星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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星アキラはがんばる

 

事の発端は、あるハイパーグロース関係のハイテク企業のCEOと会食をしている時に、大学の後輩に、AI技術を使って薬を作りたがっている、面白い奴が居るという話を聞いた時だった。

 

そのCEOの話を聞いてもいまいちピンと来なかったけど、面白そうだったので、そのCEO経由でアポを取って話を聞いてみる事にしたんだ。

 

スタートアップで後援をしているオーペンAIの技術者も何名か連れて行って、話をしてみたんだけど、これが予想外に盛り上がる事になってしまった。

 

そして、気が付いた時には、その人のアイデアとオーペンAIの技術者達のアイデアを組み合わせた結果、人類がこれまで研究して来た膨大な薬剤の作用機序のデータベースを元に、病原体が使用する酵素に対して効く薬剤の構造を、Transformer(トランスフォーマー)が確率分布に直して推論するとか言う、スーパーコンピューターの分子シミュレーションとかどこに行ったんだ!?みたいな、従来の常識を大きく覆す、恐ろしいシステムが完成してしまった。

 

AIに詳しく無い人にわかりやすく説明すると、トランスフォーマーのコンボイ司令官が「私にいい考えがある。」と言って、薬を提案してくれるか、もしくは理想の上司である破壊大帝・メガトロン様が、部下のスタースクリームの意見を聞いて薬を作ってくれるイメージだ。・・・・大丈夫なのだろうか?この薬。

 

しかしながら思いの他、簡単にポンと成果が出てしまい、なし崩し的にスタートアップ企業を創業する事になってしまったのだ。 

 

この時点で、僕がこの企業を創る事は既定路線であった。 なぜなら、アイデアを持ってきた本人は、アイデアを実現したいだけで、ある程度の収入さえあれば、ビジネスには興味は無かったし、このビジネスのインフラ部分にあたる、サーバーやTranformerについては、オーペンAIが提供していて、いきなりスタートアップ企業が用意できる物でも無いので、オーペンAIと協力してビジネスを進められる人間は、僕以外に居なかったからだ。

 

そんな訳で、僕が100%の株を持つ、ベンチャー企業のスターファーム(Pharm)・イノベーションズが爆誕したのであった。(*Pharm:製薬会社。farm(農場)じゃないよ)

 

とは言っても、別段、僕もこの企業のために時間を割く気はなかったので、スタートアップに強いCEOと、ゴーグルからオーペンAIと仲の良いCTO(最高技術責任者)を迎え入れて、適当に経営していた。

 

スタートアップなので、赤字続きだったけど、かかるのは人件費だけで、インフラ等は革ジャンの人から買った、オーペンAIのデータセンターを共用で使うので、やっている事の割には、そんなにお金もかからなかった。

 

こんな事をやっていると、シミュレーション上では、革新的な薬剤がたくさん生まれて来たよ。

 

この辺の薬剤は、他の製薬会社持ちで臨床試験を行う形のパテント契約をして、薬の発売までの事務作業を既存の製薬会社任せにした結果、スタートアップ企業にも関わらず、会社を作って2年後には黒字になってしまった。(もっともこれは、オーペンAIのインフラにタダ乗りに近い形で寄生していると言う理由もあるんだけど・・・。)

 

そんな成果の一つに中東呼吸器症候群(MERS)の薬があって、これについては僕も前世の経験から思う所があったので、会社を立ち上げた時から研究するように言っていたのだけど、患者数の少なさから、他の製薬会社でもパテントを買ってまで臨床試験をする物でも無かったので、スターファーム・イノベーションズで臨床試験をする事にした。

 

この件については、ちょうど黒字になって会社の規模拡大を考える時期だったので、その辺の布石だろうなと言う事でみんな納得したようだ。

 

とは言っても、新興企業が初めて行う臨床試験であり、臨床データやFDA(アメリカ食品医薬品局)とのやり取り等、色々と問題が発生して、臨床試験はほどほどにしか進まなかった。

 

MERSの患者数は、今現在は、毎年数十人と言った所で、この薬に需要があるとも思われなかったけれども、なんとか臨床まで漕ぎつけて、高い効果を発揮する事までは確認できていた。

 

そんな感じで、オーナーの趣味?で進められていた臨床試験なんだけど、新型肺炎の噂が広がり始めて状況が一変した。

 

・・・やっぱりこの世界でも発生するんだ。嫌だねぇ。

 

僕は、エンタメキラーと言える、この新型肺炎を出来る範囲で防ぐことにした。 義務感? そんな事じゃない。 これが流行るとエンタメ産業も壊滅するから困るんだよ。僕が。

 

コンサート、映画館、テレビの撮影、果てはスタジオ収録に至るまで、全てにおいて配慮が必要で、家に閉じこもって過去のドラマや映画を観て、あの頃は自由で良かったな。こんな自由は二度と来ないのかな? なんて絶望する生活なんて、もうコリゴリなんだよ!

 

もちろん、これが前世でVTuberを流行らせた原動力の一つではあるんだけど、こんなのを原作準拠(前世の世界準拠)させても良い事なんて何も無いだろう。

 

経緯はひょうたんからコマだったけど、いま僕の手元には特効薬があった。

 

僕はこの薬のパテントを無償開放することにした。 社内の多くの人間は僕の決定を支持したけれども、CEOは反対した。 この会社を大企業に成長させられるチャンスだからね。 この薬のパテントを利用すれば、莫大な利益を上げられる事だろう。 会社の経営者としてはすごく優秀だし、当然の反対だ。 でも世界が見えていない。

 

みんなが困っている時に、足元を見て利益を上げようとする人間は嫌われちゃうのだよ。 権威や権力が全く効かないウィルスならなおさらだ。

 

もちろん、パテント契約をして作ってもらう方法もあるけど、そんな契約をまとめている時間が無い。NDAから始まって、権利関係の契約やら、責任の所在やら、お互いの弁護士が行き来して契約をまとめる時間なんて残されていなかった。世界中の人達が今すぐにこの薬を熱望していた。

 

この病気は、大富豪にも大統領にも、中産階級にも、貧乏人にも、全世界の人達に等しく襲いかかる人類の敵なんだ。人類の敵の前に、足元を見て、自分の会社の利益だけを考える人間が歓迎される訳が無いでしょ?

 

残念だけど、このCEOには辞めてもらって、株式の100%を持つ僕が暫定CEOに就任した。それで各国政府や主要製薬会社に根回しをして、生産計画を整えてから、アメリカ大統領や各国首脳に協力要請という名のパフォーマンスを行って、薬を全世界にばら撒いた。

 

各国の製薬会社も乗り気だった。 だって、パテント料がゼロになるだけで、薬価がゼロになる訳じゃないからね。むしろ高いパテント料を払う他の薬よりも、利益率は遥かに高かった。 そして、急速に生産体制を整えるために、各国政府による大量の補助金が各製薬会社にバラ撒かれてウハウハだった。

 

元が薬剤の作用機序のデータベースを元にした、確率分布から算出した薬であるという特性上、作るのにそんなに特別な原料や製法を必要としなかったため、各国の製薬会社は、数週間というとんでもない速度で量産体制が整えられて行った。

 

その結果、あっと言う間にこの薬はダブついた。 もう必要量の2倍、3倍という量が市場に溢れかえった。 完全に税金の無駄使いである。

 

それでも、この税金の無駄使いを糾弾する人は居なかった。 これに関しては、足りないよりもダブついていた方がよっぽどいい。

 

薬が高価で足りなくて、シャットダウンや人的損出などを出して、国民の一人一人に補助金を配るぐらいなら、特効薬が溢れ返る方が数億倍マシだった。

 

そして、先進国で溢れ返った特効薬は、オーバーフローして、発展途上国に流れ込んで、発展途上国ですらダブついた薬は、この薬を禁止していたいくつかの権威主義国家に密輸される事になった。

 

いくつかの権威主義国家がこの薬を禁止した理由は、自国産の薬で対応しようとしたり、この薬の流通をわざと制限して、限られた人に渡す事で権威を高めようとしたんだけど、資本主義の暴力によって、短期間で市場に溢れ返った薬が大量に密輸されて、有名無実化して裏目に出たために、逆に権威が落ちて、かなり大人しくなってしまった。

 

こうして、パンデミックという名の狂騒曲は終りを告げた。

 

疲れた。 マジで疲れた。 仕事のし過ぎである。 僕はスターファーム・イノベーションズの暫定CEOを終わらせて、新しいCEOに就任してもらった。

 

そんでもって、スターファーム・イノベーションズをIPO(新規上場)させて、持っている株式を徐々に手放す事にした。

 

IPOの資金で自前のデータセンターを構築すれば、スターファーム・イノベーションズは、今後も自立してやって行くことが出来るだろう。

 

今回のパンデミック騒動では、そんなに儲けることは出来なかったけど、他の薬の収益もどんどん上がっているし、会社が持っている技術が失われた訳でも無いからね。 今回の対応を目にした沢山の投資家達がこの会社に注目していて、IPOではとんでもない株価になる予想だ。

 

この会社で頑張ってくれた従業員にもストックオプションを割り当てて、苦労が報われる形にしつつ、こうして僕もやっと流行り病からの自由を手にした。

 

パンデミックが急速に終わった世の中は、世界的に空前の好景気だ。映画館も遊園地もどこもかしこも満員御礼。みんな自粛中に色々と考えたのだろう。反動でみんながエンタメを楽しみだした。そして、前世の世界よりも、この世界はだいぶ優しくなった気がする。

 

このパンデミック中は、移動中の空いた時間に、プライベートジェットの機中で、ひたすらヴァイオリンとピアノの練習をしているぐらいしか癒しの時間が無かった。ちょっと難しい立ち位置だったから、Youbute放送でぶっちゃけ話もできなかったし。 

 

しかも、「流行り病と戦う、かっこいい僕を尊敬して欲しい。」って、がんばった僕への承認欲求を満たしてもらうようなコメントを出しても、みんなから可哀そうな珍獣を見る目で見られるし・・・。

 

でも、騒動の最中に立てた『ワイ将、製薬会社のCEOなんやけど何か質問あるンゴ?』スレは盛り上がって最高に面白かった。

 

しかし今回は、全くもって働きすぎたよ。 そもそも僕は怠惰に生きたいんだ。

 

これからは、僕もみんなと同じように、ベッドの中で過去のドラマとか見て引きこもっていたい。 いや、芸能人らしくハワイに行って、ホテルに引きこもって、2.5Chでレスバするのもいいかもしれない。もしくはヨーロッパのリゾート地で焼うどんを食べながら、他のVTuberの凸待ち配信にドッキリで凸るとか。

 

こうして、全てが片付いて、バカンスもしくは、引きニートをする決意を固めた僕の元に、パルファンから電話がかかって来たのであった。

 




今回、珍獣君はいろいろと頑張ったようです。
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