星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
------------ パルファン視点 ------------
レイラ・オリヴィエ国際コンクールで優勝した後、いや、アキラと出会った後から、私の音楽人生は順風満帆だった。
最初は抵抗があったコスプレ演奏も大絶賛で、Youtubeの再生数もうなぎ登り。 アキラと合わせてクラッシック界の新星として、ヨーロッパを中心に大旋風を起こしている。
普通はクラシックの演奏は女性がドレスを着てやるものだけど、これもある意味、着飾るような物だと最近は納得できている。なによりも、コスプレをする事で、別の自分に変身できたみたいで、すごく新鮮でいつも新しい発見があったの。その体験がまた、私の音楽性を高めて行ったわ。
というか、Yotubeの再生数や話題性を考えると、もはやコスプレをしない選択肢は無い。
しかし、保守的なクラシック音楽のファンからすると明らかに色物ではあるんだけど、どんな紳士も、可愛い女の子がかわいい服を着て、自分の好きな音楽を世界トップレベルで演奏してくれる子の動画に抗うことは出来なかったわけなの。
ほとんどの保守的なクラシックファンも、孫や娘などと一緒に動画を観るようになって、家族と共通の話題が増えるようになって、このスタイルはどんどん受け入れられるようになって行った。
結果、クラシックの新しい楽しみ方として、若者にクラシックを広める伝道師的な役割で納得(?)されて、大きな反発が無くなったのは意外だった。最初のうちは、最悪、クラシック界から追放!?まで心配していたけど、そう言う声を上げた人は、すぐに周囲の声にかき消されてしまったの。
とは言っても、何人かの音楽評論家の方には、私の強烈なアンチも居る。 ただ、その辺の人達の論評自体は、私の音楽性は確かなもので、コスプレを止めて王道の音楽家への道を歩めば歴史に残る大演奏家の一人として名を残すのに勿体ないというもので、逆に本当の意味で私の音楽性を認めてくれているので、一概に嫌いにもなれなかった。
アキラ曰く「強烈なアンチが居る事は、凄く良い事だよ。そんなアンチとの対立がドラマを作って行くのさ。そもそもそのアンチ達は、パルファンのアンチになるために、一生懸命にパルファンの音楽を聴いてから否定してくれているんだから、尊重するべきだよ。アンチが発言せずにいられないほどに、パルファンの音楽が素晴らしいという事だね。だって真のアンチは、パルファンの音楽には無関心な人間なんだからね。だから、ちゃんとアンチには敬意をもって接しないとダメだよ。」
なるほど。流石は一流の役者だわ。アンチとの付き合い方も心得ていると思った。それ以来、私はアンチの人を演奏で見返してやろうとか、そう言った攻撃的な事を止めて、コンサートのチケットを贈る時などは、ファンもアンチも直筆の手紙を付けて、分け隔てなく贈るようになった。コンサートのチケットを贈ると、アンチの人も普通に観に来てくれるのは面白い。
これが功を奏したのか、アンチの人の何人かと文通をするようになって、コンサートなどの時には、非常に辛口の手紙をもらえるようになった。この辺の辛口の手紙については、ある意味正論も含まれているので、直せるところは直すけど、直したくない部分は放置したわ。
さて、そんな私の経歴なんだけど、おそらくヴァイオリニストとしては、今の所、世界で最も成功している一人に数えられるとは思うんだけど、コンクールの入賞歴は、フランス国内のカルム国際音楽コンクール優勝と、レイラ・オリヴィエ国際コンクール優勝と言った所で、しかも、レイラ・オリヴィエ国際コンクールについては、自分でも納得が行っていないし、これまでの様々な経験で、自分の音楽性や才能も磨かれて来たことから、私は世界三大コンクールの一つである、アデライード王妃国際音楽コンクールに挑戦をする事にしたの。
事前審査は動画の審査で、Webで登録して、動画をアップロードして審査してもらうんだけど、これはなんなく事前審査を突破。
80人が選考されての一次予選も無事に突破して、セミファイナルの24名に残って、さらにセミファイナルの課題曲も見事にこなして、ファイナルに進出。
ここまではソロの技量で圧倒してなんとかしたので、大丈夫だったけど、ファイナルで問題が発生した。
「ピアノの伴奏・・・!?」
例年のファイナルは、オーケストラとの協奏曲なんだけど、今年はパンデミックの関係でオーケストラのメンバーを手配できなかったために、例外的にピアノ伴奏によるファイナルが行われる事になったのだ。
このパンデミックなんだけど、当初は大騒ぎになったのだけど、現在は半年ぐらいでほぼ収束している。理由はアキラが特効薬を世界中にばら撒いたからだ。
アキラは、裏でスタートアップとして、AIで病気に対応する分子構造の薬をデザインする製薬メーカーのベンチャー企業を立ち上げて、コロナ系のMERSウィルスに効く薬剤を研究させていたらしい。それで、ウィルスが細胞内のたんぱく質と融合する際に必要な酵素の生成をピンポイントで阻害するのと同時に、毒素を中和する特効薬を開発。
すごい薬だったけれども、当初は大した注目を浴びる事も無く、ゆっくりとアメリカで臨床実験が進んでいるだけだったけど、パンデミックが発生した事で状況が一変して、大統領令を持って、特例で認可されて、アメリカで劇的な効果を上げ始めたわ。
世界がこの薬の絶大な効果を認識した所で、アキラがアメリカの大統領を訪ねて、「世界中の人達にアメリカの偉大さを示したい。」とか言って、世界中に無償でこの薬の製造を認める案を提案。 アメリカ大統領はこの一言に痺れたのと、現実的に非常に大きな問題となっている、アメリカの医療負担と経済損失を解決する特効薬として、二つ返事で、いつもの過剰なパフォーマンスをもって、これを快諾。
それで、世界中の製薬会社が各国政府の強力な指導の元、開示された製法と無償のパテントで作成できるこの薬の製造を一斉に始めて、全力で生産を行った結果、パンデミックの2カ月後には薬が出回り始めて、3ヵ月後には、死亡率の高い病気から、薬が効くインフルエンザぐらいの扱いに変わって行って、急速にパンデミックは終了して行った。
この騒動は、一瞬で世界が変わって、一瞬で世界が戻る不思議な体験だった。でも、世界中の人達がパンデミックの時に感じた、あの未来が見えない恐怖は本物で、あの瞬間に、自分の利益を考えないで無償で世界の人々を救う決断をしたアキラに対して、世界中の人々は感謝した。
・・・けど、本人は「僕って凄いでしょ!偉いでしょ!もっともっと僕を尊敬していいから。」といつもの感じだったので、相変わらず世界中から珍獣ネタ扱いされている。
私も、このコメントがフランスのニュース番組で、トップニュースとして流れてきた時には、飲んでいたカフェオレを吹き出したわ。やっている行動と、本人のコメントとのギャップが酷すぎるのよ。
そんな訳で、あの大騒ぎは何だったの?って感じで世界は急速に正常化しているのだけど、この急激な変化にアデライード王妃国際音楽コンクールの事務局は対応しきれなかったらしくて、今回のコンクールではオーケストラを手配する事ができなかった。
結果、ファイナルの12人は、ピアノの伴奏を伴った、ショパンの『幻想即興曲』の演奏で順位を決める事になってしまった。
ピアノの伴奏は私にとって想定外で、非常に困ったことになったの。
オーケストラであれば、複数の楽器から生まれる音の深みによって、私の演奏を受け止めることが出来るのだけど、ピアノの伴奏では、ピアニストの能力も曲自体に大きく影響する。しかも、ピアノ伴奏の比率が大きい『幻想即興曲』ともなればなおさらだし。
もちろん、私の伴奏をしてくれるピアニストには何人も心当たりがあるし、そのピアニストと組んでも優勝は狙えるとは思うの。
でも私は嫌だった。
私はファイナルの舞台で、自分を曲げずに最高の演奏をしたい。 そう。あの時のイーファ・ムーティオのように。
今回の私は、あの時と同じように、単純にスコアだけを気にして優勝する気は無かった。音楽はスポーツのように、ルールに対してクレバーな人間が勝つような競技では無いのだ。
私が全力の演奏に答えられるピアノの伴奏者の心当たりは、一人しか居なかった。
今はとても忙しいから、断られる可能性が高いと知りつつも、私は意を決して、その人に電話した。
パルファンの全力演奏に答えられる伴奏者って誰だろうな~。(すっとぼけ)