星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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巌裕次郎はドラマを見る2

 

『アキラ、帰ったのね。』

 

星アリサが母親役として出ていたシーンを見て俺は固まっていた。

 

「これって、星アリサだよね?」

 

「絶対に女優に復帰しないって言っていたのに、どうして? アキラ君のため?」

 

久しぶりにTV画面に女優として映った星アリサは、母親としてのエゴを押し付ける、非常に強烈に狂った毒親としての演技をしていた。

まともな出演者が居たら絶対に食われる、そんなブランクを全く感じさせない強烈な演技だった。

 

いや、久しぶりに見たせいかもしれないが、引退前よりも存在感が強力になっている気がする。

星アリサがTVの画面に映っているだけで全てが支配されるような強力な存在感。それを久方ぶりに感じていた。

 

「すっごいプレッシャー。見ているこっちまで息苦しくなるみたい。」

 

若い劇団員たちには、星アリサという本物が放つプレッシャーに当てられていた。それも当然だろう。俺も画面を見たまま動けなかった。

阿良也も呆然として視線がTV画面に釘付けになっていた。

 

『僕ががんばって手に入れた役を、勝手に降板させるなんてひどいよ!』

 

そんな強烈な存在感を見せる星アリサのプレッシャーを受けながら、星アキラはライオンの群れに立ち向かう子犬のような演技を行う。

 

息子に対して強烈なプレッシャーを与える母親に対抗して、なけなしの勇気を振り絞ってなんとか抵抗する子供、やたらとリアルな芝居だった。

 

『あなたはもっと人の目を引く役をやるべきだわ。昔の私のように。』

 

『母さんが僕の人生を勝手に決めないでよ!』

 

『聞き分けの悪い息子ね。』

 

そして、母親からの酷い虐待を受けながら、アキラ君が心を曇らせて行く様子がわずか10分ぐらいの芝居に凝縮されていた。

 

そしてアキラ君は自分が虐待から逃れて生きるために、星アリサを殺す。

 

星アリサの出番はここまでだった。わずか10分程度の短い芝居。しかしここだけで、これまでの母子の人生を感じられる濃厚な芝居であった。

 

俺は、星アリサが壊れた心を取り戻している事に気が付いていた。あんなに何年も壊れたままで、アキラ君が自殺した時ですらも治らなかったのに、どうしてだ?

 

『千世子ちゃん。悪いんだけどちょっと遅れちゃいそうなんだ。スタジオ入りは僕の方が早いからちょっと代役をしてもらえないかな?』

 

アキラ君は百城千世子に電話すると、百城千世子はアキラ君に変装してアキラ君の代わりにスタジオ入りする。

 

「千世子ちゃんすごい。アキラ君になりきってる。声もおんなじだし、アキラ君と全然見分けが付かない。」

 

「これは打ち合わせをしているスタッフさんでも分からないよ。」

 

そしてアキラ君も百城千世子に変装してスタジオ入りして、控室でお互いの衣服を交換する。

これでアキラ君のアリバイが完成した。

 

そして、大女優の密室殺人が世間を騒がし、高畑小次郎が登場する。

 

そこからアキラ君の芝居が崩れ始める。

 

対照的に、打ち合わせにアキラ君ではなく、千世子ちゃんが参加している事を見抜いて、愉快犯的に面白がる環蓮の存在感が増していく。

 

「アキラ君、もっと演技上手いと思っていた。すごくがっかり。演技が完全に崩れて、完全に主役を環蓮に持っていかれているじゃん。」

 

「千世子ちゃんにもフォローされているけれども、全然上手く行っていないじゃないですか。確かに高畑に疑われなきゃいけないとは思うけれども、これはわざとらしすぎてバレバレですし、環蓮がかく乱して、なんとかシナリオの破綻を防いでいる感じじゃないですか。」

 

「あんな風に、役者に復帰したからすっごく期待していたのに、すごく残念。やっぱり星アリサの目は正しかったんだね。」

 

「話題性はあったかもしれないけれども、化けの皮がはがれた感じ。アキラ君のキャストは番組的に完全に失敗でしょう。」

 

「お前達には、これが下手糞な芝居に見えているのか?」

 

「何を言っているのですか? 巌さん。もうボロボロじゃないですか。一般の視聴者にもアキラ君のキャストが失敗したって伝わっていると思いますよ。完全にアキラ君は蚊帳の外で、高畑小次郎 VS 環蓮になっているじゃないですか。」

 

「阿良也はどう思う?」

 

「わかんない。すんごく下手糞に見える。でもなんか気持ち悪い。上手いのか下手なのか匂いが混ざりすぎて解らない。」

 

この様子からすると、本当に環蓮は撮影時に気が付いていなかったのかもしれない。幼い頃から一緒に居る百城千世子は気が付いているのだろう。だから星アキラの演技のフォローをしている。

俺も、アキラ君の幼い頃の化け物染みた演技の技術を見ていなければ、劇団員と同じ感想だったかもしれない。

 

「はははっ。面白れぇじゃねえか。 お前ら全員、星アキラに騙されているぞ。」

 

「巌さん、何を言っているのですか? 星アキラは犯人だってみんな判っているじゃないですか。」

 

俺はすごく愉快だった。あの演技の技術しか持たなくて、器用貧乏と称された不幸な少年が、どこかで本当の心を手に入れて、ついに本物の役者に成長したみたいだ。

 

ドラマは佳境に入り、ついに高畑小次郎が犯人を指摘する場面になった。

 

『犯人は・・・・。この中に居ません!』

 

「えっ?どういうこと? アキラ君が犯人じゃないの?」

 

混乱する劇団員達。そこからが怒涛の展開だった。

 

下手糞な演技の皮を破り捨てた星アキラと、高畑小次郎の息詰まる応酬。

 

本当にさっきまで下手糞な芝居をしていたのとは思えない存在感を焼き付けながら、星アキラは高畑小次郎と丁々発止のやり取りを続ける。

そして明らかになる事件の本当の真相。

 

クライマックスのシーンが終わるのと同時に、うちの若い劇団員達はみんな魂が抜けたような表情をしていた。

そして、同時に画面の中の環蓮も同じ表情をしていた。

 

おそらく台本が2冊あって、こりゃあ環蓮は完全に騙されていたな。ご愁傷様。

 

「いやー。愉快!愉快! お前達はまだまだ修行が足りないな!」

 

「なんで巌さん、そんなに機嫌がいいんですか?」

 

「そりゃ、あの星アキラと星アリサが立派な役者になって戻ってきたからに決まっているだろ!」

俺は、このドラマを見ていて、ここ何年も溜まっていた胸のつかえが取れた気がした。

 

そして最後のシーンで星アキラが見せた表情を見て、俺の背筋に電撃が走った。

 

もしかして、星アキラは星アリサすら超える役者になるかもしれない。

俺の脳裏をそんな予感がよぎった。

 

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