星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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和葉の物語5

 

---------------日尾和葉視点---------------

 

「和葉、この仕事の前にスターズとは揉めないように釘を刺したわよね。 それなのにもめ事を。 しかもよりにもよって星アキラ絡みで起こすなんて! こんなのどうすればいいのよ!!」

 

帰りの車の中で車を運転するマネージャさんが私に厳しい態度で言って来た。 ここまで厳しいマネージャさんを見た事が無い。

 

「ごめんなさい。 百合と仲良くなったから、友達感覚で・・・。 そもそも、どうしてスターズと揉めるとだめなの? 他の事務所でこういう注意をされた事は無かったわよね。」

 

「他の事務所と揉めてもお互い様だから、なんとかなるけど、スターズと揉める事になったら、和葉を庇い切れないのよ。」

 

「なにそれ? スターズって揉めた相手を首にするように圧力をかけるような横暴な事務所なの?」

 

「逆よ。スターズは俳優育成目標に活動している事務所だから、基本的に温厚で、その辺の事は全くしないわ。 そこが問題なのよ。」

 

「何が問題なの?」

 

「温厚だから、業界でスターズと揉めたという噂が立つだけで、仕事が無くなるの。 所属タレントだけならまだいいんだけど、状況によっては事務所ごと無くなってもおかしくないわ。」

 

「は? それって、スターズが裏で手を回して揉めた相手に仕事をさせないように仕向けるって事?」

 

「違うわ。 スターズは何もしないわ。 何もしないから終わるの。 どの芸能事務所もスターズと揉めたくないわ。 TV局や雑誌であっても。 あの週間誌ですら、スターズの記事はすごく注意を払っているのよ。 だから、業界全体でスターズと揉めた相手に仕事を振る事は無いの。 逆にスターズの俳優と仲良くなれれば、それだけでこれまで考えられないような仕事に呼ばれるようになるわ。」

 

「なんでそんな事になるの? もっと大きな事務所や、TV局にキャストすら変えさせるほどに絶大な力を持つ男性アイドル中心の事務所のメンバーと共演した時も、そんな事無かったわよね。」

 

「あの辺の所は、世間的にはすごい力を持っているように見えるけれども、張子の虎よ。 そうやって強ぶって業界に影響力があるように見せているだけ。圧力をかけてキャストを変えられて、喜ぶTV局の関係者や監督なんて居ないわ。 だから評判が悪くなると一気に崩れるでしょうね。 その辺は自業自得だし、そう言った部分を計算してやっている面もあるから、同業者に意外に甘いのよ。 向こうもキャストを強引に変えさせた負い目があるんだからお互い様ね。 それでふんぞり返ってやって行けるほど甘い業界じゃないの。 対照的にスターズは温厚で過剰な売り込みもせずに、外から見ると業界に影響力が無い草食動物みたいにみえるけど、あそこが一番強いの。」

 

「スターズは普通の芸能事務所とは違うの?」

 

「あそこは立ち位置が特殊すぎるのよ。 俳優育成のために星アリサが立ち上げた事務所なんだけど、俳優育成のために採算度外視の仕事をするの。 仕事が無かったら所属俳優のために、赤字を承知で自前で映画を撮るぐらいよ。 それで社長が、『赤字になったけど、俳優に良い経験をさせられて良かった。』とか笑顔でインタビューに答えるのよ。 頭のネジが何本か外れているわ。」

 

「それと揉めちゃいけないっていうのと、全然繋がらないんだけど。」

 

「俳優育成って目的が、自社の俳優に限った事じゃ無いのよ。 星アリサの引退後のライフワークみたいなものなの。 だから業界全体でかなりの俳優がスターズのお世話になっているわ。 デスアイランドでもそうでしょ? スターズが全額持ち出しの映画なんだから、全部自分の事務所のタレントだけで出演者を固めればいいものを、わざわざ半分の出演者をオーディションという形で、外部に事務所に門戸を開いて招き入れているでしょ? それで、湯島茜や烏山武光、源真咲なんかがヒットしているじゃない。木梨かんなに至っては、事務所に所属しないで高校の演劇部からの抜擢よ。」

 

「外部の事務所の人にも仕事を与えているから、影響力があるって事なの?」

 

「そうよ。あそこはライバルの芸能事務所であるのと同時に、最高のクライアントであり、パトロンなのよ。 スターズの企画はスターズの所属俳優に経験を与えるのと同時に、他の事務所の俳優にも稼ぎと経験とチャンスを与えているの。 そしてスターズの企画に出演が決まれば、所属俳優の成長のために、あえて外部からの俳優もみんな平等にチャンスを与えるの。 だから特殊で、どの事務所も絶対にスターズとは揉めたくないし、スターズと揉めた人間を使いたく無いのよ。 和葉が例に挙げた圧力でキャストを変えさせる事務所も、スターズの俳優がキャストに決まっているのを変えさせた事は無いわ。」

 

「でも、だからって、それだけでそこまでの力があるのは違うんじゃないの?」

 

「日本の芸能事務所の上位5社からスターズを抜いて、4社とスターズを比較した場合に利益にどれだけの差があるか知ってる? 売上はともかく、他の4社の利益全部を合わせてもスターズ一社の利益に敵わないのよ。 あなたが暴言を吐いた星アキラだけでも、その辺の事務所の大物俳優何十人分よ。 そしてその潤沢な利益を全部企画に変えて、業界に還元するの。 結果、スターズに所属しない俳優も、芸能事務所も沢山のチャンスを与えられる。 そして業界が活性化して、売り上げが上がって、またスターズに戻って来る。 それを繰り返しているわ。 この10年でどれだけの人間がスターズのお世話になっていると思う? ぽっと出のあなたとスターズ、みんなどちらの肩を持つと思うの? ましてや今回はあなたが全面的に悪いのよ? あの場に居た全員が、世間知らずのあなたが芸能界を追放されると思っているわ。 こんな所まで王賀美陸に似る必要は無いのよ。」

 

「王賀美陸って、ハリウッドスターよね。 私もよく女版王賀美陸って言われるけど、追放ってどういう事? 自分でハリウッドでのし上がったんじゃないの?」

 

これを聞いたマネージャはブレーキを踏んで車を急停車させた。

 

「何よ! 急に危ないじゃない!」

 

「えっ!? そこからなの!? 本当に何も知らないのね。 教育以前の話だわ。 私は先週からの担当だけど、前の担当は何をしていたの!? 教育を真面目に受けないって言っていたから、実地に出して現場で仕事に慣れさせたって言っていたけど、こんな時限爆弾を現場に出させたら、起こるべくして起きた事件じゃないの! むしろ生放送か何かで失言しなかっただけ大分ましだわ!」

 

「えっ、私、今何か変な事を言った?」

 

「和葉良く聞きなさい。 王賀美陸なんだけど、元はスターズの俳優だったんだけど、日本の芸能界を追放されて、仕方が無くハリウッドに行って今の地位にのし上がったのよ。」

 

「追放!? 王賀美陸って元スターズだったの? 追放って何があったの!?」

 

「和葉も王賀美陸の映画は観た事があると思うけど、彼は生まれ持ったスターだったのよ。 それを星アリサが見出してスターズとして売り出して、一世を風靡した日本で大スターになったの。」

 

「それがどうして、追放されちゃったの?」

 

「きっかけは、王賀美陸がその存在感で相手の役者を喰いまくるから、星アリサがちゃんと抑えて相手を立てるように指導した所から始まったらしいわ。 それで人気絶頂で、増長していた王賀美陸がそれに反発して、自由に演技がしたいって溝が深まってスターズを抜ける事にしたのよ。」

 

「なるほど。それでスターズを抜けた王賀美陸が仕事をできないように、スターズが圧力をかけて日本の芸能界を追放したんだ。」

 

「違うわよ。」

 

「え?」

 

「スターズは入るのが死ぬほど難しい芸能事務所だけど、抜けるのはあっさりしていてすごく簡単なのよ。 スターズの育成が終わって独立した人間は何人も居るわ。 だからあそこの事務所はほとんど若手でしょ? ある程度の年代で実績と技術を得て独り立ちできるようになれば、スターズ自身がその独立を支援するらしいわよ。この辺が普通の芸能事務所と真逆で面白い所よね。 スターズを円満に卒業した人間が、どこかの芸能事務所に所属したいとなったら、それはもう引っ張りだこよ。 だって、確かな実績と才能と能力がある人間がポンと出て来る訳だからね。 スターズのバックアップ付きで。 普通は自分の事務所で教育して大成した人物なんだから、ずっと自分の事務所に所属して利益を上げ続けて欲しいと思うのだけど、育成中心という事でその辺の考えが他の事務所と真逆で面白いわね。」

 

「なら、なんで日本の芸能界を追放されちゃったの?」

 

「スターズの辞め方が良くなかったからよ。 王賀美陸は星アリサに反発して、完全に星アリサの顔に泥を塗る形でスターズを抜けたわ。 それで他の事務所に移籍しようとしたんだけど、どの事務所も完全にお断りで、しまいには面会した他の芸能事務所の役員に暴力事件を起こして日本の芸能界を追放されたのよ。」

 

「なんで、他の事務所は王賀美陸を移籍させようとしなかったの? だって大スターなんだから、働いてもらえばすごく儲かるじゃ無いの?」

 

「これまでのスターズの話をよく考えてみなさい。 あそこは採算度外視で俳優の育成をするの。 反発した理由も王賀美陸の今後を考えて、星アリサが指導した内容なのよ。 しかも、王賀美陸の才能を見出した恩人が星アリサなのよ? これだけの条件が揃っていてもそこでやって行けないようなアウトローが他の芸能事務所に所属して上手く行くと思う? 無理でしょ。 あの当時、あれだけ厚遇してくれたスターズの顔に泥をかけて移籍先を探した王賀美陸に、他の芸能事務所はみんなドン引きだったのよ。 それで結局日本で上手く行かなくて、アメリカに渡ってハングリー精神でハリウッドスターの座を勝ち取ったって訳。 だから結局のところ、良くネタにされるけど、星アリサの人を見る目は本当に確かだわ。」

 

「だからみんな、私が王賀美陸みたいになると思って、女版王賀美陸って言っていたの?」

 

「そう言う意味もあるだろうけど、それ以上に和葉は王賀美陸と同じような才能を持っているわ。それを上手く磨ければ日本で王賀美陸と同じ成功ができるはずよ。 ・・・それも今回の件で相当怪しくなって来たけど。 いくら才能があっても周囲に認められない事はあるのよ。 あの星アキラでさえ、子役時代は母親の影を追うだけの器用貧乏の子役って言われて、ほとんどの人間に才能を認められていなかったんだし。」

 

「星アキラって、星アリサの子供としてコネと権力で芸能界で順調にやって来た訳じゃ無いの?」

 

「・・・・まぁ、王賀美陸の騒動を知らないんだし、星アキラの自殺騒動はあなたが8歳の時だから知らないのも無理はないわね。今では断片的にしか触れられないし、星アリサの目が節穴である事のネタにでしか取り上げられないからね。 これも芸能界どころか、一般社会ですら常識なんだけど、センシティブな話題でみんな触れないから、自分から情報を取りに行かないと分からないのよね。 この辺の常識を一通り叩きこむのは骨が折れそうね。」

 

「だって、そんな事を知らなくても仕事はできるじゃない。」

 

「それで今回の騒動よ。 必要以上に芸能界の裏側に詳しくなる必要は無いけど、みんなが知っている常識ぐらいは教えるべきだったわね。 芸能界を目指す子ならみんな自分で調べる事だし、あなたが芸能界に残れるかわからないけど、もしこの件を乗り切れたらあなたをちゃんと教育するわ。」

 

「私は、そこまでして女優を続けなくても・・・。」

 

「今回の事はあなたが女優を辞める程度じゃ済まない可能性が高いの。 オフィスベリーにとってとんでもない汚点なの。 あなたのせいで、オフィスベリーに所属するタレントの仕事が無くなるかもしれないのだから、ちゃんと責任を感じて欲しいわ。」

 

「えっ? そこまでの事じゃ・・・。」

 

「そこまでの事なのよ。 あなたスターズを舐めすぎよ。 しかもあの星アキラに対して暴言を吐くとか、王賀美陸でもやらないわよ。」

 

「星アキラって、そんなに凄いの?」

 

「逆に、今芸能界で仕事をしていて、星アキラの凄さを知らないあなたの方が凄いわよ。」

 

「だって、母親のコネと権力で芸能界やハリウッドで好き勝手にやってきたんじゃないの?」

 

「逆よ逆。 母親は息子に才能が無いから10歳の時に子役を辞めさせようとして、星アキラが無能で親のすねかじりだって週刊誌の記事を見せて、子役を辞めるように促したの。 それでその記事とネットで叩かれたのを苦に自殺を図ったの。 その後、三か月ほど意識不明の重体で、もうダメだとみんな思っていたのだけど、そこから奇跡的に回復したのよ。」

 

「なんでそんな事になっちゃったの? 別に才能が無いなら子役を辞めたっていいじゃない。」

 

「複雑な事情があるの。 当時の星アリサは狂った母親の役を演じた舞台で精神を病んだ後に、そのまま星アキラをネグレクトしていたのよ。 だから星アキラにとって、子役と言うのは母親と関係を続けられる唯一の絆だった訳。 才能が無いからって、その絆すら切ろうとした星アリサは本当に鬼だわ。 それで星アキラが心を病んじゃって自殺を図るの。」

 

「それでも、星アキラは子役を続けたの?」

 

「そうよ。 しかも星アリサが自殺未遂の後に子役を続けるために出した条件が、単独記者会見で、世間を納得させたら復帰できるっていうとんでもない条件で、10歳の星アキラは一人でその記者会見に臨んだわ。 考えられる? 子役をしていたとは言っても10歳の子供よ。 そんな子供が沢山の記者たちの前で一人で説明した経緯がこれよ。 当時、私もこの記者会見を見て本当に身震いしたわ。」

 

「でも、そんな事をしたらまともに記者会見ができなくて、星アリサがバッシングを受けるんじゃないの?」

 

「まともに記者会見をしたのよ。 10歳の子供が。 海千山千の記者達を敵に回して、全部KOして行ったわ。 この辺の経緯にみんな詳しいのも、星アキラが自分の口で全部説明したからなの。 この件について、星アリサが否定した事が無いからほぼ間違い無く真実でしょうね。 結局、蓋を開けてみたら、星アキラと言うのは、天才の星アリサが全く測れないような、別方向の天才だったって訳。 この記者会見は今の貴方に見せたいわ。 今の貴方は、10歳の頃の星アキラよりもずっと子供だもの。」

 

「そんな事を言われたら、私でもすごく傷つくのだけど。」

 

「事実じゃ無いの。 不必要な暴言を吐いて、私に土下座までさせて、オフィスベリーを存続の危機にまで追い込んで。 この件で星アキラが本気で怒ったら、オフィスベリーはお終いよ。 」

 

「ねえ、あれって、そんなに不味い発言だったの?」

 

「もちろんよ。 それで、自殺の後からは星アキラは吹っ切れたように明るくなったわ。 それで母親を離れて、自由に活動するようになって、今のYoutuberやVTuberの走りとなってトレンドを牽引して、14歳の時にはアカデミー賞の助演男優賞を最年少で獲得するわ。 日本のアカデミー賞じゃないわよ。 本家のアカデミー賞よ。 逆にこれを契機に、スターズ側の意向で日本アカデミー賞を星アキラに与えない慣例になったのは面白いわよね。 もっと新しい人にチャンスを与えたいって理由らしいわね。」

 

「そこから今みたいにハリウッドで活躍するようになったんだ。」

 

「そうよ。 星アキラがハリウッドで活動の基盤が出来てから、星アキラはハリウッドの4大エージェンシーと太いパイプを築いたわ。それで、星アキラがハリウッドに日本の有名な俳優を紹介にするようになって行って、ハリウッド映画に出演する日本の俳優がどんどん増えているわ。 だから最近、ハリウッド映画で日本の俳優や日本を題材にした映画を見る事が多いでしょう? 各芸能事務所は星アキラの作ったパイプを利用してハリウッドに俳優を売り込んでいるの。 星アキラはこの辺をサポートする組織を作って、気前よく手助けしてくれているわ。 これもスターズと揉めたくない理由。 日本のエンタメは、星アキラのお陰で世界市場への足掛かりが出来て、世界に広がろうとしているの。 だから、今、一番揉めたくない芸能人は誰かって聞かれると、星アキラよ。 あなたそんな人間の暴言を吐いてこの業界でやって行けると思うの? 星アキラは、あなたと2歳しか歳が変わらないけど、あなたの何億倍も実績があるのよ?」

 

「化け物じゃないの。そんな人が現実に居るとは思えないわ。」

 

「現実に居るのよ。 そして現実に居て誰も困っていないの。 星アキラは自分の実績を元に威張り散らす人間じゃないし、スターズも俳優の育成とサポートに徹して、業界から尊敬を集めているわ。 もちろん、どちらも聖人君子じゃないけど、どちらも簡単に批判して良い対象じゃないの。 あなたが芸能界の知識に疎い事情がわからない人間から見たら、あなたの暴言は、私は星アキラに嫉妬したつまらない人間ですって自己紹介したようなものよ。 誰も幸せにならないわ。」

 

「でも、いくら実績があるからって、CGで顔を補正してまでみんなを騙すのは間違っているわ。」

 

「・・・・この問題の原因はこれか。 この子って本当に小学生レベルの芸能界の知識しか無いのね。 勘違いを正すのは簡単だけど、今の和葉にはショックが必要ね。」

 

「えっ?」

 

こうして、私はオフィスベリーの事務所まで連れていかれた。

 

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