星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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I want to make my movie. その14

 

-------------星キアラ視点-------------

 

私の一つ前の子が演奏している。流石は予選3位だけの事はあって、抜群のテクニックと安定性だ。 この超難易度の技巧曲を見事に弾きこなしている。

 

ただ、第九変奏の左手ピチカート(ヴァイオリンの弦を弓では無くて指ではじく)と右手ピチカートの繰り返し連続と言う、頭のおかしいパート部分では左手と右手の切り替えが少しぎこちないかな。 この超高難易度の曲を考えると、それも仕方が無い事だろうけど、予選を聞いた感じだと1位の子の仕上がりが抜群にいいから、この演奏だと優勝は難しいかもね。

 

次は自分の番であるにもかかわらず、私はリラックスをして前の子の演奏を堪能していた。 前世では、ゾーンに入るためにうつむきながら目を瞑って、集中力を高める場面だったけれども、今はそんな事はせずに、今世で初めてのコンクールを気軽に楽しんでいた。

 

前世では、コンクールは戦いであり、私が音楽を演奏する価値そのものであった訳だけれども、今世での初めてのコンクールは、映画の撮影のためにお邪魔させていただくという、前世では考えられない参加理由となっている。

 

だから、舞台の袖から見える景色も前世とは全く違う。 今の心境は例えるなら、東京マラソンの一般エントリーの抽選に当たって、スタートをワクワクしながら待つマラソン大好き一般人みたいな感じかな。 とてもこれからみんなの前で一発勝負で超難曲に挑むとは思えないほどにリラックスしていた。

 

前の子の演奏が終わって、私の番が回ってきた。 私は前世と同じように、指で弦をくるりと回して願掛けをすると、舞台の中央に立ってヴァイオリンをかまえる。

 

私に集中する視線。 瞬間、リラックスをしていた精神が反転して極限まで集中力が高まる。 今世に役者で覚えた、他人の視線を使って、見られている緊張感を集中力に変えて、瞬間的にゾーンに入る技だ。 この技を覚えてから、必要な瞬間だけゾーンに入れるので、前世と同じようにゾーンに入っていると言っても、出せる馬力が桁違いだ。

 

ヴァイオリンを弾く前から、観客が発する様々な感情の音が聞こえる。 

 

興味、幸せ、哀愁、悲嘆、怒り、悲しみ、感謝、思考、観察、興奮、愛情、期待、憤り。

 

ホールの中には、様々な感情の音が観客の一人一人から溢れて、それらが集まって方向性の無いノイズのような雑音となる。

 

 

ねえみんな。 そんなに色んな事を考えないで、私と一緒に音楽を楽しもうよ。 

 

 

私は曲を弾き始める。 私は第一変奏部分から、いきなり血を切るようなヒステリックな音を出した。 いきなりクライマックスだ。

 

観客の感情は『驚き』でまとまる。沢山の人が同じ曲を弾く中で、突然意味の分からない表現が来たら、驚くに決まっている。普通はもっとクライマックスは後ろに取っておくものだ。

 

私は、観客の驚きの音を拾い上げると、逆にヒステリック気味な第二変奏を優しく奏でて、観客の驚きの音を優しさで包み込んで行く。 飴と鞭だ。 そして観客の感情をヴァイオリンの音色で絡め取って行く。

 

私の演奏は、観客の心の音を捕らえて、私の演奏と同じ方向に導き、音楽として一体化する。

 

まもなく、私の奏でるヴァイオリンと観客の心の音は同調してホール全体にハーモニーを響かせ始める。 ヴァイオリンの弦の響きに観客の心は捕らわれて、音楽を紡ぎ出したメロディーにみんなの心は共鳴する。

 

 

ねえ? 左側に座っている君? 君はジュニアの部の参加者だよね。 私のヴァイオリンにあっけに取られているのかな? そんなに呆然としないで、ほら、みんなと一緒に心でメロディーを奏でようよ。

 

右奥に座っている彼女、ちょっと前に演奏していた子だよね? 私の演奏に嫉妬しているのかな? もっと嫉妬しようよ! その嫉妬の炎をドラムにしてみんなと一緒にリズムを刻もうよ!

 

 

私は自分の演奏だけでは無く、観客の心を楽器としてホールの中に大音響の音楽を鳴り響かせる。

 

これは、前世では絶対にできなかった演奏だ。 前世では膨大な時間をかけて築き上げた基礎と華麗なテクニックに溺れて、メロディーを正確に演奏する事が正義で、音楽が存在する理由なんてこれっぽっちも考えもしなかった。 音楽は常に私の周りに存在する空気のようで、当たり前の存在だった。

 

今世では俳優の演技をするうちに、様々な人間になり切り、いろんな人の考えをトレースするようになって行った。 そしてその中で、なぜ人間に音楽が必要とされるのか、音楽自体がこの世に存在する意味を様々な人の視点から考えた。

 

色んな視点を介して私が出した結論は、「音楽とは人間が生きる意味そのものであり、音楽とは感情だ」という答えだった。

 

「話は聞かせてもらった。 人類は1999年に滅亡する。」 「「「「なっ、なんだって――――っ!!」」」」

 

というキバヤシ並みの超展開である。

 

もはやMMR(マガジンミステリー調査班)もビックリの答えだけれども、音楽と言う規則性を持った空気の振動は、不思議な事に人間の喜怒哀楽と言った様々な感情や、思い出と密接に結びついているのである。いや、思い出や感情そのものと言っていい。

 

これは人間が言語を音で伝える特性によるものなのか、脳波のリズムに共鳴するのかまでは良く判らないけれども、少なくとも、感情は音楽を欲し、音楽と共に、様々な感情や思い出が形作られて行くのだ。

 

だから、私の今世での音楽観は、前世とは180度変わって、『良い音楽は心に響くべきだ。』というシンプルな答えに帰結した。 

 

そんな今世で役者として表現を鍛えた私の耳には、観客の感情は音のように聞こえるようになった。

 

私は「24の奇想曲(カプリース) 第24番」の変奏を続けて行く。

 

私がヴァイオリンの弦を響かせる度に観客の心がメロディーを刻み、観客の感情が一体化して、ヴァイオリンの音と共鳴する。 やがて方向性を持った巨大な感情の渦が観客席に出現する。

 

私はヴァイオリンから音を出して、その巨大な感情の渦が織り成すメロディーと協奏しながら、シンフォニーを奏でる。 感情の渦は、ヴァイオリンの強弱、音の変化やテクニックに合わせて、楽しくなったり、驚いたり、恐怖を感じたり、寂しくなったり、不安になったり、優しくなったり、夢を見たりと七色の音色に変化する。

 

今、観客は、人生で感じた様々な思い出や、子供の頃に忘れていた様々な記憶を思い出しているかもしれない。 

 

そう。 人生はいつも音楽と共にあるんだ。

 

楽しい。 みんなの前で音楽を奏でるのが楽しすぎる。 この曲を作曲したパガニーニも、こんな演奏を楽しんだのかもしれない。

 

フィニッシュが近づいて来た。こんな楽しい時間も、もうすぐお終い。

 

ありがとう! 私を転生させてくれて。 ありがとう! 私にチャンスを与えてくれて。 ありがとう! 私に音楽の心を教えてくれて。 ありがとう! 私に音楽を奏でる機会をくれて。 ありがとう! こんな素敵な仲間をくれて。 ありがとう! こんなすばらしい映画に主演できて。 ありがとう! 私にこんな沢山の感動をくれて。 ありがとう! 私に音楽を与えてくれて。 ありがとう! 私の音楽を聴いてくれて。

 

生まれ変わって、再びみんなの前で曲を弾く事ができた私は沢山の感謝をした。

 

 

私の演奏が終わる。 

 

 

ありがとう! すばらしい感動をくれて。 ありがとう! 素敵な演奏をしてくれて。 ありがとう! ヴァイオリンの高みを見せてくれて。 ありがとう! 大切な思い出を思い出させてくれて。 ありがとう! 生きる意味を教えてくれて。 ありがとう! もう会えない両親を思い出させてくれて。 ありがとう! 誇らしい自分を取り戻してくれて。 ありがとう! 幸せを教えてくれて。 ありがとう! この曲を聴く幸運をくれて。 ありがとう! 人間の可能性を見せてくれて。 ありがとう! 目標とする演奏を示してくれて。 ありがとう! 妻にすばらしい思い出をくれて。 ありがとう! 奇跡を見せてくれて。 ありがとう! 感動をくれて。 ありがとう! 私の音を見つけるヒントをくれて。 ありがとう! 子供に音楽の意義を教えてくれて。 ありがとう! 子供の頃に憧れたヒーローを思い出させてくれて。 ありがとう! 生きた証を刻むことが出来て。 ありがとう! 音楽への感動を思い出させてくれて。

 

観客席で渦巻いていた感情の渦は最後に私を襲って、観客が沢山の感謝の音を私に残した。

 

 

演奏を終えて、ヴァイオリンから弓を離した瞬間、私の目から一筋の涙が零れ落ちるのであった。

 

 




この演奏でなぜ二位になったのか、気になる方が多いと思いますので、事の顛末とその辺の話しを明日投稿予定ですので、お楽しみに!
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