星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
僕の主演女優賞の受賞後に、作品賞の発表だ。 僕は急いでまたウィッグとドレスを身に付けて会長に戻る。 雪ねぇちゃんも戻って再び、ナイスねーちゃんになっているよ。
「今年の作品賞は、ユーモレスクの受賞です! おめでとうございます!!」
「やったーーーっ!」
「やったね!」
「やったわね!」
「うううっ。 もうダメっ。 胃と食道が持たない!」
「雪ねぇちゃん、最後だから頑張るんだ!」
僕は雪ねぇちゃんを無責任に応援した。
「そうよ、これを乗り切ればハッピーエンドなんだから雪ちゃん、がんばって! (これはもうダメね)」
「二人とも、元凶のくせに、ここで善人ぶるとか、相当な鬼畜だな。」
「阿良也も口角が上がってニヤけているくせに何を言うんだよ。 それに僕は鬼畜じゃないよ! 仮に鬼畜だとしても、鬼畜と言う名の紳士だよ!!」
「ううううっ。 気持ち悪いですっ。」
景ちゃんも気持ち悪そうだ。 しかし、景ちゃんまでもがプレッシャーで気持ち悪くなる訳が無い。 景ちゃんは明らかに、アカデミー賞の会場で限界ギリギリまで追い詰められた雪ねぇちゃんの心境をトレースしている。
過去の自分の体験や感情を取り出して、演技に適用するメソッド演技法だけど、最近の景ちゃんは自分の体験以外にも、他人の感情や体験を共感して、自分の演技に生かすようになっていた。
元々この方法は、阿良也の十八番だったんだけど、景ちゃんは最近、これをどん欲に真似て相乗効果でどんどんヤバく成長している。
アカデミー賞と言う一世一代の賞を受賞して嬉しいながらも、プレッシャーで限界ギリギリまで追い詰められる雪ねぇちゃん。 こんな逸材は、この先まず見られないだろう。 だから景ちゃんは、雪ねぇちゃんの心境をここで、リアルタイムに真似て、そのまま喰う気だ。
「「「・・・・・・・。」」」
僕たち三人は、こんな所でこんな事をする、景ちゃんの鬼畜の所業にドン引きだった。 ハッキリ言って、この時点で、僕たちの中で一番ヤバいのは景ちゃんである。 これについては、誰も異論は無いだろう。
とりあえず時間が無いので、僕たち3人で、真っ青になった雪ねぇと、同じく真っ青な景ちゃんをステージに引きずって行った。
「おめでとうございます! ユーモレスクがついに七冠全部制覇ですね!!」
司会の方が、明るく雪ねぇちゃんにマイクを向ける。
「ああっ、もうだめぽ・・・。」
そう言って、雪ねぇちゃんは後ろを向いた。 こっこれはまずい。 このままでは放送事故が起こってしまう! 僕は奥の手を切る事にした。
「エチケット袋 ケロケロ!!」
僕はドラえもんの声で、エチケット袋を取り出す。
「説明しよう、エチケット袋ケロケロとは、消臭効果が抜群な吸水剤が入っていて、さらに使用後はチャックで閉じられるため、いやな匂いもせず、お子様やご夫人でも安心して使える、とても衛生的なエチケット袋なのだ!!」
ここの説明はもちろん、元ネタのヤッターマンのナレーションである! 僕は声優繋がりの、ヤン・ウェンリーの声で説明した。 アカデミー賞の舞台の上とも相まって、非日常な感じで、スペースオペラを連想させる。 ・・・なんて現実逃避をしている場合じゃなかった!!
「雪ねぇちゃん、これに出してっ!!」
「おえ~。 ケロケロケロケロ。」
「ふ~っ。危機一髪だった。 あっ、ヤバい! 生放送はどうなっているの!?」
僕は慌てて放送用のモニターを見ると、モニターには事前に打ち合わせていた船の映像が映っている。
「なっ、ナイスボート!!」
「危ない所だったよ。 あらかじめディレクターと打ち合わせをしておいて、船の映像を用意しておかなければ、今頃、大変な放送事故だったよ。 雪ねぇちゃんは僕に感謝してよね!」
「アキラちゃん、すでに放送事故よ。 あと、流石に盗人猛々しいと思うわ。 これはいくらなんでもやり過ぎよ。」
「僕の計算では、最後までもって、そこからトイレに駆け出すはずだったんだ。 それなのに、まさかステージの上でケロケロするなんて、アキラコンピュータのシミュレーションは完璧だったはずなのに、完璧なシミュレーションのさらに上を行った、雪ねぇちゃんがいけないんだよ!」
「アキラの中のコンピュータとか、ファミコンぐらいの性能しかなさそうだな。」
「ゲームボーイの間違いじゃないの?」
「あっ、アキラさん、私も気持ち悪くて、もう吐きそうですっ・・・。」
「えっ、景ちゃんまで!? これは想定外だよ!! なんでここで、ここまで雪ねぇちゃんをトレースするかなぁ・・・。 天才と、あれは紙一重だよね。 千世エもん、2号を投入だ!」
「エチケット袋 ケロケロ2号!!」
千世子エもんがドラえもんの声で、エチケット袋を取り出す。
こんな事もあろうかと、事前に用意しておいた、スペアで予備のバックアッププランで景ちゃんの事態に対応する。
今日の僕は、宇宙戦艦ヤマトの真田志郎並みの大活躍である。 今の僕であれば、宇宙戦艦ヤマトに乗って、イスカンダルまで行って、コスモクリーナーを取ってくる事も可能であろう。
「おえ~っ。ケロケロケロケロケロケロ。」
「地獄❤絵図w」
「アキラちゃん、笑い事じゃないわ。 流石にこれは大事故よ!」
「二人同時は想定外だよ。これは、シン・スタジオゲロ酷天だね。」
「"シン"は各所から怒られるわ。せめて、真・スタジオゲロ酷天にするべきよ。」
「そっちもヤバそうだよ。間を取って、ネェル☆スタジオゲロ酷天にしようよ。」
「そうね。それなら可愛いし、墨字さんもキレないかも。」
「墨字さんは今、1万%キレてると思うぞ。」
「ほら、阿良也、二人のケロケロが終わったから、預けておいたフローラルな匂いがする水を出して。」
「ほらよ。」
「雪ねぇちゃんと、景ちゃん、これで口をゆすぐんだ!」
そう言って、雪ねぇちゃんと景ちゃんの口をゆすがせる。
「もう時間が無いのですが・・・、Yukiは最後に一言行けます?」
プレゼンターのお姉さんが笑いながら言った。 僕たちの声もマイクを通して外に流れていて、気が付いたら、会場は大爆笑していた。
「だっ、大丈夫です。」
「それじゃ、カメラ切り替わります。 3,2,1、はいっ!」
最後の瞬間に船の映像から、マイクの前に立つ、ナイスネイチャの映像に切り替わる。
雪ねぇちゃん、もうダメだけど、せめてここで何かインパクトのある一言をお願いっ!
「お、おなじみ七冠。・・・なんちゃって。」
「ナイスボート!!」
「「「・・・・・・・・・」」」
もう、僕にはボートを褒めるぐらいしか、出来ることが無かった。
こうして、僕たちのアカデミー賞授賞式は、様々な感動と、巨大な爪痕を残して終わったのであった。
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ちなみに、僕がディレクターと打ち合わせて用意していたのは船の映像だけで、穏やかな音楽等は特に指定していなかった。 結果、船の映像が流れながら、僕たちのステージ上の音声がそのまま流れ続けるという、圧倒的なガバプレイでアカデミー賞を完走するのであった。
・・・日本では放送事故のボートと言えば、穏やかな曲なんだけど、異文化って難しいよね。(なお、この部分が最も高い視聴率だった模様。)