星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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安原絵麻はセレモニーで驚愕する

 

------------ 安原絵麻視点 ------------

 

MoCAの大広間で『奇跡の12分』のセレモニーが始まった。

 

相変わらず、アキラ君達と七生さんを加えた5人は、微動だにせず、『奇跡の12分』と同じポーズを取っている。本当に人形にしか見えない。

 

当然、このセレモニーはSNSで拡散されて、セレモニーには沢山の人が駆けつけて、みんな動画や写真などを思い思いに撮影している。

 

そんな大注目の中で、MoCAの館長さんに私の絵のすばらしさと、寄付による現代美術への貢献を褒められる私。

 

褒められるのは嬉しいけど、それよりも隣で人形の演技?をしている5人の方が気になる。

 

セレモニーに駆けつける人がどんどん増えていく。それはそうだ。今、一番ホットな俳優達を間近に見られるのだ。

 

アキラ君は言わずもがなだけど、今のニューヨークでは、阿良也君と千世子ちゃんが一番の注目株だろう。

 

今、ニューヨークのブロードウェイでは、あの巌裕次郎による『Juliet and Romeo: A Reversal of Fates』(ジュリエットとロミオ 運命の逆転)

 

という舞台が公演されていた。

 

『Juliet and Romeo: A Reversal of Fates』は、アカデミー賞の後から始まった舞台で、なんと、ジュリエットが男なのに女として育てられた女装の明神阿良也、ロミオが女なのに男として育てられた男装の百城千世子という、男女の配役が逆転された舞台となっている。

 

男女が逆転したことで、物語の見え方が全く変わり、新しい視点を得られている上に、愛と憎しみの対立や、運命と自由意志と言う、ロミオとジュリエットの普遍的なテーマを取り入れつつも、物語が伝える愛の純粋さや、運命の悲劇性は全く変わらず、むしろ性別の固定観念を超えたことで、愛そのものの普遍性を、強く感じさせる作品に仕上がっていた。

 

まさにシェークスピアを知り尽くした巌裕次郎ここにありという作品であり、世界が巌裕次郎や劇団天球に対して驚きを覚えた舞台でもある。

 

深く愛に入り込むジュリエットと、客観性と真面目さに裏打ちされながらも、純粋な愛への渇望に贖えきれないロミオの演技がとんでもなく素晴らしく、巌裕次郎と合わせて、明神阿良也と百城千世子のトニー賞受賞は確実と噂されていた。

 

また七生さんも、ジュリエットの乳母として、ただの脇役ではなく、ユーモアと深い愛情を同時に体現し、物語全体を支える重要な柱としてすざまじい快演を見せていた。

 

私達も昨日、舞台を楽しんできて、最後には涙で顔がびしょびしょになってしまったのだけど、昨日の今日で、こんな所で会うとは思わなかった。

 

これだけでも凄いのに、さらに千世子ちゃんは重大な役目がある。それは『イーファと魔法の旋律』の総合監督だ。

 

ユーモレスクのスピンオフ作品として、作品中で千世子ちゃんが執筆した、イーファと魔法の旋律は、本を出版すると、ユーモレスクの大ヒットもあって、出版でもメガヒット。あっと言う間に映画化の話が出る事になった。

 

そして、元がユーモレスクの出演者をモチーフにした話であるために、映画化も容易だった。

 

世間では、ユーモレスクの大ヒットでさらなる続編が望まれていたけれども、雪ちゃんはユーモレスクは完結で、2を作らない意向であるから、そのスピンオフ作品は、全世界で注目を集めていた。

 

確かにユーモレスクは綺麗に終わったから、今更続きを作るとか言われたらがっかりだけど、イーファやエマの活躍を見たい。イーファの音楽をもっと聞きたい。そんなニーズをがっちりと掴んだ映画になりそうだった。

 

それで、原作兼、総監督が千世子ちゃんで、現場監督が雪ちゃん、アキラ君が演出兼プロデューサーで、脚本が阿良也君と景ちゃんの合作と言う恐ろしい布陣となっていた。もちろん、それぞれ俳優として映画に出演する。

 

脚本の景ちゃんだけど、今回が脚本は初挑戦なんだけど、小説を元に阿良也君と役になり切ってそのシーンを自分でイメージする事で、普通の脚本家がまず書けない、天才にしか演じられない、すごい(恐ろしい)脚本になっているらしい。

 

さらにアキラ君が、ハリウッドの映画会社を跨いだ超一流スタッフを集めての撮影という、明らかにヤバイ映画になりそうな予感である。

 

この映画も、舞台と一緒にニューヨークで撮影されているらしく、撮影も終盤という噂だ。もしかしたら、来年のアカデミー賞でも、あのメンバーはハッチャケるかもしれない。

 

こう言った部分があるので、このメンバーがニューヨークにあるMoCAに居る事自体はおかしくは無い。前に連絡を取った時には、時間があったら、絵麻ママのセレモニーを観に行くよ。とか言っていたから、ちょっとは期待していた。

 

しかし、こんな状況は全く期待していなかった。本当にどうなっているんだろう? 館長さんも、私の絵を賞賛する前に、この状況を説明して欲しい。

 

そして、まるでアキラ君達が居ないかのごとくセレモニーが淡々と進んで行く。

 

その後、私が挨拶とお礼の言葉を述べて、沢山の拍手を浴びた後に、セレモニーはあっけなく終了した。

 

「「「「「???????」」」」」

 

私を初め、セレモニーを見に来ているみんなの頭にクエスチョンが浮かぶ。この5人の人形(?)は何なのだろうか?誰か説明をお願いします。

 

みんな同じことを思ったのか、セレモニーの終了と共に、観客がざわつき出す。

 

そんな中、観客の中からヴァイオリンの音がし始める。誰しもが聞いた事があるイントロだ。

 

「えっ、何なの!?」

 

そのヴァイオリンは素晴らしい音で、澄んだ音色がMoCAの大広間に響く。

 

観客のざわつきはすぐに収まって、みんながそのヴァイオリンの音に注目をする。

 

ヴァイオリンの主はパルファンちゃんだった。どこから現れたのか、彼女はかっこいい私服を着てヴァイオリンを弾いている。

 

彼女が弾いている曲は、チャイコフスキーのくるみ割り人形の中の一曲、『花のワルツ』だった。クラシック好きで無くても、おそらく誰もが聞いた事がある曲だろう。

 

彼女を中心に人波が割れて、彼女がアキラ君達の前まで歩いて行く。

 

そして、パルファンちゃんがアキラ君の前まで行くと、彼女のヴァイオリンのパートが終わって、どこからかやってきたハープの音色が、彼女のヴァイオリンのフレーズを引き継ぐ。

 

ハープの音がする方向を見ると、コントラバスやチューバ、ホルンやトランペット、トロボーンと言った楽器をもった人達がステージに近づいて来た。

 

そして、ハープのパートが終了するとともに、人混みの中からタクトが大きく持ち上がった。

 

みんながそのタクトに注目する。シカゴ交響楽団の指揮者の方だ。そのタクトが振り下ろされると同時に、オーケストラの演奏が始まる。

 

さらに観客の中から、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットといった小型の菅楽器が進みでて、演奏に合わせる。

 

曲が盛り上がり始めた所で、人形のように固まっていたアキラ君が突然帽子を取る。すると黒髪のカツラが取れて、ブラウンのロングヘアとなった。

 

アキラ君の雰囲気が銀河鉄道のヴァイオリンを演奏する青年からイーファへ一瞬で変わり、パルファンちゃんと本当に美しいハーモニーを奏でる演奏が始まった。

 

そして、そんなヴァイオリンに合わせて、残りの4人がそれぞれペアになって、ワルツのゆったりしたダンスを始める。

 

さらにそのダンスに合わせて、観客の中から二十人ぐらいが歩み出て、一緒にダンスをし始める。 MoCAの大広間は、まるで舞踏会の会場のようだった。

 

MoCAの大広間に美しく響き渡る花のワルツ。私達はまるでおとぎ話の中に迷い込んだみたいな錯覚に陥る。それと共に、花の精霊が奏でているような、神秘的な音楽の力に自然と涙が零れ落ちた。

 

喜怒哀楽の、どの感情でも無い。ただ、この奇跡的な情景を目にして、無表情のまま感動で涙が床に流れ落ちている。

 

これだけ居る全ての観客が誰一人言葉を発せず、同じように感動している。

 

MoCAの大広間の全員が、この瞬間に感動の心を共有しているのがわかる。まさに魔法のような情景だった。

 

演奏は徐々にクライマックスに近づいて行き、素晴らしい盛り上がりを見せて、目の前で展開されていた奇跡の舞踏会は幕を閉じた。

 

後にして考えると、時間にして10分弱の演奏だったのに、その時は2時間ぐらい演奏されていたように感じていた。

 

そして、演奏が終わると、みんな蜘蛛の子を散らすように居なくなって、最後においちゃん達を含めた私達と観客しか居なくなった。

 

あまりの撤収の速さに、アキラ君達に声すらかけられなかった。

 

「結局、何だったの?」

 

私は涙を流して、あぜんとしたままみんなに聞いてみた。

 

「「「「えまっちが分からないなら、私達が分る訳が無いじゃない。(っす。)」」」」

 

とみんな見事にハモった。それはそうです。

 

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この日の事は、ニュースやSNSでも非常に大きな話題になったけど、関係者からは何も語られなかったし、アキラ君達は私にも秘密にした。

 

アキラ君達の演奏は、その後もニューヨーク各地で見られたけど、何のためにやっているかは全くわからなかった。

 

世間では星アキラが、現代美術の殿堂であるMoCAをはじめとして、芸術家として、前衛芸術的な『フラッシュモブ』を仕掛けているとの予想で一致して、しばらくするとアキラ君達の出没も少なくなって、この話題も終わろうとしていた時に驚愕の事実が判明する。

 

その日、私達は『イーファと魔法の旋律』の試写会に招待されてウッキウキだった。

 

そして放映された映画の中で、見事にこのシーンが映っていたのだ。私が感動で涙を流すところまでバッチリと映画で使われていた。

 

どうも、雪ちゃんやカメラマンがあの群衆や、大広間の陰に隠れていて、目立たない一眼レフや、隠しカメラで撮影していたらしい。

 

音楽の魔法を操る魔法使いのイーファ・ムーティオと、そのライバルの魔法使いであるパルファンちゃんが扮するエコー・ダロームが、ニューヨークを舞台に繰り広げるドタバタ劇の中盤の山場として、あのシーンが使われていた。

 

『イーファと魔法の旋律』はニューヨークを舞台にみんなこんな感じで撮影されていたらしい。

 

そして、映画自体も、何度も感動の涙を流す大満足の出来だった。

 

結果的にあのシーンは、21世紀を代表するクラシック演奏の一つとして評価されて、音楽の授業とかで映像が使われるぐらいに有名なシーンとなっていく。

 

それに合わせて、あのシーンのモチーフとなった『奇跡の12分』の絵は、このエピソードまでが合わさって、人々から現代美術の至宝とまで言われるようになって、とんでもない価値となり、同時に私の評価も勝手に上がって行ったのであった。

 

・・・書かれた絵自体は全く変化していないのに、それにまつわるエピソードが付加するだけで、絵の価値が上がって行く。本当に絵の価値って何なんだろうね。

 

私は、MHKで放送されている『奇跡の12分』の特集番組を見ながら、そのエピソードを見て、尾ひれが付いて、勝手に価値が上がって行く絵について考えていた。

 

その特集番組の中では、絵の紹介と共に、この絵を見て、感動して人生が変わった人の話が流れていた。

 

考えてみれば、『奇跡の12分』が、私にもたらしてくれた思い出と体験は、私の中で最も価値がある物の一つだった。そう考えると、あの絵は、作者である私にとっても、人生を変える名画であった訳だ。

 

こうして、絵を鑑賞した様々な人間に影響を与えて、その影響がエピソードや経験値となって、絵の価値を上げて行くのだろう。

 

私はアトリエで、新しいアニメのキャラクターデザインを描きながら、テレビに映る、私の子供のような『奇跡の12分』の前途を祝した。

 

 

 

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