星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
-------------朝野市子視点-------------
私の名前は、朝野市子。 元は朝野いちごの名前で活躍していた、若手ナンバーワンの天才美少女俳優である。
・・・・いや、空しい自己紹介って事はわかっているけれども、自己紹介ぐらいは夢を見させて欲しい。
最近は、後輩の追い上げが激しすぎて、F4のちょっと上の世代だと、若手ナンバーワンは誰だろう? みたいな話題の時にやっと出るぐらいである。
しかも、最近、同じ事務所のオフィスベリーに来た後輩の日尾和葉が猛威を振るっていてヤバイ。 あの女版王賀美陸。 怖い物を知らないって言うのがマジヤバイ。 傲慢で、気分屋の性格。 でも芝居は光るものがある。 これは扱いに困る。
和葉は、あの王賀美陸を連想させる存在感と靡かない孤高の性格から来る有無を言わせぬ魅力。 間違いなく逸材だとは思う。
モデル出身で、芝居未経験であの才能はとてつもない。 私が持っていない才能だからすごく羨ましい。 ただ、才能はすごいけど、あの舐めた態度で芸能界を渡っていけると思っている所が一番ヤベェ。
そのせいで、和葉はこの前、大事件を起こした。
マネージャに聞いた話だと、ドラマで勝手気ままに振舞う和葉をスターズの九条百合がフォローしたみたいだけど、それで九条百合に勝った気分になって、調子に乗ってアキラ君の事を馬鹿にするような事を言ったらしい。
その瞬間、現場はドン引きで、和葉のマネージャがすぐに謝って許しを請ったらしいだけど、九条百合とそのマネージャはカンカンに怒ってしまい、その夜にアキラ君から私の所に電話がかかって来て、「オフィスベリーは潰れても、いちごお姉ちゃんはちゃんと芸能活動を続けられるようにしてあげるからね。」って言われて、私は真っ青になってタクシーを呼んで事務所に行ったら、スターズの九条百合が、『ドッキリ大成功!』\テッテレー/の看板を持っていたのには脱力した。
事務所の中では、社長やマネージャ達も頭を抱えていて、同じようなドッキリを喰らったらしい。
ただ、社長曰く「これですんで本当に良かった。」と言っていた。 アキラ君が手を回して、一番キレた九条百合とそのマネージャの溜飲を下げて、文字通りシャレた落としどころで遺恨無く、円満に事態を解決してくれたという事だ。
このドッキリの話しは、スターズとオフィスベリーの両方から笑い話として伝わり、この場面を見ていた人達にも、スターズとオフィスベリーに遺恨が無い事が伝わって、なんとか最悪の自体は回避できた。 アキラ君がスターズの次期社長で、こういった部分まで気が回る人で良かった。
もし、和葉がバカにしたのが、九条百合本人であったり、千世子ちゃんや景ちゃんでも馬鹿にしたのなら、こんな落としどころは用意されずに、和葉の芸能人生が終わっていた事だろう。 ただ、本当に本気でアキラ君を怒らせたら、和葉ごとオフィスベリーも終わるけどね。 たぶん塵すら残らない。 和葉、頼むから核地雷の上でパラパラを踊らないで。
今回の事件はアキラ君が笑って済ませてくれて本当に良かった。
この事件の後から、和葉を教育するのがオフィスベリーの至上命題となった。 でも本人がやる気にならないと上手く行かないし、すごく難しい。
和葉は、そもそも女優をやる気はそんなに無い感じだけど、周りの人が放っておけない才能がある。 だから周りが和葉を持ち上げた結果、今回の事件である。
社長も甘やかしすぎたって反省している。 もう一度同じような事件を起こしたら、今度こそ和葉は終わりだろう。 その前に和葉にはやる気になって、自分の才能を磨いて欲しい。
とは言っても、その才能も同い年の夜凪景と比べてすごいかと聞かれれば、うーんって考えちゃうのよね。
相手は、子供の頃からメソッド演技の天才で、さらに星アリサの英才教育、アキラ君達周りの支援も考えると、とても太刀打ちできないよね。 景ちゃんが才能がある事に胡坐をかいて、天狗になっていればまだつけ入る隙はあるかもしれないけど、周りの付き合いがある人間が、星アキラ、百城千世子、明神阿良也じゃ、とても天狗になる暇すらないよね。 現状、天狗になっているのは和葉の方だし。 あんたが天狗になってどうするのよ!
たぶん、本人が景ちゃんや千世子ちゃんと共演した事が無いから、上には上が居る事に気が付いていないよね。 F4はここ最近、みんなシカゴで楽しそうに撮影していたから、F4と共演する機会も無いし、こいつ、小説やファッション誌ばかりを読んで、F4が出演する映画とかもほとんど見ないし、そもそもスターズ自体があの事件以来、和葉との共演に自分の所のタレントを出すのを慎重になっている。
どちらにせよ、和葉にライバルとして夜凪景はあまりにも強力すぎる。 せめて、和葉も景ちゃんの一個下の年齢だったら・・・。 あっ、一個下には木梨かんなが居るのか。
アキラ君が監督した『イカ娘 ☆ The MOVIE! 』で突如、大ブレイクした木梨かんな。 あのままお笑い元気っ子路線で売って行くのかと思ったら、映画がひと段落したら、相方の新名夏と共に、まさかの化粧品CMデビュー。 そこで元気っ子から、驚きの可愛い表情を見せたと思ったら、今度は鈴木慎太郎監督の映画、「心理の狩人」で女子高生でありながら、サイコメトリー能力を持つ、少し陰のある主人公として、犯人役の高田高二郎を相手に熱い心理戦を熱演。 彼女の役者としての能力を見せつけて、普段の元気っ子とのギャップにズッキューンとやられた人多数。
芝居未経験って意味では、木梨かんなの方が経験が浅いのよね。 ちょっと前まで芸能事務所にすら入ってなかったんだし。 日尾和葉 VS 木梨かんなか。 うーん。無理。
木梨かんなは、あの珍獣が直接スカウトした逸材だし、星アリサに無礼な態度は取らないようにしっかり躾けられているし、事務所はスターズで全く隙が無い。
なによりも、本人が元気で明るくて、人当たりが良いので、傍若無人の和葉とは真逆である。 演技力は互角だとしたら、現状、木梨かんなに和葉が勝てるとしたら、モデルで鍛えた顔ぐらい?
しかし、一個上にはもちろん百城千世子が居る。 あの化け物はどうしょうも無いから置いとくとしても、同じく一個上に新名夏が居た。
あの日本中を話題沸騰させたアイドル総選挙で3位の上に、アイドルグループの元センターという実力の持ち主。 和葉は元モデルで、新名夏は元トップアイドル。 美人対決をすると、新名夏の方が上じゃ無いのかなぁ・・・。
その新名夏は、アイドルグループの敏腕プロデューサーの怒りを買って、一時は干されていたんだけど、そこを珍獣が拾ってきて、木梨かんなと共に『イカ娘 ☆ The MOVIE! 』で大ブレイク。
そのまま木梨かんなとコンビを組んで、美人メイクで化粧品CMデビュー、そして本郷拓也監督の映画、「スターダスト・コントラスト」でアイドルの光と影を熱演。 元々、トップアイドルだったという経歴と、彼女自身の演技力の高さを評価されて、彼女のアイドル時代のファン達は、さよなら公演も無くアイドルグループを去った後に、再び見れた彼女のアイドル姿に涙したらしい。
私もこの映画を観たけれど、役者としての演技の地力が凄かった。 元アイドルとして魅せる以上に、光と影がある偶像を役者として見事に演じ切っていた。 現役のアイドルを連れて来てもこうは行かない。 すでに彼女は元アイドルではなく、トップクラスの演技力を身に着けた一流の女優に変身している。
この映画を観たアイドルグループのプロデューサーは、「俺は、なぜ新名夏を手放してしまったのか。」と人前で泣いたらしい。 そして、この映画の後に新名夏を辞めさせた事を正式に謝罪して、今では両者は和解したのを人伝てに聞いた。
自分の演技力で、自分を追い出したプロデューサーを見返すとかカッコイイ。
うーん。 和葉が傲慢なままで勝てるビジョンが全く見えない。 そもそも、あの王賀美陸ですら日本の芸能界を干されたのに、そのスケールダウン版の和葉がやって行く道はあるのだろうか?
「市子先輩、なに頭を捻っているんですか? 会場はもう開いているんですから、そんなところに突っ立っていないで、ほら行きますよ。」
私が頭を悩ませている問題児本人が、空気を読まずに私に無礼な態度で声をかけて来る。 こっちは和葉の将来を思って悩んでいるんだから、ちょっとは殊勝な態度を心掛けてよ。
会場には、大きなスクリーンが貼ってあって、しっかりとした音響設備も運び込まれている。 ただし、客席には固定式のテーブルと椅子が並んでいる。 なんか、小学校の時に体育館で映画を観た事を思い出して、ちょっとワクワクした。
「・・・ヘボい椅子。 何で柊監督は、こんな会場で映画の舞台挨拶をやる気になったのですかね? 自主製作した映画ならともかく、全世界同時公開の注目の映画なんですよね?」
和葉は椅子に文句言った。 ここまでブレないと清々しい物がある。
「雪はこの学校の学生だからね。 出来上がった映画を母校で公演するのは当然だと思うわよ。 ましてや、彼女は映像研究科の学生なんだし、母校に錦を飾るのは名誉よね。」
そう、今日は雪が制作した映画の公開初日であり、その初公開と舞台挨拶はこの阿佐ヶ谷芸術大学の大講義室で開催されるのだ。