星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
「よう来たじ」
大晦日に夜凪本家に着いたら、床の間に案内された。 時代を感じさせる床の間には、名画を感じさせる掛け軸や小物などと一緒に、棚に銀河鉄道の時に、ひいおばあちゃん達みんなとアキラさんやアリサさんなんかの出演者と一緒に記念撮影した写真やブロマイド、そしてみんなのサインが飾ってあった。
趣のある床の間に私を初め、アリサさんや阿良也さん、アキラさんや千世子ちゃんなんかのサインが飾ってあるとなにか場違いに感じる。 でも前田利家のサインが飾ってあったりすれば、趣があると思うから、このサインも百年ぐらい経つと良い感じにこの家の歴史の一部として趣が出てくるのだろうか。
「銀河鉄道の舞台を観たおおばあちゃんが喜んでねぇ。 テレビでしか観れないスター達に直接会って、サインとか写真とかもらっちゃったものだから、年甲斐もなくハッスルしちゃって、床の間とか、おおばあちゃんの寝室もみんなのグッズでいっぱいよ。」
本家の奥さんが私に言った。
「スターにあんなに良うしてあたるなんて一生の思い出やぞ。 みんな今度金沢に来たら是非家に寄ってきまっし。」
「無理を言わないの。 景ちゃんの事も可愛いらしくて、いつも景ちゃんの出演しているドラマとか映画を見ているのよ。」
「それはうれしいですっ。」
「年越しの料理は腕によりをかけるから楽しみにしていてね。」
その後、夕方から本家で宴会になり、たくさんの美味しい料理を食べた。 特に昔は網元をやっていたこともあって、海鮮料理のラインナップもすごくて、年越しそばの外にも鱈(タラ)や鰤(ブリ)などを使った料理がふんだんに出されて舌鼓を打った。
「あっ、お注ぎします。」
「さすがは、女優だけあって、景ちゃんはがんこきれいだな。」
「本当に可愛い娘やぞ。 こりゃ、東京のテレビ局がほっとかんのもわかるね。」
「芸能人って本当にきれいなんかい。 テレビで見るよりも綺麗やね。」
「ねぇねぇ、千世子ちゃんとアキラ君って付き合うとるが? それともアキラ君と景ちゃんが付き合うとるが?」
「夜凪家の客人に無理なことを言わんの」
本家に来ていた親戚の人の突っ込みどころ満載の会話を躱しつつ、9時過ぎになると裏手の神社にみんなで集まる。
私が来るときには親戚の人が来る事が多かったけれども、こうやって親戚の人が一堂に集まると圧巻だ。
もちろん、私のおじいさん、おばあさんも来ている。
9時過ぎになると、親戚の方々と一緒に夜凪家の裏手にある神社に集まった。
裏手の神社は夜凪家のルーツにあたる神社で龍神様を奉っていて、今では年越しに、この神社の舞の舞台で舞って翌年の豊漁と水難防止を祈願するらしい。 近所の方々も続々と神社に集まってきた。
私と同じぐらいの親戚の子が年越しの時間に除夜の鐘とともに舞を踊って、龍神様に舞を奉納した。
ただ、残念なことに舞を奉納した当日の天候は悪くて、海は大荒れで陸からの強い風によって横殴りの雪が打ち付けている。 幸い、神社の方向の風向きから、建物が風よけになって舞を見るのはそこまで辛い環境ではなかったけど、おそらく初日の出は観られないだろう。神社から見る日の出は絶景らしいので、ちょっと残念だった。
親戚の子が踊っていた舞はすごく幻想的だった。 なにか魂に刻まれている感じ。 なぜか一度見ただけで心の奥に焼き付いて、舞を再現できそうだったので、ダンスレッスンに似た感じで、寒空の中で体を温めるために舞の真似事をしていると、その子と本家の奥さんがそれを見つけて、舞を踊ってみないかと誘われた。
「えっ、でも、東京から来た私なんかが踊ってもいいんですか?」
「あんたも夜凪の女でないの。 それにもう龍神様への奉納は済んどるし、龍神様も夜凪家が誇る大スターの舞を見たいに決まっとるわ。」
私は大スターとか面と向かって言われて照れたけれども、あの妙に魂が惹かれる舞の衣装を着てみたいこともあって、快諾した。
そこから3時間ほど、親戚の子や経験者のおばさんに即席レッスンをしてもらって、夜明け前に舞の衣装を着飾った。
「「お姉ちゃん! すごくきれい!!」」
「景、すごくきれいだわ。 私も昔はこの衣装を着て踊ったものよ。 景もこの衣装を着て舞を踊るなんて感慨深いわ。」
親戚のおじいさんやおばあさんなども、
「舞の衣装を着ると、本当におおばあさまに似とるな。 ねんねの頃に見た、舞を踊っとったおおばあ様を思い出すよ。」
「あの頃はおおばあ様が舞うと本当に天気が良うなったさかいな。 龍神様も景ちゃんを観れて嬉しいやろう。」
最後にひいおばあちゃんが来て、
「若い頃のわしにそっくりや。 これでも町内中から大もてやったんやさかいな。 会えんて思うとった曾孫の舞がみられるなんて、本当に幸せや。」
涙ぐみながらそう言って、私を舞の舞台に送り出してくれた。
舞台の上では、和楽器を演奏する親戚や町内の方がスタンバイしており、舞台から外を見ると、お母さんやルイ、レイや親戚の方々の外に、沢山の町内の方が詰めかけていた。
どうも、私が舞を踊るという噂が広がったらしく、町内からかなりの人が押しかけてきたみたいだ。 この辺は町内のネットワークという感じなのだろうか。 正直、年越しの時間にやった本番の奉納時よりも人が集まっている。
手にはそれぞれスマフォなどを持っており、親戚の人がちゃんとしたビデオカメラで撮影している他に、お母さんも私の舞を撮影するためにスマフォを構えていた。
そんな注目の中、私は大したプレッシャーを感じる事もなく、舞台の中央に進んで一礼をすると、舞を踊り始める。 場慣れ? 違う。 なぜか私はちゃんと踊れることが分かっているからだ。 沢山の人に見られているプレッシャーなんて全く感じなかった。
数時間前に見たばかりの舞のはずなのに、体が覚えているみたいに全く間違う事なく優雅に踊れる。 舞台やダンスのレッスンをしてきた私から見ても、今の私の舞はすごく綺麗に見えているだろう。
まるで自分の体じゃないみたいに、考える事なく体が動いていく。 そして、私の心の中には、舞とともに深い静粛が訪れていた。
舞を踊りながら、頭の中に水滴が落ちるような、ぽちゃん、ぽちゃんと言った音が響く。 私は演奏されている音楽ではなくて、この水滴の音をリズムとして舞を踊る。 何か背後に暖かくて力強い存在を感じる。
トランス状態とか、ゾーンに入ると言うのはこんな感じなのかもしれない。 普段、演じて役になり切るのとはまた違った入り込みの状態。 もしかしたら、私の演技の才能の根源は、こういった代々舞を踊って龍神様を喜ばせていた巫女の血から来ているのかもしれない。
私は気が付かなかったんだけど、実は踊っている間、神社の周囲にものすごい突風が吹いていたらしい。 そして、なぜか私が踊る舞台の上は無風だった。
私は極限まで研ぎ澄まされた感覚で、最後の水滴が落ちる音と共に、舞の動作を終えると神社の中をまるで竜巻にあったようなすごい突風が上に向かって吹き上げた。 まるで龍神様の歓喜のような突風だった。
みんな目も開けられないような突風だったらしい。 神社の境内にあったテントもいくつか飛ばされた。 幸いけが人は居なくて良かった。
そして、突風が吹きあげた後に静寂が訪れた。 周囲に漂う荘厳な空気と共に、あんなに吹き荒れていた風が一切無くなり無風となった。
真っ暗な闇の中で、荒れていた海が、まるで油を流したように静かになっていた。
「夜凪だ。」
しばらくの静粛の後に、ひいおばあちゃんが口を開いた。
「夜凪や!」
みんな口々に夜凪って言葉を口にする。
「これが夜凪!」
「初めて見た! 夜凪って本当にあったんだ!」
「おとぎ話じゃなくて、本当に龍神様が満足すると荒れ海から突然、夜凪になるんだ。」
それを聞いた沢山の老人や漁業関係者の人などが神様にお祈りをしている。 ひいおばあちゃんやおばあちゃん、親戚の方などもみんなお祈りしている。
そんな姿を見て、私は意味が分からずに呆気に取られていたけど、空気を読んで一緒にお祈りするポーズを取っておいた。 龍神様が居たとしたらもう帰られたと思うんだけど・・・。
そこから神社は大騒ぎになった。
1時間ぐらい後に、雲が無くなって晴天となった山から太陽が上がり、見事な初日の出を迎えたのであった。
「なんか、今年も良いことがありそう。」
神社から日の出を見ていた私は、見事な初日の出をプレゼントしてくれた龍神様に感謝して、お賽銭箱にお賽銭を入れて、お母さんやルイ、レイと共に神社でそのまま初詣を終えるのであった。
充実した(?)年越しを過ごした景ちゃんのお話でした。
珍しい彼女の苗字の意外なルーツを想像しながら書かせていただきました。
もちろん、夜凪ママの故郷が金沢というのも私が勝手に書いた妄想で、原作には無い設定になります。(すいません。 (o_ _)o)
今年一年も『星アキラは自由に生きたいっ』の連載を続けられて、沢山の人に読んでいただいて本当にありがとうございました。
来年には、別の話を挟んだ後に、いよいよ羅刹女編に入って行きそうです。
また来年も続けていきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
それでは皆様、良いお年をお迎えください!