星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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三坂七生は絶望する

 

------------ 三坂七生視点 ------------

 

やってしまった。 私は息が荒くなり、目の前が真っ暗になる。

 

さっきまであんなに上昇していたのに何なの!?

 

私はFXをやって絶望していた。絶望という言葉すら生ぬるい。

 

仕事に順風満帆で、自分は運が良いと勝手に思い込んで、ちょっとお金を増やそうとしたらこの有様である。

 

ちょっと負けたのにどんどん熱くなって、1000倍のレバレッジをかけて勝負に出てしまった。

 

目の前には将来に向けて貯めておいた4千万円の資金が0円になったのが表示されている。

 

私は、1000倍のレバレッジをかけて大勝負に出たので、瞬間的にFXの会社から4百億円という資金を借金して市場で運用したのだ。

 

そして、ほんのちょっと想像したのと逆方向に動いた事で、4百億円のうち、0.1%の4千万円分の損益が出た時点でロスカット。

 

私の今までの仕事と、将来に向けて貯めていた大切な資金が全て市場の海に消えてしまった。

 

あれは、私が頑張って貯めたお金なの! 私が舞台俳優として人生をかけて貯めたお金なのに。

 

あのお金があれば、家も買えただろうし、もっと有意義に使えて、人生に余裕もできたはずだった。

 

人生を否定された気分になり、悔しさで目の前がにじむ。

 

私は、立ち上がろうとして足に力が入らずに、床に倒れ込んでしまう。

 

終わった。全てが終わった・・・。

 

私は、目の前が真っ暗になって、欲に負けた自分の愚かさと浅はかさ、自分自身の精神の未熟さと、人間の心の弱さを噛みしめた。

 

私が脂汗をかいて床の上に倒れ込んでガタガタと震えていると、ティスコード(チャットアプリ)の能天気な音が鳴り響く。

 

手が震えながら、ティスコードに出ると、能天気な声が聞こえてきた。

 

「やっほーっ。七生姉さん。みんなのプリティアイドルアキラ君だよ。」

 

ティスコードから能天気な声が聞こえてくる。

 

「なっ何よ。」

 

なんとか絞り出すように声を出す。

 

「うーむ。七生姉さんが非常に元気がないように見える・・・けどどうしたの?」

 

「そっそんな事どうでもいいじゃない!」

 

私は、自分の愚かな行いを知られなくなくてなんとか取り繕うとする。

 

「まるでFXで有り金全部溶かした人の声だけど、何しているの?」

 

・・・こいつ、ネタに走ったつもりだろうけど、的確に状況を当てて来やがる。エスパーか?

 

「ちょうど、今、本当にFXで有り金全部溶かした所よ・・・。」

 

「ふーん。ご愁傷様です。」

 

「・・・すごく絶望しているんだから、もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃないの?」

 

「他人の資産運用に口出しをして良い事なんて何も無いよ。それで?いくらやったの?」

 

「・・・・4000万円よ・・・。」

 

「なるほど。リアルなお金だね。本当なら、かなり素敵な状況だ。人生において、良い意味でも悪い意味でも大きな転換点になりそうな金額だね。自分の愚かさから失ったお金を取り戻すために、さらに愚かな行為に走って、さらに泥沼にはまってすべてを失って人生を棒に振るのか、お金だけが人生じゃないって事を悟って、人生の本当の意味を知るのか、実にドラマチックな場面だね。なかなかいいと思うよ。」

 

「ものすごく傷ついているのだから、もうちょっと言い方があるんじゃないの?」

 

「何倍のレバレッジをかけたの?」

 

「・・・1000倍」

 

「プッ。冷静に考えれば絶対にやらないのに、熱くなると人間は訳の分からない行動をとるよね。賭け事や投資でお金を失うのは、なぜか自分の人格や人生を否定されたような錯覚に陥るんだよね。それで、感情面から見返そうとして、冷静に考えれば簡単に回避できるどんどんヤバイ沼にはまって行く。人間って面白いよね。」

 

「ちょっと、人を出汁にして楽しまないでくれる?私は、全財産を失って、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだから。」

 

「本当ならね。で?いくら損したの?」

 

「だから4000万円よ。」

 

「七生姉さんの空想の金額じゃなくて、実際に損した金額なんだけど。」

 

「・・・・・4万円よ・・・・。」

 

「プププッ。七生姉さんは、感情に1000倍のレバレッジをかけたんだ。やるね。それでこそ七生姉さんだよ。自分の愚かさを1000倍に増幅して堪能するなんて、景ちゃんでもやらないよ。」

 

「ちょっと・・。せっかく盛大に凹んでいる所で現実に引き戻して、水を差さないでくれる?」

 

「ごめんごめん。まさかこんなにアホな役作りをしている最中だとは思わなかったから。役作りの発想という意味では、ある意味、七生姉さんは景ちゃんを超えるよね。」

 

「その賛辞は全然嬉しくないわ。」

 

「4万円かぁ。まぁ、それなりに痛いよね。ホテルのスイートルームに泊まるか、豪華な食事か、みんなに飲み会代を奢るぐらいはできたものね。」

 

「飲み会は割り勘よ。ある程度お金があるからって、お金で上下関係を見せるのは人間関係的に良くないわ。」

 

「その辺はしっかりしているよね。流石は世界進出に消極的だった巌のじっちゃんを引っ張り出して、劇団天球をブロードウェイに進出させた黒幕だ。」

 

「ちょっと、変な誤解しないでくれる? 私もブロードウェイでの公演に賛成したけど、ブロードウェイの公演は別の劇団員が言い出した事だからね。」

 

「その劇団員が言い出す前に、アカデミー賞のアフターパーティーでぶっ倒れた演技をしながら、裏ではブロードウェイのプロデューサーさんに会って、伝手と売り込みをして、万全の体制を整えてから、自分が言い出したってわからないように、劇団員数人が自発的に思いついた感じで、意見を誘導させる形で醸成して、巌のじっちゃんが断れないように上手い具合に劇団内の雰囲気を持って行ったよね。 同業の舞台俳優にすら気付かれないように、脇役に徹しながら自分の目的のために、天球を手の平で転がせる手腕は並みの役者じゃできないよね。」

 

「・・・・。そんな事をしたら巌さんや阿良也が気付かない訳が無いじゃない。」

 

「もちろん阿良也と巌のじっちゃんは気が付いていたよ。でも、阿良也は別に天球の害になるような事じゃ無いから無関心だ。 巌のじっちゃんは、自分の子供のような天球の劇団員みんなが言い出した事だから、気が付いていても口外しないで、ある程度甘やかしてくれる事を計算していたよね? 七生姉さんが一人で強硬に主張しても絶対に頷かないものね。」

 

「・・・・・・。」

 

「いくら巌裕次郎の名声があるとはいえ、日本のローカル劇団である天球をブロードウェイの公演まで行かせて、巌のじっちゃんと阿良也や千世子ちゃんにトニー賞を取らせるとは思わなかったよ。 そして、この快挙の裏で劇団員達は、七生姉ちゃんが暗躍していた事を知らない。 僕も敏腕プロデュサーを自称しているけれども、七生姉ちゃんには負けるかな。でも、この事実を他の天球の劇団員が知ったらどう思うかな?」

 

「・・・・何が目的よ? お金? でもアンタはお金には困っていないわよね? もしも天球の不利益になる事なら許さないから。」

 

「七位姉ちゃん、声が震えているよ? どうしたの? それに天球の事じゃないから心配いらないよ。でも、ある意味お金の事かな?」

 

「何よ?」

 

「今から言う事を絶対に怒らないで聞いてくれるかな? それなら僕もこの事をずっと黙っているよ。」

 

「怖いわね。何があったのよ?」

 

「その前に、怒らないって約束してくれる?」

 

「話す内容によるわ。」

 

「それじゃ駄目だよ。ちゃんと約束して。」

 

「わかったわ。約束する。」

 

「絶対だよ?」

 

「絶対よ。」

 

「それじゃ言うね・・・。」

 

「ごくっ。」

 

「実は、僕がスタートアップとして資金提供していたオーペンAIなんだけど、ミックローソフトが買収する事になって、無事に株が売れちゃったんだ。」

 

「いい事じゃ無いの? オーペンAIって、人工知能で今、凄く話題の企業よね。 もしかして、株の取引に騙されて損失をこうむっちゃの?」

 

「いや、・・・そうじゃないんだけど・・・。まぁ、何と言うか、七生姉ちゃんがスターズ・アセット・マネージメントに預けていたお金なんだけど・・・・・・5倍に増えちゃいました!!!!」

 

「えっ? どういうこと?」

 

アキラに言われた私は、会話の意味が全く理解できなかった。

 

「それじゃ、怒らないって約束だからっ。 じゃ―――ね! バイバイキン!」

 

「あっ、アキラ、アキラ! くそっ、こいつ!」

 

意味が分からなくて呆然としている間に、アキラはティスコードを切って逃亡しやがった!!

 

私は慌てて、スターズ・アセット・マネージメントの資産状況がわかるWebページを確認した。そうしたら、なぜか預けていた虎の子の数千万円が数億円に増えていた。

 

「絶望した! せっかく4万円も損失を出して悲しんでいたのに、その何千倍も資産が増えて殴り込んで来る人生に絶望した!」

 

FXで有り金全部溶かすシチュエーションを楽しんでいた私は、自分の資産が一瞬で数倍に増えた事実に絶望した。

 

「やばい。あまりに感情の振れ幅が大きすぎてゲロ吐きそう。うっぷっ。」

 

こうして、私のスターズ・アセット・マネージメントの口座は完全に見なかった事にして、封印指定されるのであった。

 

(なお、ほかのメンバーは興味が無くて、そもそも口座自体を見ていない模様。)

 





FXで全財産を溶かして幸せだった七生姉さんを、金の力で失意のどん底に突き落とす鬼畜な珍獣君でした。

現在、羅刹女編に向けて準備中で、2月中は週に一度のペースぐらいで、こんな感じで、ほのぼのとした閑話を掲載させていただく予定です。

羅刹女編は3月あたりから開始を予定していますので、お楽しみに!

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