星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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柊雪は相談する2

 

-------------柊雪視点-------------

 

結局、私は映画のアイデアが浮かばずに、アキラ君に相談することにした。

 

「何を作ったらいいか分らない?」

 

「そうなの。 制約が全く無いと出来ることが多すぎて、逆に何を作っていいのか分からないのよ。」

 

「確かに、お年玉を喜ぶ小学生に1億円とかを突然あげても身持ちを崩すだけで、碌な結果にならないかもね。」

 

「悔しいけれども、そうよ。」

 

「とはいっても、運用面やスタッフはスターズ側でサポートするし、雪ねぇちゃんの監督業務も助監督とは言っても、イカ娘でほぼ経験しているので、能力的には問題無いと思うけど。」

 

「能力的な話じゃなくて、映画自体の企画の話よ。 混乱しちゃって私自身がどんな映画を撮って良いのか分からないの。」

 

「ふ―ん。 たぶん、雪ねぇちゃんの撮りたい映画は決まっていると思うよ。 それがいろんな物が積みあがって蓋された結果、気が付いていないだけじゃ無いの?」

 

「そうだといいんだけど、今までは何かしらの制約に乗っかって映画の方向性を決めていたから、逆に制約が無いと映画の方向性を決められないのよ。」

 

「まぁ、なんの制約も無く自分の住みたい家をデザインしてとか言われても、普通の人には困るだろうからね。 土地があって、立地があって、家族構成があってそうして自分の住みたい家の形が決まって行くような感じだからね。」

 

「それに近いかもしれないわね。」

 

「結局、雪ねぇちゃんはどうして自分の映画を撮りたいのか。 その欲求をダイレクトに表現できる映画を撮ればいいんだ。 雪ねぇちゃんはどう言う映画を撮りたいの?」

 

「う―ん。 みんなに褒められるような映画を撮りたいかな。」

 

「それだね。 それが原因だよ。 子供の頃の事が原因で雪ねぇちゃんは承認欲求が強いから、それが撮りたい映画の上に積み上がって、雪ねぇちゃんの本当に撮りたい映画に蓋をしているんだ。」

 

「ええええっ。」

 

「他人はしょせん他人だよ。 どれだけ頑張った所で褒めてくれるかもわからないし、全くコントロールができない。 何よりも他人から褒められる事を優先すると、本当に自分がどんな映画を撮りたいのか、さっぱり分からなくなる。」

 

「観客の事を考えない映画なんて作るのは無理よ!」

 

「認められたいという承認欲求に従って映画を考えていくと、段々と自分よりも他人がどう思うのかを優先した映画を考えるようになるよ。 雪ねぇちゃんが尊敬する映画監督に、自分が撮りたい物では無くて、他人が撮りたい物を優先する映画監督なんて居る?」

 

「・・・居ないわね。 みんな自分の信念に基づいて、撮りたい映画を撮っているわ。」

 

「撮りたい物が信念なんていう堅苦しい物に見えているから、雪ねぇちゃんは惑わされるんだ。 みんな自分の欲求の赴くまま映画を撮っている。 映画を撮ることが楽しいんだ。 決してその承認欲求を他人に依存なんてしていない。 そしてそれが結果的に他人にも評価されたに過ぎないんだよ。 それが評価された時に信念に見えるだけさ。 もちろん、他人から評価されて嬉しいとは思うよ。 ただ、他人に評価されるために映画を撮っている訳では無いという事は確かだろうね。」

 

「撮って楽しい映画? でもそれって自己満足じゃ無いの?」

 

「自己満足だよ。 雪ねぇちゃんは、自分が満足できない映画を撮って他人に評価されて楽しいの? 仮にそんな映画が他人に評価されたら余計にストレスが貯まるんじゃないかな? 自分に嘘をついて、いい子ぶった仮初の自分が撮った映画に雪ねぇちゃんは耐えられるの?」

 

「わからないよ。」

 

今日のアキラ君はちょっと怖い。 私の心にメスを入れて、私の心の奥を覗いてくる。 感情なんて入れないで私の心を客観的に分析している。 前に銀河鉄道の舞台の前に墨字さんに質問した内容。 千世子ちゃんは、観客の視点を客観視するけれども、アキラ君は観客の心を客観視するって言っていたけれど、その能力の一端を見たような気がする。

 

「自己満足すら実現できていない映画は、まがい物さ。 薄っぺらい笑いと薄っぺらい道徳。 観客はその監督の心をちゃんと見抜く。 観客はバカじゃない。 1万人の人間が映画を観れば、映画に対して1万人分の分析がされる。 1万人もの人間が行った分析は監督の心を丸裸にする。 結局、頼りになるのは自分が作った映画は、自分が満足できたのか。 自己満足が実現できたのか。 その一点に収束するのさ。 僕とアリサママが手塚監督を評価しているのもこの部分だよ。」

 

「でも、その自己満足できる映画のアイデアが浮かばないから困っているんだけど・・・。」

 

私がそう言うと、アキラ君は優しく微笑んだ。

 

「雪ねぇちゃんに一つヒントをあげようか。 今この瞬間の大人になった雪ねぇちゃんが自己満足できる映画を撮る必要は無いんだ。 雪ねぇちゃんは僕と初めて会った時には映画の仕事をやりたいって思っていたよね。 ということは、それよりも前に雪ねぇちゃんが映画を必要として、映画に感謝した瞬間があるはずだよ。 その時の雪ねぇちゃんが観て、満足できる映画を撮ればいいんだよ。 自分が映画を必要とした時に一番観たかった映画を自分で作ればいいんだよ。」

 

大人が子供に教えるように、アキラ君はゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「あっ。」

 

その時、私の脳裏に少女だった私が明確に思い出された。 家の中に母親が男を連れ込むから、邪魔をしないように、奥の部屋で息を潜ませながら、時間を潰すために静かに映画を観る少女の姿が。

 

あのトラウマの日々。 そして私を慰めてくれたのは映画だった。

 

真っ暗な部屋でパチッってスイッチが入って、電気が付いて部屋の中が見えるように、撮りたい映画の景色が私の目の前に広がってきた。 同時に一つの音楽が私の心の中で再生された。

 

「ねぇアキラ君、お願いがあるんだけど。」

 

「何?」

 

「景ちゃんが井之頭公園で修業した時に、有馬公生になって、最後にユーモレスクを弾いたわよね。」

 

「うん。」

 

「あの曲をもう一度演奏してくれない?」

 

「いいよ。 ドボルザークの変ト長調のユーモレスクだね。 列車マニアのドボルザークがアメリカでの鉄道旅行中に作曲した曲だけれども、冒頭の音は機関車の車輪がクルクル動く音を表現しているらしいよ。 故郷を懐かしんで書いた曲らしいね。」

 

そう言って、アキラ君はヴァイオリンでユーモレスクを演奏してくれた。 アキラ君の優しいヴァイオリンの音と共に、部屋の隅で、孤独と共に映画を観る事だけしかできなかった少女が浮かんでくる。

 

誰にも頼れないで、辛く苦しかった少女の日々。 孤独だった私を助けてくれるのは映画だけだった。 だから私は映画に感謝して、映画を撮って恩返しをしたかった。 だからっ、だから私は映画監督を目指したのだ。

 

アキラ君の音楽と共に、苦しくて辛い思い出として封印していた少女時代が忘却の彼方から蘇ってきた。 この少女に伝えたい。 もっと広い世界がある事を。 未来はもっと輝いている事を。 沢山の仲間や友達に恵まれて幸せになる事を。 そして映画を作れる幸せを!

 

優しい音楽と共にその情景を思い浮かべた私は、気が付かないうちに自分の頬を大量の涙が伝って上着を濡らしていた。

 

決して悲しくない。 でも感情は昂ぶり、大量の涙を流した。 涙と一緒にモヤがかかっていた思考がクリアになっていく。

 

『私の初めて作る映画は、あの少女に捧げたい。』

 

初めて私の中に映画に対する強い欲求が生まれた。 私の中で映画監督と言う種から芽が生えて、それが大樹へと育ち始める瞬間だった。

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