星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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I want to make my movie. その6

 

-------------柊雪視点-------------

 

「とつぜん始まったYukiの無一文生活。 果たして彼女はアメリカで生活する事ができるのでしょうか?」

 

とりあえず私は家の中を漁って、何か使えない物が無いかを探した。

 

残念ながら食べられるものは見つからなかった。 というか、仮に見つかったとしても下手したら何十年も経った缶詰とかだろう。流石に食べる気がおきない。 代わりに倉庫の中から古い便箋とえんぴつ、30年以上前の新聞を見つけた。

 

私は、複数の便箋に、ここの住所と日本から引っ越して来た事、しばらくこの家にお世話になる事などを書いて、古い新聞紙で鶴と花を折って一緒に便箋に入れて、近所の家のポストに入れておいた。

 

あの家で数日過ごしていれば、おそらく近所のコミュニティーの方から私にアプローチしてくるはずだ。 高級住宅地の一角にこんなボロ屋が放置されている事はおかしい。 必ず何か理由があるはずだ。 ここに人が住んでいるのに気が付いたら、向こうからコミュニケーションを取って来るだろう。 

 

近所の人から見ても、私は突然現れた異報者だ。 お金に困っているからと言ってこっちから無理にアプローチをする必要は無い。 すこしずつコミュケーションを取って近所のコミュニティーに自分は無害である事を理解してもらわなければいけない。

 

就労ビザがあるから、どこかでアルバイトでも探せばなんとかなりそうだけれども、スマフォが無い現状ではそう言った情報を調べることもできなかった。 近所に知り合いでもできれば良いのだろうけれども、近所の住宅に押し掛けてアルバイトができる所を教えてくれとか言っても、警察に通報されるだけだろうし。

 

午後になったら私は、鍋や串などの採取道具を持って、ゴープロを持ちながらミシガン湖の湖畔を歩いていた。

 

こんな状況になっているにも関わらず、カメラアングルや映像映えを考えながら撮影している私は、かなりの職業病だろう。 ゴープロの小さい画面でしか見れないけれども、中学生の頃からカメラと編集を続けている私の映像は、手振れなども無くちゃんとプロでも通用する映像が取れているはずだ。

 

そういえば、ネッコフリックスには映像の基準を満たすために、認定カメラがあるはずだけど、私が撮影しているとしてもゴープロではネッコフリックスの認証レベルの映像になっていないはずなのに、大丈夫だろうか?

 

まぁ、アキラ君がなんとかするんだろうから、こんな事を考えても無駄か。 アキラ君なら例外でもOKになりそうだし、最悪、番外編でYoutubeかなんかで動画化するのかもしれない。 おそらく日常を自分で撮った映像であれば、業務用カメラよりもゴープロの方がはるかにリアルに見えるだろう。

 

私は周囲を見渡した。 ミシガン湖は非常に巨大な湖だ。流石はアメリカ五大湖の一角。 月並みな表現だけれども、まるで海だ。

 

そんな感じで風景を撮りながら案の定、湖畔には食べられる草がかなりあったので、採取して鍋に入れて行く。 ただ、これではカロリーを取ることが出来ない。 家の中に釣り道具や網などが無いか探したけれども、残念ながらそう言った物は特になかった。この状況で手軽に手に入るたんぱく質と言ったらあれしか無い。

 

私は朽木を探すと、それを倉庫にあった金槌で崩していく。 この金槌は護身具でもある。 ナイフなんかと違って服の上からでも体のどこを打ち付けても効くし、下手なパンチやキックよりも威力が高いし隙が少なくて手数も多く出せる。 その上、殺傷力が低いと世間一般では考えられていて正当防衛が認められやすいと言う便利な道具である。 正直、素人が持つナイフなんかよりもはるかに実用的だ。

 

「枯れ木をハンマーで壊すYuki。 一体何をしているのでしょうか?」

 

出てきた。なんかの幼虫だ。 たぶんカミキリムシかクワガタあたりだろう。 おそらくこの形状の幼虫で毒がある種は稀だろう。

 

私はこの幼虫を大量に採取した。そう。昆虫食だ。 私は千世子ちゃんの昆虫食に付き合っているうちに、昆虫食に全く抵抗が無くなった。

 

墨字さんとの撮影時には、食事を満足に取れない場面が多々あって、そう言った時にこの昆虫食はとても役に立った。 タランチュラを焼いて食べていた時には、墨字さんにすら『マジかコイツ』って顔をされて乙女心が傷ついたぐらいだ。 私がこうなった苦情は千世子ちゃんに言って欲しい。

 

ちなみに、景ちゃんも千世子ちゃんの魔の手によって、虫が食べられる人である。彼女の場合には、「あの貧乏でお母さんが苦しかった時に虫さんが食べられる事を知っていれば、お腹が膨れてもっと幸せだったのに。」というこれまた闇深い理由であった。

 

ところで、タランチュラはベトナムなどでは良く食べられる食材だ。 ベトナム戦争時に密林の中で食糧に困った時に食べたら美味しかったらしい。 人間考える事はどんな世界でも一緒である。

 

そんなこんなで、湖畔の朽ち木をハンマーで爆砕して行く。 流石はアメリカ。 大量に幼虫が取れる。 ライバルが多いアジア圏ではこうは行かないだろう。 でも食べるには油が欲しい。 その辺の種子を集めて煮だして油を抽出するのはめんどくさ過ぎる。 やっぱり直火で食べる事になりそうだな。

 

「こんにちは。 お嬢さん、何をやっているのかな?」

 

穏やかな老紳士という感じの人が声をかけてきた。

 

「こんにちは。 幼虫を取っているんです。」

 

「ほう。それは大変興味深い。それで、その幼虫をどうするのかね?」

 

「食べるんです。」

 

「食べるのかね?」

 

「はいそうです。食べます。」

 

至極簡単で、疑問の余地も挟む必要が無いやり取りの後に、真顔で食べると答える私の顔を見て、その紳士は爆笑した。

 

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しばらく後、ノースウェストン大学の研究室で私はキャンプ道具を貸してもらって、そこで野草や昆虫を調理していた。

 

研究室に居る学生は、マジかという顔で私達を見ている。

 

あの紳士は、ノースウェストン大学で自然人類学を教える教授だった。 彼が散歩をしていると、世界最高の先進国であるはずのアメリカで昆虫を狩猟している珍人類を発見して、思わず声をかけてしまったらしい。

 

教授は、しょっちゅうフィールドワークで南米のジャングルやアラスカなどに行くので研究室には、キャンプ道具などが揃っていた。

 

本来は、見ず知らずの人に着いて行くべきで無いのだけど、バターや油、調味料が使い放題で、さらにお茶とお菓子を奢ってくれるというのであれば、着いて行くしか無い。 それもこれも貧乏が悪いんだ。 ・・・今の私は無一文で貧乏ですら無いのだけど。

 

私は大量の幼虫をバター炒めにした後に、つるむらさきやチコリなどの草を天ぷらにする。 さらに紅茶も添えられている。 すごく豪華な食事だ。

 

教授と一緒に食事を食べた。 教授もよくアマゾンなどで昆虫を食べた経験があるらしい。 教授も美味しいと言って食べてくれた。 研究室の学生たちはドン引きだ。

 

「先進国の人間は、やれ有機だの、無農薬だの言う割には、こう言った身近にある完全な自然食に興味すら示さないのは面白いな。これこそ食品添加物が入っていないのにな。」

 

「私もお金があれば普通にスーパーで野菜や肉を購入したいのですがね。 先進国の素晴らしい生活を享受したいです。」

 

楽しい食事を終えると、お互いの身の上の話となった。

 

とは言っても、私がここに来た経緯を話すのは困難を極めた。

 

「映画を作る事になったら、なぜかそれをドキュメンタリーとして撮られて、脚本が出来たと思ったら怪しい覆面男に連れられて、シカゴに来て近所のおんぼろの一軒家をもらって無一文で放り出されたの。」

 

という簡単な経緯なのだけど、理解してもらうのにすごく大変だった。私が教授の立場でも理解するのは難しいだろう。

 

何よりも、私が芸術大学の学生である事に驚かれた。 私はもっと年齢が下だと思われていた。

 

「いまいち分からない経緯もあるけれども、Yukiが色々大変な事はわかった。 ちょうど研究資料のまとめや整理をするアルバイトを募集しようかと思っていたんだ。 Yukiにやる気があればやってみないかい?」

 

「やる! やります! やらせてください! 教授大好き!」

 

こうして、私は収入を得る方法を見つけた。 

 

「順調でうれしい! こんなに順調すぎて、仮にドキュメンタリーで放映される事になったら、順調すぎて面白くないかも!」

 

「収入を得る方法を見つけたYukiのサバイバル生活はこれからどうなるのでしょうか? あと、映画を撮る事を忘れているようですが、そっちは大丈夫でしょうか?」

 




視聴者一同「十分にやばくてお腹いっぱいです。 これを順調とか言うのはどうなの!?」
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