星アキラは自由に生きたいっ 作:Magical forest
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僕は、ニューヨークの街角で靴磨きをしていた。
「お客さん、靴がだいぶくたびれていますね。お金があるのでしょうから、物持ちを良くし過ぎるのも考え物ですよ。」
「私がお金持ちだって良く分かったね。」
「だって、こんなバカみたいな価格をした靴磨きに来る人なんてお金持ち以外にありえないじゃないですか。」
そう言って、僕は100ドルという法外な値段を吹っかけている靴磨き料金が表示されている看板を指さして言った。
「確かにそうだな。 でも、これが思い出の靴である可能性もあるだろう?」
「靴自体は高い物ですがまだ皮が新しいし、ソールが使い込まれて外側に減っています。ただ単に、ビジネスで使い込んでいるだけでしょう。でも、倹約家というのは良いと思いますよ。だからこそ、あなたはこれまでビジネスで成功して来た。」
そう言って、僕は靴をブラッシングして汚れ落としを行う。
「なるほどね。それで、今後もビジネスで成功して行けると思うかい?」
「初心を忘れなければ大丈夫じゃないですか?株で儲かったからって、無駄にお金を浪費しなければ、これからも成功し続けると思いますよ。」
僕は、お客さんとの会話を楽しみながら革靴にクリームを塗り込んでいく。
「そうだね。私のようなドケチな人間が直感で、100ドルという法外な靴磨きにお金を払ったぐらいだ。私のカンもまだまだ鈍っていないようだ。」
「その直感のままに今、株を買えば儲かるかもしれませんよ?」
「止めておくよ。靴磨きの少年に株の売買を進められるなんて、もう末期じゃないか。」
「「HAHAHAHAHA。」」
その後、靴磨きと会話を進めて、お客さんはピカピカになった靴を見て、満足して帰って行った。
「倹約家のくせに、靴磨きに100ドルもの大金をかける人が居るとは。あの人は本物のビジネスマンだね。」
そう言って僕は、高い料金のせいで、一日に数人だけ来るか来ないかのお客さんを待ちながら、ニューヨークの街角を行く人達を眺めていた。
ニューヨークは、流石は人種のるつぼである。様々な人種、様々な性格、様々な考え方をする人達が街を歩く。僕は一日中、ぼ~とその人達を眺めながら、様々なインスピレーションを得ていた。
歩き方、ファッション、視線、身振り手振り、そして靴の減り方。 様々な人を見て、目に着いた人を表すようなメロディーが頭の中に浮かんでくる。
そんな目に付いた人のテーマソングみたいな即興のメロディーを口ずさんでいると、次のお客さんがやって来た。
「いいメロディーね。あそこで待ち合わせをしている、赤い服の女性をイメージした曲かしら?」
「お客さん、良く分かりますね。」
「もちろん。あなたの視線とあの人の行動のリズムがそのメロディーにリンクしているから良く分かるわ。」
「それで、どのようなご用件でしょうか。」
「靴磨き屋さんなんでしょう? 私の靴を磨いてもらえる?」
「畏まりました。」
そう言って、僕はその子の靴をブラッシングして、クリーニングし始める。
いつ、どこで、どんな人に見られても良いように、彼女の靴のメンテは常に行き届いている。今さら僕が靴磨きをする必要など全く無いのだけど、お金を払ってもらっている以上、しっかりと仕事をする。
「私ね、アリサさんとケンカしちゃったの。」
「へー。割と人間関係に気を使われているお客さんが珍しいですね。」
「正確にはケンカを売って来たって感じかな。」
「なるほど。時には自分の信念を貫くのも必要ですからね。」
「それで、アリサさんという方は、なんと言われたのですか?」
「私を超えたければ、4600台以上の車と、4.6トン以上の爆薬と、1万2千リットル以上のガソリンを持ってきなさい。 周りを気にして都会の真ん中で碌に爆破すらできない小娘に今でも負ける気はしないわ。だって。」
「ブッ-----ッ」
「汚いわね。高い靴なんだからちゃんと仕事をしてね。」
「すいません。」
そう言って、僕は靴墨が付いた布で顔を拭いた。今、僕の顔は靴墨でドロドロだろう。そんな様子を彼女は何も言わないで見ている。
「何を言ったかは分かりませんが、アリサさんという方はガチギレですね。」
「そうね。それで、新宿ガールに対抗する必要があるの。」
「話が見えませんが、新宿ガールと言うのはこちらのMV(ミュージックビデオ)の事ですか?」
そう言って僕はお客さんにスマフォでそのMVを見せる。
「そう。それよ。景ちゃんに差を付けられたままではいられないから、私も対抗してMVを撮影したいの。」
「なるほど。でもMVという事は、何かしらの音楽が必要なのですが、その辺に心当たりはあるのですか?」
「あるわ。目の前に居るじゃ無いの。」
「誰ですか?」
「あなたよ。」
「僕ですか?多少クラッシックとかはできますが、そのMVはクラシックのMVなのですか?」
「私、アリサさんに私の消費期限ってあとどれぐらいか聞いたの。」
「また話が飛びましたね。どの賞味期限の事ですか?」
「天使の賞味期限よ。」
「そうしたら、あとどれぐらいだって言ったと思う?」
「あと2~3年と言ったところでしょうか。」
「良く分かったわね。」
「天使の賞味期限ですと、20歳を超えると流石にその路線で人気が上がり続けるのは難しいと思いますので。」
「へ――っ。あなたもそう思っているんだ。」
「もちろん、17歳教に入信する方法もあると思いますが、お客さんの場合には、20歳を超えても貪欲に役者の頂点であり続けたいと思いますので、そうしますと天使というイメージにしがみついて防戦一方になるよりも、路線変更してでも戦い続けると思いましたので、結果的に20歳ぐらいまでには天使では無い別の存在になっているかと。」
「そうね。正しいわね。私もずっと若い訳では無いし、年相応の振る舞いや役を求められるものよ。そうすると、多くの人が社会に出る20歳を超えたあたりから、無邪気な天使ではいられなくなるわ。」
「そうですね。」
「そのステージでまだ天使にこだわっていたら、年齢とのギャップで新たなファンを獲得できないし、今までのファンも離れて行ってじり貧でしょうね。」
「なるほど。それで、その時に向けて新しいイメージを欲しているのですか?」
「違うわ。」
「そんな気がしていました。」
「あなたは主観に凝り固まっていない分、実はアリサさんよりもたちが悪いわよね。この話の振り方をしたアリサさんは、私が何をやりたいのか分からなかったわよ。あなたは今、ちゃんと理解したのにね。アリサさんでも主観が邪魔をして話の展開に付いて来れないのね。おそらく景ちゃんと阿良也君もそうでしょうね。」
「単純に付き合いの長さだけかもしれませんよ。それに物の考え方は人それぞれです。それでどうしたいのですか? 新宿ガールや観客に天使の力を見せつけるのですよね。」
「もちろんよ。天使はいずれは賞味期限が来る。でも今じゃない。むしろ今は天使の絶頂期。いや、天使はこれから私が作るMVによって、誰にも到達できない頂に至るわ。いずれ捨てるイメージであっても、勝つために使えるのであれば徹底的に利用する必要があるわ。でないと、あの夜凪景に勝てない。私は生涯彼女の上に行きたい。」
「男前ですね。これを見ている観客が居たら今、この瞬間にあなたに魅入られている事でしょう。」
「良く言われるわ。でも魅入られるぐらいではダメなの。ちゃんと心まで捧げてくれないとね。」
「怖いですね。いやはや、この天使に心まで奪われた存在はどうなってしまうのか・・・。」
「私は夜凪景に勝ちたいの。勝つためなら手段は選ばないとは言わないわ。でも正々堂々と夜凪景に勝ちたい。いや、星アリサにも勝って女優の頂点を極めたい。もちろん、星アキラ、あなたにも勝つわよ。」
「いや、僕は男なのですが・・・。」
「アカデミー賞の主演女優賞を取っておいて何を言うの? それに夜凪景と星アリサは通過点よ。 あなたに勝って私の物語は完成するのよ。」
「目の中に炎が見えますね。あなたのファン達は、今のあなたを見たらみんな驚くでしょうね。」
「それで、私に協力してくれるの? それとも景ちゃんの肩を持つの?」
「もちろん協力するよ。こんな面白い話に僕が協力しない訳が無いじゃないか。それに墨字さんは景ちゃんを勝たせる完璧なプランを用意したけど、彼は骨の髄まで映画監督だった。だってミュージックビデオは、ミュージックとビデオなんだ。ビデオだけがどんなに優れていても、ミュージックがだめなら意味がない。」
「もちろんあのロックバンドは超一流だ。でも、あの曲は景ちゃんのために書かれた曲じゃない。曲のインスピレーションに合わせて景ちゃんが演じただけだ。黒山墨字監督は女優の映像だけに気が回って、音楽の力を甘く見てしまったね。そして、それが僕達に付け入る隙を与えてしまったんだよ。」
「あのMVと勝負をして、私を勝たせる曲を作れるのアキラちゃんしかいないわ。よろしくね。」
「もちろんだよ。」
そう言って、僕は千世子ちゃんと握手した。
しかし、僕の手の平は靴墨で真っ黒だ。握手をした千世子ちゃんの手にも靴墨が付いて黒く汚れる。 千世子ちゃんはそんな汚れた自分の手の平を見ると、僕の上着に手の平を擦り付けて、靴墨を落とした。 ひどい!!
「アキラちゃん、最悪ね。」
「それはこっちのセリフだよ。」
そうして、お互いに笑いあった。 そう言えば、こんなシーンを映画で観た気がする。
僕の脳裏に、『最強のふたり』のフィリップとドリスが笑いあうシーンが浮かんで来た。
景ちゃん達、スタジオ大黒天チームのMVに対抗するべく立ち上がった、スターズチーム。
天使珍獣軍団は、強力なライバルとなった新宿ガールを相手に、どのような戦いを挑むのでしょうか。