星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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星アキラは主演女優賞を受賞する

 

「Akira Hoshi、いやKiara Hoshiによるイーファ・ムーティオの登場です!」

 

僕がステージに上がると、プレゼンターの方がさっそく、僕が受賞した理由を説明し始めた。

 

「さて、皆様はなぜ、Akira Hoshiという男優が今回、主演女優賞を受賞したのか疑問に思っている事でしょう。」

 

ここで、司会者が言葉を区切る。 その間が、視聴者の興味を上手く煽り立てている。

 

「実は、アカデミー賞を選考する我々、映画芸術科学アカデミー(AMPAS)でも同じ論議を何度もしました。アカデミー賞は、今でこそ、こんな大きなアワードセレモニーになっていますが、元は映画芸術科学アカデミー内の食事会での余興でした。 そこで俳優たちの労をねぎらうと共に、映画の健全な発展を願って話し合いをするうちに、賞が拡充して行きました。」

 

「今回の男優ながらも、最高の女性の役を演じたAkira Hoshiに対して、主演男優と主演女優のどちらの賞がふさわしいのかを、映画芸術科学アカデミーの会員達は、何度もディスカッションしました。そして主演女優賞が一番相応しいという結論に達しました。決め手は、Akira Hoshiに対して、どちらを与えた方が、映画の健全な発展に寄与するのかという視点でした。」

 

「Akiraは、男性なので男優です。機械的に伝統を当てはめるのであれば、主演男優賞が適当です。しかし、その答えが果たして、今後の映画の発展に寄与するでしょうか?」

 

「俳優とは、男の役、女の役だけを演じる物ではありません。ある時はモンスターになったり、ある時は機械になったり、またある時は異星人になったりします。」

 

「我々は、女性の役は女優が演じるべきだという、当たり前の価値観を打ち砕いた、Akira Hoshiに対して今まで通りに、杓子定規に当てはめて、主演男優賞を与える事が、価値観を打ち砕いたAkira Hoshiへの冒涜となり、新しい時代の映画発展への障害になると考えました。」

 

「男性でも女性の役を演じて、主演女優賞にふさわしい働きであれば、主演女優賞を与えるべきだと言うのが我々の判断です。」

 

「これを不満に思う女優の方々も沢山居る事でしょう。でも考えてみてください。これは同時にあなたたち女性が、主演男優賞を取るチャンスも生まれたと言う、新しい道と自由な時代が開かれたのです。 これこそが私達の考えた映画の発展です。」

 

「これまでジェンダーとして、明確に区切られていた主演男優賞と主演女優賞、しかし本来、俳優達は、そんなジェンダーに縛られる必要は無く、解き放たれて自由に演技ができるはずです。そんな新しい時代の旗手として、今年の主演女優賞を獲得するのはAkira Hoshiに決まりました。彼のこれまでのハリウッドへの献身と、偉業をたたえて、ここにオスカー像を送りたいと思います!!」

 

こうして僕はプレゼンターの方から、主演女優賞のオスカー像をもらった。

会場は、すでに拍手の渦で、僕のスピーチが始まるのを歓迎しながら待っている。

 

僕はイーファ・ムーティオの声で自分の言葉でスピーチを始めた。

女性の声で男言葉で話す僕。 聴衆は静かに僕の話を聞いてくれている。

僕は、会場の雰囲気から、少し暗い話をする事にした。

 

「僕が自殺をしたのは10歳の時でした。その時の僕は、役者としての才能がなくて、社会からも必要とされない、これ以上生きる価値の無い人間だと考えていました。」

 

「今考えてみれば、つまらない価値観に捕らわれた馬鹿馬鹿しい話です。今、主演女優賞のオスカー像を抱えている僕が、役者としての才能がなくて、社会からも必要とされないなどと嘆くでのあれば、みんな贅沢を言うなと呆れる事でしょう。」

 

「でも、10歳の僕は他人の目が怖かった。僕の目の届かない所で、勝手に僕を評価する。そして10歳の僕は、他人の声も怖かった。僕の声が届かない所で、僕を勝手に決めつけて僕を勝手に推し量る。誰も本当の星アキラなんて見てくれない。」

 

「結局、10歳で子役ながらも他人を演じていた僕は、居もしない他人の声に振り回されて、他人の評価と言う名の、自分で作った檻の中に閉じ込められた結果、それに絶望して自殺を実行しました。」

 

「もちろん、その自殺は未遂に終わって、昏睡状態に至りましたが、幸いなことに回復する事が出来ました。そして目覚めた僕が鏡を見ると、他人の評価に疲れ果てた、哀れな生き物が鏡の檻の中から僕を見ていました。」

 

「僕はこの日から、檻に閉じ込められている自分自身を鏡の外から観察する事にしました。そうして分かった事は、鏡の中で閉じ込められている自分は、世界で一番役者の才能が無いと思い込んでいる、哀れで悲しい生き物だという事です。だから僕は、この世界一哀れと思い込んでいる悲しい生き物に、新しい世界を見せる事にしました。」

 

「役者と言うのは素晴らしい仕事です。男も女も、子供も老人も、偉人も凡人も、エイリアンも神様もみんな自由に演じる事ができます。演技を通じて常に新しい扉を自由に開く事ができる職業。それが役者です。」

 

「僕はこれまでと変わって、我儘に演じるようになりました。どうせ才能が無くて、自殺騒ぎまでしでかしたのです。僕に怖い物は無くなりました。そして、棚ボタで獲得した残りの人生を、精一杯楽しんでみる事にしました。苦しい感情、悲しい感情、ショックを受けた心、全て、人生を楽しむための大切なスパイスです。」

 

「イマジネーションの赴くままに、自由に他人を演じる事。そして演技を通してみる数々の人物達の価値観は、常に、僕に新しい世界を見せ続け、僕を楽しませ続けました。そして、僕が好き勝手に演じるうちに、世界の方が変わり始めました。」

 

「僕は自殺の後に役者に復帰してから、泥臭い脇役を演じたり、男なのに女性を演じる事に全く抵抗は無くなりました。そんな事よりも大切な事は、その役が楽しいか、楽しく演じられるのか、ただそれだけです。僕は僕自身の人生と共に、僕が演じた人物や、キャラクターの人生を自由に生きました。」

 

「そんな風に自分勝手に暴れまわっていたある日、僕はいつものように鏡を見たら、そこに映っているはずの、世界で一番役者の才能が無いと思い込んでいる、哀れで悲しいはずの生き物が、口角を上げて笑っている事に気が付きました。」

 

「結局のところ、昔、僕を閉じ込めていた檻は、僕自身がそうあるべきだと思い込んで、僕が勝手に作り上げていた虚像だったのです。そして、役者という生き方と演技は、数々の人達に支えられて、その虚像を見事に打ち砕いてくれました。」

 

「鏡の中に居た、世界一哀れと思い込んでいた悲しい生き物は、新しい世界に解き放たれて、今、みなさんの目の前に立つことができました。」

 

「僕が出る映画を観てくれた人達、僕の演技で楽しんでくれるファン達、僕を支えてくれるマネージャーや友人達、僕のライバルでもある親友達、そして僕の最愛の母親。檻に閉じ込められた僕を救い出してくれたすべての人達に感謝して、僕はこれからも役者として人生を歩みます。」

 

「最後に、鏡の中で檻に囚われていた哀れな僕から、みなさんに伝言があります。」

 

「『本当の僕を見てくれてありがとう!!』」

 

 

そうして、最後に一粒だけの涙を流して、深々と礼をすると、僕のスピーチは終わりを迎えた。

 

ステージを降りて席に戻る通路を歩くと、左右から総立ちになった人達が僕を見つめて、僕に沢山の拍手をくれた。

 

僕は、主演女優賞のオスカー像を抱えながら、ゆっくりと席に戻る。 周りを見渡すと、360度、全ての人が立ち上がって僕に拍手と祝福をくれている。 拍手はずっと鳴りやむ事は無かった。

 

この日、この瞬間、僕は男でありながら、史上初めてアカデミー賞主演女優賞の受賞者となった。

 

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