星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
モデル事務所から、オフィスベリーの芸能事務所が移ってから、私の仕事は写真撮影と言ったモデル以外にも、女優としてドラマやバラエティーなどに呼ばれる事になった。
高校の同級生とか友達などには、女優業を羨ましがられるけど、私にとっては生活の糧を得るアルバイトに過ぎない。むしろ私を外見で判断する人の巣窟で仕事をする事自体に拒否反応があるぐらいだった。
ただ、オフィスベリーに所属してからモデル事務所の時とは違って収入は劇的に増えた。 結果として、現在の貯金でも、ある程度の年齢までは普通に生活できるお金が貯まっている。
だから、新進気鋭の天才女優なんて、妙なハリボテ看板でセンセーショナルに売り出されて名前が売れている状況とは裏腹に、今の私は、惰性で女優業を続けている感じである。
この結果、仕事で最低限の挨拶とかはするけど、他の女優みたいに必要以上に媚びは売らないし、嫌な仕事は嫌とはっきり言って、自分を曲げるような事はしなかった。 そして、ドラマなどの役をもらうと役に迎合するような事はせずに、自分を前面に出して役の方を素の自分に合わせた。
正直な話、それで役を降ろされたとしても別にかまわなかった。 役柄に合わないのであれば降ろされて当然、むしろなぜ私にこの役をやらせようと思ったのか?という態度を取った。
そんな女優業をしばらく続けていると、自分が問題児と周囲に認識されるのと同時に、『孤高の一匹狼』の他に、『女版王賀美陸』と呼ばれる事が多くなって行った。
芸能界というのは、面白い事に、私のような人間だけ演じられる役柄という物があるらしい。 なぜか私は自分の意思とは裏腹に、オンリーワンの女優として祭り上げられて行った。
「暴れ馬は乗りこなしてこそ監督の真価を見せられる」とか言われた事がある。 誰が暴れ馬だ。 人を馬扱いするなって言うの。 私が圧をかけて睨むと、その監督はそそくさと笑いながら退散していった。
そうやって、ある程度順調に仕事をやっていると、ドラマ撮影でスターズの九条百合と共演することになった。
事前にマネージャから、「スターズは一番力がある事務所で、向こうから粗相をするような事はまず無いだろうけど、頼むから絶対に揉めないでよ。」と釘を刺されていたのだけど、やってしまった。
事の発端は、セットが破壊される関係上、撮りなおしが効かないあるシーンで、私がセリフを一瞬詰まってしまった事だった。 九条百合はそれを上手く生かしてアドリブでシーンを盛り上げて、私もそれに乗っかってそのシーンを乗り切った。
監督は苦笑いしながらも、和葉君が詰まったお蔭で現場の緊張感が出て、思っていたよりも良いシーンになったと喜んでいて、事無きを得たみたいだ。
クライマックスで、撮りなおしが効かないシーンだったから、私も緊張してやってしまった珍しいミスだったけど、そのミスを難なく切り返した九条百合に多少ショックを受けた。 今までの共演者の中で、同世代でここまでできる俳優に出会った事が無かった。
撮影後にマネージャに連れられて、九条百合にお礼を言いに行くことになった。
撮影が終わった後にもかかわらず、スタジオの一角で九条百合は熱心に台本を見て、マネージャ達と、感想や改善点を多数の人と話し合っていた。
九条百合のマネージャや関係者は複数人居るみたいだ。
私のマネージャがお礼を言うと、私もフォローしてくれたお礼を言って和やかに話をした。 九条百合とは同年代という事もあり、話も弾んだ。 ・・・ここまでは良かった。
「それで、百合はどんな女優を目指したいの?」
「それはもちろん、アキラさんよ。」
「アキラって、星アキラ?」
「そうよ。」
「星アキラって、男じゃない。 女優として目指しちゃだめじゃない。」
「何を言っているの? 特に星キアラになった時は本当に凄いわ。 言葉では言い表せないぐらいよ。」
「星アキラって、女装するのは知っているけど、所詮、女の真似事じゃない。 事務所の先輩で気を遣うのは判るけど、所詮は男だし、あんなちょっと人気が出ただけのまがい物を尊敬するのもどうかと思うわよ。」
「・・・・・・・・。」
「あれ、百合? どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・ブツブツ・・。」
「なに?どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・。 ・・・・・のよ・・・・。」
「えっ?」
「あなたにアキラさんの何がわかるって言うのよ!!!!」
「百合!! 落ち着け!!!」
「マネージャさん離してっ!! こいつに一発くれてやらないと気が済まない!!!」
「暴力沙汰はまずい!! 離して控室に連れていけ!!」
「落ち着け! 百合、落ち着くんだ!! 感情に飲まれるな!!」
「でも、こいつアキラさんの事を女の真似だって! まがい物だって言うのよ!! 何も知らないくせに!」
「分かっている。 分かっているから。 ちゃんとこっちで対応しておくから、落ち着け!」
「でもっ!!」
「私は、百合を控室に連れて行きます。」
「ああ。 暴れて傷でも作らないように、もう一人連れていけ。 私はこっち側の対応をしておく。 あと、アリサさんとアキラ君に、一報を入れておいてくれ。*1 たぶん、この件はアキラ君本人の預かりになると思う。」
「わかりました。」
「うわ――――ん。」
そんなやり取りの後に、気が付いたら、私のマネージャが、スターズ側マネージャの責任者みたいな人に土下座をしていた。
「申し訳ございません!! 私の教育不足のせいです。 和葉はまだこの業界に入って経験が浅いんです。 全ては私の責任ですから、なにとぞ、今回は、今回だけは許していただけないでしょうか!!!」
「オフィスベリーさん。 普段懇意にさせていただいておりますが、それでも流石に、私もこの発言は見逃せないですよ。 そもそも、弊社の看板俳優で、次期社長でもある星アキラに対して、面識も無いのに、このような暴言を吐かれるとは。 御社はタレントに対して、どのような教育をされているのですか?」
スターズのマネージャさんは静かに話しているけれども、目に怒りが宿っている。
「申し訳ございません! 申し訳ございません!!」
私のマネージャが土下座をして地べたに頭を付けて謝りまくるのを、私は固まったまま動けずに見ていた。
当時の私は、苦労せずに売れて天狗になっていたのだと思う。 今振り返ってみると、女子高生が好き勝手に感想を言うにしても、相手が尊敬すると言っている人物を愚弄すれば反発されるのは当然だ。
私が星アキラの事を快く思わなかったとしても、ちゃんと言葉を選ぶべきだった。
私は女優として以前に、人間として社会経験が足りていなかった。
この時の私は、友達に言うようなノリで軽く発言してしまったけど、私の発言でその場は一気に修羅場と化した。