星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
席に戻った僕は、周りから、口々に受賞の祝いとスピーチを賞賛された。
そして僕は、ありがとうと口々にお礼を言いながら、席に座る。
「素晴らしいスピーチでしたっ。 感動で涙がボロボロですっ。」
「そうだな。 アキラが普段からこんなに役者について深く考えていたなんて驚きだよ。」
「ふふふっ。 僕を見直した?」
「もちろんですっ。 私も偉大なアキラさんに追いつけるようにがんばりますっ!」
「景ちゃん、これ以上アキラ君を尊敬するのは、超ヤバイ気がするわ。 止めた方がいいわ。」
「大丈夫だよ。 男でありながら、アカデミー賞主演女優賞を獲得した天才俳優である僕は、もう尊敬される要素しか無いね。 千世子ちゃんも僕の感動のスピーチを聞いて涙がウルウルじゃないのかな?」
「本当に嘘つきね。すべて真実で、何一つ嘘をついていない、最高の詐欺師だわ。」
千世子ちゃんが、魅力的な微笑みを浮かべながら僕に言った。
「最大の誉め言葉だよ。」
僕はニヤリとした笑みを千世子ちゃんに浮かべた。
「えっ? どう言う事? アキラ君が何か嘘をついたの?」
雪ねぇちゃんが疑問を浮かべる。
「別に嘘はついていないわ。 ここはアカデミー賞の受賞会場よ。 変な嘘なんてすぐに見破るプロ達の巣窟よ。 だからあれは間違いなく、アキラちゃんの本心ね。 でも、それだけじゃない。 アキラちゃんは、自分の本心と真実を語りながらも、最大の目的を達成したわ。」
「アキラさんは、あのスピーチに何か目的があったのですか?」
「そうよ。 男であるアキラちゃんが主演女優賞を受賞するって、たとえ映画芸術科学アカデミー会員の多数決で決まったとしても、反対する人ももちろん居るでしょうし、納得できない人も居て、今後大きな論議に発展する可能性があったわよね? しかも、男女の垣根を取っ払っちゃうと、ジェンダーとか性別に関係ない役の賞を新設しろみたいな話にも発展しかねないわよね。」
「そう言えば、そうね。 あのスピーチでかき消されちゃったけど、アキラ君が男でありながら、主演女優賞を受賞するのはおかしいって人もそれなりに出て来るでしょうね。 それにジェンダーの垣根をなくすのであれば、男女の賞がある事自体がナンセンスよね。」
「だからアキラちゃんは、先手を打って、自殺の話を絡めた、役者としての精神的な話を加える事で、論点をぐちゃぐちゃにして挿げ替えたのよ。」
「ぐちゃぐちゃって?」
「本来の論点は、男に主演女優賞を与えるのはおかしいって言うシンプルな論議のはずが、アキラちゃんがあのスピーチをする事で、星アキラは主演女優賞を受賞する資格があるかどうかと言う、個人的な話に置き換わったのよ。 それで、みんなはあのスピーチを聞いて、アキラちゃんが人間的に、主演女優賞を受賞する資格が無い俳優って言える?」
「それは無理ね。 あんなスピーチをされちゃったら、主演女優賞を受賞するに相応しい俳優だと思うし、主演女優賞を受賞する権利が無いみたいな事を主張したら、その人の人間性が疑われるわ。」
「そうなのよ。 男に主演女優賞を与えるのはおかしい → なら星アキラは主演女優賞を与えるのに相応しくない俳優なのか? → 違う。星アキラは素晴らしい俳優だ。 という論争になって、男に主演女優賞を与える話が逸れて堂々巡りになるの。 だから、論点がぼやけて、誰一人、星アキラから主演女優賞をはく奪するべきだみたいな主張ができなくなったのよ。 結果、アキラちゃんの受賞は正当で、異論を挟めなくなったわ。 しかも、あの話をする事で、今後にジェンダーを超えて受賞できるのは、アキラちゃんと同レベルか、アキラちゃん以上の俳優じゃないと受賞できないから、実は逆に男女を逆転して受賞するのは、すごくハードルが上がっているわ。 だから、男女以外の賞の話も、星アキラを超える俳優が出てきたら、その時に考える程度の話になって、誰でもジェンダーを超えて受賞できるわけではなくなったから、これ以上の論議はされないでしょうね。」
「え゛っ。まさかあれって、全部計算づくの演技だったの?」
「演技じゃないわ。 ここで演技なんてしたら、誰かが必ず見破るわ。 アリサさんも今頃、このスピーチを聞いて本気で大号泣しているでしょうね。 これは純粋な本心でもあったけど、ここで本心を語る事で、他の人には分からないように下心を混ぜ込んだの。 なによりも、『本当の僕』の話をした時点で吹き出しそうになったわ。」
「まさか、あの感動した、『本当の僕の話』って嘘だったんですかっ?」
「景ちゃん、嘘じゃないわよ。 あれもある意味、本当のアキラちゃんよ。 ただ、景ちゃんも普段から、それ以上に本当のアキラちゃんを見ているわよね?」
「それ以上に本当のアキラさん? いつ見ているのですか? あんなシリアスなアキラさんなんて見た事ありませんよ? アキラさんの内面にある繊細な心では無いのですか?」
「それも、まぁ、アキラちゃんの本心だし、アキラちゃんを構成している一部だけどUR級の激レアなやつね。 真に本当のアキラちゃんは景ちゃんがいつも見ているやつよ。」
「えっ? いつですか?」
「いつもよ。 変な着ぐるみを着て、ポテチを食べながら、Youtubeやアニメのサブスクを見てゴロゴロして、2.5chでくだらないレスバをしているのが、真に本当のアキラちゃんよ。」
「あれが、本当のアキラさん・・・?」
「本当のワイを見つけてくれて嬉しいンゴw。 ナイーブで精細なワイにもっと優しくしてクレメンスwww。」
「ねっ? これは、ある意味、世界一哀れで悲しい生き物でしょ?」
「うわっ、最悪ですっ! ぜんぜん、他人の評価に疲れ果てた哀れな人間では無いじゃないですかっ! 私の感動を返してくださいっ!!」
「こうやって見ると、やっぱりまだ、景ちゃんよりもアキラ君の方が問題児ね。 安心したわ。」
「超問題児の景よりも、アキラがハイパー問題児ってだけで、全く安心できる要素は無いんだよなぁ・・・。」
「阿良也君やめてっ! これ以上、私の精神の安定性を損なわせないでっ!」
「阿良也、お前は、他人を問題児とか論評する以前に、スターと会場を抜け出して飲みに行ったり、パーティー会場のワインを勝手に盗み飲んだり、他人のインタビューに勝手に紛れ込んだり、給仕になってドッキリを仕掛けるような問題行動を先にヤメロ! お前、この会場だけでどれだけ問題を起こしているんだ! このスーパーウルトラグレートデリシャスワンダフル問題児が!!」
「痛たっ、痛いっ、七生! 止めろ! 頭蓋骨がギシギシ言っている!」
「天罰じゃ! 天罰。」
「七生姉さん、ナイス調教!」
「七生さん、ガンバ!(他人事)」
僕の周りは、いつも賑やかだ。
「でも、あのスピーチは、昔のあなたを解き放って救う、本当に素敵なスピーチだったわ。 スピーチの最中に、自殺騒動の前の昔のアキラちゃんが、目の前で私に微笑みかけてきたもの。 私もすごく感動したわ。 あなたは本当に目が離せない珍獣ね。」
「ありがとう千世子ちゃん。 来年は『イーファと魔法の旋律』の映画化で、千世子ちゃんがあそこでスピーチするだろうね。」
「そうね。 そうなったら、今度は私がアキラちゃんを感動させてみせるわ。」
「それは、すごく楽しみにしているよ。」
ついに、アキラ君が男でありながら、アカデミー賞の主演女優賞を受賞しました。
人々は、俳優の頂点に立ったアキラ君を誉めそやし、いつしか世界レベルになった彼の事をみんなは、『世界の珍獣』と称える事になります。
( ;∀;)イイハナシダナー