星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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和葉の物語2

 

モデルのバイトを始めたら、自分でも意外な事にかなり順調だった。

 

正直、私は自分の容姿に自信を持つどころか、自分の容姿を嫌悪していた。 それは同時に、私の容姿を評価する人間も好きになれない事を意味していた。

 

そして、他のモデルさんのように甘えた仕草や媚を売るような事は全くなく、淡々と仕事をこなした。

 

結局のところ、私はモデルで成功する気もなくて、日々の糧を得られれば良いのだ。 自分を殺して営業活動をする事なく、高校に通う傍ら、日々ビジネスライクに仕事をこなした。

 

これが結果として、私はスタイルの良さと、人に靡かない孤高の雰囲気が評価されて、意外と売れる事となった。

 

モデルには沢山のタイプが存在する。 その中の多くは愛玩動物のように、可愛かったり、美しかったりして評価されていくけど、私の場合は、モデルをしている時のその雰囲気から、『孤高の一匹狼』と称された。

 

女として媚びない雰囲気が良いらしい。 どんなに演技をしても、媚びる人間や美人として甘やかされて生きてきた人間は、写真の中にその人間の甘さが出るらしいが、年齢の割に私にはそれが無くて、野生を生きる一匹狼のような鋭さやシャープさが評価されて、徐々に名前が広がっていった。

 

私の場合、同年代の女の子以外にも企業上層部で働いている人間や、キャリアウーマンなどにも一定の人気が出て、特に化粧品のパンフレットの仕事をしてからは、どんどん規模の大きい仕事が入ってくるようになった。

 

どうも、社会の中を野生で自由に生きている姿が輝いて見えるらしい。 ・・・私だって別に自由に生きている訳じゃないんだけど。

 

私が売れてくると、その存在感がモデルに収まりきらないということで、私のモデルの仕事を斡旋するエージェントが親会社の芸能事務所を紹介してきた。 それがオフィスベリーという芸能事務所で、芸能事務所としては中堅で堅実な経営をしている所らしい。

 

そこで、オーディションという形で、沢山の人や応募者が居る中で、大きな会議室に通されて課題を渡された。 その課題は、『親に虐待されて家出して来た子を演じてください。』というものだった。 そして、男性の俳優が付いて、会話する形でペアの即興劇が始まった。

 

参加していた子はみんな、メソメソ、なよなよとして、いかに自分が悲惨な目にあったのかを表現するような、苦しみや悲しみの演技ばかりですごくイライラした。 切羽詰まった状況で、そんな悲しみに暮れる暇なんて無いはずだ。 せっかく家出をして、毒親から解放される機会を得たのだから、これからの生活を考えなさいよ。 悲しみじゃお腹は膨れないのよ?

 

そして、私の番が回ってきた。私は、お父さんと血がつながっていない事を知って傷ついたあの日の自分を出した。 そして、その怒りが母親に向かって弓を引くように、復讐心が心の奥底にマグマのように溜まり、感情のエネルギーが内部に渦巻いて、怒りをたたえたまま据わった目を見せる。

 

母親に復讐したいという憤りのない怒りを貯める自分と、なんとしても母親から離れて生き抜いて見せるという精神が解放される。

 

そして始まる即興劇。私は他の人間と違って、感情の思うままに生き抜いて見せる自分を前面に出した。 相方を務める俳優はなぜか私に戸惑いっぱなしだった。

 

そして、怒り以上にご飯を食べたい、住処が欲しい、自立した生活をおくりたい。 人間として当たり前の感情を前面に出す。 悲しみはカロリーを消費するばかりだし、この世の全てを恨んだ所で、怒りじゃ全くお腹は膨れないのだ。 なぜ目の前の人たちは、こんなに簡単な事実に気が付かないのだろうか?

 

私に今必要なのは、同情ではない。 自立した生活なのだ。 それでも、私に同情する方向に話を持っていこうとする空気の読めない俳優にキレて、私は最後に言った。

 

「同情するならお金を頂戴!!」

 

その瞬間、緊張で張りつめていた会議室に大爆笑の渦が覆った。

 

「は?」

 

私は全く意味が分からなかった。 ここで笑う要素なんて全く無いはずだ。

 

そうして、訳もわからずに私はその場で合格の通知をもらった。

 

後で話を聞いてみると、最後のセリフは『家なき子』という、ある年代以上ならみんな知っている有名なドラマのセリフだったらしい。

 

私の態度と緊迫したシーンに戸惑いつつも、みんなが「あれ?このシチュエーション、どっかで見たことがあるぞ?」って考えている中で、最後にこのセリフを聞いた事で、「あっ、これ、家なき子だわwww」と爆笑したらしい。それまでの緊迫した緊張感からの落差で、みんな感情が抑えられなかったそうだ。

 

素晴らしい演技だったって言われたけど、全く納得が行かない。

 

でも、納得は行かなかったけど、私は結果的にオフィスベリーに所属して、収入がとても増えることになった。

 

 





和葉「同情するなら金をくれ!」

千世子「同乗するなら金をくれ。」

景「銅像するなら金をくれ?」

阿良也「道場留守なら金をくれ。」

雪「どじょうすくうなら金をくれ!?」

アキラ「どうじょよろしく。」

千世子「アキラちゃん、何なのこれ?」

アキラ「日本で誰もが知る天才漫画家、漫☆画太郎先生の有名な作品である、家・なき子のセリフだよ。和葉ちゃんもオーディションの決めセリフで使っていたでしょ? 当時社会現象になったらしいよ。」

雪「それ、絶対に元ネタを間違えているわ!!」

千世子「そうよ。 私達の大先輩の安達祐実さんに失礼よ。」

アキラ「その苦情は僕じゃなくて、天才漫画家の漫☆画太郎先生に言って欲しいよ。」
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