星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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和葉の物語9

---------------日尾和葉視点---------------

 

あの時から私は心を入れ替えて、ひたすら演技に打ち込んだ。 ただ、私の存在感を生かす芝居や役回りというのは意外に難しかった。

 

ポスターやグラビアなどの単発の仕事であれば問題無かったんだけど、私独特の強い存在感と華のある芝居が他の俳優との共演を逆に難しくさせた。

 

特に問題なのが、私が主役じゃない他のドラマや映画に出演した時で、一緒の画面に映るだけで主役を喰ってしまうため、存在感をもっと抑えるように言われて、存在感を薄めると逆にもっと目立つように言われる。 どうしろと言うんだ。

 

これはフラストレーションが溜まる。 

 

結局、周りを気にせず演じられるのは、スターズの俳優か、阿笠みみさんと共演した時ぐらいしか無かった。 これも真面目に演技で張り合ったのは阿笠みみさんぐらいで、スターズの俳優の場合には、百合と同じで、合気道のように演技をしても軽くいなされて返される感じだった。

 

ただ唯一、木梨かんなちゃんだけは、スターズの中でも全力で張り合ってきて、私の方が喰われかけて背筋が凍ったけど、彼女はスターズの中でも割と例外的な立ち位置らしい。

 

でも、こんなエキサイティングな仕事なんてほとんど無くて、ほとんどが名前だけ売れているアイドルや、演技は二の次でファンサービスの一環でドラマに出演する他の事務所のマルチタレントなどとの共演で、その場合には私が立っているだけで主役が喰われるので、現場ではカメラ位置や表現に苦労するという有様だった。

 

最初に聞いた時には、意味が分からなかった王賀美陸さんの気持ちが今なら分かる。 王賀美さんの時代にはスターズの俳優もここまで育ち切っていなくて、私よりも能力を発揮する所が無くて、日本の芸能界に絶望していたのかもしれない。

 

私が全力で演技できるような役や仕事などもそうそうないし、自分を抑えてちょうど良い感じで演ずる技術を得る事もできなくて、私はどんどん悩んで行った。 そして最終的に、市子先輩に相談する事にした。

 

「なるほどねぇ。 それは難しい問題ね。 和葉は役に合わせて自分を変えるような器用なタイプじゃないし、私や他の人ともタイプが違いすぎるから、アドバイスっていうのも難しいのよね。 あっ。 いい事思いついた。 私に着いて来て。」

 

「いいですけど、どこに行くんですか?」

 

「良いところよ。」

 

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「あの、市子先輩、ここってもしかして、スターズの事務所じゃ・・・。」

 

廊下を歩くと、知っている俳優やマネージャの人とすれ違う。 どう考えても他の芸能事務所の関係者がアポ無しで気軽に入って良い場所では無い。

 

「そうよ。 ここなら良いアドバイスをもらえそうな人が一杯居そうでしょう?」

 

「アポ無しでスターズの事務所に入れるって・・・。 市子先輩って、スターズの事務所を顔パスで通れるのですか!?」

 

「そうよ。 スターズの次期社長と友達だから、気が付いたら友情パワーで普通に入れるようになっていたわ。」

 

「友情パワーって・・・。」

 

「友情パワー(超政治力)。」

 

そう言って、市子先輩はオフィスの奥まった部屋にずんずんと歩いて行った。 奥に行くとちょっと陰になった部屋のドアをノックして開けた。

 

なんだろう? 用具の保管や機械室かな? 保守に使うような飾りの無い無地の鉄の扉で、関係者以外立ち入り禁止みたいな隠し部屋に入って行った。

 

「あああっ――――っ。 千世子ちゃん!! 僕がカメを倒そうとしたのに、下から叩いて復活させないでよ! お蔭で僕のマリオがやられちゃったじゃないか!!」

 

「アキラちゃん、ごめんねww なんか手元が狂って思わず、倒れたカメに下からジャンプしちゃった。」

 

「嘘だね。 絶対に僕をはめようとしたよね?」

 

「ちがうわ。 私はアキラちゃんをアシストしようとして下からジャンプしたら、ちょっと手が滑っただけよ。」

 

「千世子ちゃんとの友情もここまでだよ。 千世子ちゃんがこんな卑劣な女だったなんて。」

 

「ひどいわ。 こんな素敵な女友達を卑劣な女呼ばわりとか、アキラちゃんとの友情もここまでね。」

 

部屋の中では、百城千世子ちゃんと、白い虎の着ぐるみを着た男の子が緑の敷物の上に直接テレビを置いて、そこにミニファミコンを繋げてマリオブラザーズをやっているようだけど、なにやら揉めているようだ。

 

「アキラ君も千世子ちゃんも相変わらず絶好調ね。 それで、今回はどんな設定なの?」

 

「設定?」

 

「今回は友情破壊ごっこだよ。 見ての通り、マリオブラザーズで二人の友情が破壊されるんだけど、実は僕は山梨県の名家の生まれで、千世子ちゃんは静岡県の名家の生まれで幼馴染なんだ。」

 

「そうよ。それで、国土交通省の大臣の発案で、富士山がどちらの県の物かをかけてマリオブラザーズで勝負するの。 これで勝った方が正式に富士山を持つ県になると言う負けられない戦いなのよ。」

 

「その後、結局喧嘩になって友情が破壊されて、僕がキノコでパワーアップして、千世子ちゃんを富士山の山頂で迎え撃つんだけど、僕の食べたキノコに毒キノコが混じっていて、そのまま富士山の火口に落ちて、I will be backして涙のエンディングだよ。」

 

「即興劇にしては、設定が渋滞しすぎているわ。 視聴者が居たら誰も付いて来れないと思うわ。」

 

「ほらね。 アキラちゃん、私の言った通りでしょ? だから富士山の山頂で食べるのは毒キノコじゃなくて、うなぎパイにするべきなのよ。」

 

「千世子ちゃん、そこじゃないわ。」

 

「あの、市子先輩、この人達はもしかして・・・・。」

 

「ああ、和葉、紹介するわ。 星アキラ君と百城千世子ちゃんよ。 和葉の相談相手にこれ以上の人は居ないでしょ?」

 

「ええええ~~~~~っ。 ・・・・あっ、その節はごめんなさい。 大変ご迷惑をお掛けしました。 穏便に収めていただいてありがとうございました。」

 

「いえいえ。 どういたしまして。 と言うか、驚いたふりをしているけど、部屋に入った時点で気が付いているよね。 スターズの事務所に入ってきたんだし。」

 

「はい。」

 

 

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「なるほど。 和葉ちゃんは演技の方向性に悩んでいるんだね。」

 

「はい・・・。 そうです。」

 

「確かに難しい問題ね。 和葉ちゃんの持ち味は誰にも負けない存在感と孤高の雰囲気。 でもそれを出すと共演者が浮いちゃう訳ね。」

 

「まんま景ちゃんだねw」

 

「景ちゃんほどじゃないわ。 景ちゃんを下手な所に出すとキャストが全滅で監督が逃げ出すじゃないの。 作品として取り繕えるだけ、景ちゃんよりもはるかにましだわ。」

 

「まぁ、景ちゃんの場合には、成長するまで周りを力のあるキャストで強引に固めると言う力技でなんとか押し通したけど、和葉ちゃんの場合にはそれも難しいだろうからね。」

 

「景ちゃんは、なまじ力のあるキャストで固めたから、今は余計に悪化した気もするけど・・・。 最近だと、あの子が本気を出すとスターズのメンバーでも、時代劇で悪の商人を守る用心棒かなってぐらいバッサバッサとなぎ倒されるじゃないの。 演技していない時はすごく良い子なのに。」

 

「とりあえず、現在進行形で問題児化が進行している景ちゃんよりも、今は和葉ちゃんだね。」

 

「難しい問題ね。 和葉ちゃんの場合には、アイデンティティである存在感を無くす方向だと、魅力が半減してしまうわ。 だからと言ってそのまま演じると共演者の力量が付いて行かない。 なんとか、和葉ちゃんが全力で演じられて皆が納得する方法があればいいと思うんだけど・・・。」

 

「ちなみに、アキラさんと千世子さんはこういう時にどうしているのですか?」

 

「和葉、その質問をしても、二人の意見は全く役に立たないと思うわよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「役に立つか立たないかは別として、相手を気持ち良くさせて、演技にはまらせて、イイ感じに操って、カメラ位置とか場面を誘導して、トータルコーディネートでそれっぽく見せるかなぁ・・・。 本人には気付かれずに、星アキラと一緒に撮影して、渾身の撮影が出来ましたとか言うコメントを出させるとベストかな。 最近じゃそう言う人と組んで撮影するなんて滅多に無いけど。」

 

「そうね大体そんな感じね。」

 

「言ったでしょ? 和葉。 こんな化け物染みた器用な真似ができるなら、最初から和葉は悩んでいないのよ。 あなたに演技をしながら、さらに共演者も騙すような事は出来ないでしょ? この二人はドラマで演技をしながら、現場に居るあの環蓮すら騙した化け物達よ。 景ちゃんが問題児とかどの口が言うのよ。」

 

「確かに、そうみたいです・・・。」

 

「いちごお姉ちゃんも自分の事を棚に上げて、何気に酷いよね。」

 

「それで、アキラ君にいい案はある?」

 

「一応あるよ。 存在感を抜群に出して、全力で演じて浮いても、それが称賛される役をやればいいんだ。」

 

「アキラちゃんの言う通りね。 ただ、本人がやる気になるかどうかが最大の問題ね。 それに事務所側の意向もあるし。」

 

「そんな役があるのですか? そのような役が無いから悩んでいるのですが・・・。」

 

「それは『悪役』という役だよ。」

 

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