星アキラは自由に生きたいっ   作:Magical forest

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新宿少女は踊る2

 

------------- 柊雪視点 -------------

 

私の合図と共に、電車の中から景ちゃんが飛び出してくる。 文字通り飛んで出てきた。

 

その後ろから、墨字さんと双子が駆け出して景ちゃんに着いて行く。

 

私の仕事は、電車のドアから駆け出した景ちゃんを撮影する事と、電車のドアが閉まるシーンを撮影する事だ。

 

電車のドアが閉まるシーンは、逆再生すれば電車のドアが開くシーンになるので、電車のドアが開いて景ちゃんが飛び出してくるというストーリーに繋がる。

 

一瞬で私の今日の仕事は終了した。

 

カメラマンの仕事なんて、多かれ少なかれこんな感じの仕事は一杯ある。

 

あるカメラマンは、鳥の子育ての一瞬のシーンを撮るために、巣穴の近くで1カ月以上カメラを構えたまま待機する事もあるし、たった一枚の写真を撮るために、何十時間もかけて豪華なセットを作って、モデルさんを何時間も待機させて、鳥が飛び立つ瞬間のたった一枚を撮影する事もある。

 

写真も動画も似たようなものだ。被写体が自分の思い通りに動いてくれる事なんて滅多に無い。カメラマンというのは、動画であれ、静止画であれ、実に忍耐と努力が試される職業なのだ。

 

その意味では、今回の撮影はかなり楽な方に当たるだろう。

 

でも、スタジオ大黒天のカメラマンとしての仕事はここで終了だけど、これからは趣味の映像作家としての趣味の開始だ!

 

ハンディカメラを準備すると、人の隙間を縫うようにアクティブに動きながら、音楽に合わせて踊り狂う景ちゃんの様子が見える。どうやら、そのまま地下に降りて、東口の方に向かうようだ。

 

景ちゃんは、音楽に合わせて抜群の運動神経とリズム感で好きなように動いている。踊りながら大量の人の波をかき分けて進むその様は、人の波に乗るサーファーのようだ。

 

そして、それに合わせて、予測不能なはずの景ちゃんの動きを読んで、それに合わせて抜群のカメラアングルで撮影する墨字さん。もう化け物としか言いようが無い。

 

普通は、ある程度被写体の動きとカメラアングルを事前に合わせられないとまともな画にならないはずだけど、墨字さんは景ちゃんの瞬間的な動きから、次の動作を予測して、さらに瞬間的に出来上がりと取れる画を判断して、ブレすらなく見事に景ちゃんの魅力を余す事なく撮影している。これはもはやカメラマンの大道芸と言っていいぐらいの超絶テクニックだ。

 

・・・・正直な話、この撮影は『BASE』のヘッドホンじゃなくて、アクションカメラの宣伝の方が良かったのではないだろうか。

 

そして、時間が経つごとにどんどん画が良くなっていく。東口を出た頃には、墨字さんの振ったフレームの中に景ちゃんが飛び込んでいくようになった。墨字さんが景ちゃんの先を行き始めている。役者と感情を共有して、即興で映画撮影をしている。

 

「何あれ!?」

 

「待ってあの子って!」

 

「イベント?」

 

「すげぇ、軽業師みたいだ。」

 

「忍者!?」

 

すれ違う人々が、景ちゃんの動き魅せられて動きを止めて行く。そしてその隙間を踊りながら縫って彼女は進んで行く。

 

「画角固定のアクションカメラでよくやるわ。これはすごいわね。」

 

私はハンディカメラを利用して、離れた所から二人のメイキングを撮影する。私のハンディカメラはズームを付けていて、墨字さんのように動き回らなくても撮影ができる。これはハリウッドのカメラマン仲間には大ウケの映像になるはずだ。

 

ふと見ると、トテトテと景ちゃんに必死に着いて行こうとする双子の姿が見える。一生懸命に、姉の姿をカメラに収めようとする双子の動きはすごく可愛い。

 

私は双子の動きを見て、計算通りの画が撮れている事にニンマリとした。

 

-----------------------------------------

 

「やっぱりいい感じね。」

 

大黒天に戻った私は編集作業をしていた。そこに墨字さんが入って来た。

 

「柊、あの映像をよこせ。」

 

「何? 景ちゃんが電車から出る映像は渡したけど。それに私の映像は墨字さんにも渡さないわよ。」

 

「違げーよ。なんで柊の手垢が付いた映像なんて使わないといけないんだ。お前の撮った映像は、すぐに足が付くじゃねぇか。それよりもお前が双子に撮らせていたやつだよ。」

 

「あら? 墨字さんが素人の撮った映像を使いたいなんて、ヤキが回ったんじゃないの?」

 

「うるせー。こういう事態を見越して双子にカメラを渡したくせに。」

 

「しょうがないわね。」

 

そう言って、私は渋々と撮影データが入ったSDカードを墨字さんに渡す。すると、墨字さんはそのデータを編集機材に入れて中を確認し始める。

 

そこに映し出されるのは、素人丸出しのブレブレの画と、一生懸命に姉を追いかける事だけに気を取られて、何を目的に撮影しているかイマイチ意図が分からない映像たち。だけど、墨字さんはその映像を真剣に確認する。

 

「柊、このカットと、このカットをもらうぞ。」

 

墨字さんはそのガラクタ映像の中から、宝石の原石だけを的確に抜き出す。

 

「え~っ。そのカットは私が目を付けていたのに!」

 

「俺の案件だ。柊に文句を言われる筋合いはない。だが双子にも撮影してもらうアイデアは良かったな。」

 

「ちぇっ。」

 

そう言って、墨字さんは編集室から出て行った。

 

双子の映像は、人に揉まれて何が何だか分からない映像が多かったけど、カメラマンが計算していないが故に撮影できた美しい宝石の原石のようなシーンも含まれていた。

 

特に、子供だから撮れる行動的で大胆なアングルのシーンと、アクティブに踊っていた景ちゃんが家族に向ける柔らかい一瞬の笑みを浮かべるシーンは、計算が無いが故に、逆にプロでは絶対に撮れないシーンだった。それを見事に墨字さんにかっさらわれた。

 

「むぅ~。」

 

極上の原石を取り上げられた事でむくれながら、私はアリサさんの依頼で作っている星家のホームビデオを編集した。

 

双子が一生懸命景ちゃんを撮影している映像を見て、きっとアリサさんは大歓喜する事だろう。

 

「ルイ君とレイちゃんは、将来はこんなヒゲになんて負けない凄いカメラマンになるわ!」

 

と言って舞い上がって喜ぶであろう親バカなアリサさんを思い浮かべたら、私も自然と笑みがこぼれた。

 

 

------------- ハリウッド某所 -------------

 

 

「よく見ろ。初動はカメラがわずかに遅れを取っている。」

 

「息が合うまで20秒。電車のドアが合成だから合成に見せかけてそうじゃない。これはぶっつけ本番の一発撮りだよ。」

 

「信じられない。とんでもない映像と撮影技術だ。」

 

「カメラマンの撮り方じゃないよね。」

 

「え?どういう意味?」

 

「構図をまるで気にしないというか、女優の感情にしか寄り添う気しかないカメラワークだ。」

 

「こんなのCGだろ。こんな不規則な動きを完璧に捉えられる訳が無い。それか最初から入念に打ち合わせをしていたか。」

 

「無理だな。女優の方は、一撃でアカデミー賞の助演女優賞を受賞した天才だから行けるかもしれないがエキストラは違う。そもそも、周囲の人間はエキストラに見えない。完全にライブで本物の乗客だよ。電車のドアの開閉部だけが編集でそれ以外に編集の形跡が見られない。」

 

「そうだな。駅の利用者まで完全に制御して計算された画じゃない。ライブの一発撮りだからこそできる映像だ。これはMV(ミュージックビデオ)というよりもドキュメンタリーだ。」

 

「特に、この腰の位置以下のローアングルから顔にズームアップして優しく微笑む部分がすごい。すごく印象的でKei Yonagiに心を奪われる。」

 

「メンバーや撮り方を考えると、やはりYukiが撮影したのか?」

 

「いや、Yukiに撮り方は似ているが、彼女はこんなアクティブなカメラアングルじゃなくて、ライブなのに直感的に視聴者に場面を理解させる構図の方を選ぶから、彼女じゃなくて、彼女の師匠のSumiji Kuroyamaではないのか?」

 

「おい、丁度今、BASEのYoutubeチャンネルでこのMVのメイキング動画が上がったぞ。」

 

「おっ、この構図や構え方の癖はわかる。間違いなくYukiだ。」

 

「メイキングを撮るのも、彼女らしい臨場感あふれる映像だな。まるで俺らが今、新宿駅の撮影現場に立ち会っているみたいだ。周囲の乗客の息遣いまで聞こえるみたいだな。」

 

「やはりSumiji Kuroyamaだな。 このメイキング映像だけで、すでに色々とオーバーキルだ。」

 

「撮影シーンが想像の100倍以上アクロバティックだ。明らかにKeiは好き勝手に人の間を縫ってとんでもなくエネルギッシュに踊っているのに、それの動きを読んで逆にカメラに誘導する手腕がとんでもない。」

 

「これがあのMVの撮影現場か。 Sumijiは予想以上にヤバイな。」

 

「弟子が弟子なら、師匠も師匠だな。」

 

「この師匠なら、弟子がああいう映像を撮るようになったのもわかる。」

 

「でも、それだけじゃない。このシーンは、逆にSumijiがKeiが見切れる場所にカメラを振って挑発して、その意図を汲み取ったKeiがカメラアングルを読み取って、それ以上の動きを見せている。Keiもちゃんと意図した以上の映像をSumijiに撮らせている。」

 

「Keiの運動神経やその場の状況判断能力もずば抜けているな。女優もカメラマンもとんでもない。」

 

「それから、あのライブでは撮れるはずの無いあのアングルからの撮影は、子供が撮影したのか。」

 

「映像に注釈が入っているけど、Keiの弟妹らしい。」

 

「まさか、完全な素人が撮った映像をアクセントとして入れるとは思わなかった。」

 

「逆にそれが、あの群衆の中に自分が居るように錯覚する強いライブ感を映像に与えているな。」

 

「いやはや、恐れ入ったよ。あのYukiに師匠が居るって話を聞いた時には、どんなヤバイ師匠かと思ったのだけど、予想通りに師匠も化け物だな。」

 

「この師匠なら、Yukiがああいう撮り方をするようになったのがわかる。明らかに師匠も弟子も両方おかしいが。」

 

「Sumiji Kuroyamaか。ついに師匠が本格始動したようだな。」

 

「これは、Yukiに続いてまた、ハリウッドが荒れるかもな。」

 

「今年も、アカデミー賞でUMA娘ダンスが生で見られるかもしれない。」

 

「そこかよw」

 

「お前、UMA娘が好きすぎだろHAHAHAHAHA!」

 

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「新宿ガールが公開されてから、ハリウッドの知り合いも鬼電してきたけど、メイキングを公開した事だし、これで騒動は収まるでしょ。」

 

墨字さんと景ちゃんのMVである通称、『新宿ガール』が公開されてから反響はとんでもない物だった。

 

MVに使用した曲は、『BASE』のCM用にイギリスの世界的なロックバンドが書き下ろした物だったけど、そのCDのカバーが急遽、景ちゃんの場面から抜き出したカバーアートに差し替えられたぐらいのとんでもない反響だった。 公開10日で10億再生とか意味が解らなすぎる。

 

特にハリウッドでは、あの斬新な撮影方法に興味深々で、関係者と思われる私の元に知り合いから沢山の電話やメール、その他諸々が来て対応が大変だったけど、景ちゃんのMVをドキュメンタリーで撮るおバカな人(墨字さん)のドキュメンタリー動画を公開した事で、撮影方法もわかって、みんなスッキリして、私への鬼電も減るでしょ。

 

しかも、あのドキュメンタリー動画も『BASE』がポンッってお金を出してくれたし、利益にもなって、騒動も沈静化できて、私ってば天才すぎる。ネットで天才美少女映画監督軍師柊ちゃんとか呼ばれちゃうかも。 我ながら完璧な対応だわ。

 

(なお、ドキュメンタリー撮影のドキュメンタリー動画を作ったのが、ハリウッドで新進気鋭の天才女性監督という事で、本人がガソリンを背負って火事場に乱入して騒動がさらに加速して行く事に、柊雪本人は全く気が付いていません。しかも、このドキュメンタリー撮影のドキュメンタリー動画というキワモノが、本人のサービス精神が発揮されてすぎていて、単体でもとんでもなく面白い模様です。)

 

 

------------- 星アリサ視点 -------------

 

「・・・今なんて?」

 

千世子とホテルで食事をしていた私は、千世子の意味不明な質問に戸惑った。

 

「芸能界での私の寿命の話なんだけど、私の消費期限ってあとどれぐらい?」

 

「・・・・そんなのは判るはずもないでしょう? 誰にも。」

 

千世子に消費期限などあるのだろうか? 今の路線の消費期限ならあと2年ぐらい? でもだめなら次の路線に行けばいいし。

でも、千世子が言いたいのはそう言う事じゃ無いわよね。とりあえず、今の路線の寿命でも答えて、千世子が何を言いたいのか聞き出しましょう。

 

「貴方の全盛期は今。この盛り上がりは後2年をせずに終わるわ。」

 

「うん。」

 

「なぜならあなたは天使じゃないから。あなたも老いるし、あなたのファンも老いる。需要がずれ始めるわ。」

 

「うん。」

 

私が千世子ぐらいの年齢の時もそうだった。私が全盛期だったのは、あの『西部警察』で女刑事をやっていた頃だろう。毎日のように、車を破壊して、家を燃やして、トン単位の火薬で爆破して、大量のガソリンで炎上させて、カーチェイスをしていたわ。

 

女刑事での初撮影の時に、監督さんに言われた言葉が忘れられない。

 

「これから毎日家を焼こうぜ?」

 

そして、ドラマで爆弾が埋め込まれた博士を助けて、こんなセリフを言ったりもしたわ。

 

「ボルガ博士、お許しください!」

 

あの時は、ボタンをポチッと押して、博士に埋め込まれた爆弾を利用して、博士ごと上手く犯人を爆破できたわね。

 

まさに、「ドゥンドゥンやろうじゃねぇか!」って感じで、大門軍団の一員として、若い私も勢いに乗っていたわ。

 

確かに、あの盛り上がりを考えると、全盛期は2年ぐらいだろう。 その後の『危ない刑事』とかでは、銃撃戦はしたけど、燃やすだけで、そこまで爆破しなかったし。

 

爆破した炎の中をパトカーで走り回ったり、私のアドリブで銀座を装甲車で暴走したり、工場を丸ごと爆破したり、船を爆破したり、広島の街中でチンチン電車を爆破したり。

 

あんなのが出来るのも若いうちだけで、千世子ぐらいの年齢だと、そんな爆破ができるのは、やっぱりあと2年ぐらいね。そんな事を考えながら、私は千世子に向かって言った。

 

「アイドルがファンに老いを見せるのは不憫なものよ。ただ単に爆破するだけではダメなの。」

 

「爆破? どういう事ですか? アリサさん?」

 

「とりあえず、爆破の話は置いておいて、それで千世子はどうしたいの?」

 

「アリサさん、私ね、景ちゃんの動画を観たの。『新宿ガール』って言うんだけど・・・。」

 

「知っているわ。」

 

たしかに、あのMVはとんでもなくすごい出来だった。まさに墨字君の才能を世界に見せつけた動画だ。唯一、不満点があるとしたら、最後はやはり新宿駅を爆破してインパクトを残すべきだった事ぐらいだろう。 この辺は予算が足りなくて、新宿駅を爆破するまでには至らなかったのは良く分かる。 事前に私に話してくれれば、爆薬を1トンぐらい用意して新宿駅を爆破したのに。

 

「アリサさん、私ね・・・。 悔しかったよ。」

 

「あなたは夜凪景とは違う。・・・分かるでしょ。」

 

「うん。違うからこそ、私は生涯彼女の上に行きたい。」

 

「私は主人公であり続けなければいけないの。そのためだったら悪魔とだって手を組むよ。」

 

「まさか、その悪魔って、私の息子では? うっ、胃が・・・。」

 

私の胃を常に爆破しようとする、わが息子を思い出して、私の胃は条件反射でキュッとした。

 

「アリサさん、私が超えたいのは景ちゃんだけじゃない。女優時代のあなたも私は越えていく。」

 

「はっ。言うようになったわね。千世子。 私を超えたければ、4600台以上の車と、4.6トン以上の爆薬と、1万2千リットル以上のガソリンを持ってきなさい。 周りの目を気にして都会の真ん中で碌に爆破すらできない小娘に今でも負ける気はしないわ。」

 

私は、千世子に目を合わせて、バチバチと火花を散らした。 次はダイナマイトの上で火花を散らしたいものだ。 売られた喧嘩はちゃんと買ってあげないとね。

 





最近、なぜか生き生きとしているアリサママ。
こんなヤバイ人にケンカを売って、千世子ちゃんはこの先生きのこれるのでしょうか?
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