星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
野次馬の整理を進めると、続いて中庭での撮影に移った。 ボディガードさん達はそのまま野次馬の整理をしている。
もっとも、僕達も野次馬なんだけれどもね。 そんな撮影風景を眺めていると千世子ちゃんが声をかけてきた。
「みんな楽しそうね。 こんなに楽しそうに友達と撮影するなんてちょっとカルチャーショックだわ。」
「そうだね。 僕達の撮影はみんな映画やドラマが好きな人達とは言っても、それを糧にお金を稼いでいる人達との撮影だったから、現場ではプロ同士でお互いに厳しい仕事をするのが当たり前だものね。 こんなふうに友達とワイワイやりながら映画を撮るのを観るのは初めてだね。」
「みんなでオズの魔法使いのコスプレをした時や、いちごちゃんの自主製作映画が似たシチュエーションだけど、あれもちゃんと撮影されるって感じで演じたから、こんなふうに映画を撮る事自体が目的として友達と楽しむ発想が無かったわ。」
「みんなに撮影されている景は、ちゃんと普段の景を演じられているな。」
「普段の自分を演じるとか、意味不明にもほどがあるけど、阿良也の言わんとしている事は分かるよ。 景ちゃんは普段の自分だけれども、ちゃんとカメラに映るように演技しているね。 だから自然だけれども、一緒に映っている友達よりもはるかにカメラ映りが良くて存在感がある。 自然な高校生活にありながら、その雰囲気をそのままに魅せる演技を行っているね。」
そんな感じで、野次馬からちょっと離れた所で僕達は景ちゃんの撮影風景を見学していた。 高校の友達と一緒に撮影する景ちゃんは、すごく楽しそうだ。 彼女は演じるのが好きだけれども、友達とこういう時間を共有すると言うのもまた大切な経験なのだろう。
中庭の撮影が終わると、教室内での撮影となって、野次馬をシャットアウトして、景ちゃんのクラスメートと話す機会が出来た。
「アキラさん、ありがとうございます。 お蔭様で無事に外の撮影をする事ができましたっ。」
「無事に撮影できたみたいで良かったよ。メンバーを紹介してくれるかな?」
「はいっ。こちらが映画研究部の部長さんの吉岡新太さんです。」
「アキラさん、初めまして!! アキラさんはヴイ・リッチー系、アニー・ボイル風、マイケル・カイ派、クリス・ノーランタ主義、アキラさんはどの辺ですか!?」
「おおぅ。」
「吉岡、アキラ君に食って掛かって、めっちゃウケるw」
吉岡君の映画オタク特有の食いつきに僕はちょっと押された。 ここで挙げられた映画監督たちは知り合いも多いので、それでどう答えようか考える。
「うーん。その映画監督さん達の中で、3人ほど映画に出演させていただいた事があるけれども、まず一番楽なのがマイケル・カイ監督かな。 とりあえず爆破してハイになっていればOKだからね。 爆薬の量が増えるような演技をするととても喜ばれるよ。」
「何よ、爆薬の量が増える演技って・・・・。」
千世子ちゃんがツッコミを入れる。
「映画の撮影が楽しいのが、ヴイ・リッチー監督かな。 イギリス人でウィットに富んでいるけれども、撮影現場では活気があって、みんなノリが良くて楽しく撮影できるね。」
「逆にクリス・ノーランタ監督の撮影はつらいかな。」
「えっ、でもクリス監督の映画にはすでに2本ほど出演されていますよね。」
「良く知っているね。 彼は緻密で深く入り込む役者が大好きなんだよ。 だから彼の元にはそう言う役者が集まる。 で、彼らの演技のバランサーと映画の温度調整として僕が呼ばれる訳さ・・・。 他の俳優さんに、本当に殺されるんじゃないのかみたいなシーンを何度も撮ったよ・・・。」
「お気に入りで呼んでもらえるだけ良いじゃない。 それにアキラちゃんもそんな撮影が大好きなくせに。」
「千世子ちゃん、僕の事を良く分かっているよね。 僕は何気にメソッド演技の人との相性が良いみたいで、いろんな監督さんに使っていただいているね。」
「なので、逆にリアリティーのあるドキュメンタリーを好むアニー・ボイル監督と僕は相性が悪い可能性があって、アニー・ボイル監督の映画に呼ばれた事は無いね。」
「なるほど。そんな理由があるんですね。」
「どちらにせよ、僕達役者は監督によって好き嫌いをするのでは無くて、役をもらったら、なるべく素晴らしく演じるだけさ。 だから、どの監督の派閥とかナンセンスだね。 そんな派閥に属しちゃうとお仕事が限られちゃうじゃない。 キャリアの若い役者であれば特に、えり好みをせずにどんな監督のどんな役でも積極的にチャレンジするべきだよ。」
「アキラ、良い事言った。 アキラって10日に1回ぐらいは良い事を言うよな。」
「やかましいわ。 阿良也のインタビューなんて異次元すぎて、365日に1回も良い事を言わないじゃないか。」
「そんな事無いぞ! 演技ではちゃんと良い事言っているぞ!」
「演技のセリフじゃないか! 台本に書いてあるんだから当たり前だろ。」
「あっあのっ。」
僕と阿良也がじゃれ合っていると、吉岡君は焦ったみたいだ。
「ああ、ごめんごめん。そんな訳で、僕はよほどのことが無ければどっかの監督に入れ込むなんて事は無いから、覚えておいてね。」
「はい。判りました。 変な事を聞いちゃってごめんなさい。 ありがとうございます!」
「おおっ。 吉岡君は情熱だけで前が見えない映画オタクかと思ったら、わりとしっかりしているじゃないか!」
「アキラさん、本音が駄々洩れですよ・・・。」
「あっ、あのっ、アキラ君、ファンなんです。」
「あっ、同じ映像研究部の朝陽ひなちゃんです。 アキラさんのファンなんですよ。」
「えっ、僕のファン!? 大体こういうパターンだと、千世子ちゃんや景ちゃんのオマケとして扱われるから、僕のファンが居るなんてすごく嬉しいよ!」
「あっ、あのっ、サインもらえませんか?」
「ひながひよっていてウケるw。 あっ、私は千世子ちゃんのファンなんです!」
「僕は、阿良也さんのファンなんです。握手してもらえ間ませんか?」
「あっ、私もっ」
「私も。」
僕達は景ちゃんのクラスの子達と交流した。 ひとしきりみんなと交流した後に景ちゃんに聞いた。
「そう言えば、この文化祭って当日の入場はどうなっているの?」
「家族とか来年受験したい人なんかにチケットを配る感じですね。」
「なるほど。」
「もちろん、家族の他に、アキラさんや千世子ちゃんや阿良也さんにもチケットをあげますよ。」
「ありがとう景ちゃん。」
一般人の入場とかは無さそうだけど、映画を撮っているのは近所で話題になっていそうだし、当日はちょっと騒ぎになりそうだね。 これはちょっと対策が必要になるかもしれない。 景ちゃんは映画以外には何をやるんだろう?
「映像研究部では映画を撮っているけれども、景ちゃんのクラスでも別に出し物をするんだよね。 何をするの?」
「今年はお化け屋敷をするんですっ。 私もお化けの役で出演するのでとても楽しみなんですっ!」
「「うわぁ・・・。」」
あまりの展開に、僕と千世子ちゃんが同時にハモった。 阿良也は事態を飲み込めずに頭にクエスチョンマークを付けて首を傾げている。
「景ちゃん、あんまり頑張ってお化けをやって、心臓発作とかを起こさせないようにね。」
「そうよ。死人とか出ちゃうと文化祭どころじゃなくなっちゃうわ。」
僕と千世子ちゃんはドン引きしながら景ちゃんにアドバイスを送る。
景ちゃんとクラスの人間は僕達が言っている意味が分からないようで、阿良也と同じく頭にクエスチョンマークを付けて首を傾げている。 みんな同時に首を傾げるとなんかかわいい。
クラスメート達は、普段テレビや映画で見ていたとしても、景ちゃんのあの演技はテレビの中の話だと思っているんだろう。 普段教室に居て一緒に勉強している景ちゃんがリアルに演技をした時の恐ろしさなんて、想像が付かないのかもしれない。
おそらく、このクラスメート達はみんな思い知る事になりそうだ。 準備万全でモチベーション全開の夜凪景が演じるお化けがどう言う物かを。 当日のお化け屋敷は、文化祭の歴史に残るような阿鼻叫喚の地獄とならないように僕は祈った。