星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
「やきそば美味いな。」
「「チョコバナナ美味しい!」」
学校の中に入ると阿良也と双子たちは校庭で良い匂いのする出店にさっそく捕まっていた。 もっとも、こういう事態を見越してお昼は食べてこなかったので仕方がない事だった。
阿良也達の気持ちは解る。 こういう出店。 特に学園祭の学生の手作りの味なんかだと、特別感で余計に美味しく感じるものだ。 まずは席を確保して僕もアメリカンドッグを買いに行った。
一応僕達は伊達眼鏡を掛けたりして変装しているけれども、周りの人達は僕達の正体に気が付き始めているようだ。 まぁ、本気で変装しようとしていないからね。 千世子ちゃんはどんな変装をしても美人すぎるから隠せないんだ。
本当に目立ちたくない場合には、マスクとサングラスだろうけど、学校内でそれをやったら完全に変質者だ。 景ちゃんに会いに行った時点でバレるのは分かっているから、どちらかというと、OFFで遊びに来たのでそっとしておいてね。って感じの変装だ。 周りの人達もある程度察してくれているようで、話しかけないように気を使ってくれている。
アメリカンドッグを買うと、売り子の子が気が付いたようで、キャ~って声と共に裏側に行ってしまった。 今頃、友達と盛り上がっている事だろう。
僕はアメリカンドッグを買って、店先で容器に入ったケチャップとマスタードをドバドバにかけて席に戻ると、アメリカンドッグにかぶりつく。
甘くて謎の油が染み出すジューシーなアメリカンドッグの衣に、パサパサのチープな魚肉ソーセージの味。 そしてその甘さをアクセントに引き立つトマトケチャップとマスタードの塩味と酸味。
うーん。 ジャンクフード。
体に悪い感じがして、その背徳感と合わさって最高に美味しいね。 文化祭の環境ならなおさら美味しい。
ちなみに、このアメリカンドッグ、当然アメリカでこの名前で呼ばれている訳じゃ無くて和製英語で、海外ではコーンミールの生地を使っているから、コーン・ドッグって名前で呼ばれているね。
そんな事を思いながら、アメリカンドッグをもぎゅもぎゅと食べていると、阿良也が僕をじ~と見ていた。
「それも美味そうだな。」
「食べる?」
そう言って、阿良也にアメリカンドッグを差し出すと、阿良也がパクっとアメリカンドッグに食いついて嚙みちぎる。 僕達を伺っていた周りから「キャ~❤」って声がする。
ええ~っ。 周りの女子はどんな妄想をしたのですかね。 いや、こんな事をやっているから阿良也と噂になって、普通の女子が僕を避けて彼女ができないのだろうか?
そんな考えをしていると、目の前で千世子ちゃんがフライドポテトを食べていた。 でも油がくどいらしく、あまり食が進んでいないようだ。
「千世子ちゃん、フライドポテトちょうだい!」
「いいわよ。」
そう言って、千世子ちゃんの持っているフライドポテトの袋に手を入れて、一つまみ取ってパクっと食べる。また、「キャ~❤」とか、「かわいい」って声がする。
うーむ。
僕は試しに、フライドポテトを宙に放り投げて口でキャッチしてみた。
「キャ~❤」「かわいい。」
うん。 なんでもいいみたいだな。
女子高生のかわいいとかキャ~とかは意味不明だからな。 普通に何でもかわいいって言うし、しまいにはゾンビとかグロイシーンにもかわいいとか使い始めるし。女の子の言葉の使い方もかなり謎だよね。
「千世子ちゃんは、女子高生のかわいいとか、キャ~❤とかわかる?」
「あれは感性で使っているのよ。 英語圏のfu〇kと一緒よ。」
「アキラお兄ちゃんこれ食べる?」
「うん。 パクッ。 おおっ! This crepe is fu〇king tasty! (このクレープなにこれ!? やべぇめっちゃうめぇ!)」
「うん。なんとなく理解が進んだ。とりあえずなんかかわいいって出ちゃう感じなんだね。」
「そうよ。 直感的な印象が大切なのよ。 だから、寄生虫もかわいいの。 アキラちゃんもかわいい寄生虫に寄生されてみない? かわいさが増すと思うわよ。 まずは初心者向けのサナダムシとかお勧めなんだけど。」
「やっぱり僕には、女の子のかわいいは奥深すぎて理解できそうにないよ。」
そんな感じでみんなで食事を終えると、さっそく景ちゃんのクラスに行ってみた。 クラスの前では、パンダの着ぐるみがお化け屋敷の案内をしている。
みんなでお化け屋敷の列に並ぶと、その着ぐるみパンダが僕達に話しかけてきた。 どこかで聞いた声がする。
「アキラさん、アキラさん、クラスのみんなが酷いんですよっ!」
「その声は景ちゃん?」
「そうですっ。」
パンダはそう言うと、着ぐるみの頭部をズボッと脱いで中から景ちゃんが顔を出した。
「今日はお化けの役じゃなかったの? まぁ、なんとなく想像はつくけど・・・。」
「みんな、私のお化けが怖すぎるって言って、お客さんが気絶しちゃうからって、お化けの役を降板させられて、パンダの着ぐるみで列の整理をさせられているんですっ。」
「でしょうね。」
「あんなにみんなを驚かせたのに、何がいけなかったんでしょうか・・・。」
「やりすぎだと思うわ。」
誰でも予想出来る答えを千世子ちゃんが言った。
「もうちょっと調整できなかったの?」
「私、演技する時には役に入り込むので、お化けの演技中は現世の人への恨みでいっぱいで・・・。」
「恰好をもっとライトな感じにしたらどう? かわいいお化けって感じならいいんじゃないの?」
雪ねぇちゃんがまともなアドバイスをする。 雰囲気で怖いのであれば、かわいい格好で紛らわせればよい・・・のだけど・・・・。
「テレビ局のレポーターさんが腰を抜かした後に、クラスの子達に強引にこのパンダの着ぐるみを着せられて、それでもがんばってお化けの役をやって、お客さんには好評だったのですが・・・。」
「夜凪さん、あれは好評じゃ無いよ。 お化け屋敷だからって驚いたら好評とか勘違いしちゃだめだよ。」
お化け屋敷の中から同じクラスの吉岡君が出てきた。
「パンダの着ぐるみを着てもダメだったの?」
「お化け屋敷の中で、おおよそ人間とは思えないような不気味な着ぐるみが急に駆け寄って来て、形だけはかわいい着ぐるみの中から、血みどろの女が顔を出すとか、一緒に居たクラスの人間でさえトラウマものでした・・・。」
「「「「「「うわぁ・・・。」」」」」」」
景ちゃんの奇行に双子を含めてみんなドン引きである。
「それは、お化けの役を降板させられるよね。」
「私には演技しかないのに・・・。」
「そのセリフはもっとシリアスなシーンで聞きたかった。」
納得の理由である。 そしてやる事が無くなった景ちゃんは、お化け屋敷の入り口で整理員の仕事をやらされている訳だ。
でもこの話を聞いて、僕の心にいたずら心が芽生えた。
「ねえ? みんなで勝負しない?」
「アキラちゃん、突然何を言い出すの?」
「一人ずつこの着ぐるみを着て、誰が一番お客さんを驚かせるかって勝負。 あくまでパンダの着ぐるみだけで、頭や体なんかを着ぐるみからキャストオフするのは反則と言う事で。」
「面白そうじゃん。」
阿良也が乗ってきた。
「是非やりましょうっ! 私も汚名挽回してみせますっ!」
景ちゃん、汚名を挽回しちゃダメだと思うんだけど・・・。たぶん、文字通り汚名を返上せずに挽回するだろうなぁ・・・。
「面白そうね。」
千世子ちゃんもやる気だ。
そんな訳で、まず最初に雪ねぇちゃんが一般人一号として、パンダの着ぐるみを着たままお化けをやって、全く驚かれずにバカにされて生き恥を晒す事を確認した後、僕達の勝負が始まった。
「アキラ君、無茶ぶりも大概にして・・・。」
生き恥を晒した雪ねぇちゃんは、着ぐるみの頭を取って、_| ̄|○ ガクッ・・・となっていた。
次はホームである景ちゃん。 パンダの着ぐるみを着たまま、現世への憎しみを表現してみせる。 まさしく王道。 これは怖い。 背筋が凍る。 ファンシーなパンダからこんな気配がするとか怖すぎる。 「キャ―――――――――――!!!!」というとんでもない音量の悲鳴が教室から響く。 リアル恐怖パンダ。 流石は景ちゃん。 パンダの着ぐるみを着たまま、演技のリアルさで勢いをつけて飛び蹴りしてきたね。
その後は言い出しっぺの僕が、死の演技で恐怖のパンダ男を演じると、お客さんからものすごい悲鳴が教室中に響く。 死んだ着ぐるみパンダが動いているとか、恐怖そのものだろう。
「死の演技はずっけえぞ! アキラ。」
阿良也は文句を言う。
続いて、千世子ちゃんがお客さんの意識の外から突然襲い掛かると、これまたとんでもない悲鳴が教室に響きまくる。
今の所、景ちゃん、僕、千世子ちゃんで互角だ。 というか、自分から言い出していてなんだけど、みんなそれぞれ個性が出ているけれども、お客さんの反応に上限があるっぽくて、みんな驚いて、ものすごい悲鳴を出すので、どれが一番怖いとか順位が付けられない。 最後の阿良也も一緒だろう。
--------------------------------------------------------------
・・・・そんなふうに考えていた時期が僕にもありました・・・・。
--------------------------------------------------------------
阿良也がパンダの着ぐるみを着て演じると、超気持ち悪い、名状しがたき異形のパンダ着ぐるみが降臨していた。 まさにコズミックホラーだった。 這い寄る恐怖にお客さんは悲鳴すら上げられずに固まっている。 立ったまま気絶しているかもしれない。
「これは不気味ね。 とてもかわいいわ。」
「こんな所で、かわいい感性が出てくるとは、千世子ちゃん恐るべし。 僕は夜中に一人でトイレに行けないかもしれないよ・・・。」
「私、今日は実家に泊りますっ。」
阿良也の演技を見ながら景ちゃんが言った。
「やだっ、景ちゃん、それじゃマンションに私一人になっちゃうじゃないの!」
「雪さんも一緒に私の実家に泊りましょうよ。」
「そうする!」
「阿良也君ってやっぱり演技させると上手いわね。」
「夜凪ママ、この大惨事の中、阿良也の演技を堪能しないで! 双子も夜凪ママの後ろで怯えているじゃない!!」
こんな会話の間も、恐怖のパンダ着ぐるみは、床を液体やゾンビのようで、なおかつ軟体動物みたいな形容しがたい不気味な動きで、さらに想像以上の速度でにゅるんにゅるんと縦横無尽に教室を動き回っている。
阿良也の演技で教室は大混乱に陥った。
「私が間違っていましたっ。 お化け屋敷ってお客さんを驚かせればいいって思っていましたが、限度があったんですね。」
「うん。景ちゃんがそれを学べただけでも、収穫があったよ。」
僕達は混乱する教室を尻目に、名状しがたき不定形の宇宙生物として、床でうねうねと蠢いている邪神パンダを生暖かく見つめながら言葉を交わした。