星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
---------------日尾和葉視点---------------
「女優を辞めたい?」
「はい。」
私は、マネージャさんに女優を辞めたい事を打ち明けた。
「どうして?」
「私は偶々才能があって、偶々お金が無かったから女優をやっていたんです。 でもなんとかやって行けるだけのお金も溜まりましたし、これだけ皆さんに迷惑をかけてまで続ける訳にも行きません。 だから女優を辞めようかと・・・。」
「みんなに迷惑をかけるという意味ではダメよ。 今辞められた方がはるかに迷惑がかかるわ。そもそも貴方のためにわざわざ骨を折ってくれたスターズに対して、あまりにも失礼だわ。 オフィスベリーとスターズに対して恩を感じるのであれば、しばらく女優を続けるべきよ。」
「どう言う事ですか?」
「今回の件は、あなたの失言に対して、スターズ側がドッキリを仕掛けた事で、全て水に流れた事になったわ。 この話は噂に敏感な芸能関係者に色々な経路からリークされているわ。 なのに今あなたが今辞めたらどう思う? 実際に両社のわだかまりは、水に流れておらず、遺恨が残っているって宣伝するようなものじゃない。 ちゃんと問題に対処してくれたスターズ側に顔向けできないわ。 それにあなたの価値は今回の件で逆に高まったわ。」
「価値が高まる? 評価が落ちる事はあっても、高まる事なんて無いと思うのですが・・・。」
「違うわ。 今回の件は、わざわざスターズ側が配慮してくれた事で、スターズも注目する才能の持ち主だという事で、目ざといクライアントから今まで以上に、仕事の依頼が多く来ているわ。 事務所としてはすぐに出したい所だけど、ちょっと教育をし直さないと、危ないからね。」
「あれでどうしてスターズが注目する才能の持ち主という事になるのですか? 周囲に迷惑をかけすぎてボロボロだと思いますけど。」
「本来、スターズ側は何のリアクションも示さないで、和葉がクビになって終わりなのよ。 でもスターズ側も和葉の才能を惜しんだから、行動をして丸く収めたと見られているの。 問題児だけれども、スターズが配慮してくれるほどの才能の持ち主。 という評価をもらった事になるわ。 これもスターズが育成中心という方針を貫いて、自社、他社分け隔てなくチャンスを与えてきた実績があるからこその評価よ。 おそらく実際にスターズは和葉の才能を認めているわ。 だからあの和解の場に星アリサ社長まで出て来てくれた。 ここであなたが辞めてみなさい。 和葉の才能を惜しんで様々な配慮をしてくれたスターズに対して泥を塗る行為よ。 本家の王賀美陸以下に成り下がる気なの?」
「でも・・・。」
「とりあえず、教育にもちゃんと給料が出るから、続けてみなさい。 それに役者の仕事の面白さを理解できれば、あなたはきっと大きく変わるわ。 そのために事務所に無理を言って、エースに教育係をお願いしたの。 朝野さん、よろしくお願いします。」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン。 オフィスベリーが誇るエースにして天才女優の浅野いちごこと、朝野市子よ!」
「市子先輩、20歳超えましたよね? いい加減に歳を考えたらどうなんですか?」
「が――――ん。 オフィスベリーの問題児にすら正論を言われるとかどうなのよ? これでも先輩なのに(T_T)。」
「和葉、ちゃんと付き合ってあげて、この場面は先輩を立てないとダメじゃ無いの。」
「流石に私は、勉強が足りないと思うけど、こんな茶番に付き合うような勉強は嫌よ。」
「へ―――。 和葉ってば大人なんだ。」
そう言って、市子先輩は私の目を見た。 その時の市子先輩の目は一瞬だけど、獲物を見つけた猛獣のような感じがして、身震いした。 心の中まで見透かされたみたいだ。 でも次の瞬間にその圧力は無くなっていた。 なんだろう? 私の勘違い?
「それじゃ、今回は、アキラ君の偉大さを教えるために、この私が直々に、今話題のドキュメンタリーである、『I want to make my movie』を観て、私がアキラ君の凄さを教えてあげる。 ちなみに、主人公は私の親友の柊雪よ。」
そう言って、『I want to make my movie』を視聴する事になった。
「そうなのよ! そこで私を食事に連れて行くって言っていたから、ルンルン気分で行ったら、F4と雪が勢ぞろいで銀座のキャバクラに社会見学で、私はその保護者だったって訳よ。 キャバクラなんて女の子と喋ってお酒を飲むところで、ご飯なんて大して美味しくないし、アキラ君なんて、牛乳飲みまくりで、酔っているのが阿良也君と私だけなのよ!千世子ちゃんと景ちゃんは、ホステスの仕事に興味深々で、鋭い質問にホステスもドン引きで、雪はみんなの奇行を撮影するだけだし、どんな地獄よ! 流石に現実逃避をしたくて、高いシャンパンを飲みまくったわ。 ちなみに、その後にホストクラブにも行ったけど、ホストが人間的に軽すぎて全然ダメだったわね。 千世子ちゃんと景ちゃんもあんまり面白くないって言っていたし。 あれだったら、正直、アキラ君と阿良也君の方が良い男だったわね。 珍獣とカメレオンに負けるホストって何よwww ホストが私にお金をつぎ込ませようとするなら、もっと演技の勉強をして出直して来なさいって感じだったわ。」
「このシーン、他のメンバーを騙せて、このクソガキは絶対に心の中ではニヤニヤしているわね。 他のメンバーも疑いつつも、まさか海老天の中身がザリガニにすり替えられているなんて思わないでしょうし。 でも、虫まで食べているんだから今更よね。 雪に至っては、金欠でだいぶ野生化しているし。」
「だから、阿良也君がここで一瞬の間を持たせて自分のアリバイを出してけん制することで、ホットドックをつまみ食いしたのは自分じゃないというリアリティを持たせているわ。 でも犯人は阿良也君なのに、演技力だけで罪を逃れようとしていて見苦しいわ。 そして残りの3人にそれは見透かされているんだけど、どうすればこの場面が美味しくなるのか、お互いにけん制している感じね。」
善意から横で解説してくれている市子先輩が正直うざい。 こっちは星アキラを見極めようとしているのに、横で展開されるマシンガントークで全く映像に集中できない。 明らかに映画好きでうんちくを言うマニアとしか思えない。 そう言えば、この先輩って阿佐ヶ谷芸術高校の卒業生だっけ。 この辺じゃ有名な映画オタク学校だ。 学校に行くから映画オタクになるのか、映画オタクだから学校もそこを選ぶのか。 とりあえず、市子先輩が映画オタクだという事はわかった。 対処が面倒だから、下手に映画の話題を振るのは止めておこう。
というか、市子先輩の話しから星アキラや百城千世子などのF4の凄さが全く伝わってこない。
出演者達と仲が良いのは分かるけど、家に呼ばれたら突然カレー対決をして、ハーモンドカレーを出したら意外に好評で、りんごとはちみつの偉大さが分かったとか、星アキラは甘口が刺さったお子様だとか、すごくどうでも良い情報よ。 もはやドキュメンタリーとか関係無いじゃない。
結局、ドキュメンタリーの内容云々よりも、市子先輩の話を聞くだけに終わって、感想を求められたので、これでお金を稼げるなら私もやりたいと言ったら、マネージャに呆れられた。 いや、それ以前に横で不要な情報をインプットしてくる市子先輩を止めてよ。 ドキュメンタリーを集中して観れなかったじゃないの。 しかも後半は、ほとんどドキュメンタリー関係無くて、星アキラへの愚痴になっていたじゃないの。 クソガキとか珍獣とか、天才的なレベルの超残念王子様とか、着ぐるみ王とか、この人に星アキラの凄さを教えられても、全く凄く感じないわ。 先輩の変な愚痴に付き合う私の身にもなってよ。 むしろ、私よりも、市子先輩の方が何倍も星アキラに失礼じゃ無いのかしら?
頭痛がしてきた。 私的には責任を取って女優を辞めようとしたら辞められないし、心を入れ替えて真面目に勉強をしようとしたら、市子先輩の謎解説では星アキラの凄さが全く分からなかった。 むしろあの解説で星アキラの凄さが分かる人間が居るのか、逆に聞きたいぐらいだ。
学校以外は、ほぼ礼儀や演技の練習だし、最近は私にすごくスパルタで、自分でゆっくり星アキラの出演作を見る余裕も無いし、どうすればいいのよ!? 昨日はがんばってスマフォで星アキラの出演作を見ようとしたのに、寝落ちしちゃったじゃないの。
私は画面に映る、星アキラが扮する星キアラを見る。 綺麗な人だ。 ちょっとモデルをやっていたから良く分かる。 こんなに綺麗な人がこの世に存在する訳が無い。 ましてや男がここまで綺麗になる事なんて有り得ないだろう。 先輩はその辺は何も感じないのだろうか? それとも本当に居るの? 本当にこんな人が存在するなら・・・。 そう思考した所で、また市子先輩が話しかけて来る。 星アキラは、あれでお蕎麦が好きなくせにジャンキーだとか、どうでも良い情報を話さないで欲しい。 ちょっとは黙れないのかしら? 先輩だからぞんざいに扱えないし、受けごたえしないのも失礼だけど、思考は中断してまともに考えられないし・・・。
ただでさえ崖っぷちなのに、色々と八方ふさがりでイライラしてきた。 こうなったのは自業自得だけど、もうちょっと自分の力でなんとかしたい。 そして数日後。
「ハ~ロリン。 和葉。 今日は私と一緒にデートよ。」
「はいはい。 市子先輩、それでどこに行くのですか? 今日はユーモレスクの映画の封切日なので、時間があるなら観に行きたいのですが。」
「ちゃんと勉強するようになって偉いわね~。 おばちゃん、和葉の成長がとてもうれしいわ。 最近はレッスンもがんばっているみたいだし、女優としての自覚も出来てきたみたいね。」
「あ―――。はいはい。 それで、おばちゃん、どこに行くんですか?」
ここ数日で、この先輩の扱い方がわかってきた。 ぞんざいな扱いをした方が喜ぶ感じだ。 私の教育係として完全にミスキャストだろう。 この先輩を放置しているオフィスベリーってどうなの? なんか星アキラと仲が良くて、すごい賞をいっぱい受賞しているだけで、見方によっては私よりもだいぶヤバイ先輩に見えるんだけど、これで問題を起こさないで、何年も芸能界を生き残っている優等生だというのが逆に恐ろしい。 芸能界って魔境かもしれない。
「そんな和葉に朗報よ! なんとユーモレスクの舞台挨拶が行われる阿佐ヶ谷芸術大学の特別席のチケットがあるのよ。 一緒に観に行くわよ。」
「そうなんですか? それはうれしいです。 それじゃ、おばちゃん、さっそく行きましょう!」
「誰がおばちゃんやねん!」
ここでキレるの!? 先輩のノリに付き合ってあげただけなのに酷い言い草だわ。私の教育係を買って出るのであれば、もっと立派な所を見せて欲しい。
そして、市子先輩に着いて行って、阿佐ヶ谷芸術大学に入ったら、会場が開いているにも関わらず、突然廊下で立ち止まって何かうんうんと悩みだした。 全く意味不明だ。 市子先輩は星アキラの奇行を良く話題にするけど、この人も大概ではないのだろうか? 明らかに類は友を呼んでいるとしか思えない。 星アキラはこの人がマシに見えるぐらいの変人なのだろうか? それとも、もしかして私が変なだけで、この先輩が芸能界では常識人という事なのだろうか? それだったら、私は芸能界でやって行くのは絶対に無理だろう。 才能云々以前の問題だ。
うんうん考えている市子先輩を周りは奇異な目で見て通り過ぎて行く。
「ママ~。あのお姉ちゃん、廊下で立ち止まって変な顔をしているよ!!」
「しっ~見ちゃダメ!」
・・・・少しは周りの様子を考えて欲しい。 たまらず私は言った。
「市子先輩、なに頭を捻っているんですか? 会場はもう開いているんですから、そんなところに突っ立っていないで、ほら行きますよ。」
「ちょっと、こっちは和葉の将来を思って悩んでいるんだから、ちょっとは殊勝な態度を心掛けてよ。」
私は先輩の奇行に悩んでいるんです。 こんな所で突然立ち止まって悩む悩みじゃないでしょ? ここで殊勝な態度なんてしたら、私も先輩と同類に見られてしまいます。
本当に、この人が芸能界で標準的な常識人って事は無いよね? すごく不安だ。
こうして、私達は阿佐ヶ谷芸術大学の上映会場に入って行った。
この時点で、和葉嬢ではなくて、いちごお姉ちゃんの方がヤバイ人説あると思いますw