星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
あれから3ヵ月後、完成した柊監督のユーモレスクは本当に素晴らしい映画だった。
映画の初公開時に、シカゴ交響楽団の人達と一緒に、私もピック・スタイガー コンサートホールの観客席で映画を観たのだけど、本当に泣いた。
特にイーファの演奏が素晴らしかった。 そして、最後のフィナーレでシカゴ交響楽団と一緒に演奏した自分の演奏。 あの時、人生で数えるほどうまく弾けた気になっていたけど、映画で観たら本当にすごかった。 映画で嵐を巻き起こしたイーファと互角に渡り合って、信じられないほどの高みに昇っていた。
リハーサルでアキラが演じたハイフェッツの演技が無ければ、ここまでの演奏にはならなかったと思う。 どこまでも妥協せずに、本当にあの四人と柊監督の本気が詰まった映画だった。
あの映画は、感情を動かされるし、インスピレーションもすごい。 だから映画の公開記念のコンサートは、映画で受けたインスピレーションに導かれるまま演奏したら、なぜか私がイーファのライバルとして、この世代最高の音楽家の一人として世間に認識されてしまった。
公開記念のコンサートの時は、自分の世界に浸って、インスピレーション丸出しで、逆にイーファにフォローしてもらうという、後で見直したら、自分的には微妙な演奏だった。
この演奏は、相方がイーファじゃないと、破綻して大爆死間違いなしだった。 結局、イーファがカウンターを当ててバランスを取った上で、私を突き抜けさせて、その勢いを生かしてイーファが互角のメロディーラインでハーモニーをかました結果、これを世紀の名演にしてしまうのだから、やっぱりイーファ(星アキラ)ってバケモノとしか思えない。
この演奏も、私が弾いていると思わなければ、お互いに競い合って、引き立て合いながら、豊かなハーモニーを形成しているとんでもない名演だった。 裏で自分が悦に浸って暴走していたとか、考えるだけで恥ずかしくなる。
結局、イーファ、いや、あの星アキラが凄いのだ。 これが、あの光る巨大カモノハシと同一人物だとはとても思えない。
そして、映画公開後から、私に取材やテレビ番組の出演依頼、コンサートでの演奏依頼などが殺到する事になった。
特に、アキラが取材で、私を最高のライバルとして認める発言をしてから、私に対しての依頼の勢いがさらに増した。
ちなみに、アキラの私に対する評価はこんな感じだった。
「パルファン? 強いよね。 序盤、中盤、終盤、隙がないと思うよ。 だけど・・・僕も負けないよ。 え〜、駒だっ、いやヴァイオリンが躍動する俺の演奏を、皆さんに見せたいね。」
明らかに私を意識した発言だけど、何かネタ臭いと思うのは私の気のせいだろうか・・・。
こうして、私は今、あまりの忙しさに困っていた。 私も普段は高校の音楽科の学生なのだ。 そして両親もただのパティシエ(菓子職人)である。 いや、両親共に沢山の賞を受賞しているフランス屈指のパティシエだから、ただのパティシエというのは語弊があるけど・・・。
高校の方でもフォローしてくれているけど、ただの学生にこんなに沢山の依頼が来ても対応できない。 私のマネージャやエージェントになりたいと言う人や、芸能事務所へのお誘いも一杯来るけれども、どう見てもお金目当てで、音楽家をサポートする知見の無い人達ばかりだった。 この人達も、私がレイラ・オリヴィエ国際コンクールで優勝した時に来ていれば、まだ違っただろうに、映画公開後に慌てて来られても不信感しか無い。
両親も、知り合いの富豪や上流階級の人を当たってくれているけど、半ばタレントと化している私に対応できる、音楽家のマネージャやエージェントというのは畑違いな事もあって、なり手が居ない。 それに有名なエージェントの人達は、すでに沢山の顧客が居た。 そもそも、そんなに凄いマネージャやエージェントを雇っても、私にその人達のお給料をずっと払えるとも思えなかった。
才能を認められた新進気鋭の音楽家という世間のイメージとは裏腹に、私は日々積み重なっていく問題に頭を悩ませていた。
「やっぱり、パルファン、私は星アキラに相談してみるのが一番いいと思う。 星アキラって、ハリウッドスターで親は芸能事務所の社長なんでしょ? ならこの状況をなんとかしてくれるマネージャを紹介してくれるかもしれないじゃん。」
「でも、アキラは完全な部外者なのよ? 」
「ダメ元でいいじゃん。 何かいいアドバイスをもらえるかもしれないし、高校の先生やご両親でも対処できないなら、あなたの手持ちの最強カードは星アキラしか無いじゃない。」
「アキラとはライバル同士だし、出来る限り対等で居たいの。」
「あなたの気持ちはわかるわ。 でもこのままじゃ、ちゃんと仕事がこなせなくて悪評が立つし、こんな事であなたが潰れて行ったら、星アキラも悲しむと思うわよ? 今回の件は、音楽の演奏とは関係が無い事じゃない。 向こうも本当にパルファンの事を友達だと思っていたら、ちゃんと手助けしてくれると思うわ。 まぁ、友達だと思っているのがパルファンだけっていう、悲しい結末もあるかもしれないけど、それなら今のうちにはっきりと判っていいじゃない。」
「・・・わかった。 アキラに相談してみる。」
「そう。がんばってね。 解決する事を祈っているわ。」
「ありがとう。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。パルファン。」
結局、私は友達に相談したり、いろいろ悩んだ末に、アキラに相談する事にした。
私はスマフォから電話をかける。
「はい。もしもし~。 みんなのアイドル。 星アキラです。 パルファン、この前ぶり~。」
相変わらずの男だった。 おそらく、私が困っているのを知らずに、今もスマフォを片手に、能天気に着ぐるみでゴロゴロしているに違いない。
「あのっ、アキラ、相談があるの。 あのっ、あのっ、実は私、すごく困っているの・・・。」
こんな事を相談されて、アキラに迷惑だって思われたらどうしよう? 私はすごく緊張しながら電話した。
「何に困っているの? もしかして、この前あげた巨大カモノハシゲーミング着る毛布の配線が切れて、光らなくなっちゃった?」
「いやっ、あれは、夜寝る時にすごく役に立っているの。 寝返りをうっても、毛布が外れなくて結構いいの。 ありがとう。 (でも光らせてないけど。)」
「どういたしまして。 それで?」
「実は、私に沢山の取材や出演依頼が来ていて、それで、どうしたらいいか分からないの。」
「仕事が来るのは良い事じゃ無い? 音楽家としての今後を考えると、受けるといいと思うけど。」
「ちがうの。 沢山来すぎていて、私一人じゃ対応できなくて、どうすればいいか分からないの。 何か対応できる方法が無いか教えて欲しいの。」
「うーん。 僕を信じてくれれば、対応できるようにするけど、どうする? パルファンは僕を信じられるかな? ねぇ、僕と契約して、魔法少女になってよ!」
明らかに胡散臭いけど、おそらくアキラは私を試している。
私はこの瞬間、自分が人生の分岐点に居る事を自覚した。 分岐条件は、自分の人生を預けられるほどに、アキラを信じられるかどうかだ。