星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
------------- 柊雪視点 -------------
波乱の授賞式を終えた私は、アカデミー賞のアフターパーティーで、壁の花になるべく努力しようと思っていた。
壁の花になるべく努力すると言うのも妙な表現だが、アカデミー賞の授賞式でゲロって大事故を起こした私は傷心して一人になりたかった。 ヤケになって踊ったうまぴょい伝説は、それはそれはハイになって気持ち良かったが、現実逃避を終えて、現実が見えて来た私は、回れ右をしてホテルにでも引きこもりたかった。
とはいえ、7冠もの沢山の賞をくれたアカデミー賞でもあり、その後のアフターパーティーに参加しないのも不義理である。 なによりも、あの大惨事をみんながどう思っているのかを確認したかった。
私は戦々恐々としながら、そ~とパーティー会場に入ると、パーティー会場に居た全員が私に拍手をくれて出迎えてくれた。 アカデミー賞の授賞式でゲロるという前代未聞の大失態を演じた私は、みんなから非難されるものだと思っていたから、目を白黒させた。
「Yuki、今回のアカデミー賞は君のお陰ですごく楽しかったよ! こんなに楽しいアカデミー賞の授賞式は初めてだったよ!」
「本当に笑わせてもらったわ。 それにスピーチも良かった。 やっぱりYukiは名監督の素質があるのね。」
「Yukiがゲロを吐いた時はどうなるかと思ったけど、想像以上に面白かったよ。 今年のスピーチは名作揃いで、しかも歴史に残る放送事故まで、こんなアカデミー賞は二度と見られないね。」
「こんなエンターテインメントなアカデミー賞は二度と見られないだろうね。 歴史に残る舞台を生で見れて、絶対にみんなから羨ましがられるよ。」
意外な事に、皆さんの反応は非常に好意的だった。
「あのー。 私はアカデミー賞で大変な粗相をやらかしたのですが、皆さん怒ったりとかされていないのですか?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「あれは笑えて可愛いものさ。 疾風のごとく現れた天才映画監督が、アカデミー賞のプレッシャーに耐えかねて吐くなんて、アカデミー賞にとって光栄だよ。 天才監督ですら、それだけ緊張して受賞するような、ビッグな賞って事で賞にも箔が付くからね。」
「そうだね。 わざとじゃないし、リカバリも面白すぎて完璧だったし、おそらく全員が笑っていたから大成功じゃなかったかな?」
「逆にアカデミー賞を大量に受賞する天才が吐くまで緊張するとか、すごく新鮮だったわ。」
「君がステージで吐くと分かっていたから、Kei Yonagiも一緒に吐いてくれたじゃないか。 やはり彼女も時代を彩る天才女優だね。 AkiraやChiyokoのフォローも素晴らしかった。 Yukiは本当に素敵な親友を持ったね。」
「アカデミー賞に何度も出ているとね、政治を持ち込んだり、賞を取り違えたり、くだらない事で確執が起こったり、本当に後味が悪くなる事も多いんだ。 映画界で最高の栄冠だけに、それにまつわる人間の愚かしい部分を沢山見るのだけど、今回のアカデミー賞は本当に良かった。 参加したみんなが本当に楽しめた。 Yukiの最後のダンスも最高だったね。 アカデミー賞の会場であんなに感動して、笑って、喜んだのも久しぶりだよ。」
「正直な話、今年はユーモレスクが圧勝するのは分かっていたのよね。だからサプライズも無くつまらないアカデミー賞になると思っていたわ。 受賞をめぐって監督間や俳優間の変な確執も無かったし、なによりも素晴らしいスピーチに、面白いハプニング、素敵なライブと本当に楽しめたわ。 ダンナも今年は来た甲斐があったって、大満足だったわよ。」
「こんなに笑ったアカデミー賞も久しぶりだな。 前に、こんなに笑ったのは、1974年に全裸の男がステージに乱入した時かな? そう言えば、あの頃はアカデミー賞も、のどかだったね。」
「ほんとうだね。 近年の授賞式は息がつまるような妙な緊張感があって、みんな受賞の栄誉ばかりを追い求めて、目をギラギラさせて、とても映画関係者の慰労とは言えない部分があったから、緊張でガチガチになったYukiは本当に素朴で可愛かった。 ビシッと正装して、緊張感満載のいつものセレブの祭典って感じじゃなくて、ジーパンとセーターとかを着て、気楽にみんなと感動を共有する受賞会場って感じが最高だったね。」
「Yukiやみんなのコスプレも良かったよ。 本当に可愛くて、見ていて飽きなかった。 TPOをわきまえない、勘違いしたどこかのセレブみたいに、妙に凝った先鋭的なデザインのドレスばかりを着て、したり顔でステータスを誇示するのではなくて、みんなを楽しませるって言う、映画監督として一番大切な、エンターテインメントの基本が分かっているのもよかったよ。 最近はエンタメと自己顕示の差がわからない人間が増えていて、辟易していたんだ。」
私は、「神聖なアカデミー賞の会場でゲロを吐くとは何事だ!!」みたいなリアクションを予想していたのだけど、予想外に好評で驚いた。
お酒を飲みながら、普段はお目にかかれないような人達に、自分の映画の素直な感想や、本音などを聞けてすごく良かった。辛口の感想もかなりあったけど、みんな私の映画を認めてくれているのが良く分かった。 それと同時に、私もハリウッドという映画共同体の一員として認められたのが肌で感じられた。 普段は見る機会の無い、一流の映画監督さん達とお互いの映画観などで話ができてすごく嬉しい。
アキラ君から、「アカデミー賞はアフターパーティーが本番だよ。」って言われた意味がわかって来た。 世界トップの映画関係者が一同に集うこのパーティー会場で、みんな新しい出会いやコネを作って行くのだろう。
ふと見ると、ピアノの周りに人だかりが出来ていた。どうしたんだろうと目をやると、アキラ君がピアノでパルファンちゃんがヴァイオリンで、演奏を始めていた。ユーモレスクで名を上げたこの二人の生演奏とか、今後はとんでもない価値になって行きそうだ。
アキラ君は、毎年、ピアノの演奏がてらに、気が向いたらアフターパーティーに参加しているって言っていたけど、来年からは、アカデミー賞の事務局あたりから、是非演奏してくださいって懇願されるのではないだろうか。
千世子ちゃんは、同年代の超有名な女優と立ち話をしている。 あの映画のあの女優と立ち話をしても全く見劣りしないとか、千世子ちゃんもヤバすぎる。
景ちゃんは、時間が遅くて、夜凪ママが双子を連れて帰ったので、一人で超ヤバイ悪役を演じている俳優さんと話し込んでいる。 あの人もストイックなメソッド演技で有名な俳優さんだ。 いろいろ学ぶ事も多いだろう。
阿良也君は・・・。 あいつ、何をやっているの!? どっから持ってきたのよ! その玉ねぎドレス!! その横でインパクトがあるドレスを着る事で有名な、超世界的な歌手が大爆笑していた。
今の阿良也君が着ているドレスは、あの人から借りたのか・・・。 この会場でもシュールすぎる。 あのドレスは確か、アキラ君と仲の良い、日本の超大物女優の黒渚さんとのトーク番組に出演した時のドレスでは・・・。
ブレーキ役の七生さんがどうなっているのか探してみると、壁にあるソファーに倒れてピクピクしていた。 もう、ブレーキパッドが消耗しきって、阿良也君が減速せずに手遅れらしい。 今の阿良也君は、ブレーキが効かずに下り坂を駆け下りる暴走特急だ。 七生さん、お疲れ様です。
私は、暴走特急阿良也号に巻き込まれないように、他人のふりをする事にした。
こうして、アカデミー賞のアフターパーティーは、たいへん平和(?)に過ぎていくのであった。