星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
大人しそうな子だな。
それが初めてアキラ君に会った時の印象だった。
アキラ君の印象はずっと静かに台本を読んでいるような男の子だった。
初めて会った時も台本をじっと見ていた。
初めて会ったのは撮影前の控室であった。
姉と弟の関係を考えて同じ控室にしたようだった。
「いちごお姉ちゃん!」
じっと台本を読んでいたアキラ君は、私を見るなりぱっと顔を輝かせて寄ってきた。
何?この可愛い生き物は?
私は訳も分からずに、お姉ちゃんと慕ってきたアキラ君をそのまま甘やかした。
その時、私に付いていたマネージャさんは少し厳しい顔をしていた。
今なら判る。台本を隅々まで読んだ上で、弟としての性格や心情を理解して、きっちりと魔法のいちごちゃんの弟としての役作りをしてきたアキラ君と、素のまま訳も分からずに寄ってきたアキラ君を甘やかす私。
スタート時点で、ものすごい差が付いている事は明白であった。
撮影は順調だった。
芸歴1年では、主役は微妙と思われる私ではあったが、子役としてこのぐらいの芸歴で番組に付ける子役も多いらしく、他の子役もそのレベルだったので、あんまり気にしなかった。
私もNGを出したけど、他の子役も良くNGを出しており、まぁこんな感じだろうという感じで番組の撮影は進んでいった。
アキラ君はその中でかなり異質な子役だった。NGはまず出さないし、私の稚拙な演技にもきっちりとフォローを入れてくれていた。
時には、弟が取る行動と違うと感じた場合には、脚本家に聞いたり、監督さんに意見を言うこともあった。
その時の私は、能天気にもこんな良く出来た弟を持って、私は幸せだわぐらいで感じていた。
「私もアキラ君ぐらい芸歴が長くなるとこんな感じになるのね。」みたいにふんわりと考えていた。
アキラ君が私のフォロー役として配役されていたことに気が付いたのは、私が主役だった「お願い!魔法のいちごちゃん」が終わった後に、2歳年下の子役に仕事を奪われて、自分の仕事が激減した時だった。
その頃の私は2歳年下の子役に仕事を奪われて塞ぎこんでいた。対照的にアキラ君はコンスタントに売れ続けており、常に子役として呼ばれ続けていた。
私は、アキラ君が出演するドラマを見ていた時に不意にアキラ君に嫉妬した。
「なによ。親が星アリサだからって、みんな贔屓にしちゃって。」
その時の私の認識は、アキラ君と私とではそんな能力に差が無いという感じだった。
なんて言っても、「お願い!魔法のいちごちゃん」では私は主役で、アキラ君はレギュラーとは言え格下。
主役を射止めた私に対して、アキラ君の能力が自分よりも優れているとは思っていなかった。
王賀美陸のような大きな流れを生み出すスターならともかく、アキラ君と自分は能力的に差は無くて、ただ単に親が星アリサかどうかだけで、差が付いていると考えていた。
そこで久々に「お願い!魔法のいちごちゃん」のビデオを引っ張り出してきて、第1話から見ることにした。
視聴理由は、アキラ君の粗探しという非常に下らない理由で、私はアキラ君とそんなに演技に差が無い事を見て、安心するつもりであった。
そういう視点で久しぶりに見た、「お願い!魔法のいちごちゃん」を見て私は愕然とした。
私がわちゃわちゃと意図が良く分からない演技を繰り返している中で、アキラ君は姉のフォローをして、姉の欠点には目が行かないよう配慮した芝居をしつつ、スマートに物語を回していた。
「お願い!魔法のいちごちゃん」の物語は、ボケで周りを引っ掻き回す自由な魔法使いの姉に対して、大人しいけれどもしっかり者の優しい弟が姉をフォローしていくという感じで物語が回っていた。
魔法のいちごちゃんを撮影している時には、全く気が付いておらず、自分は主役としての仕事が良くできていると思っていた。
でも今見直してみると違った。おそらく魔法のいちごちゃんの主役は私ではなくても成立したけれども、アキラ君は絶対に替えが効かない。
おそらく、この時のアキラ君は自分を殺してでも番組を成功させようと献身していた。
だから、周囲の我の強い子役の欠点を隠して、引き立てようと、かなり地味な役回りとフォローをこなしており、アキラ君はかなりの貧乏くじを引いていた。
あの撮影の時に、私がいつも、出来が良いアキラ君がフォローしてくれた事を褒めるとマネージャさんが厳しい顔をしたり、番組のスタッフさん達にアキラ君が気を使われて、贔屓されていた理由が全て解った気がした。
番組のスタッフさん達にアキラ君が贔屓されていたのは、星アリサの子供という訳ではなく、貧乏くじを引かせて物語のフォロー役へ回させてしまったアキラ君への負い目だったのだと思う。そしてマネージャさんが厳しい顔をしたのは、そういったアキラ君の立ち位置を私が全く理解していなかったからだろう。
「お願い!魔法のいちごちゃん」を見終わったときに、私のアキラ君の印象は180度変わっていた。
同時に、今の私の演技力は7歳のアキラ君にすら到底及ばない事実に気が付いてしまった。
私はそれから、一生懸命、演技の勉強やレッスンをこなした。
確実に能力や演技力は向上したが、一旦激減した仕事は戻って来なかった。
アキラ君と共演していた時に、このことに気が付いていればまだ間に合ったかもしれなかったが、もう遅かったのかもしれない。
私は、多くの子役たちと同じように、「お願い!魔法のいちごちゃん」を最後に子役だけで芸能活動を終えるのかもしれない。
今、ちゃんとした仕事をもらえれば、大きく変わった私を見せられるのに!
私はフラストレーションを貯めつつも、芸能活動を諦めようとしていた。
そんなある日のこと、マネージャさんからYoutubeの星アキラチャンネルへの出演依頼が来たという連絡を受けた。