星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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和葉の物語6

 

---------------日尾和葉視点---------------

 

私は、事務所に戻った後に、社長室に連れられて行って事情を説明する事になった。

 

マネージャが重めに言っているだけで、みんなはちょっと立ち話でちょっとやらかしたぐらいの感覚で軽く流してくれる事を期待したけど、社長室に集まったみんなの反応は凄く深刻で、マネージャが言っている事が真実だと言う事をいやが応にも実感した。

 

みんな私を冷たい目で見ている。 逆に何も言われないのがすごく堪える。

 

社長室に集まったスタッフの携帯電話に引っ切り無しに電話がかかって来る。

 

「ああ、その事については概ねその通りだ。 実際に今対応を検討している。 今、社長がスターズ側に連絡を取っている所だ。 星アリサ社長が捕まらないみたいで、星アキラについては、あちらのスタッフ側が完全にシャットアウトしてる。 ああ、どちらにしても先方は今アメリカだ。 あちらの対応が決まるまでしばらく時間がかかると思う。 うん。 そうだ。」

 

「あっ、××テレビさんですか? いつもお世話になっております。 えっ、あの出演について様子を見させて欲しい? いや、それはちょっと・・。 しかし・・・我々も長くお願いしてきた事ですし・・。 確かにスターズとひと悶着ありましたが、まだスターズ側がそうとは決まった訳では無いので・・・。 一両日中にある程度方針が決まると思いますから、せめてそれまででも待っていただけないでしょうか・・・。 いや、今和解する方向で動いていますので、スターズ側も大事にしたく無いと思いますから・・・せめて・・・。 いや、しかし・・・。」

 

「もしもし、ユミか? ああ、そうだ。 概ねその認識で正しい。 いや、実際にそうだが、しかし、まだそうとは決まった訳じゃない。 あちらも穏便に済ませてもらえる可能性も・・・。 ああ、 いや、あちらの社長とは連絡が付いていないんだ・・・。 ああ。 星アキラも本番中らしくてシャットアウトされている。 あちらから連絡が無いのが不味いって? 確かにそうなんだが・・・。 今必死に対応している所だ。  ああ。 今、専務やグランドマネージャの数名に当たっている所だ。 ああ。 とりあえず心配しなくていい。 そうだ。 また動きがあったら連絡する。」

 

「まずい。 普段は簡単に繋がるマネージャ達に軒並み着信拒否されている。 これはアキラ君が本気で怒ったのかもしれない。 スターズ側からこんなにリアクションが無い事も、こちらが無視される事も初めてだ。」

 

「スターズの馴染みのタレントにも繋がらない。 これは本当に終わったのかもしれないな。」

 

「いや、そんな、いくらなんでも、新人タレントがちょっと行き過ぎた発言をしただけじゃないか。」

 

「その行き過ぎた発言を聞いて怒らないスターズの人間が居るのかという話だ。 よりにもよって、うちのぽっと出の新人が星アキラをこき下ろしたんだぞ。 どれだけうちがスターズを舐めているのかと、あちらも相当頭にきているだろうよ。 」

 

「それもこれも、ちゃんと日尾の教育をやらないから・・・。」

 

「確かに。 いくら才能があるからってちゃんと学ばせないのは失敗だったな。」

 

「なまじ、良い演技をするから本人を完全に増長させてしまったか・・・。 もっと早く手を打っておけば・・・。」

 

「あっ、スターズの〇〇さんですか!? いつもお世話になっております。 実は、本日、弊社の日尾が御社の星アキラさんと九条百合さんに対して大変なご無礼を働きまして・・・・。 はい。」

 

社長にこの電話がかかってきた瞬間に部屋が静まり返り、みんな会話を止めて聞き耳を立てた。

 

「えっ? 星アリサと星アキラの両方が激怒している!? うちと取引を止める!? うちのタレントは全員オーディションから外す!? いや、それは、いくらなんでも・・・。 新人が口を滑らせただけでそれは、あまりにも重いのでは・・・。 はい。 それについては申し訳ございません。 確かにうちが全面的に悪いのですが、うちのタレントやスタッフも生活がありますし、今スターズさんから避けられると、芸能界でやって行けなくなってしまいます。 ・・・いや、たしかに私どもの教育不足が原因なのですが・・・。 お願いです。 もう一度、もう一度で良いのでチャンスをいただけないでしょうか・・・。 お願いします!!」

 

社長が土下座をするぐらいの勢いで電話先のスターズの関係者に謝ったが、あえなく電話は切れてしまった。

 

「終わったな・・・。」

 

だれかが、ポツンと呟いた。

 

えっ、本当に!? 本当にあれだけでオフィスベリーが潰れるの!? 私のせいでオフィスベリーが無くなるの!? あれだけで!? 芸能界ってこんなに怖い所だったの!? 私は胸が締め付けられるような恐怖と共に、全身がガクガクと震えて、体中に脂汗が吹き出した。

 

ちゃんとマネージャさんの言う事を聞いていれば・・・。 真面目に教育を受けていれば・・・。 あの瞬間、九条百合と星アキラの事を尊重していれば・・・。 私が増長していなければ・・・。

 

短期間とは言っても、私のために沢山の事をしてくれたオフィスベリーが潰れるなんて、それも私のせいで・・・。

 

目の前が真っ暗になる。

 

私は生まれて初めて、責任という言葉を重く理解した。 ドラマの撮影なんて軽く考えていたけど、私はオフィスベリーの代表として行っていて、私には重い責任があったんだ。 戻れるならあの瞬間に戻りたい・・・。 星アキラを軽く見ていた私を止めたい・・・。 責任なんて全く理解していなかった数時間前の私を殴ってでも止めたい。

 

もちろん、都合よくそんなやり直しが出来る訳も無く、決定的な間違いを犯した私は、半ば過呼吸になりながら床に倒れ込んだ。

 

人生で後戻りが出来ない、決定的な過ちを犯した後というのはこんな心境になるのだろうか。 周りの気温が急激に下がったのを感じて、寒くて全身の震えが止まらなかった。 心が現実を考えるのを拒否して、体が不調を訴える。 心と体が切り離されたように、体が言う事を聞いてくれない。

 

私のせいで、オフィスベリーの人達の幸せを奪ったんだ・・・。その罪悪感に私の全てが押しつぶされようとしていた時に、扉が開いて朝野市子先輩が駆け込んできた。

 

「ちょっと!! オフィスベリーが潰れるってどういう事よ!? アキラ君がオフィスベリーには潰れてもらうって言っていたけど、一体何をやらかしたの!?」

 

「市子には、星アキラから連絡が来たのか!?」

 

「やっぱり、星アキラはオフィスベリーを潰す気なのか?」

 

部屋に居る全員が悲鳴のような声を上げる。

 

市子先輩は星アキラと仲が良いから直接連絡が行ったようだ。 ・・・肝心のオフィスベリーが潰れる理由までは話さなかったみたいだけど。 私は市子先輩に説明するために口を開いて説明と謝罪をしようとしたけど、口が全く動かない・・・・。

 

そんな深刻な雰囲気が絶頂に達した時に、黄色と赤の看板を持った人物が社長室の中に入ってきた。

 

「ドッキリ大成功!」\テッテレー/

 

セリフと共に場違いな効果音が鳴る。 みんな静まり返って、その人物に注目した。 看板の文字は見えているけど、脳の理解が追い付かない。 みんなその看板を見て呆然と固まっていた。

 

そして、固まったまま時間が流れる。

 

「あはははははっっっ。 ははははっ。 みんなハトが豆鉄砲を喰らったような顔をしている。 可笑しいんだwwww」

 

市子先輩がお腹をかかえて、爆笑をし始めた。

 

「バラエティの企画とかでは、たまに見ますけど、一般人を巻き込んだガチのやつは昭和までしか無かったらしいですが、ガチでやると本当に面白いですね。ワクワクしました。」

 

看板を持った九条百合が笑いながらセリフを言う。

 

「九条さん!!どういう事!?」

 

「さっきみたいに百合と呼んでいいわよ。 どう言う事も、こういう事も、ドッキリカメラよ。 つまり冗談。」

 

「あの、スタジオで怒ったのも冗談だったって事!?」

 

「あれはガチよ。 相当頭に来たわ。 だから復讐の機会をアキラさんが私にくれたって訳。 あなたのその顔が見れて、溜飲が下がったわ。」

 

「市子先輩も知っていたって事ですか!?」

 

「そうよ。 正確には、アキラ君にオフィスベリーが潰れるって電話をもらって、血相を変えて事務所に来たら玄関でこの看板を持っている百合ちゃんに捕まったの。 私もそこまでは完全に騙されたわ。 それで百合ちゃんを社長室まで案内するついでに一肌脱いだのよ。」

 

「そんなっ、酷いわ!!」

 

「そうなの? これですんで万々歳だと思うけど。」

 

「どう言う事ですか?」

 

「私の方から説明させていただきます。」

 

百合に続いて、部屋の中にあの時のマネージャさん達が入ってきた。

 

「アメリカに居る星アキラの代理で来ました。 星アキラとしては、これで手打ちとして今回の件を双方で水に流して終了させたい意向です。 もちろん、弊社の社長および、星アキラともども、これで納得が行かない場合には、この後も実際にやり合っても良いと指示を受けておりますが、いかがいたしましょうか?」

 

「いやいや、流石はアキラ君。 すっかり騙されましたよ。 今回の件はもちろん、我々の責があっての事。 このぐらいのドッキリで終われるのであれば、感謝感激です。 ありがとうございます。」

 

社長は脂汗を流しながら、上機嫌に笑って言った。 深刻な雰囲気から一転してすごく明るい雰囲気だ。

 

「こんな復讐で対応するなんて流石は星アキラですな。 私達もとても勉強になります。 ありがとうございました。」

 

笑えない冗談で怒り出したい人も沢山いるだろうに、みんな作り笑いをして対応した。いや、深刻な雰囲気からの陽気な展開にストレスが一気に解放されて、本当に笑い転げている人も居た。 三者三葉の反応だ。

 

「心の中では、怒りや笑えなさや、無事に済んだ安堵や安心感、落差からの笑いなど、様々な感情がごっちゃ混ぜになっているのに、社会人としてはとりあえず笑って場を納めなければいけない複雑な感情から来る、みんなの表情がすごくいいわね。 普段から付き合いのある人達だけど、こんな表情は中々見れないから、すごく参考になるわ。 まぁ、災難だったけど、アキラ君が落としどころを付けてくれて、冗談で終わってすごくラッキーだったわね。」

 

市子先輩が言った。 何を言っているんだ? この人?

 

「本当ですね。 和葉の暴言を聞いた時には怒りで真っ赤になりましたけど、沢山の人のこういう感情の変化と、内に秘めて煮詰められた感情をつぶさに観察出来て役の幅が広がります。 特にあの和葉の本当に後悔した顔が見れて本当に良かったです。 この展開で本当に笑える人や、逆にこんな冗談をやられて、ここでキレたい人も沢山居るだろうけど、キレたらその瞬間に全てが台無しになるのが目に見えているので、感情に流されないで、この笑えない冗談に付き合って愛想笑いをしなければいけない、社会人の悲哀が如実に現れていて、素敵ですね。」

 

百合も同意した。 こいつも大概おかしい。 何なんだ? こいつらは?

 

「なんとか、丸く収まったわね。 ビックリしてお腹が空いたわ。 ねぇ、百合ちゃん、この後食事でも行かない?」

 

市子先輩が百合を食事に誘った。

 

「それなんですけど、実は今日はアキラさんが帝国グランドホテルのパーティールームを押さえてあるんですよ。 それで、アキラさんが全額奢ってくれるというので、皆さん全員で食事でもいかがですか? もちろん、社長の星アリサや空いているタレント、スターズのスタッフも来ますので。 もちろん、和葉は強制参加よ。」

 

「それはいいですな。 和解したとは言っても、このまま帰っては、家でイライラする人も居るでしょうし、先方も一緒でしょう。 直接スターズのスタッフと話せれば、お互いに遺恨も完全に流れて感情の整理ができるでしょう。 この辺の気配りは流石はアキラ君ですな。」

 

社長が賛同して、オフィスベリー側はどう考えても、全員参加の雰囲気が醸成される。

 

「私をこれだけ引っ掻き回したのだから、アキラ君は良いご飯を奢ってくれるのよね?」

 

「市子さん、大丈夫ですよ。 帝国グランドホテルのロイヤルスイートのパーティールームとスペシャルメニューらしいですから、すごく期待できますよ。 でも、アキラさん曰く、いちごお姉ちゃんには高級すぎて舌に合わないだろうから、今度、浅草の駄菓子屋でベビースター入りのもんじゃ焼きを奢るって言っていましたよ。 果たして、いちごお姉ちゃん舌でベビースターのソースとチキン味の差が見分けられるかな? って伝えるように言われました。」

 

「相変わらず、あのクソガキは本当に、絶妙なラインでケンカを売って来るわよね。 それじゃ、準備してみんな行きましょうか。 もちろん、和葉も来ないとね。 この程度で納めてくれたスターズの方達に直接謝罪するのよ。 こっちも冗談にしては笑えないドッキリに納得行かない人も居るだろうけど、あっちはあっちで、心の中では、アキラ君を馬鹿にしたあなたを許せない人が沢山居ると思うから、ちゃんと謝るのよ。」

 

そう言って、私はショックが覚めやらぬまま、オフィスベリーのメンバーと一緒に帝国グランドホテルまで連れていかれて、マネージャさんと一緒にスターズの人達と話をして、何度も頭を下げて謝罪した。

 

私がやらかした事だけに、謝罪するのは全く抵抗が無かった。 むしろ、自分が悪くないのに、即座に私を庇って代わりに土下座までしてくれたマネージャさんにどれだけ迷惑をかけたのかが良く分かった。

 

その席で初めて、スターズ社長の星アリサさんと話をした。 この人が星アキラの母親・・・。 オフィスベリーの社長と一緒に談笑してたけど、一目で社長としても、女優としても、周囲の大人とは格が違うのが良く分かった。

 

私は謝ると、アリサさんは、ニッコリとしながら「今度からちゃんと勉強して言動に気を付けるのよ。」と言って許してくれた。

 

この人が日本一の女優にして、スターズを10年ぐらいで大手事務所まで育て上げた星アリサ。

 

こんな人を敵に回そうとしていたのだ。 私の暴言は、相当にまずい事態であった事は骨の髄まで実感した。 話を聞いて凄い人だとは思っていたんだけど、実際に会うのとでは大違いだ。

 

参加したスターズのスタッフはみんな洗練されているし、タレント達も他の事務所に見られるような、世間を知らない高校生のような雰囲気なんて微塵も無い。

 

百合もそうだったけど、明らかに他の芸能事務所とレベルが違う。 マネージャが言っていた、スターズの凄さを実感した。

 

私は、自分の失態でオフィスベリーが潰れない事を安堵したのと同時に、自分の未熟さや、大人の世界で責任をもって行動する事の難しさを知り、女優と言う仕事への自信を失くしてしまった。

 

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