星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
------------ パルファン視点 ------------
私の順番がやってきたの。
会場のアナウンスが私と共にアキラの名前を読み上げると、観客席からの驚きの声と共に、控室に居たコンクール参加者達が、急いで観客席や舞台袖に出てきている。
実は昨日まで私のピアノの伴奏はルシールの名前でクレジットしていて、昨日の夜にアキラと差し替えたのだ。
なぜそんな事をしたかと言えば、いま観客席に急いで駆けつける人達を見て分かる通りに、アキラがコンクールで演奏するだけで大混乱が起こる事はわかり切っていたからだ。 私もこの立場で無ければ、あの参加者と同じように観客席に駆けつけていた事だろう。
人がまばらだった観客席にアキラが伴奏すると聞いて慌てた人達がどんどん集まる。
残念だけど、これがアキラと私との差だ。仮に今回のアデライード王妃国際音楽コンクールで優勝したとしても、私とアキラとの差が埋まる事は無さそうだ。
実際の所、演奏家にとってコンクールでの優勝と言うのは、ドレスに付ける宝石に等しいの。どんなに美しい宝石でも付ける人自身の見栄えは補強しても、その人の能力を底上げする訳ではないし、その人の人間性を保証する訳でも無いの。
それでも、私はあえてコンクールでの優勝を目指すわ。ちゃんと能力を示して、私を応援してくれる人達に報いたいの。 だから、これから、私は全力で演奏をします。
アキラがピアノの前でスタンバイをすると、私もヴァイオリンを構える。 会場がしーんと静まり返ってものすごい緊張感が漂う。直前の人の演奏とはまるで違う。コンサートホールに居る人間全てが緊張して、私とアキラを見ていた。
アキラと出会う前の私であれば、私も一緒に緊張する所だけど、今の私の心は、風の無い日の湖の湖面のように落ち着いていた。
アキラの伴奏が始まる。それに合わせて私の音楽を奏で始める。
アキラの伴奏に合わせて、私のヴァイオリンから最初のフレーズが紡ぎだされた時、私はこのコンクールでの優勝を確信した。
私のこれまでのヴァイオリニストとしての人生を全て載せた音がヴァイオリンから紡がれていく。
ヴァイオリンのコンクール用に調整された超高難易度の運指と、規則的な16分音を4つ弾く間に同時に奏でる、人を狂わす3連符のリズム。
ショパン特有のロマン溢れるメロディーと、疾走感がある早いリズムが合わさって、難易度を超えた先に、とても人間が演奏しているとは思えない幻想的な風景が広がっていた。
超人的な演奏表現を持つアキラが、私の演奏に華を添えて行く。
私の全力の演奏をアキラがいとも簡単に受け止めて挑発するように打ち返してくる。それを私がふわっと包み込んでショパンの形にして行く。
この日この時に初めてこの曲を合わせたために生まれる、わずかなお互いの音楽への反発と、敬意と尊敬。それらが混ざり合って、曲の中にドラマが生まれていた。
お互いの技術と、音楽への考え方が混ざって、一つの曲が形成されて行く。
39年という短い生涯に終わったフレデリック・フランソワ・ショパン。彼が即興で書いたこの曲は、不完全なために、自分が死んだら楽譜を焼き捨てるように、友人のフォンタナに依頼していた曲だ。でも、その不完全さがかえってピアノの詩人と謳われる彼の人間らしさを美しく表現している。
コンクールの参加者は、みんな素早いスピードで的確なテクニックを中心に魅せる演奏を中心に立てて、自分のテクニックの正確性をコンクールで評価されようとしていた。
それに対して、今演奏しているアキラと私は、不完全な曲を生み出してしまったショパンのロマンあふれる人間的な魅力を余すところ無く表現している。
私は、ショパンがこの演奏を聞いて、この曲が世に出てくれて良かったと思ってくれたらいいなと思いながら演奏を終えた。
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「オー、シャンゼリゼー♪ オー、シャンゼリゼー♪、走る、滑る、見事に転ぶ~♪ あっ~心に~愛が無ければ~。スーパーヒーローじゃないのさ~♪」
「アキラ、なんなの?その妙なシャンゼリゼの替え歌は?」
「だって、マルグリット・ベルモンに会えるのでしょ?僕はあの人のファンなんだ。いや~。緊張するなぁ~。」
「アデライード王妃国際音楽コンクールよりもアキラが緊張しているのは、全くの遺憾なの。」
「だってあれは出来レースみたいな物だったじゃない。別に僕が伴奏しなくてもルシールでも十分優勝を狙えたはずだよ。」
「コンクールでの採点面での優勝はルシールでも問題無かったわ。でも演奏家として頂点に立つためにはどうしてもアキラの伴奏が必要だったのよ。」
「パルファンのいう通り、アキラとのあの演奏を聴いちゃうと残念だけど、私では優勝は出来ても、アデライード王妃国際音楽コンクール史上最高の名演奏なんてできなかったわ。」
「ネットでは、スマフォゲーでランク一位の猛者が課金のレアアイテム(僕)を使って、初心者狩りをしまくったってもっぱらの噂だよ。」
「何それ?それは他の参加者に本当に失礼なの。」
「まぁ、クラシックには詳しくない2.5chの掲示板での例え話だからね。それだけパルファンが圧倒的だったって事さ。」
「他の参加者も、今回のあれは事故みたいなものだから、次回頑張るってみんな言っているし。そもそも論として、予選の段階から凄かったのだから、正直他の参加者も、みんな今回のコンクールは諦めていて、そこまでショックじゃないみたいよ。自分が優勝できるかもって演奏をして負けちゃったらそれはショックだけど、あそこまで圧倒的だと、納得して次頑張ろうとしか思わないわ。次回はあなたはコンクールに出ないのだろうし。」
「そうだよ。面白かったし、今度は僕がコンクールに出ようかな?」
「それは、大混乱になるから止めた方がいいと思うの。」
「あれは凄かったわね。様々な意味で・・・。」
「あっ、あそこのレストランなの。それじゃ入りましょう。」
今日は、私のアデライード王妃国際音楽コンクールの優勝祝いを、私のヴァイオリンの先生とやる事になっていて、その先生がやっているレストランに私達は入って行ったの。