星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
-------------柊雪視点-------------
ミスターXに連れられて行った場所は、私が住んでいるエバンストンから少し南下したリンカン・パークの近くにある邸宅であった。
「雪君。この家の中に君を待っている人達が居る。 さあ、ここから刺激的な毎日を楽しんでくれたまえ。」
そう言って、ミスターXを乗せたリムジンは去っていった。 ミスターXのリムジンは運転手まで覆面だったけれども、アメリカだと銀行強盗とかと間違えられて撃たれないのかしら?
そんな事を考えながら、私は邸宅のインターフォンを押す。すると中で奥さんらしき人が出てくれて、門が自動で開いて邸宅の中に入れるようになった。
手入れの届いた芝生にプール。 間に植えられるセンスの良い木。 その奥に見える落ち着いたグレーの家。 典型的なアメリカの高級住宅だった。
玄関付近に行くと中からショートカットの白人の女の子が出てきた。その子に誘われるままにリビングルームに案内されると、そこに彼女の両親が居てお茶と軽食が用意されていて、自己紹介の後に雑談を楽しんだ。
彼女の両親はドイツ系のアメリカ人で祖父母が第二次世界大戦前にアメリカに渡ってきたらしい。 今は貿易商として成功しているらしく、家や調度品なども非常にセンスが良い。
彼女も両親にすごく似ており、家系のためか、ほんのちょっとだけドイツ訛りを含む英語を話すのも両親譲りだろう。
しばらくすると、ネッコフリックスのドキュメンタリー撮影班が来たので、その子と両親をそのままにして席を外してリビングに行き、リビングにカメラの設置と撮影位置を指示する。
ネッコフリックスのドキュメンタリー班は普段はディレクターさんが仕切っているけれども、映画の撮影に入れば、班を二つに分けてメインの班は私が指揮することが出来た。
サブの班はディレクターさんが指揮して、私の撮影をディレクターさんが撮影しているという不思議な状況になっている。
カメラのセッティングが終わると、私はスタッフを部屋から退室させた。 彼女の両親は普通の人だ。 カメラだけでも緊張するだろうに、さらに大勢の撮影スタッフに囲まれてしまったら普段通りに振舞うことは難しいだろう。こんな事で彼女の努力を無駄にすることはできなかった。
私はカメラの設置後に、お茶会の自分の席に戻って、何事も無かったようにお茶会での会話を続けた。 そこで私が映画監督を目指している事や、どういう映画を撮りたいのか、私の映画の考え方などを話していく。
すごく楽しいお茶会だった。
彼女の御両親も、カメラを設置した当初は緊張していたけれども、人が居なくなると緊張が解けてまた普段のお茶会の状態に戻って行った。
そこから1時間半ぐらい経った頃に、両親もカメラに慣れてきたので、私はお茶会の茶器を自分で片付けてリビングから私が居た痕跡を消した。
そして、私はハンディカメラを持って、彼女の両親の後ろに立って撮影を始める。
固定した画だけじゃなくて、やはり動きのあるカメラアングルの映像を収めたい。 だから、彼女の両親に見えない形で私だけが部屋に入って撮影を開始した。
なるべく息をひそめて、その場に居ないものとして撮影を続ける。
そして、お茶会は何事も無く、家族の会話に移って行く。 珍しいお客さんの話しや、近所のスーパーの特売物、家族みんなで観ているドラマの話などの普通の仲の良い家族の会話。
こうしてみると、本当に家族だ。この映像を観て、彼女とこの両親の血が繋がっていないとはとても思えない。 容姿や仕草を含めて間違いなくこの両親の子供だと言えた。
私は、玄関でこの子に会った時からずっと寒気が止まらなかった。 むしろこの少女や両親よりも、私の方が緊張で引きつっていたかもしれない。
どういう経緯でこうなったのかは分からない。 しかし、まさか彼女が私の映画のために、ここまでするとは思わなかった。
この少女の名前は、エマ・ウェルナー。 私の映画の一人目の主人公であり、小説家を目指す女の子だ。
そして、日本では百城千世子と呼ばれていた。