星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
アキラ君のYoutubeチャンネルは、開始1か月で世間や芸能界に旋風を巻き起こしていた。
動画をアップする他のYoutuber達に対して、ニフ生のように生放送で配信していくスタイルは非常に珍しかった。
視聴者のコメントを元にそのまま対話して変化していく、双方向で予測のつかないストーリーと一体感は新しいコンテンツとして多くの芸能関係者が注目していた。
特にテレビの視聴率が低下し始めており、同時に長引く不況でスポンサー料の落ち込みも大きくなっている現状で、各芸能事務所は新しい収益の方法や、ネット時代を迎えるこれからのメディア露出方法について積極的に論議していた。
そこに突然、謝罪会見でお茶の間の話題をかっさらい、売れっ子となった星アキラのYoutubeの放送開始。
このYoutube放送は芸能関係者からは、謝罪会見以上に注目を浴びている放送だった。
特に注目を浴びている点は、他のYoutuberと同じように動画を撮影/編集して、それをアップしていく方向ではなく、視聴者と共に双方向で盛り上がり、その結果をまとめ動画として逆に動画化している点。先に動画を作成するのではなく、視聴者と共に盛り上がり、時間の無い人はそこから抜き出したまとめ動画で面白いポイントだけが見られると言う、かなり斬新な放送となっていた。
もちろん、ニフニフ生放送の焼き直しじゃないかという批判は一部あったが、特定のゲーム専門やおしゃべりするだけのニフニフ生放送と違って、毎回企画を決めて飽きさせない工夫や、スターズ所属の俳優やイベントを紹介したりと、単純な個人活動ではなく、芸能事務所が今後Youtubeなどの動画サイトとどう向き合うのか?というヒントがふんだんに盛り込まれていた。
私も、アキラ君の生放送は欠かさずに見ていたりする。Liveとして見れなくても、動画としていつでも見られるから便利だし、放送自体も、まさかあのアキラ君があんなに陽気で明るいキャラクターを作ってくるとは思わなかった事や、ピアノが上手い事にも驚いていた。
実は私も何度かチャットを打って、視聴者たちと一体となって盛り上がっていたりもした。
そんな訳で、放送を開始して1か月でチャンネル登録者数は50万人を超えてもまだ勢いは衰えず、Liveの同接数は2万人というとんでもない成長を見せている星アキラチャンネルから、初めてのゲストとして、まさかの私が指名される事となった。
撮影はスターズの事務所で行われる事になっていた。いつもはアキラ君の自宅で撮影しているみたいだけれども、今回は私がゲストということでいろいろ配慮してくれたようだった。
久しぶりに会ったアキラ君であったが、身長とか姿とかの印象は2年前とそんなに変わっていなかった。
おそらく自殺未遂で寝たきりだった期間とかもあったから、その辺もあって成長が少し遅れたのかもしれない。
しかし、雰囲気は前とは全然違っていた。なんというか、身に纏うオーラが違うとか、そんな感じ。
「いちごお姉ちゃん、久しぶり。この前、東京食堂ものがたりで、店に来た家族づれの子供の役でちょっと出ていたよね。」
「あっうれしい。見てくれていたんだ。」
「演技の能力や技術が上がったのは判ったんだけど、周りの目を気にしているみたいでイマイチだったなぁ。ねぇ今役者していて楽しい?」
いやらしい顔をして、私の気にしている部分を的確に突いてくるアキラ君。私はムキになって反論した。
「そんな事言ったって、アキラ君みたいに仕事が無いんだから仕方が無いでしょ。失敗しちゃったらもうお終いなんだから。」
「魔法のいちごちゃんであんなに周りを振り回していた、いちごお姉ちゃんからそんな言葉は聞きたくなかったなぁ。あんなに努力していたのに、周りに認められなくて悔しくないの?」
2年ぶりに会ったアキラ君は、かなり辛辣になっていた。もしかしたら昔フォローさせて貧乏くじを引かせた事を恨んでいるのかもしれない。
「悔しいに決まっているじゃないっ。私も前みたいにめいいっぱい演技して、みんなに認めてもらいたいよ。」
「なら僕の放送で、めいいっぱい演技してみない? どうせこのまま子役をやっていても仕事無くなっちゃうんでしょ?」
アキラ君は二ヤつきながら言った。安い挑発だ。ちょっと見ないうちに、相当なクソガキに育った事は間違い無いようだ。私はあえてこの安い挑発に乗ることにした。
「面白いじゃない。クソガキに育っちゃった弟をしつけるのは、このいちごお姉ちゃんの役割だものね。クソガキアキラ君を躾けてあげるわ!」
私のテンションは完全に「お願い!魔法のいちごちゃん」をやっていた頃に戻っていた。正直なところ、このままやっていても仕事が無くなるのは事実だったから、もうアキラ君の放送とか気にせずに、全力でやる事にした。確かにこの放送が、役者としての私を見せられる最後の放送になるのかもしれない。それなら全力でやってアキラ君を食ってやる!!
私は子役としてあきらめモードで腐っていたが、それでもこのまま終わるのはいやだった。クソガキになったアキラ君を見ていたら、芸歴の最後に派手に爆散して爪痕を残すのも面白いのではないかと思った。この時の私は、目の前のクソガキのせいで、だいぶテンションがおかしかった。
放送内容の事前の取り決めはほとんどなかった。最初に目薬を差して、感動の再会を装うと言う、うさんくさい芝居をするのと、最後に演奏して欲しい好きな曲を聞かれただけだった。
後は自由。気の向くまま。やったろうじゃない。朝野いちご、最後の舞台になるかもしれないけど、こんなクソガキに負けたとなったら私の人生台無しだ。
せめて、星アキラには私をゲストとして呼んだことを後悔させたい。
放送前から私のテンションはかなりおかしくなっていた。そして放送に入るとさらにおかしさに磨きがかかった。
そういえば、昔はこんな風に何も考えないで演技していたっけ? 何も考えないで自分を表現するのってすんげー楽しい!
私はやたらハイテンションでアキラ君にからみまくった。
そして、最後にアキラ君はピアノで私の好きな『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』の曲を弾いてくれるのかと思っていたら、サプライズで突然ヴァイオリンを取り出して演奏を始めた。
私の脳裏にはヴァイオリンの音と共に、映画の情景と一緒に、初めての芸能オーディションの時のお母さんの顔を思い出していた。
そういえば私が「なんで勝手にオーディションに応募したの?」って聞いたら、お母さんは「市子ちゃんの笑顔が誰よりも素敵だったから」って答えていた。
演技をしていて、心の底から笑ったのっていつ以来だろうか?
仕事が激減して以来、かわいい笑顔は作れるようになったけれども、笑顔のシーンでも心の底から笑っていなかった気がする。
私はそんなお母さんとの情景を思い出して、自然と涙を流していた。
最後にこんなのずるい。反則だ。正直、あのクソガキアキラ君に完敗だった。
この放送の後、前に「お願い!魔法のいちごちゃん」をやっていたプロデューサーさんがこの放送を見ていたらしく、新しい魔法少女の師匠兼お姉さん役として番組に出て欲しいと依頼を受けた。
プロデューサーさんには、「前にアキラ君にフォローさせていた自分では力不足です。」と断ろうとしたんだけど、プロデューサーさんからは「だからこそ君にやってほしい。アキラ君がこなしていた役割を今の君であればできるはずだ。」と口説き落とされてしまった。
そうして現場に行ってみたら、新しい魔法少女の子には「ファンだったんです。」って言われて、放送が始まってからは沢山のファンレターをもらった。
私は全然意識していなかったけれども、魔法のいちごちゃんは、全国の子供達にいっぱい夢を与えていたようだ。
そして、この生放送を思い出して、精一杯のびのびと演技したら、まず受からないと思っていた朝ドラのオーディションも受かってしまった。
ちょっと前までの私は、努力とか才能とかじゃ絶対敵わない本物たちには太刀打ちできないと思っていた。
でもアキラ君を見ていて思う。アキラ君は、自殺する前まで本物では無かった。でも自殺を実行するまで思い詰めて、そこまで努力したアキラ君はいつのまにか本物になっていた。
もしかしたら、私も努力してがんばれば、本物にはなれないかもしれないけど、肩を並べる事ぐらいはできるようになるかもしれない。
私はその後、自分の演技を磨きつつ、自分と映画の事をもっと知るために、阿佐ヶ谷芸術高校に進学したのだった。