星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
-------------木梨かんな視点-------------
家族会議の内容はとんでもない物だった。 私がアキラ君が監督する映画の主演!? どうして私なんかが・・・。
「何かの間違いじゃないんですか!? 」
「いや、間違いで僕達が直接スカウトに来るわけが無いじゃないか。 面識もあるんだし。」
「でも、私、デスアイランドの撮影で景ちゃんに全然敵わないってわかったんです。 私には、クラスメイトが殺されたシーンでゲロを吐く事もできませんでしたし、和歌月さんに追いかけられて逃げるために本当に崖から飛び降りる事もできませんでした。 私にはあそこまでの演技は無理なんです。 才能の違いを思い知らされました。」
「そりゃ、景ちゃんには勝てないだろうね。 演技で景ちゃんに勝てる逸材なんて、今後数十年、下手したら一生出てこないだろうしね。 もっとも、最初の比較対象が景ちゃんだったのは、悲劇だね。 そりゃ、いきなり、努力をしている本物の天才なんて見て、自分と比較したら心が折れるよね。 でもあの景ちゃんの奇行は、真似しなくていいと思うよ・・・。 あんなのが映画撮影の標準になったら、僕は俳優を辞めているよ。」
「大体、どうして私なんですか? 私なんてデスアイランドでは、景ちゃんの陰に隠れて中盤で和歌月さんに切られて退場しちゃいましたし、映画でも特別な印象も無くて、一緒に出演していたってだけの無難な感じで終っちゃいましたので、私に才能なんて・・・。」
「才能? 才能という意味だと、オーディション組の中では、景ちゃんを除いて一番だったよ。 あの景ちゃんの横で無難な感じに終われた事自体が凄い事だよ。 あの映画では、景ちゃんと湯島茜ちゃんと一緒にトリオを組んでいた訳だけど、知ってる? 湯島さんってかんなちゃんの3つ年上だけど、高校を中退して、ずっとアルバイトをしながら芸能事務所に通って、女優を目指していたんだよ。 彼女はどれだけの時間を女優になるために捧げたと思う? 子役の頃からずっとレッスンを頑張っていた景ちゃんも一緒さ。 みんな芸能事務所に所属して、俳優の養成所なんかでレッスンを受けて、子役や子供の頃から俳優になるためにものすごい努力と、沢山の時間を犠牲にしてきたのさ。 僕や千世子ちゃんも一緒だよ。」
「対してかんなちゃんはどう? 1年で入った高校の演劇部でちょっと演劇の練習をして、高校に入学したばかりの友達と一緒にすぐにオーディションを受けて、見事にオーディションに合格。 練習も学校の先生や自分で調べた演劇の本での独学。 映画での撮影ももちろん初めて。 それで景ちゃんや茜ちゃんの横で素人臭く目立つことも無く、
「私に才能があるのでしょうか?」
「うん。1年に1人ぐらいの逸材だね。 ポテンシャルは凄いけれども、ポテンシャルにあぐらをかいていると、すぐに後輩に追い越されちゃう。 それぐらいの才能だね。すでに分かっていると思うけれども、演技で正面から景ちゃんに勝てるほどの才能はたぶん無いよ。 でもその年で最高の女優ぐらいにはなれる可能性はある。 かんなちゃんは、景ちゃんの1コ下だから、景ちゃんの次の年でトップを取れる才能はある。」
「でもやっぱり、私には映画の主演なんて無理です。 あの時はオーディションに受かって、浮かれ気分でしたけれども、今は普通の高校生に戻っていますし・・・。」
「本当に普通の高校生に戻っているの? 映画の撮影の時にあなたは気が付いたんじゃないの? 自分の中に居る演技を渇望するもう一人の自分に。 だから、もう高校の演劇部でなんて満足できないで、帰宅部になって燻っているのよね?」
今まで黙っていた千世子ちゃんが私を見ながら言う。
「どうしてそれを・・・。」
私は、千世子ちゃんに心の内を正確に見抜かれて動揺していた。
「今だってそう。 表面上は渋っておきながら、心の中のもう一人の自分は、演技の機会が得られた事に、赤子のように歓喜しているでしょう? あなたの瞳孔の奥からその心が透けて見えるわ。」
そう言って、千世子ちゃんは野性の獣のような目で私の瞳の奥をじっと見据えた。 千世子ちゃんの言う事は正しくて、私は千世子ちゃんに心臓を直接掴まれたような圧迫感を覚えた。
どうすればいいの!? 心の中ではやってみたい。 でも主演なんて怖い。
私は人生の選択に迷って、正直に自分の心を告白することにした。
「・・・・・やってみたいです。 でも、私は普通の高校生で、デスアイランドでもたまたま運でオーディションに受かっただけで、女優なんて人気次第で人生がどう転ぶかわからない職業に就くのがすごく怖いんです。 それに経験が圧倒的に足りないから、みんなの足を引っ張っちゃうかと思うと・・・。」
「確かに、かんなが主演でアキラさんの映画に出演して欲しい気持ちは親としてあります。 これはかんなにとって、ものすごいチャンスでしょう。 でも、仮にかんながアキラさんの映画に主演できたとしてもその後は? その映画で彼女が人気が出れば良いのですが、人気が出ない可能性も一杯あります。 1個の映画の主演だけをして人気が出なければ、その後の彼女の人生はどうなるのでしょうか? 彼女はこの映画の後も何十年も生きていくのです。 この若さでかんなに非常にリスクの高い人生の決断を迫るのは酷だと思います。」
お父さんが私の事を考えてくれて、私を擁護してくれた。 これに対してアキラ君が口を開く。
「親御さんがそのような危惧を持つのは当然の事だと思います。 それで、こちらの契約書なんですけれども、2種類の契約書を同時に提示させていただきます。 1枚はスターズに所属してもらって、私の映画の主演を務めてもらうための契約書。 芸能事務所に所属する契約と映画出演がセットになった契約書です。 もう一つがスターズの総合職としての雇用契約書です。 こちらは、かんなさんが高校卒業、もしくは大学卒業まで有効な契約で、かんなさんが女優の夢を諦めた場合でも、スターズの一員として働いてもらうための雇用契約書です。 もちろん、別の所で働きたい場合には、この契約書は破棄してもかまいません。 あくまで女優をあきらめたかんなさんの進路としてスターズを考えていただけるのであれば、こちらの雇用契約書に従って、かんなさんはスターズで働く事ができます。」
そう言って、お父さんは提示された2つの契約書に目を通した。
「かんな、どうしたい? 映画をやってみたいか?」
「お父さん、私はやってみたい。 でも怖い。」
「将来の不安というのは誰にでもある事だ。 女優としての契約書だけだと、お父さんとしては反対するつもりだった。 でも将来の雇用契約書も提示して来たというのであれば話は別だ。 かんな、この労働条件と給与額を考えると、このままかんなが高校か大学を卒業して職を探しても絶対に得られない条件だ。 ここまでスターズの方で本気でかんなを必要としてくれるのであれば、チャレンジする気持ちがあれば、やってみたらどうだ?」
私はお父さんが賛成するとは思っていなかったから、びっくりした。
「お父さん、前に私が女優になるのを反対していたじゃない。」
「それはそうだ。 かんなの将来を考えるとすごくリスクがある選択だからな。 女優とか言う働き方でかんなの人生が成功するビジョンが見えない。 人と違う生き方をするというのは、自分で道を切り開く必要があるという事だ。 かんなにそれができるか私には分からない。 前の芸能事務所も、話題になりそうだから声をかけた程度で本気じゃなさそうだったしな。 でもここまで本気でかんなの才能を買ってくれる芸能事務所があるのであれば、話は別だ。 ここであれば、かんなの人生を試してみる価値があるだろう。」
「どうする? かんな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やってみたいです・・・・・。」
「わかりました。 こちらの契約書にサインする方向で検討したいと思います。 ただ、この契約書を事前に私の会社の顧問弁護士に確認してもらってもかまわないでしょうか?」
「もちろんです。 こちらも弁護士を介して契約書を作成していますが、娘さんの人生を変える契約書です。 ちゃんとサイン前に確認していただいた方が良いと存じます。」
弟と低レベルなバトルをしていたのとは一転して、アキラ君は大人の態度になった。 この人の精神年齢はどうなっているのだろうか? 今は演じているの? それとも素? 俳優というのは本当に見分けるのが難しい。
「ねぇ? みんな深刻な所悪いんだけど、お姉ちゃんが主演する映画がイカ娘って本当に大丈夫なの? お姉ちゃんが主演云々言う前に、アキラお兄ちゃんの映画自体が爆死する気がするけど・・・。」
弟が誰しも目を逸らして触れなかった話題をダイレクトに言う。 やっぱりこの弟が一番大物なのでは・・・。
「うん。 爆死の可能性はひっじょ――――――――――――――――に高い。たぶん大赤字。」
アキラ監督がとんでもない事を口走る。
「これ赤字だろって映画は沢山あるよね。 たぶん、放映する前から作っているとわかるよね。 どうしてそんな映画を撮るの? バカなの?」
弟! ダイレクトすぎるよ!! アキラ君に失礼じゃん!!
「税金対策。 予算が余っているから好き勝手に作るの。 だから僕が無責任に監督して、自由に出演者を集めるの。 スポンサーの意向なんて全く無い。 まじでお金を捨てるための映画。」
ヤバイっ。ブラックアキラ君が出てきた。まじでYoutubeでのぶっちゃけアキラ君だ。 これには両親もドン引きだ。
「ふ―ん。 それでお姉ちゃんはアキラお兄ちゃんのお眼鏡にかなったんだ。」
弟はアキラ君を睨みながら言う。
「うん。そうだよ。」
アキラ君は涼しげに肯定する。
「それなら安心だ。 アキラお兄ちゃん、お姉ちゃんをよろしくお願いします。」
そう言って、弟は頭を下げた。いや、さっきの会話のどこに安心する要素があったの!? 私は自分の未来に盛大な死亡フラグが立った気がして目の前が真っ暗になった。
「うん。任された。」
こうして、判断を間違えちゃったかな~。って後悔しつつも、私はイカ娘の撮影に臨む事になるのであった。
ちなみにこの後、私の弟はアキラ君のスマブラ大会の放送に呼ばれて、アキラ君やその他の参加者をコテンパンにした後、ある意味、私よりも有名なゲーム配信者として、高校に上がった後にVTuberの副業を始めるのだが、それは別の物語である。