星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
-------------柊雪視点-------------
イカ娘が終了してしばらく経った後に、スタジオ大黒天の事務所にアキラ君と千世子ちゃんが再び訪れていた。
「百城、どうやら第一次イカ娘計画は失敗のようだな。やはり死海文書に書かれている通り、イカ娘はヒットしてしまったようだ。」
「星、マザー機関の方針に逆らってヒットさせたのはまずかったな。 しかし、我々の目的であるエンジェルインパクトによる投影計画は一歩前進と言ったところだな。」
今日のアキラ君は明らかにダサいサングラスを付けて、机の上で肘を立てながら指を組んでいる。 千世子ちゃんはアキラ君の一歩後ろでピシッと立ちながら後ろで腕を組んでアキラ君に付き合っている。
・・・これはどう見てもエヴァンゲリオンの碇司令と冬月副司令の寸劇だ。 千世子ちゃん、あなたはどう見ても冬月コウゾウじゃなくて、綾波レイの方が似ているんじゃないの?
「イカ娘があんなにヒットするとはな。 アイドル補完計画は我々の想定を超えて進んでいると見える。 次の手を打つべきだな。」
「しかし、マザー機関の方針に逆らって、これ以上ヒットさせるのは無理があるぞ。 諮問会議の連中も動き出しているという情報もある。 星、これ以上のヒットは危険だ。」
「ロンギヌスの槍(意味深)を使えばあるいは・・・。」
「ロンギヌスの槍は危険だ、星! 様々なものを失うリスクが高すぎる!」
そう言うと、アキラ君はガクッと机に突っ伏して、両手で髪をぐちゃぐちゃにした。
「もーーーーっ。 どうしてあんなに好き勝手に作ってハッチャけた映画がヒットしちゃうんだよ~~~っ!」
あっ、アキラ君が現実逃避を止めて、我に返ってサングラスを脱ぎ捨てて葛藤している。
「アキラちゃん、まだ気が付かないの?」
「千世子ちゃん、何を?」
「アキラちゃん、シンデレラの話はどう思う?」
「絶対君主制の専制国家で、あんなお手伝いさんみたいな子が王太子妃になって上手く行くわけないじゃん。 なんで国に騒乱のタネをばら撒いているんだよ。 でも、貴族派なんかの政敵を炙り出すために、王子側がわざと隙を見せて、政敵を片付けようとしているのであればワンチャンある。」
「理由なき反抗は?」
「ジェームズ・ディーンの名演がすばらしいね。 これこそまさに伝説のスターの演技だよ。 すごくカッコ良くて憧れるよ。 でもそれを除いたら映画自体はなにをしたいのかマジでよくわからん。 みんな自滅しただけじゃん。 理由なき反抗の理由が無さ過ぎてまじヤバイ。」
「水戸黄門は?」
「あれだけ何回も全国を回っていたら、みんな黄門様の顔知っているんじゃないの? あと、悪代官と悪商人はどんだけいるんだよ。 毎回1県に1人以上居るじゃん。 世直しの旅以前に、日本中がこんだけ悪代官ばっかりの政治体制の根本がやばいじゃん。 天下の副将軍なら趣味で旅行に行く前に幕府の組織体制と規律を直そうよ。 このままじゃ、世直し以前に討幕の気配が濃厚だよ。」
「これでもまだ分からないの? アキラちゃんは面白い映画しか撮る事が出来ないの。 大衆の心がわかりすぎて、つまらない赤字映画を撮る才能が無いのよ!」
「なっなんだって------っ!」
「俳優は大衆のために在れ。 それがスターズの方針よ。 私たちはこの方針で今まで育てられてきたわ。 つまり、大衆の事を第一に考えた私たちの映画は、監督の自己満足で台無しになるようなつまらない映画を撮る事が出来ないのよ!」
「確かに! 俳優は大衆のために在れ。「どうしたいか」より「どうあるべきか」を優先してしまう僕達の呪いだ! 幼少の頃からこれを叩き込まれた僕たちは、これが枷になってつまらないクソ映画を撮る事が出来ないんだねっ! そんな事ってっ!!」
「アキラちゃん、これは大衆の顔色を窺って、自分のためでは無くて、大衆のための映画を撮ることしかできない私たちへの罰なのよ。 私たちは根本からつまらなくて売れない映画を撮る事ができないの!」
「そんなっ! こんなに頑張ってきたのに! つまらない映画が撮れないなんて!」
いや、お前らは何も頑張っていないだろ!
「アキラちゃん!」
「千世子ちゃん!」
そういって、二人は涙を流してお互いを慰めあっている。 ここだけ見ると、極上なドラマのクライマックスシーンのような見事な演技だ。 悔しいが、外面だけを見ると、間違いなく美男美女だ。 それも傾国レベルの。 ・・・中身はお察しだが。
「おい、柊、こいつら二人を摘まみだせ! 営業妨害だ!」
あっ、ついに墨字さんがキレた。
「墨字さん、酷いですっ! アキラさんと千世子ちゃんがこんな素敵な演技をしているのにっ! 私も涙が・・・・。」
「景ちゃん、これに感情移入できるなんてすごいわね。 流石は女優ね。 私には絶対に無理だわ。」
「でも、このまま映画で赤字を出せないのはまずいよ!」
「私にいい考えがある!」(コンボイ声)
「大丈夫なの!? 千世コンボイ司令官!」
「大丈夫だ。 問題ない。」(イーノック声)
あれ?このパターンってどこかで・・・。
「私達に無理なら、ちゃんと赤字の映画を撮れる逸材に任せればいいのよ。」
そう言って、ババーンというような効果音が付くようなポーズで、千世子ちゃんは私を指さした。
「そっか! 高校生の時にどんな映画を撮りたいかわからないとかテンパってた雪ねえちゃんなら、赤字映画を作る監督に最適だね!」
おい、バカ! 止めろ。 ここで私の黒歴史を掘り起こすんじゃない!
「だめよ! いきなり赤字目的の映画を撮るとか、監督として耐えられない。」
私はアキラ君に反論する。
「別に? 赤字はすでに確定しているんだから、雪ねえちゃんの好きなように撮ればいいじゃん。」
「そんなの出来る訳ないでしょ!」
「雪ねえちゃんは、なんて我が儘な監督なんだ!」
「アキラ君に我が儘とか言われたくないわ!」
「それじゃ、この3人の中でじゃんけんをして負けた人が次の監督になるって事にしようか。」
「賛成だわ。」
雑よ! 雑。 こいつら、なんて方法で次の映画の監督を決めようとしているのよ! そして、その中に私も加えないで! なんで私も加えて次の映画監督を決めることになっているのよ! しかもこれじゃ、次の映画の監督が罰ゲームみたいじゃない!
「「出さなきゃ負けよ~。じゃんけんポイ!」」
こいつら、よりにもよって、出さなきゃ負けが決まるタイプのじゃんけんをしやがった。 ここで私がじゃんけんに参加しなければ負けて自動的に監督になってしまう!
私は急いでグーを出した。 ・・・そして、アキラ君と千世子ちゃんはパーだった。
・・・・・終わった・・・・・・。
「「それじゃ、雪ねぇちゃん、次の映画の企画と監督をよろしく!」」
あの悪魔二人は見事にセリフをハモらせながら事務所を出て行った。 私はグーを出したままの右腕を呆然と見つめていた。
「柊、やられたな。」
「墨字さん、やられたって何が?」
「環蓮がじゃんけんで負け無しなのは知っているか?」
「ええ。もちろん知っているわ。 有名じゃない。」
「おそらくあの二人と環蓮がじゃんけん勝負をすると、互角か下手をすれば勝つぞ。」
「・・・つまり?」
「つまり、あの二人とじゃんけんをした時点で、お前の負けは決まっていたという事だ。」
「あのクソガキども~!」
キレた私はあの二人を追いかけて事務所を飛び出した。 「雪さん、待ってください!」そう言って景ちゃんが私の後を追いかけて来た。
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その後、事務所にて、
「柊、映画監督にとって、予算を気にせずに、自分の好きなスターを使えて、自分の撮りたい映画を撮れる機会が人生の中でどれだけあると思う? そんなチャンスが初監督の映画撮影に舞い込んで来るなんて、お前は間違い無く最高に幸運な映画監督だろうよ。」
墨字さんがそう独り言をつぶやいたのを、誰も聞くことは無かった。
原作では自分の映画を作る事ができなかった、雪ねぇちゃんが作る映画の撮影がついに始まります! 彼女はどんな映画を撮るのでしょうか? お楽しみに!