星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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イカ娘撮影前のお話です。


新名夏と木梨かんなは演じる1

 

-------------新名夏視点-------------

 

「は~~~~~っ。」

 

アイドルを半ばクビになって、強引に卒業させられた私は、深いため息と共に、行きつけの喫茶店のカウンターでうな垂れていた。

 

私は総選挙で3位という、トップアイドルと言って良い順位ながら、17歳というどう見ても卒業には早い年齢でアイドルを卒業させられたのには訳があった。

 

普通、アイドルの卒業は20歳を過ぎた頃で、アイドルグループでの年齢差と、アイドルでの知名度を元に、単独での仕事を入れたい事務所側の要望がマッチして、ある程度円満に卒業するものだ。 今回の、17歳という年齢での卒業は実際、私の望んだ卒業では無かった。

 

直接的な原因は、博多での大規模なコンサートの前日に、父親が心筋梗塞で倒れた事だった。 もちろん、私は前日に東京にとんぼ返りをして、父親の手術が無事に終わったのを見届けて、翌日、また博多に戻る予定であった。 台風が急に本州側に進路を変えなければ、これで問題なく、コンサートに出られるはずだった・・・。

 

翌日、飛行機は欠航し、東海道新幹線も運休。 結果、私は大切なコンサートに遅刻する事となってしまった。

 

コンサートに出られなかった理由は、仕方がない面もあって、ファン達は納得してくれたんだけれども、私はチームのセンターと言う事もあって、この件にプロデューサーさんが激怒する事になってしまった。

 

もちろん、プロデューサーさんも理不尽に怒っている訳では無い。 父親のお見舞いに駆けつけるのは仕方がないにしても、前日の最終便で博多に戻れたはず。 当日での移動だと、チームのリハーサルをすっぽかす事になる。 それに気象庁が台風の進路予測を誤ったとは言っても、ある程度、交通の便に影響が出る事は、前日から予測できたはずだ。というのである。

 

全くもってその通りであった。 なるべく多くの時間父親の側に居たいという思いから、翌日の移動を選択したけれども、最年少ながら、チームのセンターに抜擢してくれたプロデューサーさんの期待を裏切る行動でもあった。 結局、私はセンターとしての自覚と責任感が足りなかったのだ。

 

これぐらいなら、まだ卒業という事にはならないと思うんだけど、この後、立て続けにこのアイドルグループの子達のスキャンダルが持ち上がってしまった。

 

その結果、アイドルグループのメンバーの入れ替えを考えざるをえなくなり、その入れ替えの目玉として私がやり玉に挙がってしまったのだ。

 

それを聞いた時、私は事態を理解できなかった。 ちょっとプロデューサーを怒らせたとは言っても、総選挙で3位である。 確かに、あのアイドルをするために生まれてきたような、化け物染みた1位と2位の子に敵わないとしても、持ち前の努力と根性で順位を上げて来たのに!

 

私は、この事態を全く飲み込めなかったが、マネージャーさんや事務所の社長さんの話を聞いてある程度、理解せざるをえなかった。(納得できるかは全くの別問題だけど。)

 

誤解を恐れずに言うと、アイドルグループとは、ある意味、猿山であり、プロデューサーさんは猿山のボスとして絶対的な権力を持っている。 プロデューサーさんとして、アイドル達に舐められないようにするためには、権力を見せつける必要があって、その権力の振り下ろし先に私が居たのだ。

 

「総選挙3位の新名夏であっても、プロデューサーさんの不評を買えばアイドルグループから追い出される。」

 

グループに所属していた子達は、さぞ肝が冷えた事だろう。 プロデューサーさんにとって大切だったのは、スキャンダルを起こした子を排除する事ではなくて、グループ全体の風紀を引き締めて、同じことが起こらないように予防することだった。 そして、その目論見は非常に上手く行ったようだ。

 

私はこの時に絶妙な位置に居てしまったのだ。

 

こうして、アイドルグループの立て直しに成功した敏腕プロデューサーさんだけれども、こう言う事情でグループを離れなければいけなくなった私の立場は悲惨だった。

 

不意の卒業、そして、グループの風紀を引き締める意味で、プロデューサーさん的には、卒業した私がすぐに成功してもらっては困るのだ。

 

結果、プロデューサーさんの意向で、私は卒業後に事務所から仕事を紹介してもらえる事も無くなった。 プロデューサーさんとの関係を重視する事務所から、やんわりと契約解除を勧められているぐらいである。 そして、同じ事務所の別の子を私の代わりにセンターに抜擢していた。

 

女優としての道を歩みたいという、表向きの卒業の理由はあったけれども、スキャンダルを起こした子との同時期の卒業ともなれば、ファン達にも、私も何か問題があって、急遽卒業する事になったって勘ぐられる事になる。

 

この疑いを晴らすためには、すぐに仕事をもらって元気な所を見せなければいけないのだけれど、まるでその疑いを肯定するがごとく、私は開店休業状態で、喫茶店のカウンターでうな垂れているのだ。

 

同い年の千世子ちゃんに憧れて、女優を目指して芸能事務所に入ったら、なぜかアイドルグループに所属して、結果を出せたと思ったら、そこからの転落劇。 もちろん、アイドルになっても女優になる夢は捨てておらず、人一倍、演技のレッスンには取り組んでいた。 でも、そのレッスンもこのままだと無駄になりそうである。

 

このまま仕事が無くなり、私はなし崩し的に芸能界から引退して行くのだ。 一瞬でも、チームのセンターとなって、総選挙で3位に輝けただけでも、私の芸能生活は恵まれていたのかもしれない。

 

「は~~~~~っ。 私の将来、お先真っ暗。」

 

私はカウンターでうつ伏せになりながら、ため息と共に独り言をつぶやいた。

 

「そうね。 アイドルグループを理不尽に追い出されて、さらにお仕事が無いんじゃ、せっかくアイドルから女優に転身したのに、何も残せずに引退でしょうね。 あっ、コーヒーもらえますか? ブラックで。」

 

突然、カウンターの左の席から声が上がって、私はびっくりして、がばっと起き上がって左を見た。 すると、目の前には私が女優を目指す動機となった百城千世子ちゃんが居た。

 

「あっ、えっ?」

 

今まで左右の席に全く気配が無かった。 なのに突然左の席に、千世子ちゃんが居た。

 

「なっ、何これ!? ドッキリ!? カメラ回っているの!?」

 

私は混乱しながら、数年の芸能生活の間に獲得した、芸能人らしいリアクションを見せる。

 

「うん。 夏っちゃんに、やる気と才能が無いなら、このまま引退も仕方が無いんだけれども、両方揃っているのに、理不尽に引退は勿体ないよね。 ねぇ、僕と契約して魔法少女(イカ娘)になってよ。 あっ、僕にはホットミルクをください。砂糖も入れてね。」

 

私の右の席から、聞いた事がある有名人の声が聞こえた。 私はギギギギギギギと、油が切れた機械のように力みながら首を右側の席に向けた。

 

「やっほー~♪ 夏っちゃん。 アイドル卒業のショックで元気が無いようで何よりだよ♬」

 

右の席には、芸能界で世代のトップをひた走る天才俳優、星アキラが座っていた。

 

「ひぇっ!!!! キャッ!! もごもごもご!!!!!」

 

私が悲鳴を上げようとすると、アキラ君が素早くテーブルの上のお手拭きタオルで私の口を塞いで悲鳴が出ないようにした。

 

「うーん。 劇的な登場を演出してみたけれども、夏っちゃんには刺激が強かったみたいだね。」

 

「アキラちゃん、手を放してあげないと夏っちゃんの呼吸ができなくて死んじゃうわよ?」

 

「あっ、そうだね。」

 

そうして、お手拭きタオルを外されると、私は倒れなかったけれども、ショックと酸素不足できゅ~っって目を回す事になってしまった。

 

「おおっ、このオーバーリアクション! これこそ僕が求めていたリアクションだよ!」

 

「アキラちゃん、これはオーバーリアクションじゃなくて、素のリアクションよ。」

 

「ますます素晴らしいね。」

 

私は目を回している間、そんな幻聴を聞いた気がした。

 

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