星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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新名夏と木梨かんなは演じる4

 

-------------新名夏視点-------------

 

千世子ちゃんとアキラ君との衝撃的な出会いの後に、私は藁をも掴む感じでアキラ君の映画の主演のオファーを受けて、スターズに移籍した。

 

プロデューサーさんの件で、仕事をくれなくなった元の芸能事務所に未練は無かった。 元の事務所は私がスターズに移籍するって知ると、すごくビビっていたけれども。 そりゃ、中堅レベルの元の事務所じゃ、スターズが出てきたらビビるわ。 元々向こうが仕事を仲介しなかった事や、私に契約解除を勧めていただけあって、事務所の移籍交渉はあっという間にまとまった。

 

そして、私はベッドの上でアキラ監督が書いた台本を見ていた。

 

「・・・・・・・なんだこれ?」

 

『シーン1:イカ娘登場。 イカ娘と相沢栄子でイカ娘第1巻、5ページ目~11ページ目の演技をする。 4分程度』

 

これは台本なの? せめてセリフぐらい書いてほしい。

 

アイドルの時にいくつかのドラマとかで台本を見たし、女優のレッスンでも台本からの演技方法を学んだけれども、そもそもこんな台本は観た事が無い。 これなら台本いらないでしょ。 漫画本だけで良いじゃない。

 

私は、セットで渡された漫画本の方を見ながら、自分がイカ娘になったつもりで、どうやってこの演技をするか考えた。

 

「アキラ君、忙しいからって手抜きしすぎだと思う。」

 

撮影開始は3月の寒い時期。夏に公開なんだから仕方が無い。 でも、アキラ君などのスケジュールの関係で、1回目の撮影の後に、2回目は5月のゴールデンウィーク空けに予定されていた。なにか、やる気の無いスケジュールだと思う。 台本といい、スケジュールといい、本当に大丈夫なのだろうか? まさか爆死するために映画を撮っていないよね? 大丈夫だよね?

 

私は史上最悪の台本を読んで、頭痛を覚えながらも、自分なりに練習してイカ娘の撮影に臨んだ。

 

そして、臨んだ1回目の撮影。 この撮影は本当に悲惨だった。 アキラ監督と演出家の百城千世子は想像以上にスパルタだった。

 

「漫画の表現に囚われすぎ。 原作のギャグをそのままやってもダメだよ。 現実でそんなリアクションする人が居ると思うの? もっと現実を考えたリアクションしてよ。」

 

「イカ娘は、露骨に観客に媚びすぎね。 可愛いければいいと思っているんでしょ? 違うわよ。 あなたは海の底から地球の環境を守るために、全人類を侵略に来た侵略者のイカ娘。 可愛さはその侵略の副産物にすぎないわ。 侵略者として全人類の頂点に立とうとしているイカ娘が観客に媚びてどうする気なの?」

 

「笑いの狙い方が露骨だよね。 こうすれば笑ってもらえるとか思って、観客に笑いを強制するのは間違っているよ。 もっと一生懸命働いて、空回りした結果、自然に笑いが出るようにしなきゃ。」

 

「イカ娘を演じるのが恥ずかしいの? あなたには自分がイカ娘である事の誇りが見えないわ。 あなたはイカ娘になり切れていない。 イカ娘のコスプレをしただけの新名夏よ。 まだアイドルに未練があるの? 映画館で観客は、新名夏を観に来るのではなくて、イカ娘を観に来るのよ。」

 

 

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「あのクソガキ珍獣とドS堕天使が!! あんな台本しか渡さないくせに、なんであんなに偉そうなんですか!!!!!」

 

ストレス全開の私は、ドリンクバーで注いだコーラを一気飲みすると、ドンっとテーブルにコップを置いた。

 

1回目の撮影終了後に、主要な出演者にファミレスに誘われて反省会をする事になった。 そこでストレス全開の私は、他の出演者の誘導に乗って、思わずぶちまけてしまった。

 

「あ~。これが、いい子で努力家で、だれよりもがんばり屋さんの新名夏の裏の顔か。 これぐらいの根性が無いとあのアイドルグループで総選挙3位なんて無理だものな。 星アキラや百城千世子が気に入る訳だ。」

 

一緒に反省会に参加していた、源真咲君が言った。

 

私はそれを聞いた時にさぁ~と血の気が引いて真っ青になってしまった。 やってしまった。 みんなに乗せられたとは言え、今まで誰にも見せた事が無いキチゲ解放で、ストレスフルによって豹変した私を、こんなに沢山の人の前で見せてしまった。

 

アイドル時代には絶対に剥がれるはずのない化けの皮だったのに、しばらくアイドルから離れたせいか、油断してやってしまった。 一緒に居るこの人達はみんな役者だと言う事をすっかり忘れていた。 誰よりも他人の心を操るのが上手い人達なのだ。 甘言に乗せられて、つい、裏の自分を開放してしまった。

 

「俺はいいと思うぞ。 いい子いい子してたアイドルの時よりもずっと人間らしくて好感が持てる。 あれだけ言われて、頭に来ない方がおかしい。 このまま、いい子モードで、星アキラと百城千世子は立派な人達ですとか言ってたら、本当に救いようが無いと思ったぞ。」

 

一緒に居た烏山武光君が言った。

 

「かんなちゃんは、どうだったん?」

 

湯島茜ちゃんがかんなちゃんに振る。

 

「厳しい事を言われましたけれども、間違った事は言われていませんし、次回演じるための課題もいっぱいもらいました。 それにツッコミの役って案外相性がいいみたいです。 普段と違う自分になれるのってすごく楽しい。」

 

「流石やな。 かんなちゃんは素直に言う事を聞いて、その場で演技を直してどんどん良くなっていったしな。」

 

「あんなにバキボキに演技のダメ出しをされた私なんてどうなってしまうの・・・。」

 

「夏っちゃんの場合には、元アイドルって部分が出すぎていたんやね。 せっかくアイドルを辞めたんやから、自由になればいいんでないの?」

 

「そんな事を言ったって、どうすればいいの~!」

 

私はこの困難の前に頭を抱えた。

 

「リアクションはすごくおもろいんやけど、まずは練習やね。」

 

「とりあえず、今回の撮影で、アキラさんと千世子さんが役者の演技を重視した撮影スタイルだって事はわかりましたから、なるべくみんなで集まって練習しましょう。 この役者に好き勝手に演技させる撮影スタイルを考えたら、結局のところ、この映画が成功するのか失敗するのかは、私達の演技にかかっています。」

 

スターズから来た和歌月さんがまとめる。

 

「だからスケジュールが一杯入っているスターズの面々じゃなくて、練習時間が取れる俺らに声をかけたか。」

 

「いえ、本当はスターズの方に先に声をかけていたんです。 でもみんな白虎隊を選んでしまって、私と佐和ちゃんだけがこっちを選んだ感じです。」

 

「千世子先輩の演出ならこっちに来るでしょう。 珍獣先輩が監督とか絶対に面白いですし。」

 

「私も、白虎隊じゃなくて、こっちを選んで良かったと思います。 自分の力を目一杯に発揮できますから。 白虎隊の役よりもはるかに良い役をもらえましたし、学ぶ事も多そうです。 私達ですばらしい演技をして、アキラさんを見返してやりましょう。」

 

「でも、練習場所とかどうするの?」

 

「それは、アキラさんから、私か佐和ちゃんのマネージャ経由で日時を指定すれば、スターズ持ちで練習場所を確保してくれるって話を聞いています。」

 

「流石はボンボン息子でやり手の2代目スターズ社長やね。 この事態もお見通しってことね。」

 

「だから次の撮影まで2ヶ月空いているんだろうな。 それを想定して、主演はみっちりと練習が可能な、仕事が無い元アイドルと、女子高校生って訳か。」

 

「あの珍獣先輩が勝算の無い映画を撮る訳がありません。 この映画が主演二人のシンデレラストーリーになるか、没落劇になるかはお二人次第ですね。」

 

「う゛っ プレッシャーが・・・。」

 

私は話を聞いていて胃が痛くなった。

 

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それから、私達出演者一同は、なるべく集まってお互いの演技を見て、それぞれに意見を言い合った。  これは映画撮影っていうよりも、まるで舞台稽古みたいだった。

 

そして、私とかんなちゃんの実家が意外と近い事を知って、毎日、二人でどちらかの実家に泊って、夜遅くまで練習した。

 

本音をダイレクトに伝えるかんなの弟君が私達の演技を見て、思いっきりダメ出しをしてくれた。

 

私とかんなは、両方とも、元来、大人しい性格のためか、すごく相性が良くて、すぐに親友と呼べる間柄になった。

 

一緒に生活をして、お互いを知れば知るほど、お互いのボケとツッコミは鋭くなって行った。

 

それをお互いの両親は優しく見守ってくれた。

 

あっと言う間に、月日は流れて、明日は2回目の撮影日だ。今日はかんなの家に泊っている。

 

「かんな寝てる?」

 

「・・・まだ起きてる。 緊張で寝られないよ。失敗しちゃったらどうしよう。」

 

「あんなに練習したんだもの。私達なら大丈夫よ。かんな。」

 

「夏、明日は絶対に成功させましょうね。」

 

この日は、明日の撮影への緊張から、並べて布いた布団の隙間から二人で手を繋いで寝た。

 

 




「ねぇ、千世えもん。 僕よりも、夏っちゃんとかんなちゃんの方がアオハルしている気がするんだけど、どうなっているの!?」

「ははははっはは!」

「千世えもん?」

「ははははっはは! すり替えておいたのさ!」

「誰だお前は!?」

「星アキラのアオハルを情け無用に破壊する男! 千世スパイダーマッ!!」

喫茶マー(貴様ー)☆」

柊雪「こいつら、あいかわらず仲いいな。 あと、千世スパイダーマッは女だろ。 アキラ君もそこはツッコんでやれよ。」
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