星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
大晦日が迫った年の瀬に私達家族は北陸新幹線に乗って金沢を目指していた。
理由は、今年の大みそかをお母さんの実家で年を越すためだった。
お母さんの実家に初めて行ったのは12歳の時。 それ以来、年に一度以上は金沢にあるお母さんの実家に顔を出している。 そして、今年は私のスケジュール調整が付いた事もあって、年末をお母さんの実家で過ごすことになった。
――――――――― 12歳の頃の景ちゃん ―――――――――
最初、お母さんの実家に行くときはとても抵抗があった。 私達家族が厳しい環境に置かれたときに助けてくれなかったからだ。 お母さんがあんなにつらい目にあっている時に助けてくれなかった所に行くのは、私はとても、もやもやした。 だから、私はアキラさんに相談することにした。
「景ちゃんの祖父母の家に行くのに抵抗があるの?」
「そうですっ。 お母さんがあんなにつらい時に助けてくれなかったお母さんの実家に行くのはとても、もやもやするんです。」
「う―――ん。 つらい目にあっていた時に助けてくれなかった実家が、窮地を脱したら顔を見せるように言うなんて、まぁ確かにもやもやするよねぇ。 でも、夜凪ママのお父さんは夜凪ママの窮地を知らなかったし、夜凪ママも勘当されていたんだから、仕方が無いと思うけどねぇ。」
「確かにそうなんですけど、何もなく笑って許せる事でも無い気がするんです。」
「景ちゃんの気持ちも分かるけれども、基本的には夜凪ママと夜凪ママのお父さん、つまり景ちゃんのおじいさんとの問題だからなぁ。 もちろん、間接的な被害を被った景ちゃんもいろいろあるだろうけど、一次的に悪いのは景ちゃんのお父さんであって・・・。」
「あんな人をお父さんとか呼ばないでくださいっ!」
「おおぅ。 まぁ、夜凪ママが離婚した今となってはただの他人だからね。 どちらにせよ、ご両親が反対したにも関わらず、勘当されてまでそんな人について行った夜凪ママよりも、ご両親の方がその反対した見識は正しかったわけだ。 確かに助けてくれなかったのはもやもやするだろうけど、そこまで大変なことになっていたのを知らなかったおじいさん、おばあさんを責めるのも酷だろうし、夜凪ママとその両親もそれを乗り越えて関係を修復しようとしているんだろうから。 とはいっても、景ちゃんがもやもやするのも分かるよ。」
「私が我慢して許せば大丈夫だって言うのはわかるんです。」
「我慢は良くないねぇ。 でもおじいさん、おばあさんに景ちゃんが会わないというのも違うだろうし。 うーん。 そうだね。 景ちゃんがおじいさん、おばあさんにチャンスをあげるというのはどうだろう?」
「チャンスですか?」
「そう。 まずは会うチャンスをあげる。 それで、許せないようであれば、その時にまた考えればいいじゃん。 許す、許さないなんて考えないで、まずは会うチャンスを二人にあげるんだ。」
「チャンスをあげるとか、ずいぶん上から目線で偉そうなのですが・・・。」
「夜凪ママが許すのと、景ちゃんが許すのは別問題だよ。 夜凪ママが許したから景ちゃんも許さなきゃいけない訳じゃないからね。 でも相手を理解しないで一方的に嫌うのも違う。 だからチャンスをあげるんだ。 会って景ちゃんが許せるのであれば許せばよいし、許せないのであれば、その時にまた考えればいいじゃん。 感情を棚上げしてまずは会ってみるといいよ。」
「・・・わかりました。」
そして12歳だった私は金沢に行って初めておじいさん、おばあさんに会ったのだけど、金沢駅で祖父母に会ったら謝られた後に祖父母の家ではなく、 曽祖母(ひいおばあちゃん)の家に連れていかれた。
「お前が体を壊して支援をお願いされた時に手助けをしなかったのがおっ母さんにばれてな。 それでおっ母さんがカンカンになって、お前と子供たちが来たら本家に連れてくるように言われているんだよ・・・。」
「当然、怒られるに決まっているじゃないですか。 あなただって、若い時にお母様をはじめ、親戚の方々にたくさんご迷惑をおかけしたのに、自分の子供はそれを許せないなんて狭量すぎます。 それに支援をお願いされたって話は私も初めて聞いて、私も怒っているんですからね。」
おばあさんにそう言われて、おじいさんの車でお母さんの実家ではなくて、本家に向かうこととなった。
到着した本家は、名家を思わせる立派な日本屋敷だった。 夜凪家というのは、漁をするための凪を祈願する巫女の家系で、夜の間に翌朝の凪と大漁祈願を行い、荒々しい日本海で凪を作り出していたことからこの苗字が付いたらしい。
そして、江戸時代には網元として栄えて、網元制度が無くなると金沢を中心に一家で様々な商売をしているらしい。 それで、おじいさんはそんな家の四男で、若い頃に家を飛び出してやんちゃしていたそうだ。 お母さんもこんなおじいさんの血を引いているのかな? 意外な自分のルーツを感じる。
―――――――――
私たちが夜凪本家の座敷に通されると、かくしゃくとしたおばあさんが座布団の上で腰かけていた。
「遠いとこ、よう来たじ。 あんたもしばらく見んうちに立派な母親になったじ。 それで、あんたが景ちゃんとルイとレイさね。 がんこ可愛い子だこと。」
初めて会った祖母はとても厳しい人に見えて、優しさも垣間見えた。 そして、その雰囲気や姿は私によく似ていた。 私が歳を取るとこんな感じになるみたいな感じ。 ちなみに、がんこというのは金沢弁で「ものすごく」という意味らしい。
「初めましてっ。 長女の夜凪景です。」
「景ちゃんやね。 可愛い子じ。 昔のうちにそっくりやぞ。 こんな可愛い子を辛い目に合わせるなんて!」
そう言って、ひいおばあちゃんはおじいさんをすごい形相で睨むと、
「あんた昔散々助けてあげたがに、自分の娘やこんなに可愛い孫の助けを断るなんて! あんたに人の血は通っとるのっ!」
「おっ母さん、娘がこんな厳しい状況だなんて知らなんだんだ!」
「勘当した娘が恥を忍んで頭を下げてきたんやさかい、許すのが親ちゅうもんやろが!」
「そやけど、おっ母さんもあれだけ反対しとったがに、駆け落ちしたでないけ!」
「駆け落ちした時と子供ができた時じゃ事情がちごうやろうが! 自分勝手に駆け落ちしたのと、子供を守るために頭を下げてきたのとでは事情がちごうわ! 大体、うちは勘当するのも反対やったんだ。 あんたこんなに可愛い孫たちを見殺しにしようとして、人としての情が無えが?」
「でも勘当した手前、俺にも意地が・・・。」
「何が意地け! それなら勘当した時とおんなじようにうちに相談したら良かったがに! 自分一人で誰にも相談せなはなんて狭い了見や!」
「すいません。」
「謝る相手がちごうやろ! 娘と孫に謝らんかい!」
「すいませんでした。うちが間違うとった。」
そう言って、おじいさんは、私たち家族に頭を下げた。 それを見た瞬間、私の中にあったもやもやした感情が、すっ~と消えていくのを感じた。
「景ちゃん、こっちに来まっし。」
そうやって、ひいおばあちゃんは私を近くまで手招きすると、近くに座った私の頭を優しく撫でてくれた。
「頼れる人がおらんくて、辛かったやろ? よう頑張ったじ。」
そう言って、ひいおばあちゃんから撫でられると、私の目から大粒の涙がポロポロとこぼれてきた。 同時に、アキラさんに救われてから蓋をしていた、あの頃の恐怖や辛さが私の中から溢れ出してきて、ひいおばあちゃんにあの頃の辛い思い出や、お母さんが死にそうになった恐怖などをいっぱい話して泣いた。
今まで誰にも話せないで、蓋をしていた感情だった。 そして、ひいおばあちゃんとおばあちゃんはそんな話を涙ぐみながら聞いてくれた。
もう許す、許さないなんてどうても良くて、ただ話を聞いてくれるだけでうれしかった。 そして、ひいおばあちゃんとおばあちゃんが大好きになった。
それから、金沢に行くのに抵抗が無くなり、何度も金沢に足を運んだ。 銀河鉄道の夜には、金沢からひいおばあちゃんとおじいちゃんとおばあちゃんが舞台を観に来てくれて、舞台に感動して泣いてくれた。 私も大好きなひいおばあちゃんとおばあちゃんに舞台を見せられてよかった。
今年は、私が舞台で活躍したこともあって、アリサさんとアキラさんがお正月をこっちで過ごすことを勧めてくれた。
もうすぐ金沢駅に到着する。 年末とお正月は初めてだ。 どんな年越しになるんだろうか。