星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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I want to make my movie. その19

 

ユーモレスクのアメリカ公開記念の舞台挨拶とイベントが始まった。

 

舞台の幕が上がると、シカゴ交響楽団が待機していて、指揮者のおじいさんがおもむろに指揮を始める。

 

イベントの開始は、私達の挨拶では無く、シカゴ交響楽団が演奏するE. エルガーの行進曲「威風堂々」による演奏だった。

 

この後に控える映画の内容に影響するような楽曲ではなくて、これから始まる映画に対する期待を盛り上げるような粋な演出だ。

 

映画に対する期待がこれ以上無いまでに高まった所で、いよいよ私達の舞台挨拶の出番となってしまった。

 

幕が開けた舞台に出て行き、観客席を見ると、誰でも知っている有名なハリウッド俳優や有名人、アキラ君の友達のIT経営者、地元や大学の名士などそうそうたる面々が並んでいる。もちろん、ノース・ウェストン大学の教授達や、私の映画に出演してくれた人や、シカゴでお世話になった人達、私の映画の編集を手伝ってくれたハリウッドの有名ディレクターや映像編集者、音響技術者の人達も観に来ていた。

 

今、指揮を終えたシカゴ交響楽団のおじいさんが貴賓席に着いた。 後ろの方でもシカゴ交響楽団の人達が物音を立てないように、ゆっくりと自分の席に着いていた。どうやら音楽監督のおじいさんやシカゴ交響楽団の楽団員の人達も他の方々と同じように席から映画鑑賞をするらしい。

 

いやが上にも私の緊張が高まる。 カメラの前で撮影されてるのと、沢山の人が見る舞台の上に立つのとでは緊張度がまるで違う。

 

沢山の客席から舞台に立つ私に注目する、沢山の目、目、目。

 

私は緊張でカチコチに固まった。 そして胃がきゅっとして、胃の内容物がのどのあたりにぐぐっと持ち上がって来るのを感じる。

 

こうなるのが嫌で、日本では母校に錦を飾りたいとか言う適当な理由で、比較的狭い講堂での舞台挨拶にしたのに・・・。

 

あちらはほぼ知り合いだけで、前の方の席を固めた安心の舞台挨拶だったから、そこまで緊張せずに挨拶できたのに、今回のように世界的な有名人達に逆に注目されながら話すなんて、死ぬほど緊張する。

 

私はアキラ君達とは違って、別段見ず知らずの人の前に出る事に慣れている訳では無いのだ。 私の心臓が今にも爆発しそう。それ以上に私の胃がヤバイ。 

 

もってくれよ私のメンタルと胃!

 

幸いなことに日本とは違って、シカゴの舞台では、私でも知っている有名なアンカー(テレビ番組の総合司会者)の方が舞台を取り仕切ってくれた。

 

「Yuki、ついに君の映画が公開されるね。今の気分は?」

 

「あまりの緊張でゲロ吐きそうです。」

 

ドッと会場に笑いが起きる。

 

「すごく緊張しているようだね。 隣の友達達はリラックスしているみたいだけど?」

 

「こんな人前でしゃべるのが仕事みたいな友人と一緒にしないでください。 あまりの緊張で足がガクガクと震えて来ました。」

 

「面白いね。 全米を席巻したドキュメンタリーではここまで緊張してなかったよね?」

 

「カメラの前と違って、こんなに沢山の人達に生で注目されると、もう頭が真っ白になって何を口走っているか分からないです。」

 

この時の私は、ゲロを吐かない事に全力を尽くしていて、本当に頭が真っ白になって、正直な話、自分でも何を口走っていたのか分からなかった。 そして、なぜかそんな私を見て会場が爆笑に包まれていた。

 

こうして他のメンバーにもアンカーのインタビューが続き、映画の見どころやエピソードなどを私の代わりに語ってくれた。

 

私は緊張のあまり、ゲロが胃から喉に上がって来ないように油汗を流しながら耐えていた。 そして、最後にまた私にマイクを向けられた。

 

「Yuki、今一番やりたい事は?」

 

「早く裏に行ってゲロ吐きたいです。 ここで吐いたら、私の所属するスタジオがスタジオ大黒天からスタジオゲロ酷天になっちゃいます。 あっ、誰か私が吐く用のバケツを用意しておいてください・・・。」

 

余裕のない私は、真っ青になりながら、今の気持ちを本当に素直に答えた。

 

会場では今日一番の大爆笑が起きるのと同時に、拍手が鳴り響いた。 そしてなぜか観客全員の拍手で私達を送り出してくれて、舞台挨拶は終えた。 私は口を押えながら舞台裏に引っ込む。

 

舞台裏にはすでにバケツが用意してあって、その中に私はゲロゲロした。 

 

プライベートジェットの料理が美味しくて、あんなに食べるんじゃなかった・・・。 あの高価な食事を私は全てリバースしてしまった。 プライベートジェットによる優雅なはずの旅の記憶がゲロの記憶で上書きされて行く・・・。

 

私が自分の記憶のミーム汚染と戦いながらゲロゲロしていると、みんなが近くに来た。

 

「今日は雪お姉様にすべて持って行かれましたわね。」

 

そう言って、キアラちゃんは私にペットボトルの水を差しだしてきてくれた。

 

「本当ね。あんなに面白くて観客の心を掴むなんて、雪ちゃんは生粋のエンターテイナーね。」

 

「ゲロ監督が誕生して嬉しいですっ。 これで私一人がゲロ女優とか言われないで済みます。」

 

「雪の体を張ったパフォーマンスは本当にスゲェな。」

 

一旦ゲロってスッキリした後に、ペットボトルの水で口をゆすぎながら、自分が舞台挨拶の時に何を口走ったのかを思い出して、さ~っと冷ややかな汗が背中に流れた。

 

私は舞台の上で何かとんでもない事を口走っていたような気がする・・・。

 

「まっ、まぁ、ここで変な事を口走っても、観ている人は限られるから、大丈夫よね・・・。」

 

私は、みんなに同意してもらうべく、最後の希望をしゃべった。 無理に笑おうとするが、顔が引きつっているのが自分でもわかる。

 

「えっ? この舞台挨拶は初公開記念として、全米の映画館とネットにライブ中継されていますわよ?」

 

キアラちゃんから告げられた事実は、希望を見出す光の道では無く、地獄へ続く断頭台への宣言だった。

 

「・・・・・終わった。 私の監督人生。 これから私はゲロ監督の烙印のまま、後ろ指を指されながら生きて行くんだ・・・。」

 

「まっまぁ、あの勢いですと、今頃はスタジオゲロ酷天がトイッターのランキングで一位を獲得していそうですけど、大丈夫ですよ。 雪お姉様ならそんなパフォーマンスによる話題作りに頼らなくても、監督の実力を見せられますわ。」

 

「監督の真の実力を見せた結果がこれなんだよなぁ・・・。」

 

「阿良也さん、たとえ真実でも、雪お姉様にそんなプレッシャーをかけるような事を言ってはいけませんわ!」

 

「キアラちゃんのそのフォローの方が雪ちゃんには痛いと思うわよ?」

 

「大丈夫ですっ。 映画でゲロを公開した私よりはずっとマシですっ。それにゲロ仲間が出来てとっても嬉しいですっ。」

 

「景ちゃん、それ、私には何のフォローにもなっていないんだけど・・・。」

 

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ちなみに、私のこのゲロスピーチで後年、一番風評被害を受けるのは、実は墨字さんで、

 

「スタジオゲロ酷天のゲロを吐かない方の監督。」

 

「好き嫌いは分かれるが、日本を代表する世界最高クラスのすばらしい映画監督。 ただしゲロは吐かない。」

 

「こんな素晴らしい映画を作っているのに、ゲロを吐かないとか恥ずかしく無いの?」

 

「所属女優ともう一人の監督はゲロを吐くのに、頑なにゲロを拒み続けるスタジオゲロ酷天の異端児。」

 

「流石はスタジオ大黒天でゲロを吐かないだけの事はある。」

 

「日本に現れた映画界の風雲児。 しかしゲロは吐かない。」

 

「確かに黒山監督は世界トップクラスのすごい映画監督だと思う。そこは認める。でもゲロを吐く分、柊監督の方が上だと思う。」

 

「黒山監督は、柊監督の師匠なのにゲロは吐かないからなぁ・・・。」

 

など、墨字さんが制作した映画で世界的に有名になった後に、本人が関係ない所で弄られまくり、これを見た墨字さんは青筋を立てるのであった。

 

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