星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
イーファがヴァイオリンを構えて演奏を始めた。
イーファが音を出した瞬間に私は驚く。 何に驚いたとか、そんな理由はない。 ただ、純粋にイーファがヴァイオリンから発した音に驚いていた。 いや、私の心は、イーファのヴァイオリンによって、「驚く」という感情を引き出されていた。
映画の中で、実際にイーファを見ている観客も驚いているのがわかる。
そして、イーファが演奏をしていくと、一つ一つの音が私の琴線に触れて、自分の感情や思い出が引き出されていくのを感じる。
私達、映画を観る観客の心は、コンサート会場の観客とシンクロして、イーファのヴァイオリンに魅入られ始めた。
そして、ヴァイオリンが奏でる音が、私の感情と共に、様々な思い出を引き出して行く。
すごく不思議な体験だった。 子供の頃に幼馴染の子とケンカした思い出、パパにぬいぐるみを買ってもらってすごく喜んだこと、ママとバスに乗って近くの川まで探検した思い出、つらい撮影に涙を流しながら耐えた日々や、自分が売れなくなって実力を見せられない悲しみ、ドラマが当たって賞をもらった時の喜び、阿佐ヶ谷芸術高校映像科で映画の制作を学ぶ日常。
イーファの曲が刺激となって、私自身が忘れていた、数々の感情を動かされた思い出が、セピア色の思い出から、再び原色の絵具に塗られて、鮮やかに生き返るように私の脳裏によみがえってくる。
その中で、私がなぜ、あきらめずに女優を目指して芝居を続けたのか、自分自身の原点を感じて、涙が溢れ出してくる。
そうだ。私は朝野市子。 子供の頃から、沢山の人に感動を与えたくて、女優になったんだ。
見ている観客の人生を、鏡のように映画から映し込む、まさに魔法のようなイーファの演奏。
イーファの奏でるヴァイオリンによって、観客の心が一つになって、劇場が竜巻の渦のような感情の嵐に襲われる。
銀河鉄道の夜とはまた違った、人間が生きるために感じる、生の感情をリアルに呼び起こす至極の演奏。
クラシックでヴァイオリン、しかもコンクールでの演奏と言う、本来はもっとも洗練された音楽のはずが、今のイーファの演奏は、人間が持つ様々な感情を纏いながら巨大化していく原始的な暴風雨だった。
そして、様々な楽章とともに変化する、みんなの感情が打ち付ける暴風雨に、小舟に乗った私が翻弄されていると、ふと嵐が終わって陽が差す光景を感じる。
演奏の終了と共に、一気に雲が晴れて、青空が広がっているイメージが私に舞い込んできた。
私がこの演奏で最後に見た光景は、両親と一緒に夏の家族旅行で行った、高原のてっぺんで見た世界一青かった青空と、地面いっぱいに咲いていた花の光景だった。
最後にイーファは演奏を終えると、一筋の涙を流した。 最後に私が思い浮かべた青空の光景と、イーファの涙があまりにも美しすぎて、私は涙をポロポロと流しながら、スクリーンを見つめている。
そして、映画の中でコンサートを実際に見て、呆然としている観客が我に返って、涙を流しながら立ち上がり、スタンディングオベーションで彼女の演奏に拍手を送る。同時に、映画のシーンに合わせるように、この会場で映画を見ている観客達も、このシーンで一緒に拍手をしていた。
最後に、演奏のシーンはエマのズームに変わる。
彼女は周囲の観客が総立ちで拍手を送る中、一人、観客席で座って、呆然となってボロボロと涙を流していた。
純粋な感動だけでは無い、絶対にかなわない、彼女の才能への嫉妬を感じさせる芝居。
そして、コンクールが終わって、イーファが二位となる。 観客はみんな何で?って思ったけれど、審査員の説明で理解した。
一位になった子が抗議していたのが印象的だった。 っていうか、これ、本当のコンクールでやったのよね? 実際に星アキラが二位になったんだし。
コンクールで本当にこんな演奏をしたのなら、頭のねじが数十本飛んでいる。
ガチのやたらと、リアリティのあるシーンが映画の中で展開される。 面白い。 っていうか、もう映画から全く目を離せない。
心情を描き出す美しい映画のシーン、魔法のような演奏、高ぶる感情。 私は雪の術中にはまって、この映画の魅力から抜け出せなくなっていた。