星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
-------------朝野市子視点-------------
本日は雪が制作した映画の公開初日であり、その初公開と舞台挨拶はこの阿佐ヶ谷芸術大学の大講義室で開催される
そして、その舞台挨拶を見ようと、沢山のファンや報道陣が駆けつけていた。
「あっ、朝野、こっちこっち!」
先に来ていた山田が声をかけてきた。 もちろん、私達は雪に特別席のチケットをもらっていた。
「ほら、和葉こっちよ。」
「・・・この席狭い・・・。」
「せっかくあなたのためにこのプラチナチケットをもらったんだから、文句言わないの。」
「私のチケットなんてもらわなくてもいいのに。 私をここに連れてきたのは事務所の意向ですか?」
「違うわよ。」
「じゃ、なんでなんですか?」
「あなたに本物を見せたくて。」
「本物?」
「そう。本物。 周りを見て見なさい。 あなたの同年代のライバルがいっぱい居るでしょ?」
私達の二個前の席には新名夏と木梨かんなが楽しくおしゃべりしている。その近くには去年ブルーリボンの助演女優賞を取った阿笠みみがいる。
ちなみに、私は18歳の時にブルーリボンの主演女優賞を取っている。 つまりみみちゃんよりも私の方がエライのだ。 えっへん。 ・・・・空しくなるだけだから止めておこう。 そもそも主演の方が助演よりもエライなんて無いし。
私達の横には湯島茜や源真咲、烏山武光などの景ちゃんと仲が良い俳優達。 さらにその前に環蓮や渡戸剣などの大物俳優達で、左側には和歌月千や合原佐和、鳴乃皐月、堂上竜吾などのスターズの面々、さらに三坂七生や青田亀太郎と言った劇団天球の人達も勢ぞろいだった。
そして、一番前の席には雪の師匠である黒山墨字や手塚由紀治、犬井五郎などの映画監督や映画の関係者が座り、その後ろに学校関係者や景ちゃんのお母さんや双子や千世子ちゃんの両親、走れケイティを制作している絵麻さんやあおいさん達も居た。
ちなみに、星アリサは胃が痛くなるのが嫌で、こちらの舞台挨拶は全てアキラ君に任せて、自分は会場に来ない事にしたらしい。心中お察しします。
「ここにはあなたのライバルやあなたが媚びを売らなければいけない人達がみんな集まっているわ。 だからよく見ていなさい。 この人達が絶対に無視をすることが出来ない本物というやつがこれから出て来るから。」
私は、かっこよく後輩に言ったんだけど、和葉は笑い始めた。
「あっははははっ。 市子先輩、この映画がそんな本物な訳が無いじゃないですか。 だって、百城千世子達四人がボロ家でバラエティもどきのドキュメンタリーを撮っているだけですよ。 先輩は柊監督の友達だから、ちょっと良いように見えているだけですよ。」
・・・確かに。 実はこの映画の大体のあらすじは公開前から知られていた。 なんせ撮影シーンが事前にドキュメンタリーとして放映されているのだ。
ドキュメンタリーの内容は、F4をアメリカのボロ屋に集めて、家の改装をしたり、異文化交流を楽しんだり、家庭菜園を作ったり、湖に釣りに行ったり、雪からの指令でミッションをこなしたり、ゲームをしたり。 映画を撮影するという体裁を取った、面白おかしいドキュメンタリーだった。 なんていうか、アルフとかフルハウスみたいなちょっとメタい、昔のアメリカホームドラマのエッセンスも入っていたりする。 あの観客の笑い声が入るドラマみたいな感じだ。 実際に撮影スタッフや観衆の笑い声や物音も普通に入る。
さながら、アメリカホームドラマと水曜どうでしょうと鉄腕ダッシュを組み合わせた、ぶっつけ本番のバラエティ型ドキュメンタリーだった。
元の題材が面白いので、結果、ネッコフリックスで放映して、全世界で大人気の番組になったんだけど、これが本当に雪が作りたかった映画だとは思えないんだけど・・・。
ちなみに映画の題名は『ユーモレスク』で、 英語の「ユーモア」と同じ語源らしい。 ようはユーモアの塊のような映画と言う事だ。
それで、この映画の見どころはドキュメンタリー本編で放送されなかった、柊監督本人の撮影映像が満載という部分を売りにしていて、あの時の裏話とか驚くかもしれませんと、雪がドキュメンタリーで語っていた。
なので、映画の内容は、ほぼ「ネッコフリックスでのドキュメンタリーの総集編+新しい映像」という感じだと世間では考えられていた。アキラ君のコンサート2位もその辺の映画撮影のための無茶ぶり指令だと思われていて、その辺もマーケティングが上手いと評論家から評価されていた。
ちなみに、和葉はこの映画に来る前に事前知識として事務所の方でネッコフリックスのドキュメンタリーを強引に観させられていた。 映画を観に来た際に、他の人に話しかけられた場合に話題を合わせられて失礼が無いようにする事と、トップを走っていてもこうやって体を張ってお金を稼いでいる事を見せるためであったが、和葉の感想は、「あんなので高いギャラもらえるなら私もやりたい。」ぐらいの舐めた感想をぶちかまして、周囲をキレさせていた。
「ねえ山田、話題作りの面から雪のドキュメンタリーのファンを取り込めるから、映画の収益でまず赤字になる事は無いとは思うし、マーケティングとしても満点だと思うんだけど、雪がそんな映画を作るかなぁ?」
「無いね。 柊は今回の映画で製作費に困っていた訳じゃないし、そもそも柊の編集能力を考えると、ドキュメンタリーの裏で全く別の映画をもう一本作っていても驚かないよ。 柊は中学生の頃から星アキラのYoutubeの編集を一手に引き受けてきたんだから、その辺の構成の切り分けが得意だし、ネッコフリックス側が自社放送分のドキュメンタリーの編集はやるからね。 柊は、モキュメンタリー(フィクションドキュメンタリー)を作るって言っていたじゃないか。 あの内容だと、ドキュメンタリーであって、モキュメンタリーじゃないよね。」
「そうよね。あのまま総集編を出すのが、すっごい安パイの気がするんだけど、そもそもバックに付いているのがあの珍獣だし、あの珍獣が安定した麻雀を打ってくるかなって所があるわよね。 雪の処女作なら、絶対に国士無双を狙ってくるわよね。 そのためにF4を総動員したんだろうし。」
「そもそも、噂されている映画の内容なら、F4を使わずにお笑いタレントでも使えばいいんだ。 わざわざスケジュールがきつくて、出演料も高額なF4を使うメリットがほとんど無いよ。 あの化け物4人が本気で演技するんだから、たぶん想像と違うとんでもない映画になっているんじゃないのかな?」
「そうよね。 そうじゃないと、あの最前列の気難しい映画関係者達も、招かれたとは言っても公開初日に舞台挨拶まで見に来ないわよね。」
そんな、私達の会話を和葉はつまらなそうに聞いていた。
舞台挨拶の時間になった。 ドアが開いて、雪を先頭に、理事長、千世子ちゃん、キアラ嬢、阿良也君、景ちゃんの順に入って来る。 大講堂の中にワーっとファンの歓声が響いた。