもうすぐ始まろうとしていた。

 

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