星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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I want to make my movie. その20

 

-------------柊雪視点-------------

 

みんなと話をしていると、劇場の方から笑い声が聞こえて来た。映画が始まったようだ。

 

日本でも舞台袖から笑いや感動が良く伝わってきたけど、欧米の方がリアクションが良いせいか、笑い声や驚き、感動の声がさらに強く伝わってくる。

 

映画で狙い通りのリアクションを、観客がしてくれるとすごく嬉しい。

 

イーファが「Butter-Fly」や「シュガーソングとビターステップ」を演奏しながら、坂木兄妹が大道芸を披露するシーンでは、映画の観客も映画に合わせて手拍子をしてくれている。

 

イーファがアニメにハマるシーンも爆笑を生んで評判が良さそうだ。 海外でも観客は、日本のアニメも受け入れてくれている。 これを機に日本のアニメを観てくれる人が増えると私も嬉しい。

 

私は舞台袖から観客の反応を息をのんで観察していた。

 

そして、映画はイーファがコンクールで演奏するクライマックスを迎える。

 

イーファの暴風のような演奏が観客席に吹き荒れて、みんな感情を揺さぶられて涙を流している。

 

このシーンと、この後にイーファがカントリーロードを演奏するシーンは、コンクールで録音を手伝ってくれた、クラシック音楽で有名なレコーディングディレクターさんが、コンクールでの撮影後に、是非自分も音響編集に加わらせてほしいとお願いしてきたシーンだ。

 

このレコーディングディレクターさんは、クラシック一本で、映画音楽みたいな音響編集はやらない事で有名だった。 その人が自分の主義を曲げてまで協力してくれたシーンだ。 もちろん、私は二つ返事でOKして、一緒にハリウッドのスタジオに籠って、音響の編集をした。

 

結果、あの時のコンクール会場の再現どころか、さらなる感動を生むとんでもないシーンになってしまった。

 

このレコーディングディレクターさんはヨーロッパを中心に活動していたけれども、今回ハリウッドで音響編集を行って、とても刺激になったし、この映画の音響編集として携れてとてもうれしいと言ってくれて、私も喜んだ。

 

そして、映画はスタッフロールが流れて終了する。 みんな映画の感動の余韻を楽しんでいる。

 

しかし、今回はここで終わりではない。 実は、映画が終わった後に、休憩を挟んで、第二部の公演があるのだ。

 

第二部はなんと、シカゴ交響楽団と、キアラちゃんとパルファンちゃんの共演によるコンサートだ。 アキラ君の友達とかは、これを目当てにシカゴまでやってきた人が多いという。

 

第二部のコンサートが幕を開けた。

 

1曲目は、E. エルガーのエニグマ変奏曲 ニムロッドから始まった。

 

映画の余韻をそのまま楽しむような交響楽団による素敵な曲が奏でられる。映画を観た後に感動もひとしおという感じで、観客もみんなうっとりと聴き入っていた。

 

映画前に演奏された、「威風堂々」に続くエルガー繋がりの素敵な選曲だった。

 

そして、舞台にキアラちゃんとパルファンちゃんが上がる。

 

続いて演奏された曲は、サラサーテ/ナヴァラ Op.33

 

舞台上のキアラちゃんとパルファンちゃんの二人が、一緒に陽気な街並みを歩いているようなテンポが良い曲だけど、実は超高度な楽曲をオーケストラをバックに二人で軽やかに演奏する。

 

ヴァイオリン同士の一つ一つの音を合わせるだけでもすごく難しそうなのに、それを二人はいとも簡単に軽やかにやってのける。 直前まで音合わせをした事が無いとか信じられない。

 

もちろん、あの映画のシーンを再現したような演奏の前に、2曲目なのに観客から熱狂的な拍手が送られる。

 

そして、三曲目はバッハ: 2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV 1043

 

キアラちゃんとパルファン嬢がまるでヴァイオリンで会話しているかのような、美しいフレーズに荘厳なオーケストラのバックが付く。

 

本当に聴き入る。 映画みたいに感情を揺らす方向では無くて、二人のヴァイオリンのハーモニーと、音楽の良さというのを存分に引き出したかのような演奏。

 

3曲を演奏し終えた所で、大音響の拍手でコンサートは終了し、シカゴ交響楽団の人達とキアラちゃんとパルファンちゃんは一旦裏に引っ込んで行った。

 

しかし、拍手は鳴りやまない。 そう。 アンコールの時間だ。

 

四曲目は、タイスの瞑想曲。 なんとパルファンちゃんがヴァイオリンで、キアラちゃんがピアノでの伴奏という変則技である。

 

静かで落ち着くメロディーが二人の演奏によって、段々と情熱的に変わって行く。

 

愛で感情が揺れる。 ヴァイオリンとピアノの音にリードされて、またあの映画のシーンを思い出す。

 

二人の演奏技術と、それ以上の精神的な価値をまざまざと見せつける至極の演奏。

 

情熱的なクライマックスを終えた曲は、美しい和音を響かせながら甘美で静かに終わった。

 

凄まじい拍手と共に、コンサートの幕が閉じる。 しかし、素晴らしい演奏の前に観客の拍手は鳴りやまずにアンコールの嵐だ。

 

拍手が全く鳴りやむ気配がない。

 

再び、指揮者のおじいさんとイーファとパルファン嬢の三人が出て来た。

 

そして、シカゴ交響楽団の人達も再び席に戻る。

 

会場ではさらに大きい、信じられないような音圧で拍手が鳴らされる。

 

そして、オーケストラの広がりとともに壮大に始まるアンコール曲。

 

 

最後の曲のイントロがシカゴオーケストラから奏でられると同時に、私は耳を疑った。

 

この曲はクラシックでは無かった。いや、日本のアニメ好きは良く聞いた曲だ。シカゴ交響楽団による前奏だけで鳥肌が立った。 

 

このメロディーで始まった曲は、ゴダイゴ(タケカワユキヒデさん)の銀河鉄道999だった。

 

確かに、私も劇中でこの曲を使ったけど、ここで演奏されるとは思わなかった。

 

国産のアニメ映画なんてジャンルが確立していなかった1979年に、東映アニメーションが初めて手がける自社制作映画のエンディングを飾った曲。

 

「大人向けアニメ映画なんて誰も見ない。」なんていう常識の中で制作されて、前評判を覆して空前のSFブームとアニメブームを巻き起こした、日本のアニメにとって様々な意味でのパイオニアとなる映画。

 

そして、このエンディング曲も、ロックやポップを使ったアニメソングが無い中で、常識を変えてやると意気込んで作られた曲。

 

原作者である松本零士先生すら、別れで終わる物語の最後に、クラシックで静かな悲しさがあるエンディングを考えている中で、それを覆してストーリーの解釈すら変えた名曲が、アンコールの曲として演奏される。

 

前奏が終わると、イーファとパルファンちゃんの二人が、ヴァイオリンで主旋律の演奏を始める。

 

『さあ行くんだ その顔を上げて。 新しい風に 心を洗おう。』

 

アキラ君が、この曲を私のために選曲した事にすぐに気が付いた。

 

『古い夢は置いて行くがいい。 再び始まるドラマのために。』

 

幼い頃の私が蘇る。 この時、私の目の前には、一人の少女が明確に見えていた。

 

『あの人はもう思い出だけど、君を遠くで見つめてる。』

 

そう。少女だったあの日。 母親が男の人を家に連れ込むから、男の人に見つからないように、暗い奥の部屋で息を殺しながら、ビデオで映画を観ていたあの日。

 

あの日、確かに私は、映画に救いを求めていた。

 

私はどうしょうもなく子供で、自分の力では、この境遇を抜け出す事ができなかった。

 

だから、私は映画の中に救いを求めた。

 

銀河鉄道999の映画も、そんな時に観た映画の一つだった。

 

『The Galaxy Express 999 Will take you on a journey.(銀河鉄道999はあなたを旅へと連れて行く。)』

 

幼い頃の私は、映画のエンディングでこの曲と共に、メーテルと別れた後の鉄郎が、自分の足で歩いて行った事が羨ましかった。

 

幼かった当時の私には、自分の足で自分の人生を歩く事すらできなかった。

 

だから私は、自分の世界を自由に創造できる映画監督に憧れた。

 

私は、そんな少女がいつの間にか、鉄郎と同じように自分の足で歩いて、夢を叶えた事に気が付いた。

 

『A never ending journey. A Journey to the stars.(終わりのない旅へ。そして星々への旅へ。)』

 

演奏の終了と共に、千世子ちゃんや景ちゃん、阿良也君などに連れられて、私は舞台の上に再び立った。

 

私は涙でぐしゃぐしゃだったけど、私を祝福してくれた沢山の観客や、私を助けてくれたかけがえのない親友たちの姿がはっきりと見えた。

 

すごい拍手の音だった。 でも、舞台の上に立っても、もう緊張なんてしなかった。 私は涙でぐちゃぐちゃになりながらも、ゆっくりと観客達におじぎをした。

 

観客の拍手の音はさらに大きくなった。

 

そして、おじぎが終わると、観客に胸を張って堂々と顔を上げる。

 

顔を上げると、スクリーンを映す映写機から出る光が、まるで一番星のように輝いていた。

 

そして、その一番星の向こうに、映画に救いを求めた少女であった私の幻影が、手を振っているのが見えた。

 

映画監督に憧れる少女の時代が終わり、私は映画監督としての道を一歩一歩、自分の意思と自分の足で歩み始めた瞬間だった。

 

 

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