星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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I want to make my movie. その15

 

-------------星キアラ視点-------------

 

渾身の演奏を終えた私は天にも昇る気持ちだった。 今世での私の役割が終わったのかもしれない。 魂がすっと離れて天に昇るのを感じる。

 

昇った空の先に光が見える。 光の中から天使のお迎えが来たようだ。

 

私は天使の顔を見る。 ・・・・チヨコエルだった・・・。

 

「ぎゃ―――――――――――っ。」

 

私の魂は、裸足で逃げ出して再び現世に降臨して星アキラに戻った。

 

「はぁ、はぁ、はあっ。」

 

危ない所だった。 私があのまま「役目を果たしたEND」で昇天した場合、チヨコエルに捕まって『労働天国』で365日、24時間の奉仕労働(無給)が待っている。

 

清貧な食事で天国で魂を浄化する労働が待っているのだ。 あんな天使に捕まりたくない。 私は一時の気の迷いで昇天などせずに、今世を生き続ける事を心に誓った。

 

ちなみに、悪魔ケイティが連れて行く地獄は『堕落地獄』で、基本的人権が保障されて、みな健康で病気の心配も無く、ベーシックインカムが支給され、衣食住に困らない上に、インターネット完備で、アニメやドラマなどのサブカルも見放題で、言論の自由や表現の自由が保障されて、ニートで堕落奨励という、恐るべき地獄だ。 チヨコエルとケイティのリスナーは大抵ケイティに捕まる事を願っている。 私もケイティの方がいい気がする。 

 

そんな茶番をやっているうちに、1時間の休憩が終わって、最後の子の演奏となった。

 

私は舞台の袖から最後の子の演奏を聴く。

 

見事な演奏だった。 あんな事があったにも関わらず、彼女は自分の演奏を貫いた。 骨太の音響、正確なリズムに正確なテクニック、余裕のあるテンポ。 ヴァイオリンにおける様々なテクニックが要求される課題曲を見事に弾きこなしていた。 彼女はこのコンクールのためにどれだけ練習して来たのだろうか。 おそらくこのコンクールの優勝は彼女だろう。

 

最後の演奏が終わって1時間後に結果発表だったはずだったんだけど、結局発表までに2時間を要した。

 

私は観客席でエマ達と結果発表を見ていると、私は2位で呼ばれて、舞台に上がる。 これは意外だった。 私の演奏はもっと順位が低いか、最悪失格だと思っていた。 だって、譜面を正確に弾いていないからね。

 

そして、1位はやっぱり最後に演奏した子だった。 ホールから観客の動揺の声と大きなざわめきが広がる。

 

そのざわめきを抑えるように審査員長がマイクを持って、順位の理由を説明し始めた。 これは非常に異例の事態だ。 普通は審査委員長は各演奏の感想などをさらっと言う事はあっても、順位の理由付けなんて、説明する事が無い。 そんな物を説明し始めたら、いくらでも後からコンクールの順位に物言いが付くからだ。 しかし、今回はその理由を説明せざるを得ないほどに、異例の状況と言う事だった。

 

「今回の順位は実際の所、審査員間でも非常に揉めました。 それほどまでに、イーファ・ムーツィオの演奏は素晴らしく、パガニーニが生きていたら彼女の演奏を間違いなく称賛したでしょう。 歴史に残る名演であると言い切れて、審査員である私達も彼女の演奏に深く感動しました。」

 

「しかし、彼女の曲を審査した場合の点数付けは難問でした。 音楽的な表現力や個性や創造性、そして技術的な能力は間違いなく満点でした。 その反面、楽曲の解釈やリズムの正確性などに問題が発生しました。 彼女の演奏は特に、いくつかのアレンジを加えており、技術的な難易度は逆に高まったのですが、彼女の演奏は作曲者の意図を超える演奏となっており、リズムの正確性や楽曲の忠実度という面で減点しなければいけませんでした。 例え、作曲者である天才ヴァイオリニストのニコロ・パガニーニが称賛する演奏であったとしてもです。」

 

「対して、1位のパルファン・クールパレの演奏は、全ての項目において、高い得点をたたき出しました。 特にリズムの正確性や譜面への忠実度は良く、表現力や創造性なども減点する要素はありませんでした。 パルファンの演奏はすばらしく全てが高水準であり、彼女の血のにじむような努力成果が存分に発揮されている、かけがえのない演奏でした。 そして、審査員の得点を項目別に集計した結果、パルファンの演奏が1位を獲得しました。」

 

「この結果に異議を唱えた審査員も多く、審査は難航しましたが、このコンクールは、レイラ・オリヴィエ国際コンクールである事が決定打となり、パルファン・クールパレの優勝が決まりました。」

 

「ご存じのように、レイラ・オリヴィエは20世紀を代表するヴァイオリニストであり、音楽教育家でした。 そして、音楽教育家としての彼女が若手の才能あるヴァイオリニストたちにチャンスを与えるために、このコンクールを創設しました。そのレイラ・オリヴィエの視点として、将来に向けてチャンスを与えるべき演奏家はどちらか? 現時点でも素晴らしい演奏で、この1回の演奏だけでも、すでに将来を約束されたイーファ・ムーツィオなのか、それともイーファ・ムーツィオの演奏を間近に聴いて、ライバルとして、将来その音楽性が花開く事を期待されるパルファン・クールパレなのか。 私達は熟考の末、パルファン・クールパレを選択しました。 それが彼女が1位を獲得した理由であり、彼女こそレイラ・オリヴィエ国際コンクールで1位になるのに、相応しい人物です。」

 

「納得が行きません!!」

 

突然、1位のパルファン・クールパレ嬢が声を荒らげた。

 

「こんな説明では、私は納得できません! これでは、イーファ・ムーツィオの演奏の方が素晴らしかったけれども、ただ単に、コンクールのルールで私が勝っただけじゃないですか! こんな恥辱にまみれた1位なんて必要ありません! チャンスなんて与えてくれなくても結構です。 私は自分の力で彼女を超えてみせますから、私では無くて、彼女を1位にしてください!!」

 

彼女は芯が強くて、すごく潔い女性だった。 これだけのメンタルが無ければ、あの後に、自分の演奏なんてできないだろう。 ああ、彼女はどれだけの練習と時間をヴァイオリンに費やして来たのだろうか。 彼女も間違いなくヴァイオリンに捧げる人生を過ごしているはずだ。 この発言をするのにも相当な勇気が必要だっただろう。 私は彼女に好感を持った。

 

私は、口を開いた。

 

「いいえ、1位には貴方が相応しいです。 私は自分の音楽を求めるあまり、コンクールの意図をないがしろにして、自分の演奏に没頭しました。 全てを自制して、力を出し切って、あの素晴らしい演奏を行った貴方こそ、レイラ・オリヴィエ国際コンクールの優勝者に相応しいです。」

 

そう言って、私は頭を下げた。 彼女は目を見開いて固まったまま私を見た。

 

・・・・さて、映画の撮影としては、ここまででいいかな。 とっととネタばらしをしないと、騒動が大きくなりそうだ。

 

「あと、皆さんに謝罪しなければいけない事があります。 実は私は、イーファ・ムーツィオでは無いのです。」

 

会場に、動揺の声と?マークが広がる。

 

「実は、今、映画の撮影をさせていただいていまして、イーファ・ムーツィオ役として今回、コンクールを演奏させていただきました。 ですので、本名はアキラ・ホシと言います。 ですから、こちらのコンクールは失格とさせていただいて大丈夫です。 申し訳ございませんでした。」

 

そう言って、深々と謝罪の言葉と頭を下げた。 

 

頭を下げている最中に声が聞こえた。 雪ねぇちゃんだった。

 

雪ねぇちゃんは堂々と舞台に上がって説明を始めた。

 

「今回の映画の監督をさせていただいている、ユキ・ヒイラギと申します。 今回は映画のシーンを撮影するために、アキラ・ホシに私がこちらのコンクールでの演奏をお願いしました。 コンクールとしてのリアリティを出す面から、名誉あるレイラ・オリヴィエ国際コンクールで実際に撮影させていただいていたのですが、アキラ・ホシの演奏が私の想像を超えて、すばらしい演奏であったために、このような騒動を巻き起こしてしまい、大変申し訳ございませんでした。」

 

「また、審査員の方々にも大変ご迷惑をお掛けしました。 審査員や運営の方には、ドキュメンタリーを撮影すると連絡して、審査結果に影響しないように対応していたのですが、それが逆にこのような騒動を巻き起こしてしまい、申し訳ございませんでした。 重ねてお詫びさせていただきます。」

 

「最後に、1位のパルファン・クールパレさんですが、公平な審査の上で、彼女は間違いなくこのコンクールの優勝者です。 私の目的は、イーファ・ムーツィオがコンクールで演奏するシーンを撮影するだけで、むしろ入賞しないで選外となる事を願っていたのですが、映画のためにアキラ・ホシが表現力の高い演奏をしたために、コンクール本来の意図を外れて、このような論争や、不快な思いをさせてしまって、申し訳ございませんでした。」

 

そう言って、雪ねぇちゃんは、パルファンさんに頭を下げた。

 

「この騒動の責任は私にありますので、もし何かあった場合には、全て私の方で対応させていただきます。 今回は私の我儘によって、皆様に多大なご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。 重ねてお詫びさせていただきます。」

 

最後に、雪ねぇちゃんは観客席に深々と頭を下げた。 

 

そうすると、観客席の数人がパチパチと拍手を始めた。 そして、その拍手が全員に広がって行く。 審査員も、他の出演者もみんな拍手をして、ほぼ全員にその拍手が広がり、口笛なども飛び、レイラ・オリヴィエ国際コンクールは円満に終了した。

 

唯一、パルファンさんだけは憮然とした表情をしていたけどね。 まぁ、彼女は今回の一番の被害者だから・・・。

 

その後、運営の方で、参加者を集めて、アキラ・ホシを2位にするか、失格にするかの聞き取り調査をしたのだけど、その参加者達は軒並み2位にする事を了承した。 ただし、イーファ・ムーツィオではなくて、アキラ・ホシでクレジットするようにと言う子が多かった。

 

ヴァイオリニストの間で、アキラ・ホシの演奏は度々話題になっており、中には僕のファンである子も居たようだ。 結果、物言いを付けて恥ずかしい思いをするよりも、映画で使われたコンクールに参加したり、実際に上位に入賞したという名誉をとる事にしたようだ。 今後の人生でも、良い話のネタになるしね。

 

また、コンクールの運営も僕を失格にして、変な論議や憶測を巷に巻き起こして、コンクールの名誉を失墜させるよりも、最初に審査した通りの順位にして、それを宣伝材料にレイラ・オリヴィエ国際コンクールの知名度を高めた方が良いという判断だった。

 

唯一、1位のパルファンは、1位を辞退する事に拘ったけれども、僕がいくつかの条件を飲む事で最終的には彼女も優勝を了承してくれた。

 

なお、雪ねぇちゃんはちゃっかり、そんなパルファンに映画出演をお願いしていた。 今回の騒動のまとめといい、実利の取り方といい、サバイバル能力といい、実は雪ねぇちゃんが一番の大物だって事は無い?

 

こうして、結果オーライでレイラ・オリヴィエ国際コンクールは幕を閉じて、僕は、アキラ・ホシの名前で正式に2位としてクレジットされた。

 

その後の懇談会で、僕は、沢山の同年代のヴァイオリニストや演奏家と交流を持つ事になり、パルファンとも友達になって、実りの大きいコンクールになったのであった。

 




ちなみに、パルファン・クールパレさんは、宮園かをりをフランス語に直した名前となります。容姿も大体、彼女の容姿を想像してもらえれば大丈夫です。
こちらの人は健康なので安心してください。

彼女は、今回のコンクールの経験から、コンクール以外の演奏では楽譜を自分なりに解釈して、人を惹きつける情熱的な演奏をするようになるというバックストーリーがあったりもします。

そのうち、閑話で彼女のその後の話や、アキラ君と共演する話などを書こうかなと思っています。
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